東京のファッションブランドの海外展開をサポートする目的で立ち上げられたTOKYO FASHION AWARD(以下TFA)。2年ぶりに開催した第7回アワードは、選出ブランドを6ブランドから8ブランドに増やしたほか、従来のメンズに加えウィメンズのパリファッションウィークでも新作発表の場を設けるなど支援を拡充し、過去最大の応募数となった。受賞ブランドの“その後“を知るため、第1回TFA受賞「サルバム(sulvam)」の藤田哲平、そして第2回受賞「アンドワンダー(and wander)」の池内啓太と森美穂子の両デザイナーに、TFAの意義とブランドの成長について聞いた。
TOKYO FASHION AWARDとは?
東京を拠点とするファッションデザイナーが、世界をフィールドに飛躍・ビジネス拡大をするためのサポートを目的とした、東京都ならびに一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)主催のファッションアワード。第8回アワードの応募は6月28日(火)17時まで受け付けている。活動拠点が東京であること、国内外セールスを3シーズン以上行っていること、海外市場への開拓に意欲的であることを応募条件としている。
ーTFAの受賞後、ブランド展開を広げているサルバムとアンドワンダーですが、両ブランドのルーツから伺っていこうと思います。ファッションデザイナーを志したきっかけは?
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サルバム藤田:僕は29歳の頃でかなり遅かったと思います。前の会社では8年間パタンナーとして働き、独立する時に「自分に何ができるんだろう」と考えたらパターンを引いて服を作ることだなという結論に至ったんですよね。それで自分でブランドを始めようと決めました。
アンドワンダー池内:僕は、学生の頃にはデザインの仕事をしたいなと思っていましたが、グラフィックやプロダクトの方に興味があり美術大学に進みました。でも4年間学びながら考えているうちに、自分はやっぱり服が好きだと気付いて、ファッションデザイナーを目指そうと決めたんです。
アンドワンダー森:私は祖母が服のアトリエをやっていた関係でファッションが身近なものだったので、徐々にアパレルの道に進もうと思うようになりました。元々モノを作る仕事をしたいなと思っていたので、それが現在の仕事に繋がっています。
海外で苦汁をなめた経験
ーTFAに応募をしようと思った決め手は?
アンドワンダー池内:第1回TFAのパリ・ショールームが開設された2015年のファッションウィークの時、僕らもパリにも行っていたんですが、ブランドを成長させる糸口を見つけられずにいて。その時に知人に誘われて、TFAの合同展示会を見に行くことになったんです。そこで感じたムードや並んでいる服が良くて、しかもバイヤーさんの来場リストを見たらすごい面々だったので、それを見て応募してみようと決めましたね。
サルバム藤田:僕はブランドをスタートさせたときに、海外で展示会を開くのは早い方がいいという考えを持っていました。でもその頃は本当にお金がなくて。飛行機代も捻出するのが難しいという状況だったんです。その時に、当時審査員だったユナイテッドアローズの小木さん(小木“Poggy”基史)から「こういうものがあるよ」と教えてもらったのがきっかけでしたね。TFAがなかったら確実に今のサルバムはないと思っています。
ーサルバムは2014年秋冬のブランド立ち上げから、同年に創設された第1回TFAを受賞。それでパリで合同展示会のサポートが受けられるようになったんですね。
サルバム藤田:でも、何もかもが手探りでした。パソコンも持っていなかったし、色々と教えてもらいながら。それで終わってみると、他に受賞した5ブランドはオーダーがついていたのに、ゼロだったのは僕だけだったんですよ。ものすごくショックを受けました。帰国するまでホテルに引きこもって、泣きそうになるくらい。
ー厳しいスタートだったんですね。
サルバム藤田:たぶん自分なりに、「こういう服がウケるのかな」みたいなものを意識していたんだと思います。それで全然オーダーが入らなかったなら、次は潰れる覚悟で好きにやろうと思って、翌シーズンからは感情を全て曝け出して作ったものを持っていったんです。すると反応が返ってきて、オーダーもつくようになっていった。「あ、これでいいのかも」と思って、肩の力が抜けました。今でもあの悔しさだけは忘れられないですね。僕の原点です。
アンドワンダー森:我々も、最初の頃は年に数件しかオーダーが入らなかったので苦しい時期もありましたが、悔しいというよりは「何が足りないんだろう」と悩む気持ちの方が大きかったですね。どうしたら伝わるんだろう、とか。
ーそういう時、何か方向性を変えたりしましたか?
アンドワンダー森:作るものについては、初期から今まで軸は変えていないので、服以外の部分ですかね。イメージ作りやコミュニケーションの仕方とか、伝えることを意識するようになりました。それがブランドの力になっていると思います。
アンドワンダー池内:ルックブックの撮影でも、最初はなんとなく外国人モデルを起用していたんですが、日本のブランドということを一つの武器にするために見せ方を考えて、日本人に変えたり。それから細かいことですけど、他のブランドの展示の見栄えが良いのはハンガーなんじゃないかと気が付いて、展示会用にオリジナルハンガーを作ったりも。
サルバム藤田:それ、すごくわかります(笑)。
TFA受賞から始まったビジネスの広がり
ーTFAを受賞したことで、ブランドにどのような影響がありましたか?
アンドワンダー池内:藤田さんが言っていたように、初めてのブランドだと海外でオーダーなんてつかないのが普通なんです。ただバイヤーさんは会場に来ているので、彼らがどんな服を手に取っているかとか、モノ作りのヒントがたくさんあるなと思いました。サイジングだったり、デザインの方向性だったり。海外に通用する強いブランド作りの手掛かりを得られたと思います。それをモノ作りに反映させていくと取引先が増えていって、取引が始まるとお店がお店を繋げてくれて、良いサイクルが生まれる。そういう意味ではビジネスの場としても、世界に広げてくれる大事なきっかけになりました。
サルバム藤田:当時はブランドをスタートしたばかりだったので、誰もサルバムを知らないんですよ。海外はもちろん、国内でも知られていなかったので。パリで展示会をした後に東京コレクションに出た時も、多くの人がサルバムについて何も知らずに見てくれたと思うので、色々なきっかけになったと思います。
アンドワンダー池内:東京コレクションでの凱旋イベントはTFA受賞者に対する支援の一環なんですが、自分たちの中ではメイン会場の渋谷ヒカリエで見せるということにしっくり来なかった部分もありました。 でも、プレゼンテーションを行ったことで納得いく形にはなったので、結果的には良かったと思います。
ー国内のお店と良い関係を築けるようになったのはブランド始動から何年目くらいですか?
サルバム藤田:3年目くらいですね。TFAのおかげでパリで展示会をして、海外の店舗と取引が始まってから、その話を聞いた国内の店舗との取引も増えてきて。当時は営業もいなくて1人で全部やっていたので、お店の人と色々な話をしました。その時の良い関係が、今でも続いている感じですね。
ー支援を受けながら成長するために必要なことは?
サルバム藤田:たとえ必要な費用が全額支援されたとしても、それだけでは“おんぶにだっこ“なんですよね。本当にビジネスをやる意気込みがあるなら、それに甘えるな!とは思いますね。
アンドワンダー池内:その後どうやって自分の足で歩くかという意識を持つことは大事ですね。
アンドワンダー森:受賞はご褒美とは違いますからね。
ー中小企業への支援や様々なアワードがある中で、TFAの良さやメリットをどこに感じましたか?
アンドワンダー池内:メリットはなんと言っても海外とのコネクションですね。バイヤーさんとのつながりも沢山できて、海外への足がかりを得られたのがブランドを運営していく上で一番大きかったです。
サルバム藤田:僕も同じ考えです。TFAを受賞したからと言って海外でニュースになる訳ではないですけど、海外の一歩目の足がかりになることがTFAの一番のメリットだと思います。海外のバイヤーさんとのつながりは、後にショールームが変わったとしてもなくなることはないので。メリットしかないと僕は思っています。
アンドワンダー池内:もし応募に迷っている人がいたら、興味はすごくあるけど海外の知見があまりなくて不安に感じているのかなと思います。僕が国内外の雰囲気を見ていて思うのは、日本は少し物価が高くなる割にはお金があまりない。バイヤーも含めて少し元気がないように感じます。例えば10万円の服は、日本だと本当に強いお店の人しかオーダーできなかったりしますが、海外では大きいお店以外でもオーダーがついたりとか。日本の市場だけ見ていると分からないマーケットがあったりするので、日本だけに絞ってビジネスをするのではなく、海外にも挑戦するべきだと思います。仮にTFAに応募して選ばれなかったとしても、自力で海外に行ってビジネスをする準備にはなるので、無駄にはならないんじゃないかな。いずれにしても、海外市場は見ておくべきだと思いますね。
ブランドが見据える未来
ー今後の目標は?
アンドワンダー池内:フルラインナップでコーディネートを組んで、ブランドの世界観を伝えられる直営店は重要だと思っています。空間だったり、置いてあるものだったり、店員さんの着ているもの、立ち居振る舞いまでお客さんに見てもらいたいので。今、国内に6店舗を構えていますが、将来的には海外の各主要都市に直営店を作るというのが僕らの目標です。
ー藤田さんは今年パリにアトリエを作りましたね。
サルバム藤田:コロナ禍で物件が空いていて、家賃も安くなっていたんです。30軒くらい回ってマレ地区に決めました。現地にクチュリエがいるので、来年頭くらいにはブティックの機能も持たせたいなと考えています。
サルバム藤田:今の目先の目標は、パリのアトリエをもっと地元に定着させることですね。ファッションって人を幸せにさせるものだったり、高揚感を与えるものだと思うんですよ。だからアトリエをパリの街に根付かせて、シャツ1枚を大事に着る現地の人が、このシャツは高いけど直してでも着たいんだって思ってもらえるようになれたら嬉しいですね。
ー最後に、ブランドの成長のために不可欠なものとは?
アンドワンダー森:目標ですね。目標を持って、それに向かって努力して、目標を乗り越えることが成長に繋がると思います。
アンドワンダー池内:いつまでにやりたいっていう具体的な目標はもちろん必要だし、漠然とした夢みたいなものも目標に加えて良いかもしれないですね。目先の目標をクリアしていくと、それが糧になって長期的な目標につながっていくんじゃないのかなって。
サルバム藤田:「やる気・元気・勇気」と言おうと思ったんですけど、森さんの言葉を聞いたら、やっぱり目標だなって思いました(笑)。アンドワンダーとサルバムってブランドとしては全然違いますけど、共通しているのは目標があって、やりたいことが沢山あるってことかもしれないですね。「まあまあ売れているから現状維持でいいや」って思ってしまうと僕らの仕事はストップしてしまう。ブランドは次の目標がないと成長できないと思いますね。
■TOKYO FASHION AWARD 2023
募集期間:2022年4月28日(木)〜6月28日(火)17:00
審査結果発表:「Rakuten Fashion Week TOKYO 2023S/S」会期中 ※2022年8月29日(月)〜9月3日(土)
審査員:宮本智美(阪急阪神百貨店)/山外拓海(阪急阪神百貨店)/石田修平(三越伊勢丹)/﨑谷由衣(三越伊勢丹)/中根大樹(TOKYO BASE)/澤之井頌子(TOKYO BASE) /増田晋作(ユナイテッドアローズ)/浅子智美(ユナイテッドアローズ)/Nickelson Wooster(Wooster Consultancy Creative Director)/Sarah Andelman(Just an Idea Founder)
・TOKYO FASHION AWARD 公式サイト
・Rakuten Fashion Week TOKYO 公式サイト
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