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TOKYO BASE海外事業が黒字化、谷正人代表に聞く中国・香港・韓国・日本のファッションシーンで起こっていること

Video by: FASHIONSNAP

 2017年4月の海外進出から8年。セレクトショップ「ステュディオス(STUDIOUS)」などを展開するTOKYO BASEの海外事業が2025年度第1四半期(2025年2〜4月)で黒字化した。日本ブランドを海外へ⎯⎯赤字が続いても企業理念はぶらさず、実直に積み上げてきた海外事業で見えてきたものとは? インバウンドの地・銀座の「白いばら」跡にオープンする「ザ トウキョウ(THE TOKYO)」の旗艦店で谷正人代表にインタビュー。

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海外進出8年、積極出店から学んだこと

⎯⎯2025年度第1四半期で海外事業が黒字化しました。

 中国は店舗数をだいぶ絞ったこともあり、足元の売上が上がってきて、やっと単月では黒字化することができました。香港は相変わらず調子が良いです。ニューヨークと韓国は連結から外れていますが、韓国に関してはスタートしたばかりにもかかわらず、すでに黒字化を達成しています。

⎯⎯中国の消費は未だ低迷していると聞きますが。

 弊社のような業界は、景気動向はあまり関係ないですね。今までは割と大規模の店舗を出店していましたが、適正な規模の出店に変えたので利益が出やすい体質になったことと、いろいろな経験を経て、商品のチューニングが合ってきたり、現地で“TOKYO BASEらしい”スタッフが育ってきたことが大きいです。中国事業単体は赤字が続いていましたが、今期は黒字化できる見通しも立っています。

⎯⎯これまでの中国市場は大胆な積極出店が印象的でした。

 ある意味、僕らは勘違いしていた部分がありました。日本と香港でそれなりに実績が出たので、それこそ一等地の中でも大規模で展開できる場所をいただいてしまっていたわけです。

⎯⎯大型店舗は広告塔にもなりうるのがメリットです。認知拡大に寄与していたのでは?

 日本も同じですけど、一等地に無名なショップがドーンと出ても、多分誰も覚えていないんです。まずはしっかり顧客を作り、その顧客が口コミをして広めてくれるという状況をどう作れるかが重要だということを学びました。

⎯⎯売れ筋の変化は?

 なんとなくですけど、“日本でも売れるモノ”に少しずつ近づいてきたな、というのはあります。以前は「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」といった、日本を代表するわかりやすいブランドが圧倒的でしたが、最近は知名度がそこまで高くないブランドや、デザインが尖っていないベーシックなブランドも売れるようになってきました。これはお店への信頼感が少しずつついてきたことの裏付けとも考えられると思っています。

⎯⎯「そのショップに置いてあるから買われる」という状況になってきている?

 そうですね。それが本来、セレクトショップとしてはやらなきゃいけないことなので。極端な話、有名なブランドは我々のショップでなくても売れるブランドですから。そういったブランドに頼りすぎず、新しいブランドだったりTOKYO BASEらしいブランドを発信していくことに意味があると思っています。

⎯⎯最近動き始めているブランドは?

 「ステュディオス(STUDIOUS)」のオリジナルが動いています。あとは「ザ・リラクス(THE RERACS)」ですね。

⎯⎯インバウンドに人気だという「コンズ(CONZ)」も中国に初出店しました。

 先日オープンしたばかりなんですが、オープン初日に(コンズと同じ上海・富民路エリアに出店した)ステュディオスと並ぶような売上を記録しました。

店舗外観
店舗外観
店舗内観

ステュディオスと同じ通りに並ぶコンズ

Image by: TOKYO BASE

⎯⎯コンズが受けている理由は?

 テイストがドンハマりしていますね。コンズは若い人向けで、ストリートやカジュアルといった訴求が強く、それが現地の女性のお客さんに支持されているように感じています。

⎯⎯次に香港についてお伺いします。改めて香港が伸びている背景を教えていただけますか?

 2017年に進出して以来、デモやコロナでどれだけ苦境に立たされても、展開をやり続けて、やっと利益が出てきたというのはあります。ですから、急に伸びたという感覚はありません。ちゃんとリピーターが積み重なってきたというのが大きいかもしれないですね。ライトリピーターも増えてきているので、路面店も今後増やしていきたいと思っています。

⎯⎯中国と香港で違いはありますか?

 実際、香港は半分くらいが中国から来るお客様ですし、香港と中国の違いと言っても、日本も日本人みんなが同じ格好かというと全然違いますから、人種で分けづらいというのはありますね。

⎯⎯東南アジアから香港に来て、日本のブランドを買うお客様もいらっしゃると聞きました。

 特に今年は日本でTシャツと短パンといった、いわゆる“真夏MD”みたいなものを増やしたので、それが東南アジアの暑い国の人にはまっているというのはあるかもしれません。絶対数としてはまだ少ないですけどね。

⎯⎯香港で人気のブランドは中国と同じでしょうか?

 相変わらず「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」や「ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)」といったブランドが人気ですね。

⎯⎯「海外で売れているブランド」の共通項は?

 まずは弊社が得意なブランドであるということ。あとは、日本でも20代〜40代という幅広い層に売れているブランドです。

⎯⎯「ウィメンズに課題がある」という話が過去にありました。

 ウィメンズは競合も多いですし、価格競争もあります。サイズ感の問題もありますね。何より、日本のウィメンズブランドは非常にコンサバなブランドが多いです。欧州ではボディラインを見せる服が好まれやすいので、サイズからテイストまで課題があります。それに比べてメンズは日本とアジア、もっと言えば欧米も売れ筋は変わらなかったりしますからね。日本の店舗でのインバウンドもメンズの方が売れています。なので、海外もメンズ単独の店舗を展開するようにしていて、香港に関しては現在ウィメンズは取り扱っていないんです。ただ、適正規模の店舗でMDも変わったことから“わかりやすいお店”になったので、いまの状況だったらエッジを効かせた店舗として、ウィメンズの単独店舗を開いてもいいのかなと思っています。

THE TOKYO 銀座の店内

Image by: FASHIONSNAP

⎯⎯谷代表の視点から思う、日本のウィメンズブランドが海外で成功するために必要なことは?

 オリジナルブランドはサイズ対応など工夫できることがありますが、セレクトブランドとなると、やはりデザイナー自身が本気で「海外で勝負する」という意思と覚悟を持たないといけない。そこには少し時間はかかるかなと感じています。

「絶対にバズらせるな」KOL施策より重要なこと

⎯⎯進出したばかりの韓国市場は2ヶ月で赤字を解消して黒字化。好調なスタートを切っていますね。

 韓国のマーケットはそこまで大きくなく、家賃も低い。売上規模としては中国や香港の方が1店舗あたりは高いですけど、利益率は確保できるのではと思います。

拡大リニューアルしたステュディオスの韓国店舗

Image by: TOKYO BASE

⎯⎯消費動向として中国、香港、そして日本と比べてどのような違いがありますか?

 韓国は、消費力としては正直弱いと思います。ただその分家賃も安いので、ビジネスとしてはやりやすいですね。弊社もまだ出して3、4ヶ月ぐらい、しかもメンズのみで正直まだ手探りですから、想像よりも進捗が良かったというより、想定通りではあります。逆に言うと、中国での反省を活かして、最初は家賃が安く30坪程度の規模からスタートしたのがよかったのかなと。最近ウィメンズが始まったので60坪に拡大しています。

⎯⎯「日本より韓国の方がファッション感度が高い」という見方もありますが、谷代表はどのように感じていますか?

 そうは感じないですね。やっぱり日本の方がおしゃれだと僕は思います。ただ、韓国には安価で手に入るブランドがたくさんあって、その分、流行の回転が早いです。例えば、昔話題となったカロスキルも今もスカスカな街になっちゃっていますし。だからそこに飲まれないようにしなきゃいけないかなとは思っています。それが課題に感じているところというか、韓国の流行り廃りの激しいマーケットに飲まれないようにしなきゃいけない。そういう意味で言うと、絶対にバズらせるな、というのは意識しています。

⎯⎯韓国での認知はそれほど大きくはない中での進出ですが、広告も打っていませんよね。

 相変わらずやってないですね。その分、お客様に対して力を入れています。お客様が本当に良いと思ってサービスや商品を買って広めてくださったら、盤石の口コミになるので。それが一番堅実ですし、手堅いかなと思います。

⎯⎯KOL施策もやらないんですね。

 社内のSNSは最低限やっていますけど、KOLを使って中途半端にバズらせるのは一切やってないです。好きじゃないブランドを無理やり宣伝しても、お客様も賢いですからわかりますよね。もちろん、プロパー(定価)で買ってくださるお客様の中にはKOLのような方もいますが、あくまでも結果論です。

インタビューカット

Image by: FASHIONSNAP

⎯⎯ではどうやって知ってもらっているのでしょうか?

 最初はたまたま店舗を見て、ふらっと立ち寄ってみようという方だったり、もともと日本に旅行に来た方が知っていて来店してくださるパターンですね。それが少しずつ積み重なっていっています。

 例えば日本でも、田舎の個人店が最初にどうやってスタートするかと言ったら、最初は街を歩く人に来店してもらうことから始めていくように、やはりそのステップを踏んでいかないとだめだなと。お金かけて表層的なお客様を呼んで、表層的に売れてるように見せかけて、表層的に宣伝して、表層的なお客様が作ったブームとともに去っていく。今まで海外で日系企業が成功できなかったのはそういう企業が多いので、そこはやらないようにしています。

⎯⎯韓国で売れているブランドは?

 N.ハリウッドあたりもですが、「ニードルズ(NEEDLES)」が売れていますね。セレクトショップとして、僕らが売りたいブランドが売れている状況になっていて、ある意味で健全かなと思います。

⎯⎯日韓関係の政治問題の影響はありますか?

 今のところ全くないですね。トヨタやユニクロのようなグローバル企業と話は違うかもしれないですけど。

⎯⎯今後の出店戦略を教えてください。

 何年までに何店舗、といった具体的な計画はあまり決めていません。それを決めてしまうと、僕らの都合で物事が決まっていってしまうので。大事なのは、お客様の動向を見ながら少しずつ増やしていくこと。もちろん上場企業なので、ある程度の会社全体としての計画はありますけどね。

⎯⎯ちなみに海外は各国で気候が異なりますが、MDの調整はどのようにされていますか?

 韓国、香港、中国共通して、気候ごとに分けるようにしていて、店舗別に仕入れています。例えば日本と上海は一緒で、香港と深圳はまた違う気候だよね、とか、韓国とニューヨークは冬が長い、とか。そういったマップを組んで、そこに応じたMDを入れるようにしています。今までやってきたノウハウが蓄積されているので、セレクトしたアイテムを当てていくというやり方ですね。

⎯⎯海外のスタッフ雇用について教えてください。

 日本から派遣するパターンと、現地で採用するパターンの両方があります。最初は日本からの派遣が多かったんですけど、現地のローカルスタッフがすごく育ってきましたね。今は日本人もただの接客英語ではなく、面談ができるようなネイティブレベルの日本人じゃないと通じなくなってきていて、それはいい傾向かなと思っています。「スーパースターセールス制度(※)」も海外では導入したばかりですが、香港や中国でスターセールスになった人もいます。

※スーパースターセールス制度:店舗で働く営業スタッフに向けたもので、ある一定基準以上の個人売上の10%を給与として還元していく制度。最上ランクである5スターでは、年間個人売上1億5000万円以上で年収1500万円を目指すことができる。

「インバウンド向けに特別なことはやらない」 日本でも実直に

⎯⎯日本でも出店を強化していますね。それを象徴するのが、初の銀座進出となる「THE TOKYO 銀座」です。

 銀座への出店はずっと考えていましたが、銀座は家賃も高いので、安易な出店はできませんでした。今回ご縁があった物件は、もともと「銀座 白いばら」というキャバレーだった場所で、丸々1棟貸していただけることになりました。銀座は世界中からお客様が集まる場所なので、インバウンド比率はできれば80%以上を狙っていって、全世界に対して発信していきたいですね。

外観


店内写真


「銀座 白いばら」の跡地にオープンした「THE TOKYO 銀座」。店内では日本発デニムブランドの特別コーナー「JAPAN DENIM BAR」をメンズエリアに展開している。

⎯⎯具体的にどういった国や地域からのお客様が多いですか?

 中国、香港が圧倒的に多いです。その後にアメリカですね。

⎯⎯インバウンド客はどのようにしてザ トウキョウを知って来られるのですか?

 ザ トウキョウも同じですよ。通りかかったタイミングであったり、あるいはもともとステュディオスで買っていた方がザ トウキョウに行ったりとかですかね。

⎯⎯インバウンド店舗の代表格になりうる「THE TOKYO 銀座」では、他の店舗と違ったラインナップや挑戦していることはありますか?

 そういう意味で言うと、特別なことはないです。本質的には日本の強いブランドを発信していくということを大事にしているので、奇をてらったことは逆にやらないようにしています。それをやり続けられるかということが重要なので、そういう視点で取り組んでいます。

⎯⎯投資額は1億円以上とのことですが、かなり気合が入っていますね。

 そうですね。今回も内装は森田恭通さんにお願いしました。

⎯⎯次に名古屋が8月にオープンすると思いますが、そちらも積極投資されるのでしょうか?

 ザ トウキョウに関しては名古屋だけではなく横浜にも年内に出店します。会社全体では計画19店の出店に対して上振れで出店できそうな見込みとなっています。

⎯⎯かなり積極的な出店ですね。

 2023年はあえて踊り場を作ったという背景もありますが、このインバウンドの波に乗って、というのももちろんあります。出店オファーもすごく多いですね。

⎯⎯日本でインバウンド需要が頭打ちになるのではないかという懸念もありますが。

 いわゆる「インバウンド」には2つあって、ラグジュアリーブランドをアジアでたまたま安い買われるという意味でのインバウンドと、日本らしいものを買っていくというインバウンドがあると思います。僕らは当然後者なので、百貨店が大幅に売上を落としても全然影響はありませんでした。

⎯⎯現在の国内と海外の売上比率は?

 全体として国内がもちろん90%くらいですね。急に上げるというよりも、少しずつ結果的に上がってくればいいかなと思っています。しばらくは日本でインバウンドのお客様に知ってもらい、海外でも買ってもらうみたいな、そんなビジネスモデルですね。なので、逆に言うと、インバウンド比率が高いザ トウキョウ 銀座や「ステュディオス トウキョウ(STUDIOUS TOKYO)」の表参道は、考え方としては海外事業部に入れています。

⎯⎯最後に、ザ トウキョウの展望を教えてください。

 現在の弊社の最上位業態なので、売上はもちろん、新規顧客をどんどん取っていきたいなと思っています。そういった方々に対応できるラインナップをもっと増やしていきたいですね。

最終更新日:


FASHIONSNAP 編集記者

伊藤真帆

Maho Ito

東京都出身。高校時代に編集者を志し、デザインもわかる編集者を目指して美術系専門学校でグラフィックおよびウェブデザインを学ぶ。ウェブメディア「ORICON STYLE(現・ORICON NEWS)」で編集を経験後、カナダでのワーキングホリデーを経て、2014年にレコオーランドに入社。ライフスタイル領域をメインに担当後、現在はシニアエディターとしてデスク業務のほか、セレクトショップや百貨店・商業施設、ECといった小売関連企業を中心に取材。企業のトップに取材する連載「トップに聞く」を担当している。趣味はボードゲーム。

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