新しい生活様式はもはや日常へと移行し、それに伴い企業の舵取りも大きく変化している。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。第15回はTSIホールディングスの下地毅社長。就任1年目となった2021年は「ファッションの原点に立ち返る年」だったという。大規模な構造改革を経て下地社長が打つ次なる一手とは。
■下地毅
沖縄県出身。1985年に文化服装学院マーチャンダイジング科を卒業。1990年に上野商会に入社し、ファッション業界でのキャリアをスタート。入社後はオリジナルブランド「DOG FIGHT」のデザインを担当した。1992年から「アヴィレックス(AVIREX)」のチーフデザイナーを務め、2018年から同社取締役社長を兼任。上野商会の完全子会化に伴い、2019年にはTSIホールディングスの執行役員に就任。メンズファッション一筋で、フライトジャケットやミリタリーウェアに精通している。
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社長就任と同時に大規模構造改革に突入
ー社長就任1年目となった2021年はどのような1年でしたか?
全く新しいことを始めるのではなく、これまでの商習慣を一度立ち止まって改めていくための時期でした。お客さまに喜んで頂くためにはどうするべきか、そういった至極原点的なところを振り返るようにしました。
ー昨年3月から大規模な構造改革を進められていました。手応えは感じていますか?
まだ道の途中であり、現時点では手応えがあったとは言い切れません。昨年は人員削減など厳しい判断を迫られましたが、今年はそれを糧にして社員一丸となるべきフェーズに入ったと思います。弊社には現在5000人強の社員がおりますが、みんな素晴らしいアイデアを沢山持っているので新しいTSIに生まれ変わらせる流れを作っていきたいと考えています。
ー組織構造のスリム化において、想定通りの効果は得られましたか?
想定以上でした。実はもっと社内は混乱してしまうだろうと懸念していましたが、私の耳にまで入ってくるほどの大きな混乱はなく済んでいるようです。組織再編にあたっては残念ながら弊社から去っていく人もいました。ですが、残された社員が悲観的になるのではなく、「自分たちでやらなくては」と奮い立って非常に良い空気が出来上がりつつありますね。
ー昨年はD2C事業拡大に向けて、2020年に買収した「エトレトウキョウ(ETRÉ TOKYO)」に続く新ブランド「メクル(MECRE)」を立ち上げました。
エトレトウキョウは初年度からグループ業績に貢献しており、メクルに関しては規模としては小さいですが順調に伸びています。今後もさまざまな切り口でD2Cブランドを投入していく予定です。
ー上期のプロパー消化率は?
会社統合のタイミングということもありシステムの都合上、正確な数字をお伝えするのが難しいのですが、明らかに改善しています。仕入れの仕方を抑えているのもありますし、なるべく値引き行わないようにしてきました。プロパー消化率の改善に向けてここ数年取り組んできた施策の成果が着実に出ていると言えます。
ー秋冬商戦は好調に進捗しているそうですね。
「パーリーゲイツ(PEARLY GATES)」をはじめとしたゴルフ事業と、「ハフ(HUF)」などのストリート事業は引き続き好調です。先月発表した2022年第3半四半期決算では、ゴルフカテゴリーの売上高が72.3億円で前年同期比118.9%でした。コロナ前も好調に推移していましたが、コロナ禍で一気にスパークし、今もものすごい勢いで商品が動いています。
■ゴルフカテゴリー売上高 第3四半期の推移
2020年2月期:46.5億円
2021年2月期:60.8億円
2022年2月期:72.3億円
ー昨今のゴルフ人気を受けて、他社も続々とゴルフアパレル事業に参入しています。
他社のゴルフアパレルブランドに負けない自信は圧倒的にあります。パーリーゲイツに関して言えばゴルフを通じてお客さまと共に一緒に歩んできた約30年の歴史があり、「ジャックバニー(Jack Bunny!!)」ではジュニアゴルフ大会を運営するなどお客さまを育ててきた土壌を持っています。子どもの頃にこの大会に参加して、ゴルフの楽しさを知った子たちの中には、原英莉花選手のように大人になってプロゴルファーとして活躍されている方もいるんです。「トレンド」という言葉とは一線を画したような世界観を持ち、時間をかけて成長してきたブランドは、新興ブランドにはない強みを持っていると思います。
現在TSIには6つのゴルフブランドがありますが、各ブランドがそれぞれのポジションで際立っており、お客さまにご好評頂いています。顧客を大事にしながらブランドを育てていく。そこはたゆまずやっていくつもりです。
―「ナノ・ユニバース(NANO universe)」や「ナチュラルビューティーベーシック(NATURAL BEAUTY BASIC)」など重点ブランドの構造改革に着手しています。
両ブランドともリーダーの交代を行いましたが、新しいリーダーたちが素晴らしい力を発揮し、ブランドの活性化に貢献してくれていますね。その他、不採算となってしまっている複数ブランド事業については撤退を検討しています。
―現代のブランド経営に必要なことは何でしょう?
独自性が弱まったブランドは自ずと上手くいかなくなっていきます。テイストが類似したブランドが横並びで増えると、同じマーケットの中で売上の取り合いを招くんです。シンプルなことですが、各ブランドが今後どのようなスタイルで行きたいのかといった部分に改めてフォーカスすることが、今は大切だと感じています。
ーでは各ブランドでパーパスの見直しを図っている?
それぞれのジャンルの市場において、オピニオンリーダーとなれる個性輝くブランドを手掛けるのがTSIの本望だと考えています。こうした考え方を各事業のリーダーと共有し、それぞれのブランドをどのように育てていくのか考えてもらっている段階です。
「ナノ・ユニバース」大規模リブランディングの背景
ーナノ・ユニバースでは約3年かけてリブランディングを実施します。最大の課題は?
昔は尖っていて中々イケているセレクトショップという立ち位置でしたが、ECを強化し過ぎた結果、商品単価が下がったこと、そしてオリジナル比率が上がって個性的な商品が並ばなくなり、創業当時のような面白さが徐々に薄れていってしまいました。
ー“売れる服”を追求し過ぎてしまったということでしょうか。
顧客のニーズに寄り過ぎたように感じます。それで売り上げを取れていたわけですから、一概に悪いことだとは言えません。ナノ・ユニバースでは4〜5年前から既にEC比率が50%超えで、業界的にかなり先を行っていました。こうした知見は歴代のメンバーがきっちり積み上げてきた資産でもあると思っています。
ー現在、多くのアパレル企業がデジタルシフトに注力していますが、ECに振り切るのは得策ではない?
やり方次第だとは思いますが、いつでもお客さまに提供できるようにと山ほど在庫を抱えておくのは問題ですよね。我々は生鮮食品と同じくらいフレッシュなものを扱っている業種ですので、売れ残って腐らせるわけにはいきません。
ー在庫と品番の適正化が重要課題になってきますね。
既にナノ・ユニバースの品番数は2割ほど削っています。商品の仕入れに関して言えば、前々年比で4割近く減らしています。
ーナノ・ユニバース事業における売上高等の数値的な目標は?
ナノ・ユニバース事業の落ち込みは、数字を追い求め過ぎたからだと思っています。売上を立てることはビジネスですから当然大事なことですが、それ以上に商品を売り切っていくことが重要。その代わり、よりクオリティを追求したモノづくりを強化していく方針です。
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