インバウンド客と日本の消費者の獲得を成長要因としつつ、「イヴ・サンローラン・ボーテ(Yves Saint Laurent Beauté)」(以下、YSL)や「ラ ロッシュポゼ(LA ROCHE POSAY)」といったブランドが躍進し、全事業部でマーケットシェアを獲得する日本ロレアル(Nihon L’Oréal)。外資系ビューティ企業シェアNo.1のポジションを強固に、2026年のキーワードは「アンビション(野心)」と「バランス」を掲げるジャン-ピエール・シャリトン社長にビジネスの進捗と今後の展望を聞いた。
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ジャンピエール・シャリトン/日本ロレアル代表取締役社長

Image by: FASHIONSNAP
1966年3月13日生まれ、フランス・パリ出身。1989年にフランスのEM リヨン経営大学を卒業。1991年に仏・ロレアル本社に入社し、スキンケアブランド「Biotherm」でキャリアをスタート。タイ、韓国、イギリス・アイルランドのロレアル リュクス事業本部長を経て、2008年にロレアル リュクス事業本部「ジョルジオ アルマーニ ビューティ」のグローバルプレジデントに就任。2013年にロレアル アジア太平洋地域(APAC)のロレアル リュクス事業本部ゼネラルマネージャーに就任、2021年11月から現職。
日本ロレアルとは⎯⎯
1996年に設立の世界最大級の化粧品企業「ロレアルグループ」の日本法人。YSL、「ランコム(LANCÔME)」「メイベリン ニューヨーク(MAYBELLINE NEW YORK)」「キールズ(Kiehl’s)」など多くのブランドを展開し、輸入・製造・販売する。川崎に研究開発施設「日本ロレアル リサーチ&イノベーションセンター」を持ち、日本の生活者に合わせた製品を世界へ発信している。
目次
⎯⎯現在の化粧品市場をどうみていますか
世界を見ても、日本を見ても、市場の環境はあまり芳しいとは言えない状況があります。しかし、2025年の日本の化粧品市場は2%強の成長を遂げ、その中で私たちは着実に成長し、全てのカテゴリーと全ての事業においてマーケットシェアを獲得。日本で外資系ビューティ企業No.1としてのポジジョンを固め、市場を上回る成長を遂げることができました。
⎯⎯市場を上回る成長の背景を教えてください。
要因はインバウンド需要と日本需要の2つにあります。かつてのインバウンド客の興味の矛先はラグジュアリーでしたが、今ではマスビューティにも向いています。そして日本の化粧品市場は、新しい価値やソリューションを提示することで、新たなニーズやトレンドを喚起していくマーケットだと考えており、日本の消費者は革新的な商品に敏感です。イノベーションのクオリティが市場を成長させますし、私たちの成長もイノベーションが重要です。
⎯⎯昨年のインタビューでは、キーワードは「成長」でしたが、その通りの1年でしたか。
そうですね。「成長」にはこだわり続けていますし、3年後に同じ質問をされたとしても、「成長」と答えるでしょう。
ラグジュアリー市場で日本顧客のシェアを獲得
⎯⎯全ての事業部でマーケットシェアを獲得しています。各事業部の牽引を挙げるとしたら?
リュクス事業部においては、2025年に日本人顧客のシェアをさらに伸ばすことができました。インバウンド客は日系ブランドを求める傾向にあるため、外資系企業として存在感を高めるには日本の消費者に訴求することが重要になります。その結果だと考えています。


中でも、YSLの売り上げ規模は当社のラグジュアリー部門の中でトップクラスにまで成長しています。インターナショナルクチュールブランドであると同時に、日本のトレンドをしっかりと捉えて取り入れ、魅力を伝えたことが奏功しました。トレンドのキュレーション力こそ、YSLの強みと言えるでしょう。また「プラダ ビューティ(PRADA BEAUTY)」は、リップバームがジェンダーを超えて人気を集めて好調に推移しています。プラダ ビューティだけでなく、「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」「イソップ(Aesop)」も、多様なお客さまにコミュニケーションができることに大きなポテンシャルを感じています。イソップにおいては2025年6月に日本法人イソップ・ジャパンを統合しました。日本の売り上げがグローバルNo.1ということもあり、期待しています。
⎯⎯「タカミ(TAKAMI)」はいかがでしょうか。
実は2025年の前半に、少し減速した時期があったのですが、コミュニケーションを強化し、メディア投資も増やしたことで認知を押し上げ、下半期はしっかりと成果を残すことができました。いくつか新製品を導入したこと、またネット販売、サブスクリプション事業展開から、オフラインも広がりつつあり、タッチポイントの拡大が多くの人の目に留まったと思います。
⎯⎯そのほかの事業部の動向も教えてください。
コンシューマープロダクツ事業部ではとくにメイベリン ニューヨークが、山田涼介さんを起用したプロモーションが奏功して好調でしたし、ダーマトロジカル ビューティ事業部では、「ラ ロッシュ ポゼ(LA ROCHE-POSAY)」が、2025年は前年比20%以上の成長を遂げました。肌に優しい一方で、期待できる効果が穏やかであると一般的に思われている日本のダーマトロジカルビューティの中で、当ブランドが皮膚科学に基づいたアプローチで多くの専門家から評価され、肌への配慮と健やかな肌をサポートする品質を上手に訴求できたことが要因です。こういった側面ももっとアピールしていきたいですね。
⎯⎯ダーマトロジカルビューティという文脈ではタカミや「スキンシューティカルズ(SKINCEUTICALS)」も抱えています。成長分野としてM&Aも検討していますか?
もちろんです。M&Aにおいては、日本ブランドの優先順位は非常に高く、いつかそうしたニュースもお届けできたらと思います。

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⎯⎯プロフェッショナルプロダクツ事業部についてはどのような取り組みをおこなっていますか。
「プロフェッショナルとともにある」というDNAはもちろん大切です。プロである美容師がサロンでシャンプーやスタイリングをしてプレゼンしてくれることは重要です。それと同時により広く知っていただくことも欠かせませんから、オンラインでの流通も強化しています。「ケラスターゼ(KERASTASE)」では、オンラインで顧客を獲得し、オフラインのチャネルであるヘアサロンに誘導する取り組みが奏功しています。サロン環境は厳しいと言われている今こそ、まずはオンラインからアプローチして、パートナーであるサロンの応援にもつなげ、良い循環を作っていきたいですね。
日本ロレアルが展開する主なブランド
◆Consumer Products Division
ロレアル パリ(L'Oreal Paris)/メイベリン ニューヨーク/3CE
◆Luxe Division
ランコム/YSL/シュウ ウエムラ(shu uemura)/ヴァレンティノ ビューティ(VALENTINO BEAUTY)/プラダ ビューティ/ジョルジオ アルマーニ ビューティ(GIORGIO ARMANI BEAUTY)/キールズ/イソップ/タカミ/ヘレナ ルビンスタイン(HELENA RUBINSTEIN)/メゾン マルジェラ/ディーゼル(DIESEL)/ラルフローレンフレグランス(Ralph Lauren fragrance)
◆Professional Products Division
ロレアル プロフェッショナル(L'Oréal Professionnel)/ケラスターゼ(KÉRASTASE)
◆Dermatological Beauty Division
ラ ロッシュ ポゼ/スキンシューティカルズ
世界各国へと羽ばたく日本発のイノベーション
⎯⎯ロレアルは研究部門も大きな強みです。日本のイノベーションセンターから誕生した商品は世界へと羽ばたいています。2026年はどのようなイノベーションを起こしますか?
ロレアルはアジア初の研究開発部門を1983年に日本で開設し、他の地域の研究所と比べても、グループ全体のイノベーションへの貢献度が非常に高く、大きな誇りを持っています。その中で、日本市場で重視されるUVケアアイテムについては、日本で研究開発を行なった製品を世界中で展開することもあります。例えば、日本で生まれたイノベーションが、ブラジルでベストセラーになることもあり、今後も世界へと羽ばたく製品を多く開発していきたいですね。
⎯⎯それほどまでに日本のイノベーションにこだわるのはなぜでしょうか?
なぜロレアルが200人近い研究員を有する研究開発部門を日本に設けているのか。日本の文化に根差したものを世に送り出したい。それは“オタク的”なこだわり、緻密で細部にまで意識を巡らせて研究し、製品に反映させる姿勢を大切にしているからに尽きます。
また日本の消費者は目利きに長け、スキンケアでもメイクでも、質感や仕上がりに大きなこだわりを持っています。そんな消費者を納得させるモノ作りができてこそ、イノベーションは起きるのです。

日本ロレアル リサーチ&イノベーションセンター
デジタル活動に関わる二酸化炭素の排出量削減へ
⎯⎯これまでさまざまなサステナビリティ活動に取り組んできました。現在の施策はいかがでしょうか?
近年ではデジタル活動に関わる二酸化炭素の排出量削減にも取り組んでいます。デジタルというと二酸化炭素とは無縁に感じますが、実はそうではありません。例えばAIを使うときに大きな電力が消費されているように、デジタル広告などの二酸化炭素の排出量をモニタリングして、しっかりと対処していきたいです。
⎯⎯ちなみにどのようなことにAIを活用していますか。
店頭では肌測定などでかねてよりAIを活用してきました。最近では活用する社員が増えていて、パートナーとともに開発した「ロレアルGPT」の使用率は100%です。Eメールの管理や翻訳に活用し、生産性が向上しています。
またR&Iでは処方組みやリサーチに、マーケティング活動では広告配信後の処方の開発などに活用しています。二酸化炭素の排出量削減も含めて、最大限、戦略的にAIを活用していきたいですね。

拡大するビューティ人口に多角的なポートフォリオで発信
⎯⎯少子・高齢化やインフレ、円安など日本国内は2026年も厳しい経済状況が続きそうです。
ビューティ人口という観点でみると、少子・高齢化やインバウンドの減少をそこまで不安視はしていません。というのも55歳未満の女性に男性の消費者を加えると、2018年には5400万人だったのが、2024年には6000万人に、2030年には6800万人になると推測しています。(※ロレアル調べ)さらにブーマー世代(団塊ジュニア世代)を加えれば、ビューティ人口は増加しており、インバウンド需要の落ち幅を補完するポテンシャルがあると認識しています。
⎯⎯男性にはどのようにアプローチしますか?
男性だからといって必ずしも男性用の化粧品を使っているわけではなく、良い商品があれば購入につながります。例えば「タカミスキンピール」は男性からの人気が非常に高いアイテムです。新しい製品を男性のために開発するのではなく、既存の製品に対する男性からの認知獲得により力を入れます。

タカミ「「タカミスキンピール」」
Image by: タカミ
ロレアルは豊かなポートフォリオを有しています。トレンドに乗った感を加味したラグジュアリーメイクブランドから、最新の研究知見を搭載したスキンケアブランドまで。最初にお伝えしましたが、イソップやメゾンマルジェラ、プラダは男性に向けても、シュウ ウエムラやタカミはインバウンドに、ランコムはブーマー世代にと…。多角的なポートフォリオの中で、さまざまなターゲットに発信することができるのが強みです。
キーワードは「アンビション」と「バランス」
—2026年が始まって3ヶ月ほどが経ちました。足元の状況はいかがでしょうか。
コンシューマープロダクツ事業部とダーマトロジカルビューティ事業部でいいスタートが切れました。一方でリュクス事業は、中国人インバウンド客が大部分を占めていたわけではないものの、やや難航しています。この局面から抜け出すには、やはりローカルの消費者へのアプローチが必須でしょう。プロフェッショナルプロダクツ事業部は、依然としてオンラインでの成長率は高いものの、オフラインでは起業家精神を発揮してこれまでにない施策を繰り出していくべきだと考えています。
⎯⎯どのような戦略でビジネスを推し進めていきますか。
全社員を集めて、「ワン ロレアル デイ」を開催しました。その際に「アンビション(野心)」と「バランス」というキーワードを伝えました。少子・高齢化やインフレ、世界情勢の変化が起きようとも、ビューティには魅力があり、イノベーションへの興味はつきません。全ての事業部で素晴らしいプランを立てています。

⎯⎯「アンビションとバランス」について詳しく教えてください。
日本のマーケットでは常に野心的でいなければいけません。その上でバランスを見つけること。バランスで大切にしたいのは3つあります。
1つ目はオンラインとオフラインのバランス。オンラインは新客獲得に適した場であり、オフラインはプロダクトを体験できる場です。どちらか1つでは上手くはいきません。チャネルのバランスを取ることが必要です。2つ目は既存のヒーローアイテムとイノベーションのバランス。プロダクトへの投資を進めていきますが、タカミの角質美容液やランコムの「ジェニフィック」、シュウ ウエムラのクレンジングオイルなどのヒーローアイテムも大切です。

ランコム「ジェニフィック アルティメ セラム」
Image by: LANCÔME
最後に最も重要だと考えているのが、グローバルであることとローカルであることのバランスです。日本の消費者はグローバルブランドであることの価値が伝わらなければ日系ブランドへと心が移ってしまいます。一方で、インターナショナルブランディングが強すぎると、日本のユーザーに適した製品の魅力が伝わりにくい。ゆえにバランスを保つことが大切になってきます。
⎯⎯そのバランスはどのように見極めていくのでしょうか。
もちろん数字は追いかけますが、割り切れない部分もたくさんあります。例えばオンラインとオフラインのバランスでいうと、市場のオンライン構成比が20%程度なのに対して私たちのオンライン構成比はより高くなっています。つまり私たちはオンラインでより多くのお客さまにリーチできているということです。対して日本のオフラインサービスでは、商品を試したり、診断を受けたりと、きめ細やかなサービスを受けることができます。他の国にはない素晴らしい体験に特別感があります。市場のバランスとは違っていても、それぞれのブランドにロレアルなら出葉の正しいバランスが存在し、それを追求することが大切なのです。
また、日本の人材を野心を持って育成し、意欲的にイノベーションを起こし世界で成功を収めたいですね。マインドとしてのアンビション=野心と、戦略としてバランスを保ち、昨年を上回る成長を目指します。外資系ビューティ企業No.1のポジションをより強めていきたいですね。
text: Natsumi Yoneyama | photography: Katsutoshi Morimoto, interviewer: Akiko Fukuzaki (FASHIONSNAP)
最終更新日:
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