ニッチフレグランス専門店を展開するノーズショップが、東京証券取引所のTOKYO PRO Marketに上場した。香水専業企業としての上場は前例が少なく、大きな注目を集めている。しかし、その目的は一般的な資金調達や事業拡大とは一線を画すものだった。創業から15年、ニッチフレグランス市場の最前線を走り続けてきた中森友喜CEOが語る、上場の真の目的と、香水文化定着に向けた展望とは。
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中森友喜/ノーズショップCEO

大学卒業後、新卒で国税局に入局。その後ゼイヴェル(現:ブランディング)に転職し、ギルドコーポレーションの社長を経験。2011年7月にビオトープを設立し、インポーター事業を始める。2017年に「ノーズショップ(NOSE SHOP)」1号店をオープン。オープン当初から現在まで、1500種類以上の香水をセレクトするほか、ストーリーの翻訳を手掛ける。
◾️ノーズショップとは
2011年にオーガニックコスメの輸入販売事業を目的にビオトープ(BIOTOPE)として創業。2014年イタリア発のフレグランスブランドの販売を開始し、2017年ニッチフレグランス専門店「ノーズショップ」をニュウマン新宿店に初出店。2021年に社名をノーズショップに変更した。現在は、ノーズショップ店舗およびオンラインストア運営のほか、海外フレグランスブランドの輸入総代理店、香りのコンサルティング・プロデュースを行う。2025年6月期は、売上高が前期比22.6%増の19億500万円、経常利益が同103.3%増の2億2700万円。

目次
上場の目的は「ガバナンスの健康診断」
⎯⎯ 3月17日に東京証券取引所 TOKYO PRO Marketへ新規上場しました。上場はかねてから目標だったのでしょうか?
実は、もともと上場を目指していたわけではありませんでした。設立当初は自分たちとは縁のない世界だと思っていましたから。
⎯⎯ では、なぜ上場という決断に至ったのでしょうか?
一番の目的は、会社のガバナンスを強化することでした。長く会社を続けていくためには、イノベーションと同じくらい、しっかりとした組織運営の仕組みが不可欠です。創業者の立場として、新しい価値の創出を重視しがちでしたが、それだけでは組織は長続きしません。
これまで整えてきた稟議制度や組織図、評価制度が「本当に機能しているのか」を客観的に評価してもらいたいと思った時に、TOKYO PRO Marketについて知りました。株式の売買や資金調達には興味がないので、ガバナンスが整っているかを判断してくれるこの市場は、私たちにとって“健康診断”を受けるような感覚でした。自分たちのやってきたことが正しいかどうか、認証を受けるための最良の手段だと考えました。
⎯⎯ 一般市場ではなく、TOKYO PRO Marketを選んだ理由は他にありますか?
TOKYO PRO Marketでは、株主数などの形式的な数字の基準が比較的厳しくないので、不特定多数の株主を意識する必要がありません。私たちは今、お客さまや働いているスタッフに対して100%意識を向けたい。株主対応にリソースを割く時期ではないと考えているからこそ、この市場が最適でした。一般市場への転換も、現時点では考えていません。

難しかったプロセスは「創業者脳」の入れ替え
⎯⎯ 投資家ではなく、消費者や従業員という身近な存在に向けて、今回の上場が持つ意味とは?
お客さまや従業員に対して、規律あるガバナンスのもとで運営している、“ちゃんとした会社”であることを示したかったんです。香水専業で上場している会社がほとんどないからこそ、業界全体に規範を示したいという思いもありました。ニッチで変わった香水を売る店が上場するというギャップや、フレグランス業界が勢いのある面白い分野だと認知される広告宣伝効果も狙っています。フレグランスも、ファッションや化粧品に並ぶ、大きな産業に育てていきたいと思っています。
⎯⎯ 上場に向けたプロセスで、苦労したことはありますか?
約2年半前に上場の準備を始めましたが、非常にスムーズに進みました。一番難しかったのは、自分自身の「創業者脳」を入れ替えることでしたね。創業者として会社と自分が一体であるという意識がずっとどこかにありました。ルールに基づいて権限を委譲し、会社と自分を切り離していくのは、体の一部が剥がれていくような寂しさを伴うプロセスでした。組織の規律を優先する中で、社員との距離感に変化が生まれたようにも感じますが、店舗に足を運んだり、全社ミーティングを行ったり、直接話せる場を積極的に設けるよう意識しています。

上場のセレモニーに参加
Image by: NOSE SHOP
「香水使用率25%」の壁、長期戦を見据えた市場戦略
⎯⎯ 現在の日本のフレグランス市場をどのように見ていますか?
市場規模は拡大していますが、最新の調査で香りを身につけている人は24.69%という結果が出ています。この数字は、調査を始めた3〜4年前から実はほとんど変わっていません。香水の使用率を上げるには、10〜20年かかる長期戦です。だからこそ、腰を据えて挑戦し続けるためにガバナンスの強化が必要でした。

⎯⎯ 現在の目標は、フレグランスの使用率を上げることでしょうか?
はい。香水を使っていない7割以上の人たちをどう転換させていくか。これが永遠の課題です。一方で、香水を使っている人たちの使用頻度は増えています。特にZ世代など20代の使用率は平均よりかなり高く、一人当たりの所有本数も増加傾向にあります。好きな人は日常的に、そして1本だけでなく着替えるように香水をまとう文化が根付き始めています。
⎯⎯ 未使用者層にアプローチするために、どのような取り組みをされていますか?
派手なマーケティングは得意ではないので、香水ファンから人づてに魅力が伝わっていくことが一番確実な方法だと考えています。香りの楽しさを知ってもらう場として、今年1月に完全予約制のカウンセリングサロンをオープンしました。「嗅覚プロファイリング」と名付けた新サービスで、一人ひとりのお客さまと向き合い、ブラインドテストなどを通じて「香りの思い込みを壊す」体験を提供しています。今後は、香り好きの人たちが語り合えるコミュニティを作り、魅力をさらに伝播させる活動もしていきたいです。

表参道にあるカウンセリングサロン「NOSE SHOP SALON」
⎯⎯ 香水ファンの熱量が上がる一方で、香害問題など香りへのネガティブな意識も高まっている印象です。
私たちもフレグランス使用率の100%化は目指していません。香りが好きな人とそうでない人が共存できる社会が理想です。そのためにはユーザーの「香りリテラシー」を高めることが重要だと考えています。つける量、場所、タイミングへの配慮を促す教育は、フレグランスショップとしての責任です。 今後の日本市場では、拡散力の弱い、自分だけに香るような、自分だけが楽しめる香りがさらに増えていくと予測しています。
⎯⎯ 原料高や円安による物価高騰も続いています。海外ブランドを日本へつなぐ輸入代理店として、この逆風を現場でどのように受け止めていらっしゃいますか?
当然ながら、強い影響を感じています。特にニッチフレグランスは、希少な天然香料や少量生産にこだわるブランドが多く、その影響を受けやすい領域です。
しかし、私たちはこれを一時的な逆風ではなく、香りの文化を日本に根付かせるための長期的なプロセスの一部だと捉えています。単なる価格競争に走るのではなく、なぜこの香りにこの価格があるのかという背景を丁寧に伝え、市場そのものを育てていくことが重要です。同時に、フェアな価値を維持するために、物流や在庫管理、業務プロセスも含めて、会社全体をより筋肉質に変えていく努力を怠らないことも、私たちの責任だと考えています。

⎯⎯ とはいえ、価格上昇はこれから香りを楽しみ始める人にとって障壁となり、文化の広がりを阻む足枷になるのではないでしょうか。
おっしゃる通り、価格はこれから香りに触れる方にとって、1つのハードルになり得ます。ただ、今の日本市場で本当に向き合うべき壁は、価格以上に、そもそも香りを日常的に使う人が少ないことだと感じています。
そもそもニッチフレグランスは、メインストリームへのカウンターとして生まれた領域です。価格が上がる局面では、逆に手に取りやすさを重視するブランドが現れるなど、多様な動きが生まれてくると思っています。
また、本質的に重要なのは価格そのものよりも「納得できるかどうか」だと思っています。500円でも納得できないものは納得できないし、5万円でもその価値に納得できれば妥当だと感じられる。だからこそ私たちは、単に価格の高低だけに目を向けるのではなく、実際に試せる機会や対話を通じて、自分にとって「意味のある香り」と出合える体験を大切にしています。その積み重ねこそが、結果として香水文化の広がりにつながっていくと信じています。
目指すは香りの輸出産業化、アジアの勃興と日本ブランドの未来
⎯⎯ 上場後の事業方針に変化はありますか?
全くありません。上場したからM&Aをするとか、売上高1000億円を目指すとか、そういうつもりは全くありません。これまで通り、フレグランス文化を日本に根付かせることを、粛々と続けていくだけ。ブームとして一気に流行らせるのではなく、文化として定着させたいので、質の良い着実な成長を目指します。

⎯⎯ ニッチフレグランス専門店というスタンスは、今後も変わらないでしょうか?
そこはぶれません。そもそもニッチフレグランスの取り扱いを始めたのも、自分がわくわくするものに人生を賭けたいと思ったことがきっかけです。専門店として自由に香りを試せる場を作り、香りの敷居を下げたいと思っています。
ただ、視野は「香水市場」から、より広い「嗅覚市場」へと広げています。嗅覚市場には柔軟剤や食文化などあらゆるジャンルが含まれますが、その中で最も尖っているのがニッチフレグランスだと思っています。ニッチフレグランスの面白さを核に据えつつ、日用品の開発や食文化との連携など、他分野とのコラボレーションも模索していきたいです。
⎯⎯ 最後に、今後の展望を教えてください。
日本のフレグランス市場が、アニメのように世界を席巻する輸出産業になればと思っています。これまではフランスやイタリアからの輸入が多かったですが、最近は韓国をはじめ、中国、タイ、ベトナムなどアジア発の個性豊かなブランドが台頭し、新しいムーブメントが起きています。この流れに日本も乗り遅れず、独自の文化と高品質なクリエイションを掛け合わせれば、世界で勝負できると確信しています。そのための基盤を、今まさに作っている段階です。

photography: Katsutoshi Morimoto, interviewer: Akiko Fukuzaki, Mayu Kamitamari, text&edit: Mayu Kamitamari(FASHIONSNAP)
最終更新日:
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