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広告ゼロで年商400億円のスニーカーブランドに VEJA創業者が語る20年の軌跡と日本戦略

Image by: FASHIONSNAP

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広告ゼロで年商400億円のスニーカーブランドに VEJA創業者が語る20年の軌跡と日本戦略

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 サステナブルなスニーカーブランドとして知られる、フランス発の「ヴェジャ(VEJA)」が設立20周年を迎えた。

 ブランド創設当初から、ブラジル産のオーガニックコットンや天然ゴムといった原材料を生産者から直接買い付けるフェアトレード、生産背景の透明性、そして"広告ゼロ"という独自の戦略を貫いてきた。現在は世界106ヶ国に広がり、2024年には年間約350万足を販売し、年商は約2億4500万ユーロ(約399億3500万円)に達するまでに成長している。

1ユーロ=163円(2025年4月14日現在)

4月12日にはヴェジャ初の日本でのイベントが原宿で開催された

 今年、Seiya Nakamura 2.24と日本総代理店契約を結び、販路の拡大や実店舗の出店など、日本市場での本格的なビジネス展開をスタート。来日した共同創業者の一人、フランソワ・ギラン・モリィヨン(Francois Ghislain Morillion)に、ブランド誕生の背景やユニークなビジネス哲学、そして日本を含む今後の展望について話を聞いた。

ヴェジャの共同創業者であるフランソワ・ギラン・モリィヨン

ヴェジャの原点と転機

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──20周年おめでとうございます。ブランド設立からこれまでを振り返り、特に印象的だった転機について教えてください。

 最初の大きな転機は、2004年2月にブラジルで綿花生産者を訪ねたときです。当初はサプライチェーンを探していただけだったのですが、そこで「アグロエコロジー(農業生態学)」という、自然と調和した農法に出合い、これがヴェジャの理念の土台となりました。 そこから約6ヶ月かけて、オーガニックコットン、アマゾン産の天然ゴム、生産工場を開拓し、初のスニーカー「ボレー(Volley)」を開発。同年9月には、全7色の「ボレー」を展開した初のコレクションをパリの現代美術館「パレ・ド・トーキョー(Palais de Tokyo)」で発表しました。当時、アーティストのアンドレ(André)が手掛けた洗練されたミュージアムショップがあり、そのスペースを無料で使わせていただき、ローンチパーティーを開きました。そして実際にヴェジャが市場に登場したのが、2005年2月。ちょうど20年前のことになります。

ヴェジャが最初に発表したスニーカーの「ボレー」

──そのような始まりだったんですね。

 もう一つの大きな転機は、約10年前にニューヨークでローンチイベントを開催したことです。それまでは主にフランス市場、一部イギリスに注力していましたが、このイベントを機に本格的な海外展開が始まり、ブランドの規模が大きく成長するきっかけになりました。

 そして今は、アジア、とくに日本に新たな種を蒔いている段階です。今回の日本でのイベントもその一環ですし、これから数ヶ月、数年をかけて、アジアでのプレゼンスを高めていく重要なフェーズに入ったと感じています。

広告ゼロにこだわる理由

──ヴェジャは創業当初から、透明性を重視し、広告を一切打たないなど、独自のビジネスモデルを貫いてきました。このアプローチが成功した理由とは?

 私たちが考案したのは、素材への投資を増やし、マーケティング費用を抑えるという新しいビジネスモデルです。フェアトレードを通じて生産者に適正な対価を支払い、生産背景の透明性を確保しながら、広告費を極力削減しています。もちろんイベント開催など多少のマーケティングは行いますが、広告は一切出しません。通常、広告や有名人のスポンサー費用は製品価格の大きな割合を占めますが、私たちはそのコストをカットしています。

 もしそのコストを上乗せしていたら、ヴェジャはラグジュアリーブランドになっていたでしょう。例えば、現在の価格が130ユーロ(約2万1190円)の靴が、250~300ユーロ(約4万~5万円)になっていたかもしれません。目指したのは、より多くの人が手に取れる、“より民主的なスニーカー”を作ることでした。富裕層だけでなく、多くの人に届けたいのです。

──広告ゼロのアプローチは今後も続けていくのでしょうか?

 はい、続けていくつもりです。私たちは、巨大なブランドになることを目指しているわけではありません。もちろん、売上を追求すれば、10億ユーロ(約1630億円)規模にまで拡大することも可能かもしれませんが、それにはおそらく広告の力が必要になるでしょう。広告なしでビジネスを展開するのは、制約も多く、簡単ではありません。広告で購買意欲を喚起することができない分、私たちは常に“本当に良い製品”を作り続けることが求められます。ある意味、それは製品そのものに、より多くの時間と労力を注ぐことを強いられるということでもありますが、最終的には、それが人々に求められる製品を生み出すための最善の方法だと考えています。

成長の鍵はタイムレスなモノ作り

──現在のヴェジャのビジネス規模や状況について教えていただけますか?

 先ほどお話ししたニューヨークでのローンチ(10年前)の頃、私たちの売上高は約2000万ユーロ(約32億6000万円)でした。それがこの10年間で10倍以上に成長しました。ここ2年ほどは安定した成長を続けていますが、今はアジア市場に種を蒔いている段階です。次の大きな成長の波は、特に日本を含むアジア市場で起こると確信しています。

ヴィンテージのサッカーシューズをベースにした最新モデル「パネンカ(Panenka)」

──競争の激しいスニーカー市場において、ヴェジャはどのような位置付けだと考えていますか?

 私たちが目指しているのは、"タイムレスなスニーカー"です。モデルを開発する際には、何年にもわたって愛されるデザインであることを重視しています。たとえば、20年の歴史を持つ「ボレー(VOLLEY)」や、オーガニックコットン農家を支援するブラジルのNGOにちなんで名付けられ、15年間コレクションに登場し続けている「エスプラー(Esplar)」のように、クラシックでアイコニックなモデルを生み出すことを大切にしています。そのため、毎年多くの新作を投入するのではなく、通常は1〜2モデルに絞って丁寧に開発しています。

──独自で開発したタイムレスなスニーカーに加え、ブランドとのコラボレーションも活発に行っていますね。

 はい。コラボレーションなしでは、退屈なブランドになってしまうでしょう。私たちと世界観を共有できるアーティストやブランドとの協業を通じて、ワクワクする商品も生み出していきたいと考えています。

「マルニ(MARNI)」とのコラボレーションシューズ

日本ビジネスに本腰

──Seiya Nakamura 2.24と日本代理店契約を結ばれましたね。今後の日本市場での具体的な計画について教えていただけますか?

 まだスタートしたばかりですが、まず最初の1年は卸売に注力し、小売店での取り扱いを拡大していく予定です。そして2026年には、日本初の路面店をオープンし、その後は百貨店でのショップインショップの展開も進めていきます。物流面では伊藤忠グループのサポートを受けながら、日本での本格的なビジネス展開を整えているところです。今回の来日も、その準備のためです。

──モリィヨンさんは頻繁に来日されていますが、日本のどのような点に魅力を感じますか?

 日本の人たちの人やモノに対する深い敬意に魅力を感じます。職人技やモノづくりの背景に価値を見出し、それを大切にする姿勢は本当に素晴らしいと思います。初めて日本を訪れたとき、この感覚はヴェジャの哲学と深く共鳴すると強く感じました。人と人、人とモノ、人と自然、あるいは人と建築との間にある、繊細で敬意に満ちた関係性には、いつも豊かさを感じます。そして何より、日本にいると単純に楽しいんです。この文化や空気感に触れるたびに新しい発見があります。

──先日ドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)で発表された日本の伝統技術「刺し子」を取り入れた「サシコギャルズ(Sashiko Gals)」とのコラボレーションは、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

 実は、私のアイデアなんです。パリで活動するリペア技術の専門家の女性が、「サシコギャルズ」のインスタグラムを紹介してくれて、「これは絶対にチェックすべきだ」と思い、すぐにチームに共有しました。ちょうど昨年10月、同僚たちが来日した際に連絡を取り、そこからコラボレーションが一気に進みました。1足制作するのに2日かかるため、価格は高額にはなりましたが、なんと1日で完売しました。

「サシコギャルズ」とのコラボレーション

 「サシコギャルズ」が自らを“ソーシャルビジネス”と位置づけている点にも、ヴェジャとの強いシナジーを感じました。地域の高齢女性の経済的自立を目指して発足され、通常の2倍の報酬を支払っていると聞いています。私たちもブラジルの生産者に対して同様の姿勢で取り組んでおり、今後はさらに関係を深めていきたいと考えています。たとえば、私たちのフランスの修理チームを日本でトレーニングしてもらったり、逆に日本の職人をフランスに招いたりするのも良いですね。将来的には、ヴェジャのリペアサービスで、刺し子や金継ぎのような日本の技術を活かしたパーソナライゼーションを提供したいと思っています。

──モリィヨンさんはビジネスで大きな成功を収められていますが、これから新しいビジネスを始めたいと考えている若い世代へアドバイスをお願いします。

 とにかく現場に行くことですね。例えばファッションビジネスを始めるとして、展示会で生地を選ぶだけでは本当の楽しさは味わえません。実際に生産現場や工場に足を運び、自分の目で見て、人々と関わることで、エモーショナルな繋がりが生まれます。ビジネスは単なる合理的な判断だけでは成り立ちません。感情的に深く関与することで、周りの人々も巻き込み、ムーブメントが生まれるのです。情熱を持つことが何よりも大切だと思います。

モリィヨンとロクサーヌ(ヴェジャのコミュニケーションディレクター)

──最後に、ヴェジャがこれから目指していく目標があれば教えてください。

 目指すのは、“健全な成長”です。フランスでは「太らずに成長する」と表現しますが、私たちは急激な拡大ではなく、軽やかでしなやかな成長を大切にしています。過剰な計画に縛られず、自然な流れに身を任せることも重要だと考えています。もちろん3ヵ年計画のようなものはありますが、それは厳密な戦略というよりも、“夢を見るためのエクササイズ”のような位置づけです。

 ヴェジャは投資家や株主を持たない独立した企業なので、非常に自由度が高いのも特徴です。現在は、アジアやブラジル以外のラテンアメリカへも進出していきます。日本出張の後はコロンビアに向かい、現地でのローンチイベントなどにも参加する予定です。慣れ親しんだパリの環境を離れて、新しい土地で挑戦を続けることは、私の楽しみでもあり、情熱でもあります。

フランソワ・ギスラン・モリィヨン ヴェジャ共同創業者
HECパリビジネススクールで国際金融を学んだ後、パリ・カトリック学院で哲学を専攻。幼馴染のセバスチャン・コップ(Sebastien Kopp)とともに、ニューヨークとワシントンDCの銀行で経験を積み、フランスのフェアトレード・オーガニック食品ブランド「アルテルエコ(Alter Eco)」に勤務。その後、金融業界を離れ、NGOを設立。環境や社会問題に関するプロジェクトを研究するため、中国、ブラジル、インド、ボリビアなど世界各国を訪問。2005年にコップと共にヴェジャをスタートする。

photography: Masahiro Muramatsu

ファッションジャーナリスト

大杉真心

Mami Osugi

文化女子大学(現文化学園大学)でファッションジャーナリズムを専攻、ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)でファッションデザインを学ぶ。「WWD JAPAN」記者として海外コレクション、デザイナーズブランド、バッグ&シューズの取材を担当。2019年、フェムテック分野を開拓し、ブランドや起業家を取材。2021年8月に独立後、ファッションとフェムテックを軸に執筆、編集、企画に携わる。2022年4月より文化学園大学非常勤講師。

最終更新日:

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