(左から)YOHJI YAMAMOTO、Alexander McQueen、Polo Ralph Lauren
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Fashionフォーカス

ファッションの新潮流「リプロダクト」って何? その意義とメリット

(左から)YOHJI YAMAMOTO、Alexander McQueen、Polo Ralph Lauren
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 ファッションの世界で「リプロダクト(re-product、再商品化)」が新たなキーワードになってきました。有力なブランド・企業が相次いで、かつてのヒット商品のリプロダクトを発表。背景にあるのは、2020年最大のトレンドといわれるサステナビリティの盛り上がりです。サステナビリティに関しては、素材調達の側面に光が当たりがちですが、商品企画や流通・販売の面でも取り組みが広がっていて、リプロダクトもその一種とみることができます。(文・ファッションジャーナリスト 宮田理江)

リプロダクトとは?

 「再び作る」という言葉の大まかな意味合いは「リメイク(re-make)」と似ていますが、細かい点で別の手法と言えます。たとえば、リメイクの場合、基本的には「最初の商品とは別の見え具合の新しい商品」を作ります。デニムパンツがデニムジャケットに変身するようなケースを思い浮かべると分かりやすいでしょう。でも、リプロダクトの方は「最初の商品に近い商品」を作るという点で違いがあります。「再販売、再商品化、復刻」とも似た意味です。つまり、かつての商品のカムバックに相当します。新たに製造(プロダクト)する点で、いったん世に出た古着や、倉庫に眠っていたデッドストック(売れ残り在庫品)とも異なります。

 リプロダクトがサステナビリティ的な取り組みとして評価される理由の一つは、新規の商品開発に比べて、環境負荷が小さいからです。通常の商品開発では、デザイナーがイメージを固めて、企画を通し、ブランド・企業が宣伝を打って、店頭に並べるという流れになります。大きなブランド・企業の場合、このプロセスでかなりの手間や投資が発生します。

ポロ ラルフ ローレンは、約30年前に発表しコレクターズアイテムとして人気の「カジノ」プリントシャツを復刻。「カジノコレクション」として今年2月に数量限定で発売した。image by Ralph Lauren

 一方、リプロダクトの場合は、大抵、過去のヒット商品が選ばれます。既に名の通った商品だから、ある程度、確実な売れ行きが見込めます。名前を知っている消費者が新たに買うほかに、かつてのファンが再び購入する期待も持てます。手堅い売れ行きを見込んだ、計画的な生産に踏み切れるので、売れ残りを避けやすくなるのは、ブランド・企業にとってありがたいところです。有名な分、宣伝費を抑えやすいのもメリットの一つ。伝説的な商品というイメージをまとわせることができるのは、ブランドストーリーに厚みを増す意味でもプラスです。

 過去に取り扱った経験があるので、無駄や失敗を避けやすいのは、リプロダクトならではの長所。生産工程やマーケティングやプロモーションも以前の手法を参考にしやすく、ゼロから新商品を企画・製造するケースに比べて、総合的にリソースを抑えられることも。もちろん、技術や素材の進歩に伴い、バージョンアップできる部分は見直しを加えるので、練り上げた商品に仕上がるという利点もあるようです。

 

なぜサステナブルなのか

 サステナビリティ面で見逃せないのは、「デザインの使い捨て」を防ぎやすい点でしょう。購買意欲を刺激する狙いから、これまでブランド・企業はシーズンごとに新たなデザインを市場に送り出してきました。新たなトレンドの提案も、新デザインの価値を高めるマーケティングとして使われてきました。既に発表済みのデザインを、リプロダクトで活用することは、大量生産・大量廃棄モデルにブレーキを掛ける効果も期待できます。

 ただ、現実にはリプロダクトにも様々なケースがあります。以前と全く同じ形での復刻はむしろ少なく、大半のケースではデザインを現代的に小直ししたり、最新の素材、改良された技術などを投入したりして、進化させています。現代の人気デザイナーとコラボレートして新味を加えるのも、珍しくないアプローチです。最も多いのは、柄やシルエットの一部だけを復活させる手法。こうした取り組みでは「アーカイブにインスパイアされた」といった表現が使われることもよくあります。「ヘリテージコレクション」というのもしばしば見られる言い方です。

アレキサンダー・マックイーン伝説の1999年春夏コレクション「No.13」で登場した「The No.13 Wedges(No.13 ウェッジ)」が、リプロダクションされて2020年春夏コレクションとして発表。マグノリアの花を模した繊細なヒールが特徴だ。image by Chloe Le Drezen

 いったん販売機会が途切れてしまった後の復刻にあたるリプロダクトに対して、売り場から消えることがなかったのが「定番」商品です。ブランドの商品番号が変わらないところから、「定番」と呼ばれます。色や素材を見直しながら、長い間にわたって販売され続ける定番は安定的な売れ行きが見込めるので、ブランド経営の柱になります。リプロダクトが増えていけば、過去に定番化し損ねたアイテムを掘り起こすきっかけになりそうです。

 復刻という手法はスニーカーやデニムでは以前からおなじみです。でも、ラグジュアリーブランドの世界ではシーズンごとに新アイテムが企画されるのが基本で、一部の定番商品を除けば、復刻は例外的な位置づけでした。「焼き直し」を嫌う考え方や、新しい提案を重んじる意識が背景にあったと思われます。でも、「デザインの使い捨て」に対する批判や、ブランドらしさをアピールする必要性、クリエイターの負担増などが重なって、ラグジュアリーブランドにも徐々にリプロダクトを取り入れる兆しが見えつつあるようです。

 クリエイターが苦心の末に生み出したデザインを尊重する点でも、リプロダクトは意味が大きいと言えます。近年は春夏・秋冬に加え、プレシーズンやカプセルコレクションなどの企画も増えて、クリエイターの負担が重くなってきました。コレクションのたびに新たなデザインを求められる立場だけに、プレッシャーは大きくなる一方です。

 

ブランドと消費者、双方にメリット

 「サステナビリティ」という言葉には、「持続可能=続けていける」という意味があります。地球環境との関わりをイメージされることが多いのですが、実はクリエイターのモチベーションや精神状態に関しても持続可能性が欠かせません。精魂を傾けて生み出したデザインが次のシーズンにはもう「用済み」になってしまう扱いは、彼らのマインドやモチベーションにも影響を与えてしまいがち。近年目立っている、クリエイター交代ペースの短期化や第一線からの離脱にも、過酷な仕事環境の影響が指摘されています。でも、リプロダクトによって、優れたデザインが繰り返し商品化されるようになれば、使い捨てに伴う、メンタルの消耗を遠ざけやすくなるかもしれません。

ヨウジヤマモトは、Yohji Yamamoto POUR HOMME1996年春夏コレクションに登場した牡丹の花や向日葵、鳳凰などのモチーフを取り入れ、シルエットやレングスをアップデートしたカプセルコレクション「YOHJI YAMAMOTO REPLICA 1996 S/S」を5月30日に発売する。image by YOHJI YAMAMOTO

 過去の名作をよみがえらせるのは、ブランドビジネスにとっても利点があります。タイムレスなデザインは「定番」商品に設定しやすいからです。掘り起こせるアーカイブがあるのは、長い歴史があればこそで、ブランドの価値を示すうえで、一種の差別化要因にもなります。ブランドの「軸」になってくれるような商品をあらためて磨き上げることは、消費者に向けて各ブランドの「らしさ」を印象づける効果も期待できます。

 消費者にとってもメリットがたくさんあります。第一に、過去の名作デザインを、時を超えて手に入れられるのは、ハッピーなことでしょう。ファッションの世界では、最新の商品が常に最高とは限りません。復刻を待ち望まれている傑作は数多くあります。これまではヴィンテージのような形でしか入手が難しかった逸品と、新品の状態で出会えるのは、痛みや扱いの面で心配が減って、ウェルカムなことです。品質と価格のバランスもリーズナブルな水準になると期待できます。

 基本のデザインは同じでも、リプロダクトは進化版です。素材や製法の面で最新のテクノロジーを注ぎ込めるから、リプロダクト商品は当初よりも着心地が軽くなったり、ケアが楽になったりと、品質がアップすると期待されます。今の着こなしになじむよう、アレンジが加わるのも歓迎できる点です。

 ロングライフ仕様のデザインが多く、着こなしにタイムレス感を織り込みやすくなるのもよいところ。「よい品を長く、愛着を持って使う」というスローファッションの意識で、ファッションをさらにサステナブルにしつつ、おしゃれの楽しみや選択肢を広げてくれることにつながると期待されます。

 「クラシック」や「オリジン(原点)」がファッショントレンドとして浮上する2020-21年秋冬シーズンの傾向は、こうした時代の変化を映し出しているようにも見えます。博物館で開催される、往年のファッションを特集した展覧会が証明しているように、これまで再生産されていない名作は無数にあります。これらの「眠れる逸品」が復活すれば、私たちの着こなしにもタイムレスなムードを取り入れやすくなっていきそうです。

文・宮田理江
ファッションジャーナリスト・ファッションディレクター。多彩なメディアでコレクショントレンド情報、着こなし解説、映画×ファッションなどを幅広く発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かし、自らのTV通版ブランドもプロデュース。著書に「おしゃれの近道」(学研パブリッシング)ほかがある。https://riemiyata.com/

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