デザイナー尾崎雄飛
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Fashionインタビュー・対談

【インタビュー】ヤングアンドオルセン 尾崎雄飛が考えるデザイナーとしての「信念と配慮」、ムック本製作から見るブランドの在り方

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「いつか美術館に入るものを」

ー宝島社からムック本が発行されました。

 正直なところ、ブランドロゴが入った付録のポーチやカバンを見ながら「なんでこんなことするんだろう」と他を見て思っていたんですよね。でも、本を買う側の「自分の好きなブランドのロゴが付いたポーチを使いたい」という気持ちはわかるんです。僕もアメリカのコーヒー屋で買ったオリジナルポーチとか、「そこのコーヒーが好きだから」という理由で大事にしてるものはありますから。そういう気持ちだったら、"正義"だなと思って納得しました。ただ、付録だとしてももう少し工夫していいはず。「もっといいもの付けられないんですか?じゃなかったら僕恥ずかしいから無理です」と宝島社の人に話しました。僕にとって今まで「ダサい」と思ってやってこなかったことを、「付録だから」とか「ムック本だから」という理由で作ったりすることは本当に辛いことで、地獄に行ったような気持ちになるんですよね。それで「かっこよくてちゃんとしたものなら作りたいです」と、宝島社の方にお願いしたんです。

ーヤングアンドオルセンの「イット・バッグ」とも言える本革のトートバッグを合皮で仕上げたものがムック本には封入されています。

 「アウトドアプロダクツ(OUTDOOR PRODUCTS)」のディレクションをやっている中で、合皮が今とてもクオリティが高いことを知りました。合皮は軽くて、丈夫なので今回の与えられた条件の中では最も適切な素材だと考え使用しました。

エンボスレザートート(3万3000円/税込)

ームック本の方には内ポケットがついていますね。

 インラインで使っている本革は、しなやかで、しっとりとしていて、触って気持ちがよく、経年変化はするけど劣化はしないのが良いところです。ただやはりどうしても重くなってしまいます。本革のトートバッグは「ペットボトルより軽い」というのがコンセプトで約500gにしていて、これより重くしたくないので内ポケットもつけられない。あと美しさの観点で内ポケットはつけたくないというのもあって。

ーにも関わらずムック本付属のバッグに内ポケットをつけた理由は?

 最初はダメって言っていたんですけど、宝島社の人に頼み込まれて付けました。でも合皮で素材が軽い分全部で350グラムくらいしかないので、内ポケットを付けてもペットボトルより軽いから許容できたんです。

 結局このトートバッグはハンドルの部分でしか持てないので、あんまり重くできないんです。重くしたら機能としておかしくなってしまう。これより大きくした時に、片手でこのカバン持てるのか?と考えしまうんですよね。ハンドルを長くすると美術品にもなり得ないのですごい嫌なんです。

ー「美術品になり得ない」とはどういう意味ですか?

 いつか美術館に入るものを作りたくて僕はデザイナーをやっています。ヴィクトリア&アルバート博物館に所蔵されているヴィヴィアンの服のようになりたいじゃないですか。実際に入らないとしても、それに入る勢いのものを自分がデザインできたら、それはもう終点かもしれないなという想いがあるんですよね。デザイナーとしての真っ当な目標というか。なので今回のムック本に対する様々な意見をもらった時、美しいものを作りたいと思っていただけなんだけどな、と泣きながらインスタを見ていました。

左)今回ムック本のために製作されたトートバッグ 右)以前から販売されていたトートバッグ

ームック本を出すこと自体がブランドにとってマイナスとなるかもしれないと考えたことは?

 もちろんムック本を出すこと自体がNGだと周りからも言われましたが、そんなことでブランドの価値が下がるようならそもそも駄目。ブランドの価値はそういうものじゃないと僕は考えています。こんな強い言葉を使って半年後、僕がこのブランドをやめていたら笑ってくださいね(笑)。でも本当に、ブランドイメージを上げるとか下げるとかではなく、ブランドを届いてない人たちに届けたいという気持ちだけだったんですよね。

 あとうちは、「生産工賃を安くしてください」と工場の人にお願いしたことが一度もないのがプライドなんです。世の中にはちゃんと真心を込めてモノを考えて作っている人がいます。顔が見えない時代、ムックの方が廉価版なんじゃないかと疑いたくなる気持ちはわかります。でも、もっと有機的に生きていかないといけないと思うんです。

「信念と配慮」の意味するところ

ーインスタグラムのフィード投稿の中で「信念と配慮」という言葉が出てきました。

 与えられた条件の中で一番良いものを作るというのがデザイナーの使命。建築家のチャールズ・イームズ(Charles Eames)が言ったその言葉を僕も胸に刻んでいます。建築には資材があって、土地の面積が決まっている。服作りには、生地があって、着る人や金額の条件がある。その中で最善の選択をして最良と思える線を引く。なぜその線なのか、角を落とすとか落とさないとかどっちでも良さそうなことを、どうすべきか考え抜く。そこを詰めていくことは、コストに関係ないことなのでデザイナーにとって制約がない部分なんですよね。今回の与えられた条件の中で、このトートバッグを作ったのはやっぱりこの形が「美しく」「いいもの」で「かっこいい」と思っているから。お客さんからDMもいただくんですが、年齢はもちろん色々な状況の人がいるんですよね。うちのモノを美しいものだと思って「持ちたい」と思ってくれているならば、持ってもらえる状況を最善な形で作る。それが僕の職務だと思うんです。

ームック本のために製作されたトートバッグで表現したデザイナーとしての「信念」とは?

 縫製に関してとても厳しく行いました。セカンドサンプルまで上げて製品化しています。工場もすごく良いし、素材も良いし、生地も僕がしっかり選びました。しっかりとデザイナーがデザインする時のプロセスを踏んで作っているものなんですよ。だから、作っているプロセスの中で僕の「信念」はちゃんと入っていると思います。合皮ですけど見劣りしないクオリティは担保できたと自負していますし。当然、よく見るとシボが全部同じだったりはするんですが、これはこれで味わうことはできる。

ー「配慮」の部分は?

 今回、このお話をいただいた時に高校生や大学生が買ってくれるだろうと思いました。正直、高校生や大学生は高くてうちのカバンを買えないと思うんですよ。でも僕が小さい頃そうだったように、年齢など関係なく「これが欲しい」と思ってくれている人はいる。目の前にこのバッグが登場したら、その人たちは喜んでくれると思ったんですよね。僕は若い人が背伸びして「大人になったらこうしたい」と考えている姿がすごく好きで。背伸びをした人が、次の時代を作っていってくれるはずですから。それが僕の中での「配慮」です。

ー既存顧客への「配慮」は?

 その意味では、うちのお客さんである人たちへの配慮はしませんでした。これはこれで買って、2個並べて「おー」と言いながら眺めたり味わったり、リラックスした気持ちで楽しんでくれるかなと思っていたんです。ただ様々な意見をもらい、「思ったよりみんな繊細だったんだな」と反省しました。

ー最後に、尾崎さんの考えるファッションデザイナーの役割とは?

 うちの商売の基本は同じものを延々と作り続けることです。2枚目3枚目と欲しくなるものをちゃんと開発できれば、先行きが不透明な今のご時世でも心配ないと思いますし、ファッションの力はそういうところにあるはず。僕は全て一人で行っているので、シャツを500枚とか買ってもらえれば家族が暮らしていくには十分な売り上げが出ます。大きい売り上げを目標にして頑張るのも一つだけど「こんだけあれば生きて行けるじゃん」というのを目指し、その代わりに妥協はしないというスタンスでやっていきたい。それは服が大好きな僕にとってとても幸せなことなんです。

 僕は、クオリティというものを非常に大切にしてモノを作っています。ただ、デザインには高いモノには高いなりの、安いモノには安いなりのクオリティというのものがあります。その中で最良のものを目指すのが僕の仕事であり、デザイナーの役割です。それを追求するのは当たり前のこと、ただそれだけです。

(聞き手:古堅明日香)

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