yoshiokubo 2022SS Collection
Image by: FASHIONSNAP/IPPEY SAITOU
「デジタルでは伝わらないことが明確になった今だからこそ、従来のファッションショーというシステムの中で表現することの意味を見出した」。「ヨシオクボ(yoshiokubo)」の久保嘉男が2022年春夏コレクションショーで表現したかったこと、それはこうしてデジタル上でなんとか言語化しようと試みたとて、差延を生み出し、掴みそこねるものである。
ファッションショーのキャリアで言えば、今回「Rakuten Fashion Week TOKYO」に参加したブランドの中でも経験値は上位に位置する。東京、ミラノ、パリと様々な土地でショーを行ってきたヨシオクボが5年ぶりの凱旋ショーとして選んだ場所は、中目黒にある同ブランドのアトリエ兼事務所。これまで東京で、キャパシティが1000人を超える大箱でショーを行ってきた同ブランドにとって、同日に3回行われたショーでトータル約130人しか招待しなかったというのは、コロナ禍ということを鑑みても十分受け手に意図を感じさせるものだった。
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「大きい箱でショーをするという見せ方ってもう必要ないんじゃないか。もっと身近で、それこそSNSのように側にいるような見せ方の方が良いなと考えたんです。服を作っている場所でショーをやると面白いと思ったんですよ」
ショーを構成する上で、光ったのは久保自身のホスピタリティとも言うべき観覧者に対するサービス精神。招待客約130人それぞれに、久保自身がその人とのエピソードを交えて送ったメッセージ動画を添付したインビテーションを配ったり、リカックス(Licaxxx)が手掛けた楽曲をワイヤレスヘッドと会場に流し、レイヤーを作って音を立体的に表現した演出など、東京の業界関係者を久しぶりにもてなした。
「コロナ禍でデジタルでの発表でも十分という風潮がありましたけど、やっぱりできないことだらけなわけですよ。やっぱり僕はまだフィジカルファッションショーは続いていくと思うわけです。色んな角度で見れたり、匂いを感じれたり、デジタルではカバーできない部分の大切さを改めて実感しています。だからこそ、古いシステムではありますが、やっぱりファッションショーは終わらないと思うんですよ」
メッシュ素材のインナーが覗くレイヤードスタイルなど、音楽のレイヤーと親和させることで、わかりやすさも担保している。モデルのスピーディーなウォーキングと音楽が織りなす小気味良さは、観覧者に高揚感を与えた。
以前まだClubhouseが流行っていた頃、久保と一緒に雑談会をした経験がある筆者だが、物静かなデザイナーが多い中、普通にやれば間違いなく口語を得意とする稀有な存在である。にも関わらず、服のデザインはあくまでも寡黙。時折キャッチーな将棋の駒のプリントや刀の柄、「もののけ姫」のアシタカが着用している長手甲のようなアームカバーなどぱっと目を引くものもあるが、ヨシオクボの本質は緻密なパターンメーキングにある。ジャケット一つとっても、ラペル幅やカマ底の数ミリ単位の調整、肩の落ち感など、着用することでわかる、いわゆる「クオリティ」というものをこれでもかと体現するブランドである。パターン、加えて素材選び(特に今シーズンは化繊が目立った)の妙は、もしかすると玄人好みすぎるかもしれないが、ヨシオクボのオリジナティそのものである。
ここ数シーズン、ヨシオクボは和の要素を取り入れている。久保はあくまで和洋のハイブリッドにこだわっており、「日本人はアメリカナイズされていて、ミリタリーと言えば米軍服を頭に思い浮かべる。でも日本のミリタリーもあって、そこで面白いのと思ったのが坊さんのミリタリー」とし、僧兵を今回テーマに選んだという。マルタン・マルジェラが足袋をモチーフにブーツを作ったように、ゴールはカルチャーの融合による新しさの追求。全ルックにスタイリングした、トルコ発のエコフレンドリーなビーガンロープサンダル「ボホノマド(BOHONOMAD)」とコラボレーションサンダルも、ハイブリッドを目指した結果だという。
「次のことはまだ何も決めていません。見せ方も斬新な方がいいと思うんで、何かアイデアを出さないととは考えています。僕は真剣に、それこそ劇団四季レベルの見せ物にまでしたいと思っているんでね」
次回の2022年秋冬コレクションでパリに戻るかどうかの言及は避けたが、ショーという形式は恐らく継続する算段だろう。エンターテインメント性を追求した、ファッション表現の模索に今後も期待したい。
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