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【インタビュー】ユニクロジーンズを生むLA巨大研究施設のトップ 松原正明とは何者か

ジーンズイノベーションセンターディレクター 松原 正明

 ユニクロが、ロサンゼルスの自社デニム研究施設「ジーンズイノベーションセンター」設立を発表したのは2016年11月。"最高のデニムを研究し開発する"をミッションに掲げる同施設で開発されたジーンズが、17年秋冬シーズンから店頭に並び始めた。ロスにありながら施設のトップに就任したのは松原 正明という名の日本人。エドウィンやAGでデニムデザイナーとしてキャリアを積んできた生粋のデニムマニアだ。「この色落ちいいと思うんだよね」という仕上がったばかりのデニムシャツに袖を通した松原が有明に建設されたファーストリテイリングの新社屋UNIQLO CITY TOKYOでインタビューに応じてくれた。

松原 正明
 
東京都出身。大学卒業後、1997年にEDWIN Japanに入社。2007年にはLAに渡り、AG Adriano Goldschmied ヘッドデザイナーを務める。2015年からファーストリテーリングに入社しJBrand デザイン部門長として指揮をとる傍、LAに設置されたジーンズイノベーションセンターの立ち上がりにも関わり、センターの完成に伴いジーンズイノベーションセンターディレクターに就任した。

デニムデザイナー松原 正明とは何者か?

- 社会人経験はエドウィンから。そもそもデニムに興味を持ったきっかけは?

 僕が学生の時はちょうどアメカジブームで。最初に買ったデニムが501だったかな。その頃は埼玉の春日部に住んでいたんですけど、僕の中でデニムと言えばアメ横で、上野に行ってはデニムを漁っていましたね。なので、大学を卒業してすぐに入社しました。デニムが好きだし、服も好きだったので選びました。

- 入社後は企画と制作の部署が一緒になった企画制作の部署に配属

 そうですね。最初は工場研修が半年間あり、研修の中で実際に洗い工場に行ったり、縫製工場に行ったりして、デニムが仕上がるまでの過程を叩き込まれましたね。

- それからデニムデザイナーに

 肩書きはデニムデザイナーですが、エドウィンでは入社からずっと同じ仕事しかしてないんです。今思えば、もともとはデニムを企画したいと思って入社したようなものなので、幸い企画制作での下積みは役立ちましたね。デニム制作の過程やノウハウを理解した上で、デザイン画を提案できるようになる。デニムのデザインって幅は広くないんで、追求型の仕事なんですよね。

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- エドウィンで記憶に残っている仕事は?

 代表的なもので言えば、ブラット・ピットがCM出演した503デニムの立ち上げから携わりました。あとは、カラーデニムも仕掛けていましたね。503のCM撮影は、ロサンゼルスに様々なジャンルのプロがこの撮影のためだけに集まって、1ヶ月くらいCM制作に費やすという贅沢な仕事で。こういう働き方っていいなと思うと同時に、どこか海外で働くことに憧れを持ち始めたきっかけになったと思います。僕にとっても大きな経験でしたね。

- その後、アメリカ・ロサンゼルスの「AG」へ

 縁があってロサンゼルスに渡ってアメリカでデニムを作ることができるチャンスをいただいたので。ちょうど2007年です。プレミアムジーンズの流行でデニム自体が盛り上がっていて、僕が渡米した頃にはスキニーはすでに浸透していてボーイフレンドジーンズやビンテージの流れが来ていて、デザイナーとしてはタイミングがいい時期だなと思っていました。ただ、長年デニムデザイナーを経験しているからこその必勝パターンってどのデザイナーさんにもあると思うんですが、日本で培った必勝パターンが通用しなかったんですよね。全く売れないということを経験して、アメリカのデニム、お客さんのタイプ、もの作りの方法論...全てに対してゼロから学ぶ必要があると痛感しました。

- 具体的に違ったのは?

 全て違いますが、例えば、素材の選び方にしても日本はデニム素材が有名ですしいい産地、いい開発メーカーが多いので国内だけで全てを完結させることができます。でも、アメリカだと世界各国から素材メーカーが売り込みにきますから、素材1つにしても情報レベルの量が違います。日々の仕事もグローバルに広がりますし、様々な素材をもとにデザインと価格のバランスを見出す作業が必要でしたね。

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- エドウィンとAG、デニムブランドではありますがターゲットが違う

 AGはファッション性の高いデニムブランド、エドウィンは世に言うザ・デニムブランドなので、アプローチが必然的に異なります。エドウィンのお客さんはデニムを買いにくるお客さんですが、AGはファッションアイテムとして店頭に並ぶため、デニムを目当てにしていないお客さんにも選んでもらえるものを開発する必要があります。僕が初めにやってしまった失敗は、デニムを買いに来た人に買ってもらえるデニムを作ってしまったことです。

- 過去のインタビューでデザイン哲学について「エゴを出さない」とお話されていたのが印象的でした

 5年前のインタビューですから気にしないでください(笑)。でも基本は今も一緒かもしれませんね。それこそ、今はもっとそうなっています。ユニクロが掲げるコンセプト「LifeWear」ではデザイナーのエゴを売るということは絶対にありえません。そういう意味ではユニクロと僕の概念は少なからずマッチしているのかもしれないですね。デニムも素材の質がいいのであれば、加工をしないでそのまま商品にした方がいいジーンズとして提供できると思うんです。料理人と同じで素材によってどこまで調理を加えるのか、僕はそういう感覚でデニムと向き合っています。

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