ADVERTISING

手書きメモを撮るだけでカートが完成? クローガーがAi買物アシスタントを導入

在米28年のアメリカン流通コンサルタント
激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ

手書きのメモを撮るだけでカートが完成する

クローガーが28日、AI買物アシスタントの提供を開始した。

1週間の献立を組み、新しいレシピを見つけ、予算と食事制限に合わせてカートを作る。ここまでは他社にもある機能だ。

異質なのは入口である。

手書きの買物メモやレシピカードを写真に撮るか、レシピのURLを貼り付けるだけで、数秒のうちに該当商品が特定されカートが出来上がる

冷蔵庫に貼った紙が、そのまま注文になるということだ。誕生日や来客といった予定を伝えれば、それに合わせた商品提案と買物リストも返ってくる。

約2,800店の全看板に一斉に載せた

投入の仕方も思い切っている。実験店でも旗艦アプリでもなく、クローガー・ファミリー・オブ・カンパニーズの全ウェブサイトと全アプリで同時に使えるようにした。

フレッドマイヤー(Fred Meyer)、ラルフス(Ralphs)、キングスーパーズ(King Soopers)、ハリスティーター(Harris Teeter)、マリアノス(Mariano's)など看板は20近く、店舗数は約2,800にのぼる。

最高デジタル責任者のヤエル・コセット(Yael Cosset)氏は、買物をより簡単で直感的にするデジタル投資を続けると述べた。

公開の時期は新学期前、生活のリズムを立て直す季節に合わせてある。

検索窓を捨てて紙とURLを入口にした

技術として新しいのは、対話ではなく入力である。

これまでのスーパーのアプリは、客が商品名を思い出し、1つずつ打ち込み、1つずつカゴに入れる設計だった。

献立を考える労力ではなく、それを打ち込み直す労力が客を疲れさせていた

写真とURLは、その転記作業をまるごと消す。

背景には1月に拡大したグーグルとの提携があり、ジェミニ(Gemini)を基盤にした献立プランナーとショッピングアシスタントを全米展開すると表明していた。今回はその実装にあたる。

先日のシュナックスとは狙いが違う

当ブログでは7月24日に、中西部112店のシュナックス(Schnuck Markets)が今夏後半にAI買物アシスタントを導入すると書いた。

あちらは栄養テクノロジー企業と組み、60億行の健康・栄養データを土台に、家族の持病や好みから献立を逆算する設計だった。

地域チェーンが深さで勝負する形である。

対してクローガーは、健康ではなく手間を削りにきた。

地方チェーンは客を深く知ることで、全国チェーンは入口を軽くすることで、同じ場所を奪い合っている

しかも予告から5日で、規模の側が先に実装まで到達した。

棚の現実を握る者が強いという教訓

ただし、AIが賢いだけでは買物は成立しない。

7月19日に書いたとおり、インスタカートは棚認識AIを手に入れ、実際の棚に何が並んでいるかを95%超の精度で読み取ろうとしている。

4月に取り上げたクロード(Claude)との連携でも、強みは会話ではなく、2,200超の小売ブランドと20億点を超える商品カタログ、そして成分単位まで動くリアルタイムの在庫データにあった。

AIが提案した商品が棚になければ、その提案は何も生まない。クローガーが自社の値付けと在庫の上でこれを動かしている点は、外部AIの提案より一段強い。

アマゾンは自動購入まで踏み込んでいる

競合の位置も確認しておきたい。

5月に書いたアマゾンのアレクサ・フォー・ショッピング(Alexa for Shopping)は、客の会話の文脈を記憶し、指定した価格に達したら自動で買うところまで用意していた。ク

ローガーの新機能は、カートを作るところで止まる。決済のボタンは客が押す。その一線を越えるかどうかが、この先1年の分かれ目になる

1月に書いた「AI元年」からの距離

1月8日にウォルマートのスパーキー(Sparky)を取り上げたとき、米国成人の78%が何らかの形でホリデー商戦にAIを使い、ウォルマート顧客の81%がスパーキーに触れているという数字を紹介した。

半年余りで、話は「AIに質問できる」から「AIがカートを組む」へ移っている。

アマゾンのルーフス(Rufus)が利用者2億5,000万人を超えたのが2024年秋、そこから2年足らずでの変化だ。

ジャイアント・イーグルを16億5,000万ドル(2,640億円)で買収し、市場シェアで2位に立とうとしているクローガーが、規模の次に手をつけたのがこの入口だったことになる。

客の半分はまだAIに財布を渡していない

一方で、温度差も出ている。7月28日に公表された複数の調査によれば、日用品の自動再注文を歓迎する消費者は55%、AIに未知のブランドを勧められてもよいとする層は64%にのぼる。

ところが金融テック企業ヌベイ(Nuvei)の調査では、AIに食料品の購入を任せてよいと答えたのは28%にとどまり、51%は「今のところAIには何も買わせない」と答えている

旅行予約は9%、高級品や金融商品は6%。自動化は安くて繰り返し買うものからしか始まらない。

だからこそ、決済ではなくカート作成に的を絞ったクローガーの設計は現実的だ。

日本の流通視察は、まだ売場だけを見て回っている

ここからが日本の話である。

米国視察を長く案内してきて痛感するのは、これほど動いているアプリとAIの領域が、日本からの流通視察ではほぼ手つかずのまま残されていることだ。

売場の什器を見て、PBの品揃えを撮り、レジ前の動線を確認して帰る。

それ自体は無駄ではないが、いま米国の小売企業が経営資源を注いでいる場所は、店内ではなくスマートフォンの中に移っている。

写真1枚でカートが完成する体験は、店頭を10店回っても見えてこない。

アプリを軸にした視察が主役になる

流れは変わりつつある。日本でもネットスーパーの伸長が繰り返し報じられ、AIの記事を業界紙が無視できなくなった。

視察の参加者も若返っており、スマートフォンを日常の買物の入口として使ってきた世代が現場の意思決定に近づいている。

この2つが重なれば、渡米視察の主役が売場からアプリとAIへ移るのは時間の問題である

実際に手元の端末でクローガーやウォルマートのアプリを操作し、手書きのメモを撮ってカートが組まれる瞬間を体験してもらう。

その1分が、売場を1日歩くより多くを伝える日は、そう遠くない。

本日のレート1ドル=160円で換算。

⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です!

クローガーが約2,800店の全看板に、写真1枚とURLでカートが完成するAIアシスタントを載せました。シュナックスが予告した5日後の実装です。

健康データで深く攻める地方チェーンに対し、全国チェーンは入力の手間そのものを消しにきました。

ここで立ち止まりたいのが、私たちの視察の中身です。

売場の見方を磨いてきた時間は、たしかに財産です。ただ、その財産があるからこそ、同じ見方を続けたくなる。

什器の高さを測り、PBの棚を撮り、レジ前の動線を確かめる。

積み上げたものが大きいほど、手放す判断は重くなります。

けれど、客はもう別のドアから入っています。

玄関の写真を丁寧に撮り続けている間に、勝手口のほうが正面玄関になっていた。

売場だけを見て帰るというのは、見ていない部分を毎回そのまま置いてくることでもあります。

撮ってこなかった1枚は請求書には載りませんが、確実に減っている。

次の視察では、参加者ご自身のスマートフォンでアプリを触る1時間を日程に入れてみてください。

手書きのメモを撮ってカートが組み上がる瞬間は、10店舗歩くより雄弁です。

ただし、撮る紙はお間違えなく。買物リストのつもりが先週の会議メモだと、カートに議題が並びます。

最終更新日:

ADVERTISING

現在の人気記事

NEWS LETTERニュースレター

人気のお買いモノ記事

公式SNSアカウント