バロックジャパンリミテッド 村井博之社長
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ウィズコロナ時代の経営の展望を聞く短期連載「トップに聞く 2021」第2回はバロックジャパンリミテッド(以下、バロック)の村井博之社長。緊急事態宣言下は57日間、全店休業を余儀なくされたが、「コロナ禍で致命的に採算性が悪化したブランドはなかった」という。水面下で進めてきた"地盤固め"の施策とは何だったのか。2021年も厳しい状況が続く見通しが強いアパレル業界。同社はどう戦っていくのかを聞いた。
■村井博之
1961年生まれ。東京都出身。立教大学卒業後、中国国立北京師範大学に留学。キヤノン、日本エアシステム(現日本航空)を経て、2006年10月にフェイクデリックホールディングスの代表取締役会長に就任。2007年にフェイクデリックホールディングスなど3社を合併し、バロックジャパンリミテッドを設立。「マウジー」「スライ」「エンフォルド」など19ブランドを運営している(2020年12月現在)。
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―2020年はどんな一年になりましたか?
私の辞書にはこれまで「想定外」という文字はなかったが、今年はまさに「想定外」の一年だった。だが、バロックとしては得るものが多くあり、必ずしも悪いことばかりではなかった。
―得られたものとは?
想定外の事態になっても会社が沈むことなく経営ができたことは自信につながった。本来であれば今年はオリンピックイヤーということもあり、日本経済がマイナス成長になっていくことは想定していた。今回のコロナの流行で冷水を一気に浴びせられたので、社員一人ひとりが気持ちを切り替える機会になったと思う。
―たしかに6月以降の売上高は前年割れではあるものの、8〜9割の水準を維持しています。
幸いなことに、コロナ禍で致命的に採算性が悪化したブランドはなかった。バロックはここ数年、大きな改革には着手していないため進歩がないように見えるかもしれないが、各店舗の収益率と販売利益率を上げるためにセールを減らし、プロパー販売に注力するなど細かな部分を改善して地盤固めを進めてきた。新規顧客の開発にはつながらなかったが、コロナのストレスがかかっても大きなダメージを受けなかったのは、長期的なヴィジョンを見据えて経営に取り組んできた結果だと思っている。
―コロナ禍もプロパー販売を徹底していますか?
在庫消化が課題となっている企業は多いと思うが、我々は生産量を細かくコントロールできるサプライチェーンを持っているので、コロナ禍もセールは小規模に留め、基本的にはプロパー販売を維持している。これが功を奏し、月次ベースの利益率は昨年を上回る月もあった。
―足元の状況はいかがですか?
11月まではGoToキャンペーンも相まって非常に好調だったが、前年の同時期と同水準の利益が見えてきたというところで第3波が到来し、現在は店頭の客数が落ちている。ECが売上を補っている状況だ。
―海外の概況は?
中国については年始から4月まで売上が落ちたが、5月ごろから回復し、今は完全に正常に戻っている。アメリカはコロナの感染拡大が今も深刻な状態下にあるが、マイナスの影響が大きく出なかったことは予想外だった。もともと売上規模が小さい市場だが、日本とは異なり、「マウジー(MOUSSY)」は単価が300ドル〜のハイエンドの日本製商品を展開している。富裕層の消費はコロナ禍でも全く影響がなかった。それはとても勉強になった。香港は国家安全維持法をめぐる情勢悪化もあり、ふるわない状況が続いている。
―ECは国内と海外で変化はありますか?
海外、とりわけ中国は伸びが良く、特にライブコマースに手応えがある。あるライブコマース商品は1000枚を準備したが1〜2分で完売し、中国のインフルエンサーの影響力の大きさを改めて知った。日本は投資しても費用対効果が出ない状況が長く続いているが、中国はある程度のリターンが見込める。ある意味、経済が安定して成長している姿を反映しているようにも感じている。
―第2四半期は営業損失4.4億円の赤字決算でした。
お客様にも気付かれていると思うが、実は夏物の生産を中止した。「作っても安く売るのなら作らない方が良いのでは」という経営判断だった。春物だけで夏を乗り切ったこともあり第2四半期はかなり苦戦したが、在庫の圧力はなかった。財務諸表で見る限り、この判断は正解だったと思っている。社員は少し動揺していたようだったが、秋冬商品は今までより時間をかけて作ってもらう体制を整えた。
―通期予想は黒字着地を計画しています。
秋物が思った以上に動きが良い。冬物は第3波の影響もありやや苦戦しているが、今のところ業績予想の修正は予定していない。
―各社で人員削減の動きが進んでいますが、バロックでもその可能性はありますか?
全く検討していない。
―来年度の新入社員の採用人数は縮小しましたか?
今年度に大量採用したので、販売職の採用人数は若干減らした。理由はそれで、コロナの影響によるものではない。
―今後力を入れていくジャンルやターゲット層について教えてください。
ファッションは今、ティーン、アラサー、アラフォーといった年齢層、赤文字・青文字といったテイストなど、既存の枠で括るのが難しくなっている。ファーストリテイリングさんのようなボーダレス、エイジレスな提案が今の時代に合っているのだと思う。我々も今までのような狭いジャンルにこだわらない服作りをしていきたい。
―具体的な構想は?
テーマに沿ったブランドづくりをしていく。テーマというのは例えば「機能」であったり、ヨガなどの「スポーツ」であったり、「ニューノーマル時代のワークスタイル」など、今までのカテゴリーとは全く違った括りの定義付けが必要になる。そうしたテーマに特化したブランドをローンチし、ゾーンの開拓を進めたい。そこは社員にも考えてもらっているところだ。
―既存ブランドは顧客の年齢層が上がっている状況です。若年層の取り込みも課題の一つになっているのでは?
マウジーは比較的若年層の取り込みに成功しているが、マウジーだけに頼ることではないように思う。私の考えとしては、若い世代に新しいブランドを作ってもらいたい。
―中期経営計画では新規事業の開発を掲げていますが、M&Aの可能性はありますか?
見極めが難しくなっている。だが、今すでにSOSを出している船は確実に沈む。今期決算を終えた後に力のある会社とない会社が分かれるだろうから、来春以降に判断していきたい。ただ、必ずしもアパレルではなくていいのではと考えている。
―"脱アパレル"を試みるということでしょうか。
今までは「外に着飾っていく=ファッション」だったが、ファッションを示すものが服だけではなくなっている。カメラや車、家、そして生き方そのものもファッションになりうると思う。あくまでも総合的な相乗効果を出していくという意味で事業の多角化を進め、将来的に「ファッションの総合プラットフォーム」となることがバロックの野望だ。
―2021年の出店戦略についてはどのように考えていますか?
ニューノーマル時代の社会を踏まえた上で、リロケーションとスクラップアンドビルドを進めていく。ご存知の通り、商業施設は"シャッター街化"し始めている。ショッピングモールを形成する国内のすべての施設は今後の課題とシビアに向き合わなくてはいけないだろう。
―コロナ禍においては、特に都心部の百貨店がインバウンド減で大きなダメージを受けている状況です。
たしかに百貨店業界は非常に苦戦しているが、我々は原則として百貨店については政令指定都市にある"地域1番店"にしか出店しない。この方針は今後も変えない。地域1番店はインバウンドさえ戻ってくれば回復は十分見込めるからだ。2番手以下はインバウンドが回復してもしなくても淘汰されるだろう。
―インバウンド回復の見通しがつかない状況が続いていますが。
インバウンドが回復してから対策をとるのでは遅すぎる。来年末までには問題が解決すると信じている。
―実店舗の縮小については検討していますか?
店舗数の増減については大幅な変化はないだろう。少なくとも減らさない方針だ。
―試着専門店を提案する企業が増えています。
オープン当初は話題を集めたと思うが、にぎわっている印象がない。日本はドラスティックな変化を好まない国だと感じているので、あまり先走りすぎても成功しない。一歩先ではなく半歩先のイメージがいいんじゃないかというのが私の経営感覚。「完全に商品を売らない」のではなく、在庫負担の軽い店舗を増やしていく方針だ。
―中期経営計画で掲げている業績は達成できる見込みでしょうか。
来年、計画の修正を公表する予定だが、アフターコロナの新しいスタンダードに寄り添った手法やプロセスに変更するという内容であり、大きな数字を目指すところは変わらない。
―中国以外の国・地域への進出は引き続き進めていく方針でしょうか?
実は東南アジアの数ヶ国に進出し、新規オープンする予定だったが、計画が遅れたことで幸いにも店舗を持たずに済んだ。「新規エリア進出」と旗を立てることが目標ではなく、新たなパンデミックが発生する可能性がある中で、中国や日本のようにECプラットフォームで代替できるのかインフラストラクチャーを見ながら慎重に検討を進めていきたい。
―グローバル展開に力を入れていますが、日本市場はもう天井が見え始めているということでしょうか。
それはない。我々が考えるファッションが「服だけではない」という域まで達すれば、新たなものを提案していきたいと考えている。トータルの規模としては、売上高1000億円超えを目指したい。
―2021年もアパレル業界は厳しい状況が続きそうです。
コロナの解決に向けての光は見えてくると思うが、アパレルに限らず日本の多くの業種で非常に厳しい決算を迎え、国民全体の収入は今年より悪くなるかもしれないから、東京五輪が開催されるかどうかを抜きにしても消費は期待できないだろう。
―その状況下でどのように戦っていくのでしょうか。
中国市場を拡大させていく。国内に関しては"ホームワークの時期"。既存事業を運営しながら新規事業の開発を着実に進める考えだ。
―新規事業の立ち上げの目処はついていますか?
特に具体的な目処はつけていない。急かせても意味がないので、個々の個性に任せている。
―社員をとことん信頼しているんですね。
バロックが展開するブランドの原点は「8割を占める女性社員が自分たちに必要なものを自分たちで考える」ことにある。自身の幸福を追求することが、会社の幸福にもつながる。健康に気をつけながら、自分のためにベストを尽くして欲しいと思う。
(聞き手:伊藤真帆)
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