ビームスのプレスチームが利用しているプロ野球チップスカード風名刺
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2023年6月某日。「ビームス(BEAMS)」の2023年秋冬シーズンプレス内覧会に足を運ぶと、プレスチームのメンバーが名刺とともに一風変わった「自己紹介カード」を配っていた。見ると、担当者が野球のユニフォームに身を包みプレーに興じている様子がプリントされている。台紙の材質の良さはもちろん、メンバーごとにカードのデザインやホログラム加工も異なっており、カードからはただの遊びとは違った「本気度」が伝わってきた。
興味を持ち尋ねてみると、2022年にはビックリマンチョコのおまけ風シールを制作しており、今回はその続編にあたるのだという。ビームスが一見本業とは関係がないように見える部分に予算を投入し、「ガチ」の自己紹介カードを制作する狙いはどこにあるのか?プロジェクトの発足秘話から費用対効果まで、ビームスのプレスチーフを務める安武俊宏氏に話を訊いた。
安武俊宏 / BEAMS プレスチーフ
福岡生まれ札幌育ち。 文化服装学院卒業。 現在はプレス全体を統括する傍ら、「BEAMS AT HOME」シリーズのディレクション、服飾専門学校での講師などマルチに活躍中。 3度の飯よりおしゃれな洋服や雑貨、インテリアが大好き。嫌いな食べ物は"エビ"。
きっかけはコロナ禍の自粛期間
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ー6月にビームスのプレス内覧会にお邪魔した際、プレスの方が自身の野球カードを配っていて「面白いことをやっているな」と(笑)。いつからこのような一風変わった自己紹介カードを作り始めたのですか?
全くバカですよね(笑)。実際に配れるものとして作り始めたのは2022年の秋冬シーズンからです。初回は「ビックリマン風シール」で、今回の野球カードが第2弾。ただ、実はそれよりも前に2020年には某人気恋愛リアリティ番組風のヴィジュアルを撮影してプレス関係者向けにウェブ上で公開したりしていましたね。ですので、実質こういった取り組みは2020年からということになります。
ー2020年からというとちょうどコロナ禍の真っ只中ですね。
そうですね。コロナ禍になって、メディアの方とフィジカルで会う機会が激減したわけですが、その間に弊社プレスメンバーの顔ぶれがかなり変わったんです。現在働いているメンバーの約半数はコロナ禍の期間中に異動してきたような感じで。自粛期間中はどうしてもフィジカルのプレス内覧会や取材会などを開けなかったので、そのシーズンの商品情報とあわせてプレスチームの情報をデータでお渡しすることにしたのですが、どうしてもありきたりな情報だけだとメディアの方の記憶に残らない印象がありました。それで、顔と名前をしっかりと覚えていただくために某人気恋愛リアリティ番組風のヴィジュアルを撮影したのがこの取り組みの始まりでしたね。2021年には流行していた韓国のサバイバルドラマ風のヴィジュアルを撮影し、その流れで今度は配れるものを作ってみようかということで2022年にビックリマン風シールを制作しました。
ーコロナが落ち着き、メディアの人間と対面で会う機会が復活した今でも継続している理由は?
2023年秋冬シーズンのプレス内覧会を開催するにあたって、メディアの方10〜20人ほどを対象に「どういうプレス内覧会だったら嬉しい?」「過去にどういう企画が面白かった?」といったヒアリングをしたんですよ。そうしたら「ビックリマン風シールが面白かった」という回答が一番多くて。皆さんに求められているのなら、と継続することになりました。
ー自己紹介カードを制作しているのはプレスチームのメンバーの分だけですか?
基本的にはプレスチームの人間だけですね。ただ、ビックリマン風シールを制作した後に社長と副社長から「自分の分も作りたい」と言われまして。プレス内覧会の時期とは関係なく2人の自腹で追加生産しました(笑)。
ーカードの企画は誰が考えているんですか?
実はビックリマン風シールも野球カードもアイデアを出したの僕なんですよ。ビックリマン風シールに関しては、社外の色々な人が自作してSNSにアップしていたのを見て漠然と「いつか自分のものをちゃんとしたクオリティで作りたい」と考えていたんです。そこでちょうど良い機会だったので、自分の分だけでなくプレスメンバー全員の分を作ったというのが経緯ですね。野球カードに関しては、ビックリマン風シールを作った時点で「次やるとしたら野球カードだな」と思っていたので、他のメンバーの意見も聞きつつ最終的には自分の権力を駆使して決定しました(笑)。ちなみに野球カードのモチーフは人気菓子「プロ野球チップス」のおまけです。
ー2つの共通点は幼少期から親しみがあるものだということですね。
そうですね。特に男性はこういうものを集めた経験がある人が多いじゃないですか。女性で集めていた人はあまりいないかもしれないですけど、兄弟がいたり、どこかで見かけたことはあるだろうと思いました。
また、持ち帰った時に邪魔にならないのもポイントかなと。プレス内覧会などのイベントではメディアの方向けにお土産を渡すことも多いですが、あまり大きいものを渡してもかえって邪魔になってしまう。それならアイデア勝負でこういったカードをお渡しした方が印象に残るかなと考えたんです。
ープレス内覧会でお披露目するとして、プロジェクト自体はどれくらい前から動き出すのでしょうか。
構想を含めると大体3ヶ月前くらいですかね。実際に制作に取り掛かるのは1ヶ月半前でした。割とギリギリのスケジュールで進行していますね。今回の野球カードもプレス内覧会の前日に完成品が上がってきた感じでした。
ーカード制作についてはどこまで自社で行っている?
野球カードに関しては、背景の合成や印刷以外は全て自社で行っています。ビックリマン風シールではそれに加えてイラストを外注しました。
「神宮球場で撮影したかった」野球経験者監修、本気の自己紹介カード
ー撮影はどこで行ったのでしょうか。
社内のカメラマンに協力してもらって、会社のスタジオで撮影しました。普段は商品の撮影などに利用している場所です。スタッフに野球経験者が何人かいるので、彼らが撮影に立ち会って実際のプレーとして不自然ではないか監修しました。本当は多摩川の河川敷か、神宮球場あたりを数時間貸し切ってガチでスライディングしたり素振りしたりして撮影したかったのですが・・・(笑)。
ー本気度がすごいです(笑)。ユニフォームの袖に「BEAMS」とロゴが入っていますが、このために用意したんですか?
実はビームス社内の部活動の一つに野球部があり、そこからユニフォームを借りました。普段の試合や練習で実際に着用している正式ユニフォームです。
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ー「あざと可愛い盗塁王♡」「豪速球のノーコンピッチャー」といったキャッチフレーズや裏面の紹介文なども安武さんが考えているんですか?
いえ、僕の一存で決めた訳ではないですね。各プレスメンバーにカードに書いてほしい内容や方向性などをヒアリングして、その内容をもとに担当者2人が考えてくれました。あとは社内のキャラクターだったりを鑑みて総合的に決めた感じです。例えば「宴会限定の代打サヨナラ男」と書かれている彼は、カラオケがめちゃめちゃ面白いんですよ。だから写真でもマイクを持っています。
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ー安武さんは監督なんですね。
本当は選手が良かったんですけど、気付いたら監督になっていました。某プロ野球球団監督のグータッチの写真を見て「もう少し脇締めて、口をへの字にしてください」と指示を受けながら撮影しました(笑)。
ー裏面の紹介欄を見るとドラフト入団と逆指名入団というものがありますが、どういった違いがあるのでしょうか。
ビームス社の部署異動は人事指示で異動するケースと、社内公募で異動するケースの2パターンがあるんです。そこで社内公募によって異動してきたメンバーを逆指名入団、それ以外のメンバーをドラフト入団にしています。
ーほかに表記でこだわっている部分はありますか?
入団経緯以外は割と適当ですね(笑)。ドラフトの指名順位なども雰囲気で決めました。
メディアとの関係性構築の一助に...費用対効果は?
ー用紙にホログラム加工を施すなどクオリティが高いです。大体どれくらいの予算がかかっているのでしょうか。
「一体いくら注ぎ込んだんだ」とよく言われるんですが、おそらくみなさんが想像するほどお金はかかっていないんですよ。具体的な金額は言えませんが、1人分作るのにコース料理を食べるくらいかなと。もちろんそれでも遊び感覚で投資できる金額ではありませんが。今回はプレス内覧会が終わった後も色々な場面で配れるように240枚×18人分を作りました。
ー「顔と名前を覚えてもらえるように」とのことでしたが、ビームスとしてメディアとの繋がりを非常に大事にしているんですね。
そうですね、やはり我々のビジネスはメディアの方々に支えて頂かなけば難しいですから。特にコロナ禍を経て、ビームスのアウトプットは現状SNSなどのオウンドメディア中心になってしまっており、メディアの方と繋がる重要性は高まっているように感じています。ただ、どうしてもプレス内覧会で半年に1回会うだけでは、プライベートや趣味の話など何か共通のフックがないと深い繋がりを作ることは難しい。自己紹介カードがメディアの方々とのコミュニケーションの一助になればと思っています。
ーオウンドメディアでの露出だけでは限界がある?
自社での発信ってどうしても自画自賛になってしまうじゃないですか。ビームスの商品をビームスがおすすめしても「俺、カッコいいでしょ!」と言っているのと同じで、野暮ですし説得力を持たせることができないんですよ。やはり第三者が発信してこその価値は確実にありますし、メディアに掲載してもらうことの意義はそこにあると考えています。
ーズバリ、今回の取り組みの費用対効果についてはどのように感じていますか?
費用対効果はかなり高いと感じています。雑誌の1ページを押さえるとか、インフルエンサーの方に投稿してもらうといったことに比べたら金額としては安価ですし、展示会で会話のネタになることはもちろん、この取り組みによって「ビームス、なんか面白いことしてるな」と興味を持ってもらえることも多い。来場者様が自己紹介カードをSNSにアップしてくれている様子が見られますし、既に投資分は回収できていると思います。更に言えば今回インタビューしてもらえたことで、費用対効果はより高まりましたね(笑)。
ー今後もこの取り組みは続けていくのでしょうか。
面白いアイデアがあればやりたいなと思いますが、現状は未定ですね。ただ、実現できないのは百も承知ですが、オフィシャルでコラボレーションしてポケモンカードを作りたいなという個人的な野望はあります。社員にピカチュウの着ぐるみを着せて、ピカチュウのカードとして打ち出すとか。良いアイデアがあれば前向きに検討していきたいと考えています。
(聞き手:村田太一)
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