Spring/Summer 2021 side-C Vol.5. Motional.
Image by: beautiful people
ソファーと一体化してしまうかもしれない──「ビューティフルピープル(beautiful people)」2021年春夏コレクションの服作りは、デザイナー熊切秀典がコロナ禍のステイホーム中に肌で感じたことがきっかけとなった。一見するとクラシックなドレスも、パッドの代わりに用いているのは発泡ビーズ。ビーズクッションのように流動的なシルエットが特徴だ。
ビューティフルピープルは2017-18年秋冬シーズンからパリコレクションに公式参加しランウェイショーを行ってきたが、今シーズンはデジタルで新作を発表した。10月4日に公開した映像は、黒い背景とピアノの音というシンプルな演出ながらアーティスティックなムード。雪のように舞い積もっているのは全てビーズで、今回のコレクションの鍵となっている。
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熊切は普段、日常からコレクションのインスピレーションを得ているが、家で過ごす時間が日常化した時、目に入るのはソファーやクッション、ベッドなど室内のインテリアだった。クッションはスカートに、枕はヘッドピースに、キッチンリネンやテーブルクロスはファブリックに......身近なものが題材となり、ホームウェアのエレメントを随所に散りばめた。
コレクションピースは、美術館の収蔵品のようにクラシックなシルエットが特徴。中世のバッスルスタイルを連想させるドレスをはじめ、ホワイトとブラックのセットアップは戦後のファッションに影響を与えたクリスチャン・ディオール(Christian Dior)の「ニュールック」へのオマージュ。「再生」の象徴として、歴史的に影響を与えてきたファッションから学んでいる。
しかし、そのまま再現するのではなく、ユニークに進化させるのがビューティフルピープルならでは。ボリュームシルエットを形成しているのは全てビーズの詰め物で、粒子が服の中を循環するため人の動きとともに形状を変える。着用したモデルがベッドやソファーのように体を委ねる姿は、まるでインテリアと一体化したようだ。柔らかい布地は包まれるような安心感があり、ビーズの詰め物を抜けば街で着られるウェアラブルなシルエットに変化する。自在に形状を変える今回の服作りについて熊切は、「無限の再構成」を試みたという。
服の内部という視点は、2019年春夏コレクションから継続的に提案し、ブランドが「サイド シー(Side C)」と呼ぶアイデア。表と裏の間(=C面)に着目するという、パタンナー出身のデザイナーが生み出した独自の設計手法で、今シーズンはアプローチをさらに応用した。表地と裏地の間に存在し、パターンに起こすのは難しい「空間」を探究。ビーズまみれになりながら、表現の可能性を広げていったという。
ビーズの素材はサステナブルな方法で製造された軽量の発砲ウレタンで、岡崎の「CREA BEADS」を使用。商品化する際はビーズをつけて販売するという。
「motional.」のコレクションテーマには、モーション(=動き)とエモーション(=感情)の意味が込められている。映像に映るモデルの表情は穏やかで、白いビーズを散らしながら自由に舞う姿は希望を感じさせた。脱力感と生命力、個と集合体、拘束と自由といったこの時代を象徴するような対極の概念が表裏一体で共存しているようだ。閉じ込められていた家の中から外に出ようとしている今、熊切は希望の未来に願いを込めて「ファッションを取り戻したい」と話している。
映像では日本人モデルの先駆者である我妻マリらが脱力感や生命力といったモーションを映像の中で体現している。
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