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スタントパフォーマー・伊澤彩織 アンビバレントな冒険者【連載:BODY MAGIC】

スタントパフォーマー・伊澤彩織

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 「BODY MAGIC」は身体表現のプロフェッショナルに、「身体と装い」について語ってもらう連載企画。今回登場してくれたのは、女優でスタントパフォーマーの伊澤彩織。映画「るろうに剣心 最終章 The Final / The Beginning」や「G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ」などでスタントを担当し、「ベイビーわるきゅーれ」シリーズでは髙石あかりとW主演を務める。本格的アクションで鮮烈な印象を残す彼女が見つめる身体、そして衣装の魅力とは?

 撮影のために訪れた「N.ハリウッド TPES(N.HOOLYWOOD TPES)」のトレーニングジム、タクティカル ガレージ(TACTICAL GARAGE)。インタビューが行われた別室で「こういうものを見つけると、どう使うかをとっさに考えてしまうんです」と伊澤が指差したのは、アンティークの武器のディスプレイだ。「モーニングスターっていう、頭をかち割ったりする打撃用の武器です」と興味を示す姿に、真のスタント魂を垣間見ることができた。

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クリエイティブな両親の影響

 伊澤の趣味はピアノと写真。学生時代に手がけたクレイアニメで受賞歴もある。日本では数少ない女性スタントパフォーマーだが、いわゆる"体育会系"のステレオタイプからはかけ離れている。

 「父はテレビのカメラマンだったんです。ドラマ『ロング・ラブレター~漂流教室~(2002年)』を撮ったり、スポーツ中継を担当したりしていて、子どもの頃にテレビ局のセットに遊びに行かせてもらったこともあります。海外や地方へ出張する姿を見て、旅人のような撮影業に憧れを抱きました。父の一眼レフで遊びはじめてから、写真や映像にハマっていったんです」

 さらに、美術や物作りを愛する母親からも大きな影響を受けたという。「家にはクラフトアートやビーズ、絵や刺繍などの道具がたくさんありました。自然と創作に惹かれていく環境でしたね。母は『できるようになりたい』と思うことに対して、とにかく勉強し続ける人。最近も、ぬいぐるみ作家になるという目標を叶えていて驚かされました」。

両極端なものを持ち合わせていたい

 日本大学芸術学で映画を学んでいた頃、映画の現場を体験したくて「アクション部」に入った。アクション部は現場でのワイヤーのセッティングやマット補助などを含め、安全に撮影を行うための仕事全般を担当する部署だ。「スタントを始めたのは、アクションと映画の関わり方に興味を持ったから。でも当時は、まさか自分がここまでプレイヤーにのめり込むとは思っていませんでした」。

 「対極のものを考えるのが好き」と伊澤は語る。「例えば男性らしさ、女性らしさみたいな両極端なものを持ち合わせていたい。高校生の時から、ハイヒールを履いて踊るウクライナの男性ダンスグループ『カザキー(KAZAKY)』が好きでした」。自分は何をすればギャップになるんだろう?と考えているうちに、それがいつの間にかアクションになっていったのだという。「ひょんなことでこの世界に迷い込んで、色々な人が『こういう道があるよ』って繋いでくれました」。

バレエの経験をアクションに活かして

 刀を使う殺陣や男性相手のボディファイト、銃やナイフを使った軍事格闘技など、伊澤が見せるアクションは多岐にわたる。「武器や武道の使い方は物語やキャラクターによって変わるので、その作品ごとに必要なものを勉強します」と本人は語る。「個人が経験してきたことを活かせるのがアクションの良いところ。スタントパーソンは体操や格闘技、ダンスなどの経験者が多いです。私はバレエの経験があったので、四肢の先への意識やリズムの作り方、呼吸法などに活かせる部分がありました。言葉なしで感情を伝えることや、舞台上の役割などにも共通点が多いと感じます」。

 アクションをやっていくうちに身につけたのは「度胸」。「はじめは先輩たちの激しい立ち回りやスタントを間近で見て、なんで怖くないんだろう?と不思議でした。でもプレイヤーとしてカメラの前に立つと、『目の前のことに集中するしかない』とスイッチが入るんです。撮影本番は、自分の練習量や技量が試される時間。怖いと思ったらできない。だから物事を恐れない心、気おくれしない精神力が大事なんです」。

 今はプレイヤーとしての仕事の方がメインになっている。「コンプレックスはたくさんあります。仕事上、ルッキズムの厳しい世界に身を置かなきゃならないし、体型を誰かと比べられるのは当たり前。でも、今は自分のコンディションが良い状態でいることが一番大事だと思っています。自分の身体は一つしかなくて、服みたいに簡単に脱げるものじゃないから。今ここにいるだけの心身があるだけで十分だと思い込むようにしてます」。

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