下北沢とコムアイ
Image by: FASHIONSNAP
鹿の解体で一躍知名度を上げた音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」が、周囲の若手クリエイターを巻き込みながらその勢いを増している。メンバーはコムアイとケンモチヒデフミ、Dir.Fの3人。突拍子のないライブパフォーマンスで独自路線を進むカンパネラは、現在初の全国ツアーを開催中。今回、「ミュージック・マガジン」が選ぶ2014年のベストアルバムにランクインするなど大きく飛躍した1年を振り返るとともに、新年の抱負について主演/歌唱を担当するコムアイに語ってもらった。
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都会の方が性に合うと気付いた高校生活
―1992年生まれ。どんな子供だったんですか?
高校生の頃は畑や農業に興味があって、いずれは自給自足の生活をしたいと考えていました。ずーっと都会で育ってきたからこそ、モノが多すぎる都会の雰囲気にすごく疲れていたんです。私のことはほっといてくれないかなと思ってもそこに居るだけで情報を浴びせられ、消費を煽る都会の生活が心底嫌だったんですね。それで、高校生のときにいくつかのNGOやNPOに関わったんです。サルサダンスに魅了されてキューバを旅してみたり、茨城で田舎の暮らしを体験をしてみたりと、当時は人口密度が薄く大量消費や資本主義じゃないイデオロギーが根付いた場所を欲していました。
―茨城の体験について詳しく教えてください
18歳のときに1カ月間ほど、食事・宿泊場所と力(ちから)を交換するWWOOF(ウーフ)を通じて「やさと農場」というところで生活しました。作物の収穫に始まり、鶏の餌やりや卵磨き、あとはお菓子やご飯を作って皆で食べたり、流しそうめんをしたり。毎日が夏休みみたいで、最高じゃないですか。だけど、私はもう少し荒れた生活が合っているということに気付いたんです。
―その理由は?
死にたくなるような映画を観ても、後で振り返ってみるとやっぱり観て良かったなと思い返すことってありますよね。田舎生活をしてみてわかったのは、グラフィックデザインなど視覚的に眩しいものが田舎には無いということ。食って掛かってくるような情報で溢れている、ギトギトと煮えたぎる都会ならではの魅力を初めて認識したんです。
―10代から既に自分を客観視しているように感じます。随分冷静だったんですね。
暇だったんですよ、すごく。中学の時から大学付属の学校に通っていたので、中学受験以降の10年間が保証されていたんですね。別の学校に通う同世代が受験勉強を頑張っている最中、私はどんどん馬鹿になっていくけれど、だからって勉強する気にはなりませんでした。その代わりに別のことをしようと思って、学生生活とは関係無いことに一生懸命だったんです。
同調圧力がストレスだった
―両親が自由な学生時代を過ごさせてくれたということでしょうか?
そうですね。文化的家系というわけではないですし、特別に良い刺激を与えてくれるというわけではありませんでしたが、私が幼い頃から両親には旅行に沢山連れていってもらいました。そのおかげで、色々な場所に行くことにあんまり抵抗が無いのかもしれません。
―両親との思い入れのあるエピソードはありますか?
例えば、世界一周のピースボートに乗りたいと中学生の私が言ったとき、両親は快くOKしてくれました。その後、私が政治的なデモ活動に関わるようになったときも、「信念があるからこその行動はすごく良いことだよね」と応援してくれました。周りの人にもよく言われるのですが、本当に不思議なくらい、今振り返ってみても放任主義だったと思います。
―コムアイさんは友人が多そうに感じます。
嘘でしょ?(笑)全然多くないですよ。特に、女の子の友達はすごく少ない。大企業に勤めて、「キャリアウーマンになって何歳で結婚したい」とか言っている女の子とはだんだん話が噛み合わなくなってきました。もともとレールのある人生は嫌だったのに影響を受けやすいところがあるので、今はそういう人たちと離れて自分だけの時間軸で動けて、スッキリしています。
―自分だけの時間軸とは?
日本の教育は皆が同じタイミングで同じ方向を向いて頑張るという印象があります。無意識に感じてしまう見えない同調圧力を気にかけない人はそのままで良いですが、それを私みたいに違和感を覚えたり、周りに馴染めないことがストレスになっている人は、学生時代に留学や休学を挟んで同級生との距離をずらしたり離れてみたら良いと思いますね。私は大学3年で半年ほど休学しましたが、半年のブランクができただけで周りから感じるプレッシャーが少なくなりました。誰でも楽になった方が良いと思うし、同じ空気を窮屈に思っている人が居るのも嫌ですしね。
―もし今の生活を選ばず、レールのある人生を歩んでいたら?
実は歌手じゃなくてラブドールの営業をやってみたいと思っていました。オリエント工業という、映画「空気人形」の題材になった会社です。知人の写真家さんでこのラブドールを持っている人がいて、その人の自宅で記念撮影をさせてもらったことがきっかけでこの会社を知りました。例えば亡くした娘に似せて欲しいといった注文が入るらしく、夢のある話だなと思います。夢を叶えるというよりは、夢を補うに近いでしょうか(笑)。
―結婚願望はあるんですか?
ありますあります!35歳くらいかな、まあいつかは結婚できるだろうなと思っています。今のところは、周りで結婚生活を送っている人たちを天才だと感じています。人生の伴侶を一人に決めるということは、これから先の人生に一区切り付けるということですよね。私には一歩二歩も先の世界です。
水曜日のカンパネラ、始動
― 2012年夏、「水曜日のカンパネラ」がスタートしますね。
大学2年にあたる20歳のときに出席したとあるホームパーティーで、Dir.Fに声を掛けられて「水曜日のカンパネラ」を始めることになりました。考え方が他とは違う人が欲しかったそうです。私が主演/歌唱、ケンモチヒデフミがサウンドプロデュースや音楽作り全般、Dir.Fがその他の何でも屋を担当しています。
―同年11月、初のデモ音源「オズ」と「空海」をYouTubeのみで配信した狙いは?
いくらちゃんとしたものを作っても、お金を払ってまで無名のミュージシャンが歌う音楽を聴く人って、今の時代なかなか居ないと思うんです。皆の周りに流れている音楽の量は変わらないけれど、「あのバンド売れてるよね」「あの音楽すごいDJが掛けてるよね」という反応が、昔と違って必ずしもCDの売り上げには比例していませんよね。今までの"CDを買って聴く"以外に、フリーダウンロードだけ、動画共有サービスだけと色々な方法が出来上がってしまったので、売り上げだけでは人気度が測れない。こんな時代に音楽を始めるのであれば、まずは無料で試聴してもらえるようにしようと、YouTubeでの動画配信を通じて「オズ」「空海」をリリースしました。
―2013年8月には、「マリー・アントワネット」と「シャア」の2曲入りCDを100円で発売しました。
もちろん、100円のCDばかり出し続けていたら儲けは出ないのですが、できた音楽をCDに収めて出す、というすごくシンプルなスタイルを極めれば100円でもできるというのは新しい試みなんじゃないかと思いました。ちなみに赤字覚悟でしたが、一応黒字だったらしいです(笑)。ジャケットのデザインに凝ったり曲数を増やしたりと色々付け足していくからシングルが1,500円になるわけで、音楽というデータだけで充分なものに値段を付けるってシュールなことだなとこの時思いました。今新しく考えているのは、「ナマモノ」というシリーズもののEP盤のリリースです。
―「ナマモノ」とはどういう意味ですか?
腐っていく、時間が経つと劣化していくという意味です。音楽は鮮度が命ですよ。早く買って欲しいから、リリース直後は100円で、どんどんどんどん値段が上がっていく。110円、120円、130円と毎日値段が上がっていき、最終的には1万円くらいで販売したら面白そうですよね。
―「売れない時代」とは言え、CDは出していますよね。
既にネット社会が浸透した若い人たちにはピンと来ませんが、幅広い層にリーチするにはCDは出しておいた方が良い、というのが現状の結論。でも、今の私たちの中心的な新譜の発信拠点はYouTubeで、YouTubeで聴いてくれる人が1番多いと嬉しいです。ゆくゆくは、音楽が世の中に出るまでの仕組みづくりに関わっていたいと思っています。例えば、今まで誰も挑戦したことのない変な配信の仕方をするとか。
音楽はエンターテインメント
―歌詞に脈絡がありません。覚えるのは大変じゃないですか?
すごく大変で、ライブでしょっちゅう間違えながらちょっとずつ覚えています(笑)。ただ、これからも意味のある歌詞は音楽にしない予定です。「この曲を作っているのはどんな人なんだろう」と気になって聴いてくれたり、「この曲が流れているだけで楽しい」と聴く人のエネルギーを増幅させる音楽であれば良いのですが、歌詞の内容にあまりにも気が釣られてしまうのは、エンタ―テインメントとして面白くないと思います。伝えたい思い、伝えたい歌詞が自分の中にあるから音楽もある、という考えが嫌なんです。
―音楽はエンタメだということでしょうか。
聴いてれたり観てくれる人、それぞれの瞬間をハッピーにできる音楽は、それ自体が強く尊くて、 伝えたいものになり得ると思うんですよね。
―2014年11月、最新譜の4thミニアルバム「私を鬼ヶ島に連れてって」をリリースしましたね。
8曲中6曲のPVが、YouTubeに随時アップされています。最後にバスガイドの歌「ジャンヌダルク」が近日出ます。コムアイが20人ぐらい出てくるのでお楽しみに。
―6曲ともPVを作ったクリエイターさんがバラバラなんですよね?
そうですっけ? ...本当だ!(笑)こちらから探し当てたというわけではなく、各クリエイターさんが私たちに興味を持ってPV制作に携わってくれています。すごく良い関係。ケンモチさんの曲のおかげで交友関係に広がりができ、今後も「水曜日のカンパネラ」を媒介に若手クリエイターさんの"遊び場"になったら良いなと本当に思いますね。
―それでは今までリリースしたものも含めて、一番お気に入りのPVを教えてください。
なんだろうなあ。まだ、無いですね。
― 無いんですね。
どれも好きで。お客さんの気分で見ているからか、これが自分のもの、というのはまだ見つかっていないです。
―初の全国ツアー「平成26年度鬼退治行脚!」を開催中です。
ツアーで地方に行くのが今すごく楽しいです。こないだは北海道に行ってきたんですけれど、共演者の人たちに夜中の札幌を案内してもらったんです。私が泊まったホテルの近くに怪しげな小さいクラブがあって、その名も「ゲットー」。「ここはヒップホップの登竜門なんだよ」と教えてもらって。こんな寒い所にヒップホッパーが集結するんだ、札幌の登竜門みつけた!ととても嬉しくなりました(笑)。そのクラブの前に、謎の車がたくさん止まっていたのも気になりましたね。ご飯を食べに行ったり、現地で人気のミュージシャンに会えたり、その土地ごとのスタイルに触れるのが新鮮です。
コムアイとファッションの親和性
―毎回違う衣装には、何か意図があるのでしょうか?
迷走していて、チグハグなんです。最初の頃は着物やアオザイなどなんだか目立ちそうなものを着ていました。その後は1回だけ、ももクロなどを担当されているプロの人に衣装を手作りしてもらい、渋谷のスクランブル交差点やセンター街を練り歩いたときに着ました。でも、その時にいかにもな衣装は私には似合わないなと思ったんです。私はなんの殻も被っていない素の状態でライブをしているのに、殻を作るように衣装を着るのはちょっとおかしいかなと。もっと自然体の方が良いなと考えを改め、今は私服を着ています。
―衣装選びで気を付けていることはありますか?
身体が大きく見えるようなシルエットのものを選んだりするぐらいで、好きにさせてもらっていますね。たまに2人からチェックを受けることはあるのですが、あ、そうなんだ、と素直に受け入れつつ好みは曲げません(笑)。着たいと思うものを着たいです。ただ、この仕事に就いて良かったと思うことの一つがファッションで、今までも好んで着ていた派手な色柄の服がステージで活躍するのは嬉しいですね。
―好きなブランドを教えてください。
ikumiさんのブランド「アイ(i)」は、衣装で着るくらい好きです。全部くれないかなとこっそり思っています(笑)。今日着ているようなシャツだったり、メンズライクな服が割と好きですね。女の子が好きな、ドルマンスリーブのようなふわっとしたシルエットの服はあまり着ないです。
―今日はインタビュー前に古着屋に寄っていたと聞きました。
はい。古着も好きで、神南の「ラウジーバロック(Rosy-Baroque)」とその系列の「ヒプノティック(Hypnotique)」、その近くにある「突撃洋服店」は、たまに行きます。1番好きな古着屋さんは大阪の「タウ(TAU)」。中崎町にあるお店なのですが、良心的な値段ですし靴の状態がすごく良いです。いま公式サイトなどで使っているアーティスト写真で着ているのは、TAUで買った毒ガエルがプリントされた緑のペーパージャケットです。ライブでよく着るオレンジのつなぎもTAUで買ったもので、おすすめなのでぜひ行ってみてください。
―どうして古着が好きなんですか?
もともと、古着独特のにおいがありそうで嫌だなというイメージを持っていました。でも3〜4年前に、私が服を着ると人よりすぐに穴が空いたり、ジュースをこぼしたり、毛玉だらけになったりするということに気付いて。3回着たら新品も古着同様なので、それなら最初から古着を買って飽きたら売って、どんどん回転させた方が良いんじゃないかなと思ったんです。
―好みの男性像はお腹がぷにぷにしている人。好みの男性にしてもらいたいオシャレはありますか?
実は、服を着ているときは引き締まっているように見える人の方が好きです。座った時や背伸びした時などふとした瞬間に、あれ...あるなあ、と気付く程度の中肉中背でお腹だけちょっと出てる人が良いですね(笑)。今までにお付き合いした相手は、古着ではなく単に着続けているから古いといいますか、何となく着心地が良いからずっとこの服を着てる、みたいな人が多かったです。ファッションについては付き合っている男性に影響を受けたことがないので、相手のファッションはなんでも好きなもの着たらいいと思います。
2015年は糸口を掴む年に
―コムアイさんとケンモチさんとDir.Fさん、3人の関係を一言で表すと?
なんでしょう......。3人とも性格が曲がっているので、関係と言われると難しいですね(笑)。私が子供で、2人は父親と母親ですかね?私は2人の上に乗っかっているイメージです。
―「乗っかっている」とは?
私よりも他の2人の方がよっぽど頭を使って「水曜日のカンパネラ」に人生を賭けていて、その2人が作った神輿に私が乗って操縦するってイメージです。
―2014年の年末年始。昨年よりもライブやイベントが多く忙しそうですね。
忙しさのレベルが全然違います。昨年はヒマを持て余しすぎて切なかったですからね。今年に入ってから特に、ちょっとずつ聴いてくれる人たちの中に「ラップしてるけど全然歌詞に意味は無いちょっと古い感じのサブカルっぽいあれね」という「水曜日のカンパネラ」のイメージが出来てきたのではないかなと思うと嬉しいです。
―2015年はどんな1年にしたいですか?
なんだか読めないんですよ、2015年。ただ、色々な人と仕事で絡みたいなと思っています。4枚のアルバムを出しPVも沢山作って土台が出来てきたので、そろそろ他のアーティストと一緒に曲を作ったり、詞を書いてもらったりしたいですね。今の3人体制のやり方はもうわかっているから、その時々で4人目の人が入ってきても面白いのかなと。色んな人と仕事を通じて遊べるという意味で、仕事を"おもちゃ"にして遊びたいです。
―最後に新年の抱負をお願いします。
作る方だけではなくて、リスナーとして、いい音楽やいいライブ、あといい映画にたくさん出逢いたいです。それで影響を受けたいです。これは抱負より神頼みって感じだけど(笑)。
水曜日のカンパネラ
2012年夏、初のデモ音源「オズ」「空海」をYouTubeに配信し始動。「水曜日のカンパネラ」の語源は、水曜日に打ち合わせが多かったからという理由と、それ以外にも様々な説がある。当初はグループを予定して名付けられたが、現在は主演/歌唱をコムアイのみが担当。ボーカルのコムアイを中心とした、暢気でマイペースな音楽や様々な活動がスタートしている。
(聞き手:坂本菜里子)
■水曜日のカンパネラ:公式サイト
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