古着市場で不動の人気を誇るアイテムといえば、「チャンピオン(Champion)」のスウェット「リバースウィーブ(Reverse Weave)」。リバースウィーブと聞くと、脇のマチ部分を思い浮かべる人が多いですが、実は、その名前は別の特徴が語源になっているんです。1990年代に古着市場に姿を表してから現在に至るまで注目を集め続ける理由を探るべく、リバースウィーブ誕生の歴史から価格の高騰を続ける今の古着市場のリアル、意外と知られていない豆知識までを、富ヶ谷で古着屋「ミスタークリーン」を営む栗原道彦さんに教えてもらいました。
目次
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チャンピオンの歴史をおさらい
チャンピオンは、1919年にアメリカ・ニューヨークでチャンピオン・ニッティング・ミルズ社として誕生。屋外労働者の防寒用として開発されたウール下着が米軍のアスレチックウェアに採用されたことをきっかけに、現在のスウェットシャツの原型が生まれました。1920年代には、大学生アスリートが着用したスウェットシャツが注目を集め、アメリカの若者たちからカジュアルウェアブランドとしての認知を高めていきました。その後もスウェットをはじめ、Tシャツやパーカーなどのカジュアルウェアを展開。機能的なデザインや耐久性、素材、縫製といったディテールにこだわったアイテムは、創業から100年以上にわたって愛され続けています。
リバースウィーブのはじまり
リバースウィーブは、1938年に誕生。当初は、中学校や高校、大学でアスレチックウェアとして生徒に配付されていて、アメリカンフットボールやラグビーの防寒具としてフーディーが配付されるようになったり、アメリカ陸軍の士官学校「USMA(United States Military Academy)」の生徒が着るようになりました。1960〜70年代頃のリバースウィーブは、タグに「S」や「M」といったサイズが大きく書かれていたり、タグのプリントがサイズごとに色分けされるなど、個人の所有物というよりは学校の備品として着用されていました。1980年代に入ると学校や企業ロゴのない無地のスウェットも一般に流通するようになり、アメリカ人にとっては、当たり前のように日常に馴染むアイテムとなりました。
リバースウィーブにしかない特徴は?
絶大な人気を誇るリバースウィーブですが、その人気の理由はどこにあるのでしょうか?他のスウェットと決定的に違うポイントは、「リバースウィーブ」という名称に隠れています。リバースウィーブとは編み方が語源となっていますが、文字通り「逆編み」という意味で、通常のスウェットは縦編みで作られているのに対し、横に編まれているのが特徴です。なぜ横方向に編まれているのかというと、洗濯による縮みを軽減するため。コットン100%のスウェットは、着丈の縮みが出やすく、ヴィンテージスウェットの着丈が短い傾向にあるのは、その縮みやすさが理由とされています。ヴィンテージでも縮みが少なく、型崩れしにくいのがリバースウィーブの1番の魅力なので、いつの年代のものでも作られた当時のシルエットを楽しむことができます。
リバースウィーブのもう1つの特徴が、ビッグシルエット。元々、アスレチックウェアやフットボールなどの防具の上からも着用できるベンチウォーマー(防寒着)として生産されていたことから、アームホールが大きく、全体的にオーバーサイズで作られています。作りの大きさと縮みにくさから、近年のビッグシルエットのトレンドにハマったことがリバースウィーブ人気の理由とされています。
勘違いされがちなエクスパンションガゼットとは?
「リバースウィーブ」の語源として勘違いされがちなのが、脇にマチのようにあしらわれた「エクスパンションガゼット」。1980年代以前はリバースウィーブでしか見られないディテールで、リバースウィーブ同様、チャンピオンが特許と商標を取得している製法。縮み防止や動きやすさのために、1952年頃に導入されて以来、現行品まで変わらず取り付けられています。
いつから古着市場で流通し始めた?
リバースウィーブが日本の古着市場で認知されるようになったのは、1990年代中頃。栗原さん曰く、1990年以前の日本の古着市場では、フライトジャケットやハワイアンシャツ、「リーバイス(Levi's®)」のヴィンテージジーンズなど、「1950年代に作られたものが一番良い」とされている時代が長らくあったんだとか。そんな中、じわじわと注目を集めはじめたのが、リバースウィーブでした。
栗原さん
僕自身、一番最初にリバースウィーブを購入したのは1993年、当時16歳の頃でした。「USMA」のロゴが入っていて、首元にV字の補強が施されているものだったんですが、タグが切られていたので、それがリバースウィーブだと知らずに購入したんですよね。純粋に「形の良い1950年代のスウェット」という感覚で着ていたので、当時の古着市場ではまだそこまで認知されていなかった印象です。
「USMAのモデルは、学校側がチャンピオンに別注をかけていたので、通常のリバースウィーブとはデザインが異なるのが魅力です。これは少しマニアックなんですが、USMAのスウェットパンツです。通常、リバースウィーブのパンツは、ウエスト部分にリブがないんですが、USMAモデルはリブがついていて、ネームタグが付属しているのでレア度が高いです」(栗原さん)
2000年代には人気が低迷
今でこそ、どんな古着屋でも見つけることのできるリバースウィーブですが、2000年代には人気が低迷。1990年代にはクルーネックのスウェットが7800円、フーディーは9800円ほどで販売されていましたが、2000年代にはその値段ではほとんど売れなくなってしまったんだとか。値段が下がることはありませんでしたが、売れ行きが良くなかったことから、当時流通していた1980〜90年代物の多くが、リメイク用の材料として解体されてしまったんだそうです。
栗原さん
1990年代まではビッグシルエットがトレンドだったのに対し、2000年代にはコンパクトなシルエットが流行したことを理由に、不人気アイテムに成り下がってしまいました。リメイク用として解体されたことで、今ではなかなか手に入らないような多くのレア物が市場から姿を消してしまったのが残念です。
ボロボロになっても価格が高騰
リバースウィーブは、穴が空いてボロボロになっても価値が変わらなかったり、むしろ上がることもあります。アメリカの人々にとっては常に身近なアイテムだったことから、自由にアレンジされたり、リメイクされているものも多く見つかりますが、そういった要素も、デザインの1つとして愛されています。また、他のスウェットと比べてヘビーオンスで、型崩れしにくいことから、ボロボロになってからでも長く着れることも人気の理由とされています。
栗原さん
例えば、これはUS NAVY(アメリカ海軍)で使われていたものから派生したデザインなんですが、金属や紙でパンチされた文字部分にインクでペイントされています。バックプリントはかなり掠れていて襟元もボロボロですが、なかなか見つけられない代物なので、価値の高いアイテムです。
アメリカでも価格が高騰?コロナ禍で変化した古着市場
リバースウィーブは、基本的に生産国であるアメリカで買い付けられますが、近年は日本市場での需要が広く知られるようになり、「高く売れるなら」とアメリカ市場でもこれまで以上の数が出回り始めています。栗原さんによると、値段が上がりすぎてしまい、買い付けに行ってもお店で販売する価格にはまらず、断念することもあるんだとか。特に、アメリカではコロナ禍の2020年から若年層の古着市場への参入が増加したんだそうです。
栗原さん
コロナ禍で失業した若者が、少ない元手で簡単に始めやすいことから、古着市場に参入するケースが増えています。四半世紀にわたって古着市場を見ている身からすると、古着は石油と同じで、市場で高く売れるとなればコスト、リスクを掛けても多くの人が探し始めます。つまり、人気に合わせて市場に出回る数も変動するんですよ。今までは箪笥の肥やしにされていたヴィンテージも、昨今の高騰によって手放す人が増え、オークションサイトやフリマアプリや委託販売店等で売りに出されることが多くなったので、一見まだまだ玉数があるように思えますが、本国アメリカでは確実に減ってきています。
今後も価格は高騰する?
ビッグシルエットがトレンドになったことから、2010年代後半に人気が復活したリバースウィーブ。栗原さん曰く、「おそらくこれ以上価格が高騰することはない」とのこと。
栗原さん
日本とアメリカの価格のギャップがなくなったことで、買い付け時の値段が上がり、それに比例して売値も上がっています。例えば、軍物のリバースウィーブは、10年前に2〜3万円で買えたものが、今は10万円を超えることもあります。ただ、これ以上値段が上がってしまうと、非現実的な価格になり誰も買わなくなることが予想されるので、全体的な相場としては今が天井ではないかと思います。
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