古着市場で不動の人気を誇るアイテムといえば、「チャンピオン(Champion)」のスウェット「リバースウィーブ(Reverse Weave)」。1930年代のアメリカで、高校や大学の生徒のためのアスレチックウェアとして誕生し、1990年代から日本の古着市場で注目を集めているアイテムです。今回は、そんなリバースウィーブの製造年の見分け方を、タグやデザインを通して解説。また、年代ごとに異なる価格の理由や、特に人気を集めるレアアイテムについて、富ヶ谷で古着屋「ミスタークリーン」を営むバイヤーの栗原道彦さんに教えてもらいました。
目次
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リバースウィーブの特徴をおさらい
まずは、リバースウィーブにはどんな特徴や魅力があるのか、改めて確認していきましょう。起源は、1938年のアメリカ。中学校から大学まで、学生に支給されていたアスレチックウェアが発祥となっていることから、今でも大学名や高校名のロゴがプリントされたデザインが流通しています。学校の備品として、アメリカ人の生活と密接に関わってきたリバースウィーブですが、その後、ロゴのないスウェットも一般販売されるようになり、現在に至るまで製造され続けています。
特徴は、洗濯による型崩れを防ぐための編み方。通常のスウェットが生地を縦向きに使用するのに対し、リバースウィーブは逆(リバース)。横向きに使用することで縮みを軽減しています。また、編み方のほかにも「エクスパンションガゼット」と呼ばれるマチのような布を脇部分に仕込むことで、さらに縮みにくい仕様に。こうした特徴から、古着でも製造当時のシルエットを保つことができているんです。
タグの変遷
近年高騰しているリバースウィーブの古着を探す前に抑えておきたいのが、タグの種類。リバースウィーブは1930年代から作られていますが、細かい年代ごとに首元のタグのデザインが異なるのが特徴で、そのデザインによっていつ作られたものなのかを判別することができます。とはいえ、細かい違いを全て把握して判断するのは至難の技なんだとか。
栗原さん
僕を含め、普段から古着を買い付けているバイヤーでも、全てのタグデザインを隈無く把握している人はほとんどいません(笑)。今回は、市場に出回っている年代を中心に、最低限知っておくとためになる大まかな変遷を解説します。
〜1940年代「デカラン」
まずは、最初期の1938年から1940年代のリバースウィーブに付けられたタグ「デカラン」から解説していきます。「デカラン」とは、タグのサイズが大きく、チャンピオンの他のアイテムにも付けられていた「ランナータグ」と呼ばれる、走っている人型のマークが印字されたもの。「デカいランナータグ」から取って「デカラン」と呼ばれています。当時は、リバースウィーブ専用のタグがなかったことから、他のアイテムと同じタグデザインが流用されていたんだそうです。
栗原さん
デカランは、今ではまず見つけることのできない希少なタグです。1950年代前半には、デカランよりも小さいサイズのランナータグが付くようになりますが、そのタグでさえ、過去に2〜3枚しか売ったことがないので「10年に1枚出るかどうか」といったレア度ですね。
1950年代〜タタキタグ
1950年代に入ると、リバースウィーブ専用のタグが登場。1960年代までに作られたものには、四方を叩いて縫われる「タタキタグ」が付いています。年代によって、特許の番号が入ったり、サイズ表記の位置が上下したりと、細かいデザインの違いがあるほか、1967年には、社名が「チャンピオンニットウェア」から「チャンピオンプロダクツ」に変更になったため、ロゴの表記も変わっています。また、1960年代から「RN(レジスタード・アイデンティフィケーション・ナンバー)」の発行が始まったため、同じタタキタグでも「RNの表記があるものは1960年代に製造されたもの」「表記がないものは1960年代以前に製造されたもの」という見分け方ができるようになりました。
「社名変更後、70年代初頭までの短い期間に使用されていたタタキタグ。年代的には一番新しいタタキタグですが、前述の理由からあまり見かけない珍しいものです」(栗原さん)
1970年代〜単色タグ
タタキタグの後、1970年前後に登場したのが「単色タグ」。単色タグから、上部分だけを縫う製法に変わり、ロゴが全て青や赤などの単色であしらわれるようになりました。単色タグが登場するまでは、洗濯方法などの表記が入っていませんでしたが、この時代から細かく表示されるようになりました。
1980年代〜トリコタグ(プリント)
続いて紹介するのが、プリントの「トリコタグ」。1980年代以降に製造されたリバースウィーブに付けられたもので、「トリコタグ」という名前は文字が3色のトリコロールカラーになっていることが由来となっています。現在、古着として流通しているものの多くがこのトリコタグのモデルで、「プリントタグ」と呼ばれる場合もあります。1990年代にも同じくトリコロールカラーのタグが使われていますが、「プリントが1980年代」「刺繍が1990年代」と判別することができます。
1990年代〜トリコタグ(刺繍)
こちらがその刺繍のトリコタグ。1980年代から、トリコロールカラー自体は一貫して同じなので、よりわかりやすくするためにトリコタグではなく「刺繍タグ」と呼ばれる場合もあります。
栗原さん
1990年代後半に入ると、製造国がアメリカからメキシコに移ります。どちらも同じデザインの刺繍タグが使用されていますが、タグ表面に製造国の記載があるのでそこで産地を見分けることができます。
イレギュラー品なのに人気?切られたタグの正体
古着屋でリバースウィーブを探していると、真っ二つに切れ込みが入ったタグを目にすることがありますよね?経年変化で擦り切れたのではなく、意図的に真ん中で綺麗に切られているわけですが、これは製造後の検品ではねられたイレギュラー品だったり、過剰在庫だったりでアウトレット等に流通していたリバースウィーブだという目印。一目でそれとわかるようにタグが切られていたんだそうです。
栗原さん
単なる縫製ミスや売れ残りだった可能性もあるので「切れ込みがある=価値がある」というわけではないですが、中にはイレギュラー品ならではの珍しいカラーリング、ディテールを持った個体も存在し、それらは希少な一点物として古着好きから高い評価を受けています。
デザインの種類
リバースウィーブの古着といえば、無地か、大学名などの大きなロゴを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?古着市場で流通している、1990年代までに生産されたリバースウィーブは、カレッジロゴ、企業ロゴ、無地の3種類に分けられますが、ここではその中でも特に人気を集めるカレッジロゴについて解説していきます。
カレッジロゴの種類
カレッジロゴの種類にはどんなものがあるのでしょうか?ロゴのデザインになるものは、大学名や、大学スポーツのチーム名などがほとんど。一見、どれも同じデザインのように感じられますが、実は、ロゴが1段のみなのか、数段に分けられるのかによっても市場価値は異なり、段数が多いものは人気があるんだそうです。また、年代によってプリントの製法が異なるのも、リバースウィーブならではの魅力の一つ。ここからは、特に人気を集める3種類を紹介します。
水性(染み込み)プリント
まず紹介するのが、リバースウィーブでは流通量の少ない「水性(染み込み)プリント」。別名「ウォータープリント」とも呼ばれていますが、生地にインクを染み込ませるプリント方法のことです。デッドストックや使用感の少ないものはザラザラとした質感ですが、洗濯していくうちにツルツルとした質感になっていきます。1番人気で、値段も高騰しているそう。
フロッキープリント
続いて紹介するのが、フロッキープリント。ヴィンテージのスウェットではよく見られる手法で、ボディの表面に糊をつけて、その上から粉末を吹き付けることで立体感を出しています。リバースウィーブの中ではかなり希少なデザインで、滅多に見つけられないことから注目を集めています。
ラバープリント
1980年代以降、最も多く生産されたのがラバープリントのもの。経年変化で割れたロゴは「ひび割れプリント」とも呼ばれていて、近年では市場価値が上がっているんだとか。ちなみに、色や塗料によって質感が異なるので、ラバープリントだからと言って、必ずしも綺麗にヒビが入るとは言い切れないんだそうです。
栗原さん
2000年代までの古着市場では、ラバープリントは流通量が多かったことから、あまり評価されていませんでした。一時期は敬遠されていましたが、今、古着を探している若者にとっては「一周回った」デザインとして人気を集めています。
ロゴのない目無しとは?
リバースウィーブのデザインの中に、「目無し」や「ブックストア」と呼ばれるものがあります。チャンピオンが無地で販売する目的に製造したものは、基本的に胸元に「目」と呼ばれる「C」の刺繍ロゴがあしらわれますが、稀に無地なのに目も付いていない、まっさらな無地のスウェットが見つかることがあり、それらは「プリント用に作られたボディなのに、結局プリントされないで無地の状態で販売された」という背景から、「目無し」の愛称で親しまれています。
栗原さん
これも、言ってしまえばイレギュラー品なんですよね。それでもレア度が高いから、人気を集めています。ちなみに、左袖口にCロゴが付けられるようになったのは1980年代の中盤なので、1980年代前半までは左袖口と胸のどちらにもCロゴがないタイプもあります。
リバースウィーブは9割がグレー!レアなカラーボディ
栗原さん曰く、リバースウィーブで1番人気の色はブラックだそう。ボディもプリントも、ブラックが使用されている場合には他と比べ値段が倍になることもあるんだとか。
栗原さん
今でこそ、ブラックは定番カラーとしてどんな洋服にも取り入れられていますが、昔はブラックという色のイメージがあまり良くなかったことから、大学のカラーやチームカラーを採用するカレッジロゴのアイテムにはあまり使われていませんでした。また、黒の染料は酸化が起こりやすかったことから使用が避けられていたのも、流通量が少ない理由の1つですね。
もちろんブラックだけではなく、グレー以外のカラーボディも根強い人気があります。市場に流通しているリバースウィーブの9割を占めるのがグレー。カラーボディは、無地がほとんどなので、カレッジロゴが入っているものはレア度が上がり、人気が高いんだとか。
カレッジロゴはアイビーリーグ一強?
一言に「カレッジロゴ」と言っても、そのデザインはさまざま。アメリカにある学校の数だけ、デザインも異なります。中でも、アイビーリーグ(ブラウン大学、コロンビア大学、コーネル大学、ダートマス大学、ハーバード大学、ペンシルベニア大学、プリンストン大学、イェール大学)のロゴが人気ですが、近年は、イェール大学のものが特に高騰しているんだそうです。
栗原さん
かつては、「アイビーのものは何でも人気」という傾向があったんですが、最近はイェール大学のものがずば抜けて人気です。他の大学のものと比較して、数倍の値段が付けられることもあるほどなんですが、原宿の古着屋「ベルベルジン(BerBerJin)」のオーナー・藤原くんが好んで着ていて、メディアでも紹介されたことから人気に火が付きました。また、イェール大学のマスコットはブルドックなんですが、ブルドッグモチーフは昔から古着好きの間で人気があるので、そういう面も人気の一因になっていると思います。ちなみに、一般的なアメリカ人は当然、自分の出身校以外のスウェットは着ないので、こういった傾向は日本に限定した話です(笑)。
また、アイビーリーグをはじめとする名門大学のアイテムは、実際の卒業生の数よりも流通量が多いのが特徴。その理由は、学生の家族が、自分の子どもが名門大学に入学できたことを周囲に自慢するためにグッズを大量に購入し、親戚中に配っていたことに由来しているんだそうです。
進化ではなく“退化”?時代ごとに移り変わるデザイン
80年以上にわたって、変わらないスタイルを貫いてきたリバースウィーブですが、実は時代とともに少しずつシルエットが変化しています。栗原さんによると、リバースウィーブは年代と共に作りが大きくなっているそうで、その例として見せてもらったのが、ハーフジップタイプのフーディー。
栗原さん
このハーフジップ部分は、元の持ち主の方のカスタムで、後付けなんです。なぜカスタムされているのかというと、製造当時の1970年代のフーディーはフードが非常に小さく、着脱がしづらかったから。1980年代前半までは小さいフードが採用されていたので、こういったカスタムや、首元が切られているものを多く見つけることができます。
その他にも、1970年代までは、サイズごとに筒状のボディが編み立てられていて、脇に縫い目がない「丸胴」と呼ばれる仕様で作られていました。手間とコストがかかる仕様だったため、1980年代以降は廃止されてしまいました。
栗原さん
リバースウィーブに限らず、ヴィンテージアイテムは「ただ古い」だけで価格が高騰しているわけではなく、高値が付くものには相応の理由があります。古いものの方がクオリティが高いこともしばしばで、今の大量生産時代に生まれる洋服のすべてが「進化」しているとは限りません。むしろ量販されているものは機能性的に「退化」していると思えることも多々ありますね。
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