チルドレン オブ ザ ディスコーダンス 2021年秋冬コレクションフィルムより
「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス(Children of the discordance)」がデジタル版ミラノ・メンズ・ファッションウィークで、日本のヒップホップとリメイク服の最先端を動画でブチかました。日本の現在進行形の最高峰のストリートが共演した動画を堪能してみよう。
(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎)
スケートとヒップホップは志鎌英明のDNAに深く刻み込まれている。ブランドを代表するバンダナのオートクチュール(僕はそう思っている)は、単純に服として魅力的なのはもちろん、その背景に嘘がないというか、本物だけが持つ空気を内包している。だから、世界の名だたるラッパーは、こぞって志鎌の"バンダナ・クチュール"を身につけるのだ。同じようにバンダナをリメイクするブランドが世界的に増えてきているけれど、この独特の空気感は彼だけのものだと思う。
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2021年春夏のフィルムは東京のスケートカルチャーに焦点を当てたから、今回の2021-22年秋冬はヒップホップで来るだろうと思っていた。予想は当たった。パフォーマー、モデルとして志鎌がオファーしたのは、豊臣秀吉に由来する名のHideyoshi(ヒデヨシ)と、彼がフロントマンを務めるTokyo Young Visionのクルー、そしてアベマTVの「ラップスタア誕生」で4代目王者になったRalph(ラルフ)。志鎌と20年近く年の離れた東京の新世代のラッパーたちだ。
パフォーマンスは圧倒的だ。チルドレンの服もビックリするくらい似合っている。曲はHideyoshiの「Jitsuryoku」と「Majinahanashi」の2曲を組み合わせていて、まるで志鎌の心情を2人が代弁しているように聞こえる。
「完璧実力主義」
「以前より増していく向上心」
「悪い事しても ダサい事はすんな」
「誰にもバレないように深く被るフーディー」
「もう見えてる お山の頂上」
コレクションのテーマは「dawn(夜明け)」。「今続いていることはいつか終わると信じている。自粛していた期間に自分の人生を振り返り、ファッションと出会ってからの事を思い返した。今まで忘れていた感覚や思い出と再会し、スポーツウェアや今まで使用してこなかったミリタリーウェアのアーカイブを取り入れた」と志鎌は説明する。
ミリタリーのベースとなっているのは、イギリス海軍のスモック。キリム調のプリントを施したセットアップと、バンダナの手法でいくつかの生地を切り替えたペルシャ絨毯のような生地の2つのバリエーションで提案した。動画の中でRalphが着ているのは後者だ。スポーツウェアの要素は、タイダイのセットアップやクラシックなランニングシューズを解体再構築したリクチュール(RECOUTURE)のスニーカーに見てとれる。展示会では多く見られるはずだが、動画で見せたシグネチャーのバンダナ・クチュールは、中綿入りのブルゾンと日本のブランド「ミーンズワイル(meanswhile)」と協業したマスクのみとなる。
動画はとてつもなくカッコ良かった。でも、あえて苦言を呈するなら、同時に公開されたルック写真の雰囲気が動画と全く異なるのが気になった。発表してすぐにVOGUE RUNWAYに画像がアップされるということは、それだけ世界的な注目を集めているということ。ヒップホップのイメージを付けすぎないように考えたのかもしれないが、構図やモデル選び、スタイリングも見直す余地を感じた。次回以降の課題として、動画とルックの連動性を再考してみてほしい。
文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧
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