「クロエ(Chloé)」2023年秋冬コレクションは、クリエイティブディレクターのガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)が真摯に取り組む「気候変動問題の解決策」を探求する第3章として、女性がリーダーシップを発揮する必要性に焦点を当てた。
ショー会場は、ポンピドゥセンターの施設内。先シーズンのネオンライトの電飾に照らされたフューチャリスティックな印象とは打って変わって、シンプルで真っ白な空間にランウェイが設けられた。
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コレクション前半では上質なシアリングやレザーを多用したロングコートやジャケット、繊細なキャミソールドレスやボディラインが美しいニット編みのレースドレス、ラウンドショルダーのドレス、ナッパレザーを使用したパファースリープのドロップショルダードレスなどクロエのフェミニンなエッセンスを、ガブリエラ・ハーストらしい素材使いやエレガンスなシルエットで表現したルックが続く。
マルチカラーのレザードレスや異なるパッチワークが秀逸なバイカージャケットとパンツ、ストライプのレザーセットアップなどのレザーのステッチングは、メゾンのサヴォアフェールを感じさせる仕上がり。
リサイクルナイロンのフリルがあしらわれたパファージャケットはケープのようなAラインのロング丈で、スポーティになりがちなアイテムをフェミニンなアウターに昇華。ブラックとホワイトのコントラストを効かせた胸元のハートカッティングのドレスやスカート部分がクリノリンパターンをベースにデザインされたドレスは、終盤のロマンティックなムードを助長するピースとなった。
ブラックとホワイトをベースに構成されたコレクションで唯一、異彩を放っていたのがデザイナーの出身地ウルグアイの工芸品を思わせるようなマルチカラーのパッチワークドレスだ。ムンバイを拠点とする刺繍工房であるチャーナキヤ・インターナショナルによって手縫いされた刺繍は、今シーズンのコレクションのテーマにつながる「エステル記」だという。
今シーズン、ガブリエラは「気候変動問題を解決に導くには、女性による革新的な技術や専門知識などが必要不可欠」という考えのもと、コレクションストーリーを構成。17世紀のバロック派の女性画家アルテミシア・ジェンティ(Artemisia Gentileschi)をミューズに据えた。彼女の作品にはパワフルな女性にまつわるテーマが多く用いられており、1629年頃の作品「アハシュエロス王の前のエステル」(ペルシャ帝国の全ユダヤ人の処刑を命じたアハシュエロス王に、自分の民族を助けるよう説得したエステルを描いた作品)もその一つ。この作品からインスピレーション得て、コレクションでは旧約聖書の一書でもある「エステル記」をドレスやバッグに描き、色鮮やかなタペストリーとしても登場させた。
ガブリエラは2022年秋冬コレクションでは地球の持つ再生エネルギーを、2023年春夏コレクションでは核融合というクリーンエネルギーの可能性を探り、今シーズンはそれらの変革をもたらす女性のリーダーシップの必要性を説いている。彼女の場合、それらの主張は必ずしもデザインとしてダイレクトに表現されているわけではなく、クリエイティブアプローチであったり、クリエイションにおけるデザイナーの精神性や信条としてより濃く感じ取ることができる。シンプルで真っ白なランウェイに映える美しい服の中には、今シーズンもガブリエラが信じてやまない変革の必要性や、未来への希望の追求といった揺るぎない情熱が込められていた。
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