
Image by: BED j.w. FORD
「豊かさ」とは抽象的な言葉だ。物質的な充足こそが豊かさだと感じる人もいれば、精神の充実こそが真の豊かさだと信じる人もいる。人にとって定義の異なる言葉だが、自分にとってはどうだろうか。「ベッドフォード(BED j.w. FORD)」の2027年春夏コレクションは、デザイナー 山岸慎平のそうした自問自答から始まった。
ADVERTISING
2025年10月。山岸が旅行でイタリアのチンクエ・テッレを訪れた際、夕暮れの坂道で、2人の婦人がワインを酌み交わしていた。1本のレモンの木を挟んで響く軽快な笑い声。決して贅沢な風景とは言えないにも関わらず、1杯のワインを飲み干した2人の姿は心底満ち足りて見えたという。この経験が、先述した山岸の自問自答の原点だ。今季は肩肘を張ったスタイルではなく、どこか脱力感やウィットに富んだ遊び心あるピースを提案した。

ファーストルックには、ピンストライプのテーラードジャケットに身を包んだスタイルが登場。同素材のスラックスとのセットアップでありながら、規律や厳格さの象徴である従来のスーツスタイルとは印象が異なる。首元にはラフに結んだ細身のスカーフタイをゆったりと携え、フロントボタンは外し、袖を肘まで捲り上げることで小慣れたリラックス感を表現。一方、ラペルに添えたグリーンのブローチや、足元で煌めくビジューシューズなどで、ブランドらしいエレガントな雰囲気も演出している。


今季を象徴するモチーフとして提案したのが、チンクエ・テッレでの出来事に登場する「レモン」だ。シアーなシャツがダークトーンのスタイリングに鮮烈な彩りを添えるだけでなく、その瑞々しい佇まいは、春夏のウェアに不可欠な軽快さと清涼感をもたらしている。


コレクションの足元を彩ったのは、スパンコールをあしらった「スイコック(SUICOKE)」とのコラボレーションシューズ。これまで何度も協業してきた「プリーク(PREEK)」とのピンキーリングは、ともすればカジュアルに傾きがちなコレクション全体の雰囲気を上品に繋ぎとめ、絶妙な均衡を保っている。

今季のトピックの一つとして、ブランド初のグラフィックTシャツの登場も挙げられる。白いボディに深紅のカラーで「ELEGANCE」の文字。しかし、その掠れたプリントや肩を落としたルーズなシルエットは、言葉が本来持つ意味とはかけ離れている。それは、現代の資本主義的な「エレガンス」の定義に対する、山岸なりの皮肉のようにも映った。
コレクション発表を終えた山岸に、自身にとっての「豊かさ」の定義を訊ねると、こんな答えが返ってきた。「家族や友人と過ごす時間や、気持ちの良い朝など精神的なものに豊かさを感じる一方で、『あれが欲しい』『あそこに行きたい』といった欲もたくさんある。物質的な豊かさを求めることを否定することはできない」。その時々の状況や心境によって、私たちが求める豊かさの姿は絶えず揺れ動く。そこに明確な答えを出すことなど、誰にもできないのかもしれない。ただ少なくとも、過酷な天候が続いたパリ・ファッションウィークのなかで、唯一過ごしやすい気候となった最終日。風がそよぐ小さな庭でドリンクを手に眺めたベッドフォードのランウェイは、私にとって紛れもなく「豊かな時間」だった。
最終更新日:
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【注目コレクション】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング

COMME des GARÇONS HOMME PLUS 2027 Spring Summer

【2026年下半期占い】12星座別「日曜日22時占い」特別編

sacai -Men's- 2027 Spring Summer













