
Image by: Dior
ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)による「ディオール(Dior)」がデビューから1年。オートクチュールとして2回目となる2026-27年秋冬コレクションが、パリのロダン美術館の庭園に設営された半屋外のランウェイで発表された。今回は、アメリカ人彫刻家リンダ・ベングリス(Lynda Benglis)の作品にオマージュを捧げ、視点の転換によって伝統的なオートクチュールの造形とフォルムを更新した。
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ジョナサン・アンダーソンの彫刻への視線
ジョナサンとリンダ・ベングリスの取り組みは、今回が初めてではない。「ロエベ(LOEWE)」在籍時に、2シーズンにわたり協業しており、ジョナサンが敬愛するアーティストの一人だ。今回は、リンダの制作プロセスをクチュールの言語で応答する試みとなった。

「人間の手仕事がどこまで自然の造形美に迫れるか」を探求した前回のオートクチュールに続き、今回も自然の中にクチュールの造形を溶け込ませた。特にフォルムの探求は、ジョナサンが長年培ってきたデザイン哲学の核である。アトリエの高度な職人技術を背景に、ジョナサンの実験的なアイデアが具現化され、「創造のラボとしてのクチュール(lab-as-couture)」の本領が発揮された。
「このコレクションは、物質性と形態を別の角度から見ることをテーマにしています。最終的には、素材の中にある抽象性に目を向け、『そこからどのように現実を引き出すのか?』を問いかけているのです」 ――ジョナサン・アンダーソン
注目のファーストルックは、シルクサテンのブラウスとプリーツパンツという、一見するとデイリーウェアの佇まいを持つセットアップ。そこにシアリングのプリーツストールをタイトに巻き付け、ボウを思わせるノット(結び目)を配した。上質な素材を用いたオーセンティックなワードローブに捻りを加えることで、従来のオートクチュールの文脈を更新する、新たな探求の始まりを告げた。

リンダ・ベングリスの手法をクチュールに
ベングリスの手法である「2次元の素材を出発点とし、ノットやプリーツ、モデリングによって3次元の立体へと変換するプロセス」に着目し、クチュールを「形態の法則(Grammar of Forms)」として再解釈。ハンドメイドのプリーツ、結び目、ドレープを駆使し、彫刻的なシルエットを構築した。メタリック、玉虫色、象嵌、ペーパーライクな質感のテキスタイルをアトリエで表現し、柔らかな銀糸の格子模様を重ねることで、ドレスに彫刻的な緊張感と光の揺らぎを与えている。プリーツを施したシルバーラメのビスチェドレスは、まさにその名を用いて「リンダ」と名付けられた。

ビスチェドレス「リンダ」

メゾンのアイコニックな「バー」ジャケットは、シルクシフォンやシアリングを取り入れ、しなやかな構造へと進化を遂げた。特徴的なウエストシェイプは維持しながらも、プリーツ加工や繊細なパラシュートスレッド(糸)が垂れ下がる刺繍によって、新奇な表情を与えている。




また、裾に向けてツイードが解けていくようなグラデーション刺繍を施したシルクシフォンの「バー」コートは、先行して発表されたクルーズおよびメンズコレクションのルックと連動しており、ジェンダーやカテゴリーを横断するジョナサンらしい多角的なアプローチを示す一着となった。


扇のドレスとサボテンの花
大きな扇状のモチーフがあしらわれたドレスや刺繍のセットアップは、ベングリスが1970年代に発表した「ピーコック(Peacock)」シリーズに由来する。インド・アーメダバードのサラバイ邸で観察したクジャクから着想を得た、色鮮やかな花々やビーズの装飾をクチュールの技法に翻訳。1979年の作品に見られる扇のモチーフを、シルクチュールとビーズ糸のチャームによる緻密な刺繍で再現した。




創設者クリスチャン・ディオールが愛した庭園のイメージは、ベングリスがアトリエを構えるニューメキシコ州サンタフェの荒野へと精神的につなぎ合わされた。シルクシフォンのドレスやスカートスーツの全面を覆う刺繍は、その地に咲くサボテンの花を模したものである。




バッグやシューズなどのアクセサリー類もコレクションと呼応し、フランスとインドの職人によって共同制作。18世紀のインドのテキスタイル断片をパッチワークしたディテールや、花を咲かせたサボテン、アルマジロを象った彫刻的なミノディエール(イブニングバッグ)が登場した。


オートクチュールをロダン美術館で一般公開
前シーズン同様、今回もコレクション発表翌日から、その舞台となったロダン美術館で「Grammar of Forms(フォルムの文法)」展が開催中。ディオールのヘリテージ、ベングリスの彫刻作品、そして今季のルックを一同に会し、着想源から驚異的な手仕事のプロセスにいたるまでを広く公開することで、現代におけるオートクチュールの存在意義を広く提示する試みだ。

ファッションとアートの境界を融解させ、衣服に新たな美と知覚を与えるジョナサンのクリエイションは、回を重ねるごとに説得力を増している。伝統的な手仕事を結集しながらも、ヘリテージを鮮やかに解体。既成概念を刷新する「クチュールの彫刻」が、ディオールの新たな可能性を切り拓く。
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