ミスターイットの初ランウェイを飾る生地を作る“再生エネルギー”の中小企業 異業種視点で鳴らすファッション業界への警鐘

ミスターイットの初ランウェイを飾る生地を作る“再生エネルギー”の中小企業 異業種視点で鳴らすファッション業界への警鐘

 「大量生産・大量消費・大量廃棄」のイメージが根強いアパレル・繊維業界。EUは数年以内にEU市場に流通する売れ残った繊維製品の廃棄を禁止することに暫定合意したと発表するなど、その取り組みに対して企業に求められる姿勢は「WILL」ではなく「MUST」になりつつある。

 「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」で経験を積んだデザイナー 砂川卓也が手掛けるファッションブランド「ミスターイット(mister it.)」が初のランウェイショーで発表した2024年秋冬コレクションで使用された生地を開発したのは、太陽光発電や蓄電池を中心に再生エネルギー事業を展開する「協和ホールディングス」が新たに始動したファブリックブランド「デコンファブ(decon FAB)」。ショーで初披露となったテキスタイルは、サステナブルな生産背景を叶えながら、丈夫で実用性があり、クリエイションに落とし込みやすいよう独特の風合いも備える。

 自ら糸の開発までを行うほど素材に強いこだわりを持つ砂川が認めた異業種企業は、なぜ繊維業界に参入を果たしたのか。協和ホールディングス代表取締役CEOの立松和也氏と繊維事業部 マネージャーの須藤真司氏に話を聞いた。

◾️協和ホールディングス
「環境と人を豊かにする」をテーマに多岐に渡る事業を運営する、社員数14人の中小企業。金属加工業を営む「協和精機」を継いだ4代目である現社長が2017年に設立した。太陽光発電などの再生エネルギー事業に加え、セルフコンディショニングブランド「DECON」を展開している。長年繊維業界で経験を積んだ須藤が参画したことをきっかけに、新たにファブリックブランド「decon FAB」をローンチ。ミスターイットの2024年秋冬ショーで本格デビューを果たした。

左:立松和也 代表取締役CEO、右:須藤真司 繊維事業部 マネージャー

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繊維も金属も課題は同じ 日本を“良く”するためにできること

協和精機は金属加工業を営まれていますが、現在は協和ホールディングスで立松さんが立ち上げた再生エネルギー事業が軌道に乗っているそうですね。

立松和也(以下、立松):グループ会社である協和精機は祖父が立ち上げた会社で、私は新卒で約4年半他社で太陽光発電の営業を担当した後、協和精機に戻り2016年に跡を継ぎました。協和精機は元々町工場のような小さな体制で半導体向けの金属部品を製造していたんですが、半導体市場は需要の浮き沈みが激しく社員に安定した環境を提供できていないことが問題としてありました。それで別の事業で安定した採算を取るため、前職で培った知見を活かして2020年に再生エネルギー事業を立ち上げました。

その後、ライフスタイル領域、ついには繊維業界に参入されます。太陽光発電事業にもまだ伸び代は大きくあると思いますが、限られたリソースを新たな事業に割く理由は?

立松:太陽光発電は、世界的に注目されている技術で、まだまだ伸びていく市場だと考えています。でもそこで得た利益をどのように活かしていくのか、と考えたときに、自分たちの私腹を肥やすことだけを目的にするのではなく、何か新たなものづくりに投資したいと考えました。

繊維業界に注目されたきっかけは? 

立松:長年繊維業界でセールスや生地の開発などものづくりに携わっていた須藤に出会い、糸や生地製造、縫製を行う国内の中小企業の状況が私たちと同様に厳しいものだと知ったからです。

須藤真司(以下、須藤):前職では数字を上げることをミッションとしていましたが、自分たちだけが成功しても仕方がないのでは、という根本的な疑念が徐々に生まれました。繊維業界が元気をなくしていっている中で、何か新しい風穴を開けたい、未来のためになることをしたいと思っていた時に立松に出会い、新しい未来を作れる可能性を感じたんです。

実際に繊維業界の生産現場をご覧になってみての感想は?

立松:正直な感想として、金属加工業界の方がまだマシと思えてしまうほど繊維業界の製造現場にはアップデートされていない価値観も多く、深刻な問題が多いように感じました。業界関係なくやれることをやってこの現状を変えていかないと、日本は絶対に良くならない。「日本をより良く」という視点でも繊維や「ファッション」という、人の心や文化、日本の技術力の詰まった分野の環境には注目しています。

 弊社のエネルギー事業では、お客様の課題に合わせた再生可能エネルギーの活用提案を行うコンサルティング業務を行っており、会社ごとの課題に向き合い最適な仕組みづくりを行うノウハウを持っていると自負しています。「中小企業の課題を理解したコンサル」としての目線から、ファッションや繊維業界においても大量生産・大量消費を是正する仕組みを考え抜けば、何か新しくいいものが作れるのではないでしょうか。

「日本をより良く」というのは具体的には?

立松:「良く」には、人々の生活の豊さという意味での「生活環境」、経済的な豊かさや労働環境を担保する「経済環境」、そしてエネルギーの運用や環境問題に対する姿勢「地球環境」という3つの視点の豊かさがあると考えています。繊維の分野では、まずテキスタイル事業を通じてその3つの豊さをファッション業界にもたらす新たな仕組みづくりに挑戦したいと考え「decon FAB」を立ち上げました。

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サステナブルは、カッコよくなくては意味がない

decon FABは具体的にどのようなビジネスを展開していくんですか?

須藤:BtoBで、オリジナルの生地の製作・国内外への販売に加え、他社さんの製品のプロデュースも行っていきます。企業が果たす社会的責任を評価して、その企業の製品を選ぶという考え方も普及しつつあるので、ただ布を作るだけでない私たちの生地作りへの考え方や、やろうとしていることに対して追い風は吹いていると思います。

立松:サステナブルへの考えは欧州の方が圧倒的に進んでいます。なので、世界で戦うためにはその常識を先にインプットしておく必要がある。ある程度他の事業での成功と安定した財源があるからこそ、まだ誰もやったことがない取り組みに恐れず自由に挑戦できる環境を整えています。

Imaged by decon FAB

再生エネルギー事業というサステナブルな取り組みを主体とされていますが、decon FAB生地作りのテーマもサステナに重きを置いているんでしょうか?

須藤:協和ホールディングスは、「常識にとらわれず、さまざまな社会課題解決を通して日本をより良くしたい」というヴィジョンを持ち、根本の考え方にサステナブルがある会社です。後付けで始めるファッションのサステナブルは、形だけのアプローチになってしまい、モノとしてのかっこよさに欠けたものも多いと思いますが、それでは意味がない。実際それがモノとして魅力的だから服になって意味があるので、当たり前のようにサステナブルで、当たり前にかっこいい生地を作ります。

生地の製造面ではどのような取り組みを検討していますか?

立松:生産環境やリサイクル繊維の回収フロー、リサイクル製品の製造方法も見直して、自分たちの作るものに対する責任をしっかりと持ちたいです。労働環境に関しては、工場を経営している知見を活かし細やかな原価計算やフローの効率化、人材配置の最適化も可能だと考えています。工場自体の電源供給を再生エネルギーに切り替えることで、工場の脱炭素化も促進した上で非化石証書*を買うことができればクリーンな生産背景を売りにすることもできるでしょう。すでに、今生産を依頼している一部の工場に対して太陽光パネルを設置する提案も始めています。そういったハード面での支援からコンサルティングまでを一括で行える点も強みにしていきたいですね。

非化石証書:CO2を排出しない方法で発電された電力を活用している企業が、その環境に対する取り組みを価値として取引ができるように証書化したもの。

日本の繊維業界では職人の後継者不足が特に問題視されています。

立松:人材不足に関しては、この業界に入りたいと若い人に思ってもらえるイメージを業界全体で作るしかありません。「小学生の将来の夢ランキング」に町工場の職人がランクインするには、かっこよさも給料も、ホワイトさも、健康に働くために不可欠なことが足りていないと強く感じています。ファッション業界は、外面は華やかでかっこいいですが、その裏側は厳しい、というイメージは刷新しなくてはいけません。生産から流通、商品と全てがカッコいい業界にしていきたいです。

須藤:他社も真似できるような仕組みづくりをして、業界全体が良くなるような働きかけができたらいいなと思います。

再生エネルギー事業で得た利益を新事業に充てていますが、今後も新事業を立ち上げていく可能性は?

立松:その予定です。繊維に限らず、横に広く領域を広げ、社内外に信頼できる各分野のスペシャリストを仲間にしていきたい。それぞれが違うフィールドで能力を発揮しながらも、「日本をより良くしていく」という同じ目標を持っている会社が理想です。

5年後には分社化して独立した採算が取れるようにしたいですね。(須藤)

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ビジネスとものづくり、両者のプロとして

decon FABを用いたコレクションを発表したミスターイットの砂川さんとの出会いは?

須藤:2016年にパリで出会いました。私は当時から立松とも友人だったので、私から砂川さんを紹介しました。

立松:私がお会いしたのは2018年で、まだ協和精機一本の時代ですが、彼の制作への熱意に胸打たれ、ご協力させてもらうことになりました。実際に工場に来ていただいて、コレクションアイテムのためにミスターイットのロゴを彫った金属パーツも製作しています。

mister it. 2019-2020AWコレクションより。コートの胸元の金属パーツを作成した。

Imaged by mister it.

今回のミスターイットのコレクションでは、具体的にはどのような生地を提供したんですか?

須藤:彼のクリエイティビティを再現するのは大変でもあり楽しみな作業です。前回のコレクションではウールのメルトンコートを作っていたのですが、今回は「ウールのメルトンを再現しながら別素材で軽いものを作りたい」とオーダーがありました。試行錯誤しましたが、コットンを使用しながらもかなりウールに近い質感を再現できていると思います。これは三重織で織り上げることで肉厚になっているんですが、素材としても面白いですし、丈夫でへたりにくく長く着用できる生地だという点でも私たちのコンセプトに沿わせることができました。

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 このほかには、以前から作っている、着用できなくなったシルクの着物を反毛し、オーガニックコットンとブレンドして再び糸にしたものを緯糸に使用したデニムも共にアイデアを出し合いながら今回のために作り上げました。元の着物は金糸や銀糸なども混ざっていますし糸の色に細かな違いがあるので、織り上がった生地の表情も複雑で豊かになります。砂川さんは不揃いで画一化されていないテイストも好むので、こういったディテールを気に入ってくれているようです。

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今後もファッションブランドとこのような取り組みを行っていく?

須藤:ブランドと連携したオリジナル生地の製作は継続する予定です。現在は、協和ホールディングスのユニフォームを自社で生地から作っているのですが、そういったファッションアイテムだけではない取り組みも広げていきたいです。

最後に、今後decon FABが目指す生地メーカーとしての理想の姿を教えてください。

立松:製造業にはビジネス視点の広い視点と、職人の深い視点の両方が必要だと思っています。繊維業界が疲弊してしまったのは、これを両立できなかったからだと考えていて。それを理解し、新しい構造自体を作っていきたい。そして、私たちと関わった方々の脱炭素が進み、ゆくゆくは経営や利益までが改善されていくような良い循環作りのお手伝いができたら嬉しいです。

須藤:相談されたことに対して言われるがままに作る一方通行な生産ではなく、こちらからも企画を提案し、面白いものを一緒に作っていけるプロフェッショナルとして、社会と繋がりを持った生地メーカーを目指します。服の生産背景に興味が持てるようなものづくりをしていきますので、そういう視点でもぜひミスターイットの新作に注目してみてください。

mister it. 2024年秋冬

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mister it.2024年秋冬コレクション

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