Image by: 杉田聖司
「designer’s dialogue」は、アップカミングなデザイナーの今ここ現在地から見えるもの、感じるもの、つくるものについて対話を重ねていくインタビュー連載。ファッションマガジン「apartment」の杉田聖司を聞き手に、デザイナー自身の半生を遡りながら、脈々と受け継がれる服飾史との繋ぎ目を確かめながら、これからのつくり手のあり方を探っていく。
第1回は、ファッションブランド「フルス(fluss)」デザイナーの児玉耀。2021年のデビューからカラフルな色づかいとニットやフェルトなどの生地づかいを強みにコレクションを発表。その強みに「頼りたくなかった」と言う、新たなアプローチが印象的な2024年春夏コレクションの展示会を終えた直後の児玉の現在地を訪ねた。
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「着たい」よりも「作りたい」、デザイナーとしての原体験
ーまずは幼少期の児玉さんについて教えてください。過去のインタビューでは、ご自身のおじいさんをキーパーソンとして挙げられていました。
アイロンビーズや手芸にはまったり、祖父と一緒にシルバニアファミリーの家も自作していました。ベニヤ板を切ることからはじめて、家の周りには芝を敷いて、ソファのカバーを手縫いして、あとは食べ物も紙粘土で作ったり。楽しかったですね。
ー服よりもさらに大きなスケールで世界観を作り上げていたんですね。では、服を作ろうと思ったきっかけは?
母が読んでいた婦人誌に載っていた服を見て作りたいと思いました。ものづくりそのものが好きだったから、ファッションへの興味も「着たい」よりもまず「作りたい」だったんです。
ー初めて作った服はどんな服ですか?
その雑誌に載っていたブラウスだったと思います。アームホールが吊れちゃったり、辻褄が合わなかったり、着れたようなモノじゃないですが…。
ー服を作ることが楽しかった。一方でご自身が服を着ること、装うことに興味はあったんですか?
もちろんありました。だけど自分が着たい服を作りたいとは思っていなかった。「装いたい」という気持ちが「作りたい」という気持ちの原点にあるわけではないんです。僕がファッションに興味を持ったのは、コレクション誌「gap PRESS」の存在も大きくて。非現実的と言ってもいいほどの、過剰な演出やドラマティックな世界観のクリエーション、ファッション業界の最後のバブルみたいな時代を見て、それを面白いと思っていました。2000年代の初め、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)が「ディオール(DIOR)」、アルベール・エルバス(Alber Elbaz)が「ランバン(LANVIN)」、ニコラ・ ゲスキエール(Nicolas Ghesquière)が「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のディレクターをしていた時期ですね。
ー児玉さん自身が装うためではなく、ある世界観をつくりあげることへの手がかりとして服を作っていたのかなと想像しました。当時、服作りは独学でやっていた?
独学で続けていました。着ていくわけでもない服がどんどん家に溜まっていって。でもあるとき「見せたいな」って急に思って。大学のサークルで服をつくりながら、ここのがっこう(coconogacco)にも通って、ファッションを学びはじめました。
ー大学卒業後にはロンドンにあるセントラル・セント・マーチンズ(以下セントマ)に進学されます。セントマではどのような服作りをされていたんですか?
セントマでは「スターティングポイント」と呼ばれるキーワードをまず決めて、それについてリサーチして、さらにキーワードを増やしたり削ったり、その変遷のなかで服づくりをしていました。ブレてもいい、右往左往できるのが心地よかったです。フルスでの服作りもそんな感じかもしれない。
言葉よりも伝わる服づくりを
ー2022年は学生時代を過ごしたロンドンでの思い出をベースにしたコレクションを発表するなど、ロンドンという街への想いが強い印象でした。1年経って今はいかがでしょうか?
今はロンドンに限らず言葉のわからない場所に行きたいですね。
ー言葉のわからない場所というのは?
僕は自分で自分について言葉で語るのがあまり得意ではなくて。それはきっと全部を言葉に換えることはできないのに、(語ることで)ひとまず全部が言葉に換えられてしまうのは辛くないですか?その点、ファッションはヴィジュアルや空気感でのコミュニケーションだと思うから自分にフィットしている。
ーファッションが第一言語になっている場所、というような感覚なんですかね。では、語る前の児玉さんは自分について自分の中では理解しているという感覚なんでしょうか?敢えてお聞きすると、例えば「一番好きな食べ物」は自分で理解していますか?
好きなもの、、、。ビール。でも「食べ物」じゃないですよね(笑)。逆に嫌いな食べ物が出てきちゃう。納豆とキノコ。キノコは最近食べれるようになってきたんですけど、納豆は物心ついてから「なんでこんな臭いもの食べてるんだろう」って白けちゃった。
ー嫌いな食べ物はハッキリしている感じ、とても共感します。逆に自分がどこにポジティブを感じるかって、見極めが難しいなと思っていて。児玉さんはコレクションをつくる時は、見極めにくいポジティブなところか、見極めやすいネガティヴなところか、どちらを着想源にスタートされることが多いですか?
服を作る時は自分のポジティブな好きなものからスタートさせますね。2023年秋冬など時折例外もありますが、基本的には自分の好きなものを発見して製作しています。(2023年秋冬は児玉が苦手意識を持つ「スポーツ」をテーマにしたコレクションを発表した)
「結論の出ることのない世界」を映した最新コレクション
ー最新コレクションの2024年春夏について。今回はどのような着想から製作されたんでしょうか?
抽象的ですが「透け感」「エレガント」「モード」「キラキラ」など、自分の中にあったキーワードからです。フルスは一応メンズの文脈に載せたくて、例えばスパンコールをモヘアのトップスに編み込んだりして、キーワードを反映させていきました。
ー試着させてもらったブルーの半袖シャツも、ボックスシルエットに透け感のある生地のコントラストが面白かったです。ステイトメントには「結論の出ることのないグレーゾーンの世界を映し出したい」とあるように、カジュアルな要素は引き継がれつつ、キーワードに挙がった対照的な要素が生地やディテールから感じられるシーズンでした。
基本飽き性なので、シーズンを終えたら一旦全てに区切りをつけたくなっちゃう。だから毎シーズンの雰囲気も結構バラバラになってしまいます。
ーたしかに毎シーズンの印象は違いますが、共通するムードはあるなと。例えば、このマッスルニットはどのようなインスピレーションからですか?ざっくりした編みはこれまでのフルスらしさを感じましたが、体に沿ったシルエットが新鮮で、いまイメージボードに貼ってあるハリー・スタイルズ(Harry Styles)も似合いそうだなと思いました。
思いつきです、、、。(ハリーは)特別好きというわけではないんですけど、「今」の男性像の象徴だなと思っていて。彼が今年のグラミーでシルバーのジャンプスーツを着ていて、単純に楽しそうなもの、ハッピーなものっていいなって。今のメンズのレッドカーペットシーンはタキシードの文脈で進んできたものから大きく揺れ動いている。それがフェミニンな装いに振り切るわけでもなく。そこが面白いなと思って、その影響はあるかもしれません。
ルックから生まれる新しい男性像
ー今回のルックは児玉さんがスタイリングされているんですか?白タイツにストライプのハーフパンツを合わせたルックが新鮮でした。
毎シーズン僕がスタイリングを組んでいます。スタイリングを組んでいる時が一番楽しいんです。
ー僕自身、フルスのスタイリングの提案に毎シーズンワクワクしています。デザイナーの仕事が服を作るだけじゃないようにも思える昨今ですが、スタイリングやルックにはどんなこだわりがありますか?
僕は「服」と「ファッション」は近いけど近くない存在だと思っていて。服はファッションをデザインする上での一つの欠かせない要素であって、スタイリングも同様に欠かせない要素。だからこそ、服があって、それをスタイリングしたルックを通して、態度みたいなものを表したいんです。今の自分はそういう非物質的な表現に惹かれています。普段から(コレクションの)アイテムが出来上がっただけでは何も掴めてない感じがする。ルックを撮影して「あー楽しかった」「やり切った」ってやっと思えます。
ー今シーズンのフルスのアティテュードやスタイルとして、新しい男性像を提案しているなと感じました。児玉さん自身にそのような意識はあったんですか?
特に意識している点ではないです。でも自分が作ったら自然とそうなると思います。シーズンごとにコンセプトも目指す人物像も毎回変わるけど、僕が作っていることに変わりはないからそういうものに見えるんじゃないかな。
ー男性像の提案という点で影響を受けたデザイナーを挙げるとしたら?
ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)は衝撃的でした。彼のコレクションを見て「これまでこういう人はどうしていなかったんだろう?」と、新たな人間像がスッと(自分の世界に)入ってきた瞬間があって。そこからメンズは開拓しがいがあるなと興味が湧きましたね。
ーフルスはメンズブランドという認識をご自身では持っていますか?これまでの5シーズンのうち、4シーズンはメンズモデル1名で発表されています。
そんなつもりは全然なくて、もちろん女性が着ることも想像しています。どっちに向けてというわけではなく、どちらにもはまればいいかなと。今回のモデルの彼はある意味マネキンのようで、性的な突出を感じない独特な世界観を持っていた。だから彼にお願いしました。あと、今回はこれまでで自分が一番着たいもの、というかそのちょっと先というか。「着れたら着たいかも」って感じ。今シーズンだったら、さっきも話題に挙がったこのスパンコールのシルバーのトップスを着たいですね。そういう世界線で作りました。
人としての出で立ちを提案したい
ーエレガントなディテールや「JFW NEXT BRAND AWARD」への挑戦など、ブランドとして新たなステップを踏み出されていると感じています。そんなフルスの今後の展望を教えてください。
これまでのフルスは「かわいい」と言われることが多いし、自分でもものとして強いものができたと思うけど、これからは単純な「かわいい」ではない、もっと厚みのある提案をしていきたいです。
ー2024年春夏はまさにその一歩のようにも感じますね。「かわいい」ではない次の提案を敢えて言葉に例えるとしたらなんでしょうか?
うーん。「素敵」になりたい、、、かも。
ー安直ですが、いま「素敵なおばさま」「素敵なおじさま」という言葉が頭に思い浮かんで。僕の主観だとそれらは「若さ」とか「女性性」「男性性」みたいなところだけではない、もっと「人間としていいな」みたいな感覚です。
一つステージが上がった感じというか(笑)。人としての出で立ちが魅力的な人。そういう人間像を提案できるようにしたいです。
◾️fluss:Instagram
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