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川久保玲やカニエに才能を見出された新星、「ERL」がランウェイデビューで見せつけた"違い"

 2018年に創設された新星がミラノでランウェイデビューを飾った。ロサンゼルス発のブランド「イー アール エル(ERL)」を手掛けるイーライ・ラッセル・リネッツ(Eli Russell Linnetz)は、第104回ピッティ・イマージネ・ウオモ(Pitti Imagine Uomo)のゲストデザイナーに選出され、個人としては「ディオール(DIOR)」のスプリング 2023 メンズ カプセルコレクション以来、ブランドとしては初のファッションショーとなった。

2024年春夏コレクション

Image by: ERL

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 まずは、聞き慣れていないユーザーのためにもイー アール エルの沿革を見ていこう。イー アール エルは米国カリフォルニア州ベニスビーチ出身で、1990年生まれのイーライ・ラッセル・リネッツが立ち上げたユニセックスファッションブランド。リネッツは興味深い出自で、10代の頃母親にミシンを買ってもらい縫製に目覚め、返信はなかったそうだが、偽の履歴書を作って「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」に送ったという逸話もある。その後、米国の劇作家デヴィッド・マメット(David Mamet)の元でひょんなことから衣装を作り始め、2016年には昨今ファッション業界を賑わせてきたYeことカニエ・ウェスト(Kanye West)のミュージックビデオ「フェイマス(Famous)」と「フェード(Fade)」を監修。リネッツは「Yeのチルドレン」とされる、「1017 アリクス 9SM (1017 ALYX 9SM)」と「ジバンシィ(GIVENCHY)」を手掛けるマシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M Williams)や「オフ-ホワイト™(OFF-WHITE™)」の創始者で、ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のメンズ・アーティスティック・デザイナーを務めたヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)のように、いわゆるセントラル・セント・マーチンズ (Central Saint Martins)やアントワープ王立芸術アカデミーを卒業したファッションエリートではなく、デザイナーというよりはディレクターとしての能力を買われてきたタイプのクリエイターで、それは現代のトップオブトップブランドが求めるクリエイター像でもある。川久保玲とエイドリアン・ジョフィ(Adrian Joffe)に見出され、「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」のグラフィックを手掛けたほか、ブランド立ち上げ早々にドーバー ストリート マーケットでの取り扱いが決まったことをはじめ、若手デザイナーの登竜門「LVMHプライズ2022」のファイナリストに選出「ディオール(DIOR)」スプリング 2023 メンズ カプセルコレクションにゲストデザイナーとして参加してコレクションを発表するなど、「今、世界で最も注目されているデザイナー」と形容しても誇張しすぎと言えないレベルにいる。

 満を持してとなった初ショーの会場は大箱とは言えなかったが、それでもコム デ ギャルソンのチームが来場するなど、注目度の高さが伺えた。ショー前の会場には波の音が響き、「星に願いを」のアレンジ楽曲で開幕。ピッティ会場にはERLのインスタレーションが展開され、第104回ピッティ・イマージネ・ウオモの全体テーマである「Pitti Games」との関連性も想起させる。

ERLのインスタレーション

Image by: FASHIONSNAP

ERLのインスタレーション

Image by: FASHIONSNAP

 そんなリネッツ手掛ける「ERL」が、2024年春夏コレクションで何か革新的なことをしたかというと、ルックを見ればわかると思うが、そうではないと多くの方が思うのではないか。自由の女神がモチーフであろうルックのように多少奇を衒っているものもあるが、新素材を使うわけでも、シルエットやスタイリングにどこにもない目新しさがあるわけもない。ただそこは確かなクリエイティブディレクション能力の高さからなのだろう、「見たことあるはずなのに新しく見える」という相対評価の中にある絶対的価値を、初のランウェイショーで遺憾無く発揮した。

Image by: ERL

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 メタリックな素材と宇宙人のようなサングラスから、コレクション全体としてフューチャリスティックと簡潔にカテゴライズしようにも、ゆとりのあるボックスシルエットのニットフーディー、ベルボトムパンツの裾を余らせて作ったシルエット、大ぶりなピークドラペルドベストといった野暮ったさが邪魔をする。おそらくはそこを狙っての意図したデザインであろうが、その中で衣装を作り続けてきたリネッツのファンタジー性が上手く溶け込み、良い意味での違和感を生み出している。ジャケットのショルダーの落とし方しかり、袖丈の絶妙な余らせ方しかり、バランス感覚が優れていると言ってしまえばそれまでだが、メンズコレクションで最も大事なスタイリングという点において、近い将来、ビッグメゾンのクリエイティブディレクターを担う可能性もあるであろうリネッツは違いを示した。

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ERL 2024年春夏

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ERL 2024年春夏コレクション

2024 SPRING SUMMERファッションショー

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