Fashion 業界徒然日記

業界徒然日記《5》「パリに行けば何かが変わるはず」セントマ出身デザイナー斎藤さんの場合

Image by: FASHIONSNAP

 業界で働く人達の通常では語られることのない"本音"を覗く人気連載「業界徒然日記」。今回はデザイナーの斎藤 大輔さん(仮名)。ブランドを始めて早5年、セントマ出身の本格派にも関わらず国内の店舗数はなかなか増えず、売上も頭打ち。周りからのアドバイスもあり、意を決して大胆にもパリ進出を決めて初の海外展示会に挑んだ1月3週目。その手応えは?ちなみに周りに似たような人がいても、あくまでもフィクションです。

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- プロフィール -
氏名:斎藤 大輔(仮名)
年齢:34歳
職業:デザイナー
大学:セントラル・セント・マーチンズ美術大学(Central Saint Martins)
年収:約450万円
住居:学芸大学
家賃:9万2千円
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最近千駄ヶ谷にアトリエを構えた、セントマ出身の34歳。大手アパレルメーカーでデザインアシスタントを経験した後、親に資金援助をしてもらい28歳で自身のメンズブランドを立ち上げ。公表していないが、昨年から外注で大手アパレルのデザインも担当している。国内17店舗、海外2店舗で取り扱いがあるが、大手の取引先がなく小ロット展開なので儲かってはいない。海外店舗拡大に向け、今シーズンからパリの合同展に参加する。

■1月16日(月)

展示会でみせるためのルックを奥多摩で撮影。極寒でモデルが苛立っているのがわかったが、気付かぬフリをして撮影に望む。というか前回のモデルよりも良い金額払っているしそれくらい我慢しろよ。今回のカメラマン(43歳)はスタイリストに紹介してもらって初めて仕事をする人。コミュニケーション下手な人で、モデルとほとんど会話をせず撮影していたため、ちゃんと撮れているのか不安になった(年上なので大丈夫ですか?撮れていますか?とは言いづらい。そしてこの無茶苦茶なスケジュール感で頭が上がらない)。でもデータをちょっと見せてもらうと、コレクションテーマ「ノスタルジー」を踏まえた本当に素敵な写真で驚いた。これまで事細かく指示するスタイルだったが、実力ある人に世界観だけ伝えて撮り下ろしてもらうのもありだなと。撮影終了後、案の定パリの展示会までに写真のレタッチは間に合わないと言われる(まあパリ展にはレタッチ前の写真でなんとかと思っていたから想定内)。

※極寒でモデルが苛立っている→真冬の雪上でモデルだけTシャツという過酷な仕事もある

■1月17日(火)

パリに持っていくサンプルをバッグに詰める。そのとき、シャツの仕様が間違っていることに今更気づいてしまった。至急工場にクレームを入れるが、もちろん今からじゃ間に合わないため、自分でサンプルを縫い直すことに(生地のストックがアトリエになかったらと思うとゾッとする)。縫製は学生時代から苦手で、インターンの力を借りて徹夜で縫い上げる。パリ直前、しかも自分のチェックミスで寝ずの作業を強いるのは流石に可哀想だと思い、インターンにはキャバクラに連れて行くという約束で手を打ってもらった。

※キャバクラ→多くの場合は相席屋になることが。

■1月18日(水)

フライト当日。荷物の輸送費は高いので、キャリーバッグ3つをスタッフと二人で持っていくことに。海外に行くのは学生のとき以来で、久しぶりの飛行機にちょっとテンションがあがる。ブランドのインスタに空港で撮ったなんでもない写真をあげようかと思ったが、スタッフに「おしゃれじゃない写真はブランディングとして微妙」と言われ、まあ確かにと納得。結局フォロワーが150人しかいない個人アカウントに投稿した(いいね!数は21)。

※結局フォロワーが150人しかいない→それでも多い方である

■1月19日(フライト)

エコノミーにしては昨夜徹夜したこともあってよく寝れた。ただ2月に国内展をするので、その準備をしないとと考えると今から憂鬱に。パリ展に気を取られ、インビテーションを作り忘れていたことに気づいてしまったからだ。電子メールだけじゃだめかなと一瞬脳裏をよぎったが、流石にその妥協は許せなかった。というか今年から発表時期を早めたが、秋冬コレクションを2月に日本で発表するこの時代の流れ間違ってね?と自分のミスを世の中のせいにするように機内でスタッフに話した。

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到着し、偵察の意味も込めてセントマ時代の同級生だったイギリス人デザイナー(自分より売上が5倍以上ある)と飲む。話題の中心はヴェトモン。ストリートモードを提案する彼はどうやら「ヴェトモン(VETEMENTS)」が好きじゃないらしく、「マルタン マルジェラ(Martin Margiela)の焼き直しだ」と豪語していた(ちなみに彼の前回のコレクションでヴェトモンっぽいオーバーサイズのフーディーがあったが、今日の飲みを奢ってくれるということだったのでそこには触れず)。

※セントマ時代の同級生→ファンデーション(1年間)、BA(学士)、MA(修士)がありBAもしくはMAが正式なセントマ卒として扱われる。ちなみに恐ろしく学費がかかる。

■1月20日(現地時間)

いよいよパリでの展示会。狭い会場に約120ブランドが出展しており、ぎゅうぎゅうに詰めた展示スペースにマジかと驚愕する。コレクションの世界観を伝えやすくするために日本から持ってきたオブジェを置くスペースもない。会場責任者に話しても取り合ってもらえず、諦めてアイロンがけに専念する。なんとか準備を終え、オープンする前に他の出展者の服を観察。色々見て回ったが、正直日本のブランドのほうが全然クリエーティブだなと思った(ただ、関税の関係で日本ブランドは高すぎる)。

※関税の関係で日本ブランドは高すぎる→これに為替が絡むと恐ろしい価格になってしまう。

■1月21日(現地時間)

日本のスタイリストからメールで、トレンディドラマに出演中の某アイドル系俳優にブランドの服を着させたいとリース願いが。これでも見え方を大事にしてきたブランドなので断ろうと思っていたが、スタッフから「絶対リースしたほうがいい!」と説得される。どうやら昔からのファンらしい。信頼するスタッフに言われたので、とりあえず日本に戻って詳細を聞くことにした。最近はリースが増えているが、スタイリストによってはサンプルがボロボロになって返ってくるのであまり積極的にはなれない(窪塚洋介さんが着るなら絶対貸し出す)。リース代を有料にしようかと考えながら、全く人が来ない展示会2日目を終える。

※どうやら昔からのファンらしい→このように多くの場合、情実リースが行われる

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■1月22日(現地時間)

展示会最終日。いくつか話をもらえたが、イスラエルやタイなど全く知らないセレクトショップばかりだったので不安になる(先輩デザイナーから卸してもちゃんと支払ってくれない海外セレクトショップが多いと聞いていたので)。展示会も残り2時間。そこにあのコレットのバイヤーが現れ流石にテンションが上がる。が、さくっと通り過ぎ、無事初のパリ展が終了する。

※卸してもちゃんと支払ってくれない→冗談のようだが、本当に多い

撤収を終え疲れていたにも関わらず、パリに来ていた日本のファッション誌の編集さんに無理やり誘われ飲みに。「SNSの普及で、わかりやすいデザインが人気になっている」という話題に熱が入る。パターンにこだわって服を作っている自分だが、編集者曰く「そんな細かいことは消費者は見ていない」とのこと。記号性が大事なのもわかるが、果たしてそれがクリエーションなのか?そう訴えたら「だから売れてないんだよ」とバッサリ斬られた。飲みに行ったことを、心底後悔する。

※だから売れてないんだよ→ちなみに「おたくの雑誌も売れてないじゃないですか!」とは誰も言えない

 

> この日記はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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