Image by: Daisuke Shima

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フレグランスの魅力とは、単に“匂い”だけじゃない。どんな思いがどのような香料やボトルに託されているのか…そんな奥深さを解き明かすフレグランス連載。
今回は、「T.T」「両足院」とのコラボレーションを京都で実施した「アルパ(Arpa)」の創業者、バーナベ・フィリオン(Barnabé Fillion)にインタビュー。
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両足院で開催された「VACIO Senko no Ku(閃光の空)」。アルミニウム、アクリル、ガラス繊維板を組み合わせたインスタレーションは、それぞれ上から見ると源氏香図を描いていることがわかる
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桜薫る4月、アルパがT.T、両足院とのコラボレーションによるフレグランスを発表した。祇園にある総合芸術空間T.Tと、そこからほど近い両足院を発表の場とし、それぞれで展開したユニークなインスタレーションは多くのメディアに取り上げられたこともあり、短期間にも関わらず想定を大きく上回る来場者数を記録。商品の売れ行きも好調で、特にお香が人気を集めているという。
アルパとは、2020年にバーナベ・フィリオンが立ち上げたブランドである。バーナベ・フィリオンをご存じだろうか?「イソップ(Aēsop)」で「マラケッシュ インテンス」や「ローズ」、3部作の「アザートピアス」など、静寂を漂わせたスモーキーな香りを数多く創作し、ジェンダーを問わず人気を博す調香師だ。

バーナベ・フィリオン:アルパ創設者。調香師にとどまらず、写真、植物学などの知識を背景に創作を行うマルチディシプリナリー・アーティスト
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昨年12月に開催された総合芸術空間T.Tでのポップアップが日本初登場となるが、実はそれ以前から日本展開は検討されており、2年ほど前の展示会で受けた衝撃は今でも忘れられない。
フィリオンらしさ漂う香りはもちろん、美しい配色のボトル、リフィルから漏斗でリキッドを注ぎ入れるひと手間、ガラスピペットで香りをまとうという所作、ボトルを収める半透明のグリセリンケース⎯⎯これにも香りを染み込ませてあり、空間に香りを拡散させると同時に、経年変化を楽しめるオブジェという仕立て。さらに、香りごとに楽曲を創作し、展示会ではそのLPレコードもセット(現在はHPで聞くことができる)。“共感覚(シナスタジア)”というブランドコンセプトがひと目でわかる。

T.Tとの協業で誕生したフレグランス。グレーニュアンスで連なりゆく“消失の段階”を表現。ピンクペッパー、アイリス、フランキンセンス、ミルラなどが柔らかく香る。「SENKO NO KU(閃光の空)」オードパルファム 60mL 5万8300円
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「すべて好きなものばかりなんだ。音楽、色彩、香り。自分ひとりでやろうと思えばできるけれど、常に人と対話をしながら作っている。人と対話をすることで理解できるようになる。今回のインスタレーションもそう。たとえば両足院に展示した“反射する暖簾”も、京都の職人と何度も話をして完成させている。僕の仕事は、人を招いて自分がやりたいことを理解することから始まる。音楽が好きだから、ミュージシャンを招いて話をする。そうすると好きなものが理解できて、融合させることで表現できる。アルパはカラー、テクスチャー、音楽、すべてが僕を刺激するもの。だから人を招いてセッションすることで、さらに理解を深めることができるんだ」

T.T、両足院との協業で誕生したお香。伽羅、ジャスミン、クミン、ラブダナム、ムスクの洗練された甘やかな香り。インスタレーションが終了した現在も、オードパルファムとともに総合芸術空間T.Tで購入可能。「SENKO NO KU(閃光の空)」お香 9350円、お香立て 2万7500円
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そもそもフィリオンは単なる調香師ではない。16歳から約30年間ファッション業界に身を置き、モデルやスタイリングも経験。20年ほど前に写真を始めると同時に、漢方や、ドイツ、ギリシャに伝わるナチュラルレメディのリサーチに取り掛かり、フォーミュラに興味を持ち、やがて調香にまで枠を広げたアーティストである。だからアルパは「調香師フィリオンが立ち上げたフレグランスブランド」と理解するのは、正しくない。
「アルパではフレグランスを作ることを目的としていなくて、あくまでも全体の一部。そして常に4~5社とともに仕事をしている。今回もリサーチのためのパートナーシップであり、コラボレーションとは違うんだ。なぜなら一緒にリサーチをするからね」

両足院に伝わる古布に着想を得て、オーガンジー素材にメタルプリントを施した布を連続的に配置。協業で制作した香りが布に焚きしめられてあり、視覚と嗅覚で香りを体感できる
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フィリオンとの会話で印象的なのは、「リサーチ」という言葉が繰り返し出てくることだ。
「イソップは僕にクリエイティブというアイデンティティを与えてくれた。ディレクションではなく、フレグランスを作るためのクリエイティブリサーチ。“香りの本質とは何か、それをいかに伝えるか”という問いからコンセプトを構築し、動画も制作した。テーマの初期段階から携わり、調香師として香りというカタチにしていたんだ」
「僕は決してフレグランスブランドを作ろうとは思っていない。常に何が足りないかを考えている。すべての命題を見つめながら“なぜ香りがこれなのか、このストーリーなのか、このコミュニケーションなのか、飽き飽きする。香りはとてもエキサイティング、だからもっとエキサイティングなものにしよう”と想像を巡らすんだ。今回T.Tとともに、我々のエキサイティングが香りになり得ることを提示する機会を持つことができた。茶会を楽しむ、テキスタイルを眺める、大部屋で香りを嗅ぐ…これはいわゆるブランドコミュニケーションではなく、人によるリサーチの結晶なんだ」

総合芸術空間T.Tでのインスタレーション「月面の光」。ガラス職人に「2度とやりたくない」と言わせたという、わずか1ミリのディスプレイ台を用意し「不在」を表現
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ところで、フィリオンは京町屋に暮らしている。2年前に京都に住むことを決め、6ヶ月前にリノベーションを完了。パリにラボ、イタリアにレジデンスを持っているが、ゆくゆくは幼い娘を日本の学校に通わせたいというほど、日本が大好きだ。
「優しさ、細部へのこだわり、スタイル。エレガントでどこよりも洗練されていて、とにかく美しい。メタボリズム建築の写真集も作ったけれど、国立京都国際会館とか“ヤバイ”。2002年に初めて日本に来て、まだその時は若くて集中力もなくて、やりたいことがいっぱいあった。でも時々想像するんだ、24年前にそのまま日本に残っていたら、僕を変革するすべてのものを見つけていたかもしれない。だから今が始まりなんだ」
現在、「アルパ」の日本第1号店を京都に準備中で、11月オープンを目指している。また、日本の山々で朽ち落ちたクロモジやヒノキなどを再利用するフレグランスプロジェクトも進行中だという。京都をベースとするフィリオンの今後の活動が大いに楽しみだ。
最終更新日:
ビューティ・ジャーナリスト
大学卒業後、航空会社、化粧品会社AD/PR勤務を経て編集者に転身。VOGUE、marie claire、Harper’s BAZAARにてビューティを担当し、2023年独立。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修了、経営管理修士(MBA)。専門職学位論文のテーマは「化粧品ビジネスにおけるラグジュアリーブランド戦略の考察—プロダクトにみるラグジュアリー構成因子—」。
◾️問い合わせ先
T.T(ティー・ティー):075-525-0402
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