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国内最高峰の芸術大学「東京藝術大学」。数々の著名芸術家を輩出し、その偉勲はファッション業界でも高い評価を受けている。現在設置されているのは美術学部、音楽学部の2学部で計約3,000人の学生が在籍。意外に多いように感じるかもしれないが、東京大学の学部学生数が約14,000人ということを考えると選びに選び抜いた少数エリート制を敷いていることがわかる。そんな藝大の学科を見るとファッション・服飾科が見当たらない。似たような雰囲気のデザイン科があるのみ。これはなぜなのか。
国内外のファッション教育の現状
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ジョン・ガリアーノや故アレキサンダー・マックイーン、ステラ・マッカートニーといった世界的デザイナーを多く輩出するセントラル・セント・マーチンズ(セントマ)。EU離脱もなんのそのと、クリエーションに集中する学生達がファッション名門校の矜持を感じさせる。だが同校は、実は総合芸術大学。ファインアートから演劇まで幅広い分野を取り扱っており、ファッションはその一分野として位置しているに過ぎない。ちなみに、セントマと並んで「世界3大ファッションスクール」と呼ばれるベルギーのアントワープ王立芸術アカデミーは同じく総合芸術大学、NYのパーソンズは総合美術大学となっている。芸術・美術のなかで多くのデザイナーを生んだことが"ファッションの学校"というイメージに繋がっているのだろう。
ヴィヴィアン・ウェストウッドやクリストファー・ベイリーらを輩出した英国国立のウェストミンスター大学では、一般大学ながら1887年からファッション教育を開始。コースディレクターのAndrew Groves氏は、芸術大学ではなく一般大学でファッションを教える利点の1つとして「学生がより広い世界のコンテクストで作品を捉え、多分野のアーティストと対話することで互いに影響しあえること」を挙げている。ファッションを多角的に捉え、クリエーションの幅を広げていくことが狙いだという。
海外では、芸術大学から一般大学までファッションを取り扱うことがメジャーになっている一方で藝大が扱っていない理由を、ここのがっこうを主宰するデザイナーの山縣良和氏は、「アートの中にファッションが含まれていないという古くからの認識があるからではないでしょうか。また現在の物体としての基盤が和服ではなく洋服というのもあると思います」と分析する。
自身も藝大工芸科卒でファッションの分野でも活動するアーティストの舘鼻則孝氏も「明治時代の政策でもあった近代化に抗う勢力として岡倉覚三らによって日本の伝統美術の振興を目的に設立された背景を踏まえると、藝大にファッション学科が無いということのほうが自然な気がします」と解説する。だが一方で「既にサブカルチャーと呼ばれる新しい文化の形も現れてきている。日本の大学のあり方も時代の流れに合わせて変化を強いられる時期だと思います」と芸術教育が変革期に差し掛かっていることも感じているという。
現在、美術研究科芸術学専攻・美術教育研究室で博士過程に在籍する中里周子氏は、現役の藝大生。2014年には当時26歳で欧州最大のファッションコンテスト「ITS(イッツ)」のジュエリー部門グランプリを獲得するなど活躍している。現在は、同校でファッションとアートに通ずる美と人間の関係性について研究をしており、「作るだけではなくファッションをアカデミックの文脈で捉え、語っていく必要性を感じた」ことで藝大の門を潜ったという。入学前にある教授と「美術に足りない何かをファッションが持ってるんじゃないか」という話をした時に、この学校でファッションを学ぶ意義や可能性を感じ入学を決めた。
舘鼻氏は、「自主性に委ねられた校風は創造性を培う上でとても有難いシステム。ただファッションを大学で学ぶという点では、文化的な側面からものごとを捉えるということに重きを置いているので、技術や知識を習得するような授業は無かったです」と振り返る。中里氏も同校では「ファッション単体を学ぶのではなく、多方面から向き合うことで、ファッションの持つ創造の可能性やファッションとアート両者を通した美への考察に繋げている」といい、技術や知識は専門学校が用意するカリキュラムなどで独自に学んだという。
ファッションは学問として成り立つか?
ファッションは学ぶものではないのか。京都精華大学でファッションコース専任講師を務める蘆田裕史氏は「美術について考えることも、音楽について考えることもファッションについて考えることもどれも同じはずなので当然ファッションも学問として成立しえます」と語る。つまり他の芸術分野が学問として成り立っている以上、ファッションも学問として成り立たないというわけではないということだ。
当の疑問を、東京藝術大学にぶつけたところ「ファッション学科がない理由については答えられない」と回答。また「織物やテキスタイルの派生からファッションに取り組んでいる学生がいることは理解しているが、ファッション・服飾を専門に教えている講師はいない」ともコメント。ファッションに興味を持つ学生がいるのは知っているが・・・というのが現状のようだ。蘆田氏は、ファッションが学問として自立するには「国内ファッションは理論や歴史の積み重ねがほとんどないので、今すぐ他分野と同じレベルに立つというのは無理でしょう。時間をかけて、基礎研究を充実させること」がこれから必要だという。
最後に「今後ファッション学科が新設される可能性はあるか?」と聞くと「ゼロではない」と藝大は回答。これまで国内最高峰の芸術家を生み出してきた矜持と実績は、ファッション分野でも花開くのか。「我国の芸術文化の発展について指導的役割を果たすこと」を使命に掲げる藝大の次の一手が注目される。
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