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日本の美容院が“旅行の目的地”になる時代 観光客がこぞって訪れる理由とは

アリサ・リュウ選手のヘアを手掛けた美容師に聞く

Teppei氏と同氏が手掛けたヘア

Teppei氏と同氏が手掛けたヘア

Teppei氏と同氏が手掛けたヘア

 近年、SNS上で海外からの観光客が日本の美容院を訪れ、ヘアカットやカラーリングを楽しむ様子を収めた投稿動画が増えている。来日した著名なアーティストやセレブリティが滞在中に髪を整えて帰国するケースも目立つ。「日本の美容院へ行った」という事実そのものが一種のブランド体験になりつつあるようだ。

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 なぜ今、日本の美容院がこれほどまでに海外から注目を集めているのか。その背景には、単なる技術力の高さだけでなく、日本独自の文化や価値観、そして“おもてなし”の精神が深く関わっているようだ。アイコニックなヘイロー・ヘア(Halo Hair)で注目を集めたミラノ・コルティナ五輪女子フィギュアスケート金メダリストのアリサ・リュウ(Alysa Liu)選手のヘアも過去に手掛けた経験があり、顧客の約9割を外国人が占めるという美容師Teppei氏に、訪日外国人が日本のヘアサロンへ行く理由や、海外のサロンとの違いを聞いた。

フリーランス美容師

Teppei

大阪のヘアサロンで店長を務めた後、ロンドンへ渡り、ヴィダルサスーン・アカデミーで3年間学ぶ。帰国後は東京・原宿を拠点にフリーランスのスタイリストとして活動。若者カルチャーの発信地である原宿の空気を感じながら、外国人観光客を中心に幅広い顧客のヘアスタイルを手掛けている。

 Teppei氏が外国人顧客を主なターゲットに据えた背景には、海外での経験があった。大阪のサロンで店長を務めた後、渡英し美容学校ヴィダルサスーン・アカデミーで3年間学んだ同氏。2024年の帰国後は、英語で対応できる美容師が国内ではまだ限られている現状に改善の余地を感じ、外国人観光客を主な顧客層とするサロンワークを展開してきた。現在は後進の育成にも力を入れ、海外の顧客を獲得したい美容師向けのセミナー講師としても活動している。

価格×技術力が生む“選ばれる理由”

 そうした現場でのコミュニケーションやSNSでの反応、さらに美容師同士の対話を通して、同氏は海外からの観光客が日本の美容院に魅力を感じる理由を「価格」と「クオリティ」にあると分析する。

 日本で学んだ美容師は、世界的に見ても技術力の評価が高い。ニューヨークやロンドン、パリといった大都市には日系サロンが存在し、長年にわたり支持を得てきた。しかし、現地で日本人美容師の施術を受ける場合、その価格は非常に高額になる。

 「例えばニューヨークの日系サロンでカットとバレイヤージュをすれば、チップ込みで総額10〜15万円ほどになります。実は、日系以外の有名サロンでも価格は同水準です。一方、日本であれば同等、もしくはそれ以上のクオリティーを5万円以下で受けられる。ニューヨークに住んでいる人からすれば、半分以下の価格で、とても安く感じるはずです」とTeppei氏。円安も追い風となり、旅行費用を含めても“割安”だと感じる人はここ数年で確実に増えていて、現在Teppei氏のもとにはSNSのダイレクトメッセージを通じて、数ヶ月先まで予約が入っているという。

Image by: FASHIONSNAP

 では、日本の美容院が魅力的だと映る「クオリティ」とは何か?そこには2つの理由があり、「サロン環境」と「技術力」を挙げる。

 環境で言えば、清潔な空間や丁寧な接客、時間をかけたカウンセリング、シャンプー時のヘッドマッサージ。日本では標準的なこれらのサービスは、海外では必ずしも一般的ではない。そのため海外の観光客にとって、日本の美容院は単なるヘアサービスではなく"体験型コンテンツ"となる。技術とホスピタリティが一体となったプロセスそのものが価値を生んでいるのだ。

 そしてこの体験価値は、SNSによって可視化される。TikTokやInstagramでは、カウンセリングからブローまでの工程が数多く投稿され、施術のビフォーアフターだけでなく、美容師の所作や店内の清潔感、ヘッドスパ中のリラックスした様子までがASMR的な魅力とともに高い再生数を記録。「信頼できる実体験」として蓄積されていく。

 さらに、日本の街そのものが“リアルなショーケース”として機能している点も集客に貢献しているとTeppei氏はいう。街を歩く日本人の整えられた髪やメイクは、観光客にとって生きたサンプルとなり、「自分も試してみたい」という衝動が来店動機へと転換される。同氏のもとには、事前予約だけでなく、飛び込みでサロンを訪れる観光客も少なくない。実際、FASHIONSNAPの取材中にもカットとスタイリングを希望する予約なしの来店があった。また、日本を訪れることができない海外のフォロワーから「(自国で)どのようにオーダーすれば同じ色になりますか」とダイレクトメッセージで相談を受けることもあるそうで、日本の美容技術そのものへの関心が海外にも広がっているという。

制度が支える日本の技術力

 技術力でいうと、日本で美容師になるには、認可を受けた美容専門学校に昼間2年間、もしくは通信課程で3年以上通い、国家試験に合格しなければならない。一方、ヨーロッパの多くの国では日本のような国家資格制度はなく、免許を持たなくても美容師として働くことができる。Teppei氏は、「日本の美容師は本当に上手い。専門教育を受けたうえで、厳しい下積みを経て現場に立っている。その積み重ねがあるからこそ、海外のお客さまは仕上がりに驚くのだと思う」と語る。

 その技術力が象徴的に表れる施術の一つが、ハイトーンカラーだという。濃いピンクから淡いペールトーンまで、幅広い色味を繊細なニュアンスで再現するには、正確なブリーチワークと髪質の見極めが不可欠だ。わずかな薬剤の選定や塗布時間の差が仕上がりを左右するため、基礎技術の精度が問われる。それを可能にするのが、専門教育で身につけた基礎的な知識なのだという。

Teppei氏が手掛けたヘア

Image by: Teppei

ミラノ・コルティナ五輪以降、アリサ・リュウ選手のカラー方法への問い合わせは増加したという

Image by: Jamie Squire via Getty Images

会話力と提案力が広げる可能性

 一方、インバウンド需要が伸びるなかで、受け入れ側の課題として挙がるのが言語の壁だ。都市部ではインバウンド対応ができる美容師も増えているが、現場の実感としては、全国的に浸透するにはまだ時間がかかりそうだという。

 もっとも、Teppei氏はこの課題を単純な語学力不足とは捉えていない。「もちろん英語を流暢に話せるに越したことはありませんが、それ以上に大切なのは会話の中身です。海外の方に人気のハイライトやレイヤーカットといった基本的な施術も、仕上がりのイメージをどこまで具体的に共有できるかで満足度は変わります。ニュアンスまで汲み取って、こちらからも提案できる会話が安心感につながります」と同氏。それは日本人に対する接客と大差はないのではないか。

 その上で鍵は、文化や生活背景への理解だという。「海外には自宅にドライヤーがない方も多い。僕たちが当たり前だと思っているスタイリング方法も、前提が違えば成り立たないことがある」。相手の状況を想像しながら対話を重ねる接客が、現在の集客にもつながっているのだろう。

Image by: FASHIONSNAP

 では、そうした会話力や提案力を土台に、現場でさらに求められるものは何か。Teppei氏は、まず国内で評価されるだけの技術を身につけることが前提だと強調する。そのうえで、“誰に向けて発信するのか”を意識することが重要になると感じているという。

 「ターゲットによって求められるものは違います。例えばアジア圏なら、日本っぽいデザインやトレンド性を求めて来てくださる方も多い。一方で、北米やヨーロッパの顧客は、“こうしたい”という希望を伝えたうえで、最終的にはプロに任せるというスタンスの方も多い印象です。だからこそ、きちんと提案できる会話力は大事になります」と同氏。こうした力を備えた美容師が増えていけば、日本の美容業界は世界に向けてさらに存在感を高めていけると話す。

 「日本の美容は、まだまだ世界に届く余地があると思っています。技術も、接客も、空間づくりも、全部ひっくるめて“体験”として磨いていけるはず。現場で感じてきたことを共有することで、海外に目を向ける美容師の力になれたらと思っています」。

最終更新日:

FASHIONSNAP 編集記者

菅原まい

Mai Sugawara

2002年、東京都生まれ。青山学院大学総合文化政策学部卒業後、2025年に新卒でレコオーランドに入社。中学生の頃から編集者を志し、大学生時代は複数の編集部でインターンとして経験を積む。特技は空手。趣味は世界中の美味しそうなお店をGoogleマップに保存すること。圧倒的猫派で、狸サイズの茶トラと茶白を飼っている。

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