Image by: Universal Music
全く異なるジャンルでありながら、古くから蜜月関係にあるファッションと音楽。ここ十数年でその結び付きはさらに強くなり、今やファッションメディアでなにがしのアーティスト名を見ない日は無いと言ってもいいほどである。だがアーティスト名は目にするものの、彼/彼女らがファッションシーンへと参画した経緯や与える影響力、そして何よりも楽曲に馴染みが薄く、有耶無耶の知識のまま名前だけを認知している人も少なくないだろう。
そこで本連載【いまさら聞けないあのアーティストについて】では、毎回1組のアーティストをピックアップし、押さえておくべき音楽キャリアとファッションシーンでの実績を振り返り、最後に独断と偏見で「まずは聴いておくべき10曲」を紹介。第10回は、YouTubeに投稿していたカバー動画をきっかけにデビューを果たしたポップアイコン、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)についてをお届けする。(文:Internet BoyFriends)
■いまさら聞けないあのアーティストについて:連載ページ
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目次
アヴリル・ラヴィーンとライアン・ゴズリングとは遠縁のカナダ人
まず初めに、多くの人が誤解しているだろうが、ジャスティン・ビーバーはアメリカ人ではない。彼は1994年3月1日にカナダ・オンタリオ州で生まれ、曾祖父はドイツに、父親はイングランドとアイルランドに、母親はフランスにルーツを持つというカナダ人だ。また、ポップパンクの歌姫アヴリル・ラヴィーン(Avril Lavigne)と俳優ライアン・ゴズリング(Ryan Gosling)とは遠縁にあたり、3人は13代前の両親が同じという驚くべき血縁関係の持ち主でもある。
幼い頃からR&Bを中心とした音楽に興味を持ち、独学でギターとドラム、ピアノ、トランペットを習得し、12歳で地元の音楽コンテストに出演。そこでニーヨ(Ne-Yo)の「So Sick」のカバーを披露したことが、結果として人生の転機となった。というのも、同コンテストで入賞したジャスティンは、その様子を親族や友人に見せるためYouTubeに動画を投稿。続けて何本かカバー動画を投稿したことで、彼の才能がYouTube経由でレーベルに見つかることになったのだ。なお、ニーヨの「So Sick」のカバー動画はYouTubeに残されており、ジャスティンのYouTubeチャンネルの最も古い動画となっている。
偶然YouTubeで発見されたダイヤの原石
ある日、YouTubeでダイヤの原石を探していた音楽レーベル「ソー・ソー・デフ(So So Def)」のスクーター・ブラウン(Scooter Braun)は、偶然にもジャスティンのカバー動画を発見。映像越しからも非凡な才能を感じ取り、どうにかしてジャスティンの母親の説得に成功し、デモテープを作成するために13歳のジャスティンを連れてアトランタへ渡米。そこでアッシャー(Usher)とジャスティン・ティンバーレイク(Justin Timberlake)にジャスティンを売り込んだところ、アッシャーがひどく気に入ったことから彼のレーベル「RBMG」との契約に至り、メジャーデビューへの準備が進められることとなったのだ。この時、ジャスティンは14歳だった。ちなみにブラウンは、ジャスティンを見つけ出した功績が認められる形で、ジャスティンだけでなくアリアナ・グランデ(Ariana Grande)やカーリー・レイ・ジェプセン(Carly Rae Jepsen)ら、2010年代を彩ってきたUSポップスターのマネージャーに抜擢されている。
翌2009年5月、15歳になったジャスティンは1stシングル「One Time」をリリースすると、ミュージックビデオにアッシャーがカメオ出演したことでも話題となり、全米シングルチャートで17位を記録。立て続けにファーストEP「My World」や2ndシングル「One Less Lonely Girl」、プロモシングル「Love Me」と「Favorite Girl」をリリースし、来るデビューアルバムの機をうかがった。
甘い歌声とルックスの「Baby」で一躍世界的スターに
そして2010年3月、16歳になったジャスティンは満を持してデビューアルバム「My World 2.0」を発表した。同作は、先行リリースされた「Baby」の大ヒットもあり、全米アルバムチャートで見事初登場1位を獲得。これは、1963年に13歳で1位を獲得したスティービー・ワンダー(Stevie Wonder)に次ぐ、2番目に若い男性ソロシンガーの記録である。
こうしてジャスティンは、“2010年も検索されたセレブ”となり、2010年のTwitter上でのトラフィックの3%が関連ツイートになるなど、世界的知名度を得ると同時に反対勢力も急増化。「Baby」のMVは、28億8000万回以上再生され2300万以上の高評価が押されているが低評価も1000万以上で、2018年までは“YouTubeで最も低評価が多い動画”としても知られていた。なお、「My World 2.0」のリリース後にジャスティンは変声期を迎え声色や音域に変化が生じてしまったため、どこか幼さの残るような甘い歌声は同作までとなっている。
USポップミュージックシーンに多大なる影響を与えた「Purpose」
この頃からパパラッチの標的となり、変声期にも苦しみながら何本ものドラマ出演や伝記映画の公開と同時に2ndアルバムの制作に取り組み、2011年11月に「Under the Mistletoe」をリリース。よりポップ色が強調された同作も「My World 2.0」に続いて全米アルバムチャートで初登場1位を獲得。さらに、この熱が冷めやらぬ2012年6月に3rdアルバム「Believe」をリリースし、こちらも全米アルバムチャートで初登場1位を獲得する快挙を達成した。
それからのジャスティンは、ゴシップ等で世間を賑わせながらも着実に実力を積み横の繋がりを広げ、2015年にそれが花開く。スクリレックス(Skrillex)とディプロ(Diplo)のユニットであるジャック・U(JACK Ü)の「Where Are Ü Now」にボーカルで参加すると、これが第58回グラミー賞のベスト・ダンス・レコーディング賞を受賞し、念願のグラミー賞アーティストとなった。さらに、11月の4thアルバム「Purpose」に先立ってリリースされた「What Do You Mean?」で初めて全米シングルチャート1位を獲得し、「Purpose」でも全米アルバムチャートで1位を記録したのだ。
「Purpose」以前のジャスティンは、歌唱力が称賛される一方で、その甘いマスクと振る舞い、アイドル然とした楽曲で過小評価されていた。しかし、3年をかけて制作された同作は、“アイドルとしてのジャスティン”に別れを告げアーティストに生まれ変わったことを感じさせる傑作となっており、その後のUSポップミュージックシーンに多大なる影響を与えたとも言われている。
精神的問題から音楽発表の形式で大きく舵を切る
「Purpose」で世間からの評価を一変させたジャスティンだったが、精神的な問題を抱えるようになったことで単体作品の制作を控え、数年間は他アーティストの楽曲に参加する方向へと大きく舵を切った。その数はあまりにも多いので一部だけを羅列するが、DJ スネーク(DJ Snake)との「Let Me Love You」、ポスト・マローン(Post Malone)との「Deja Vu」、ルイス・フォンシ(Luis Fonsi)&ダディー・ヤンキー(Daddy Yankee)との「Despacito」、DJ キャレド(DJ Khaled)との「I'm the One」、エド・シーラン(Ed Sheeran)との「I Don't Care」、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)との「Bad Guy」など。いずれも全米シングルチャートでトップ10までに食い込んでいる。
また、2018年にモデルのヘイリー・ボールドウィン(Hailey Baldwin)と結婚し、翌年3月には彼女との生活およびメンタルヘルスのため音楽活動の休止を発表した。なお、この頃に自身のファッションブランド「ドリューハウス(drew house)」をスタートしており、これに関しては後述する。
人間的にも音楽的にも成長した「Justice」
音楽活動の休止に関しては具体的な期間について触れられていなかったことから、ファンの間では「二度と表舞台に立たないのでは?」という声もあったが、同年12月に新作アルバムの存在がアナウンスされ、パンデミック中だった2020年のバレンタインに5thアルバム「Changes」がリリースされた。4年3ヶ月というジャスティンとしては最もインターバルが空いた中で制作された「Changes」はダンス調だった「Purpose」と比べ、ミニマルで洗練されたサウンドとなり、新たな一面を見せながらも前4作に続いて全米アルバムチャートで1位を獲得する底力を見せたのである。
そして、「Changes」からわずか13ヶ月後の2021年3月、最新作となる6thアルバム「Justice」を発表。“正義”と題した同作は、パンデミックによって訪れた思いがけない制作時間に生み出された。このため、マーティン・ルーサー・キング(Martin Luther King)の言葉を引用するなど、「ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)」を経験したからこそサンプリングしたであろう社会的なリリックを織り交ぜつつ、半強制的に自分と向き合ったことでより内省的に歌い上げ、「Purpose」以上にバラエティに富んだ内容になるなど、またひとつジャスティンが人間的にも音楽的にも成長したことが垣間見れる作品に仕上がった。もちろん、同作も全米アルバムチャートで1位を獲得している。
ライアン・グッドとの出会いと「ドリューハウス」
ジャスティンは21世紀を代表するポップスターだが、“ファッションアイコン”に括るには少々難しい。だが、彼特有のアイコニックなスタイルを持ち合わせている。これをサポートしたのが、ライアン・グッド(Ryan Good)という人物だ。彼はアッシャー経由でデビュー初期からジャスティンのスタイリストになると、ジャスティンから“Swagger Coach(スタイルの師匠)”と呼ばれるほど、ヴィジュアル面で大いに貢献。後ろ向きに被ったベースボールキャップ、6部丈のショーツ、派手なスニーカー、ドッグタグなど我々が見てきたジャスティンのスタイルはライアンが作り上げたのだ。
2人は公私共に仲が良く、2018年にはジャスティンが師匠ライアンをクリエイティブ・ディレクターに招聘する形でファッションブランド「ドリューハウス」をスタートしている。どうしても“ジャスティンのグッズ”や“単なるインフルエンサーブランド”と思われがちだが、先日、原宿で開催されたポップアップのためにわざわざジャスティンがアメリカからヘイリーを連れて駆け付けるなど、相当力を入れていることが分かる。なお、「ドリューハウス」と「クロックス(Crocs)」がコラボした際には、「クロックス」の株価が11%も伸びるという、ポップスターらしい影響力の強さを見せつけた。
また、先ほど“ファッションアイコン”ではないと記したが、「Purpose」のリリースのタイミングで「フォーエバー 21(FOREVER 21)」や「フィア オブ ゴッド(Fear of God)」とコラボグッズを製作し、「カルバン クライン(Calvin Klein)」や「バレンシアガ(Balenciaga)」のモデルに何度も起用されるなど、ブランドとの接点は多い。今後、“ファッションアイコン”としてのインフルエンス力を兼ね備えたポップスターになることを期待したい。
まずは聴いておくべき10曲
1曲目:Baby
1stアルバム「My World 2.0」(2010年)収録曲で、ジャスティンの名を世界に轟かせた代表曲。
2曲目:Somebody To Love Remix ft. Usher
アッシャーの6thアルバム「Raymond v. Raymond」(2010年)収録曲で、ジャスティンの1stアルバム「My World 2.0」に収録されていた同名曲にアッシャーが参加したリミックス楽曲。
3曲目:Beauty And A Beat
3rdアルバム「Believe」(2012年)収録曲で、ニッキー・ミナージュ(Nicki Minaj)とのコラボ楽曲。「2012年10月、ミュージシャンのジャスティン・ビーバーの3時間におよぶプライベート映像が盗まれた。これからご覧いただく映像は、匿名ブロガーによって違法にアップロードされたものである」というミュージックビデオ冒頭のテロップが話題を呼んだ。
4曲目:Where Are Ü Now
ジャック・Uのアルバム「Skrillex and Diplo Present Jack Ü」(2015年)収録曲で、ジャスティンが本格的なクラブミュージックに接近し、第58回グラミー賞のベスト・ダンス・レコーディング賞を受賞した。
5曲目:What Do You Mean?
4thアルバム「Purpose」(2015年)収録曲で、ジャスティンが初めて全米1位を獲得した楽曲。多くのメディアが“2015年のベストソング”にピックした。
6曲目:Sorry
4thアルバム「Purpose」(2015年)収録曲で、トロピカルハウスの流れを汲んでおり、「What Do You Mean?」と共に2015年を代表するクラブアンセムとなった。
7曲目:Love Yourself
4thアルバム「Purpose」(2015年)収録曲で、ジャスティン屈指のバラード。作曲にはエド・シーランが参加している。
8曲目:Despacito
アルバム未収録曲で、 ルイス・フォンシ(Luis Fonsi)&ダディー・ヤンキー(Daddy Yankee)が2017年にリリースした「Despacito」に、ジャスティンがボーカルとして参加したリミックス楽曲。全米シングルチャートでは7週連続で1位を記録した。
9曲目:Stay
ザ・キッド・ラロイ(the Kid Laroi)のミックステープ「F*ck Love」のデラックス版(2021年)収録曲で、全米シングルチャートで1位を獲得した。
10曲目:Peach
6thアルバム「Justice」(2021年)収録曲で、同郷のダニエル・シーザー(Daniel Caesar)とギヴィオン(Giveon)とのコラボ楽曲。ヘイリー・ビーバー(Hailey Bieber)の体験を綴ったラブソングで、同年を代表するサマーアンセムとなった。
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