
(左から)文化服装学院の鶴真奈花さん、小林直美さん
Image by: LORO PIANA

(左から)文化服装学院の鶴真奈花さん、小林直美さん
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イタリアのラグジュアリーメゾン「ロロ・ピアーナ(LORO PIANA)」が主催する、世界各地の主要なファッション・デザインスクールに通う学生を対象としたニットウェアのコンテスト「ロロ・ピアーナ・ニットデザイン賞(Loro Piana Knit Design Award)」の最終審査会および授賞式が、5月13日と14日の2日間、イタリア・ミラノで開催されました。10周年となる今回、日本からは厳正なる審査を勝ち抜いた、文化服装学院 ニットデザイン科3年生の小林直美さんと鶴真奈花さんの2人が参加。FASHIONSNAPが、その制作現場とミラノでの審査会に密着取材した様子をお届けします。

鶴真奈花(つる まなか)さん、小林直美(こばやし なおみ)さん
Image by: FASHIONSNAP
目次
「ロロ・ピアーナ・ニットデザイン賞」とは?
ロロ・ピアーナ・ニットデザイン賞は、2016年に創設された、世界各地の主要なファッション・デザインスクールに在籍する才能ある学生たちを対象とした国際的なコンテスト。上質なカシミヤやウールなどを扱うテキスタイルメーカーとして100年以上前に創業した歴史を持つロロ・ピアーナのアイコニックな糸を用いて、学生たちは独自のクリエイションを競い合います。
記念すべき10回目の開催となる今回は、世界各国から全8校の学生たちが参加。文化服装学院に加え、パーソンズ・スクール・オブ・デザイン(アメリカ)、アカデミア・コスチューム&モーダ(イタリア)、エコール・デュプレ・パリ(フランス)、ヘリオット・ワット大学(スコットランド)、スウェーデン・テキスタイル・スクール(スウェーデン)、東華大学(中国)、實踐大學(台湾)から各校1組のペアが、数ヶ月の制作期間を経てミラノに集い、審査員たちを前にプレゼンテーションを行いました。優勝者にはトロフィーと奨学金、そしてロロ・ピアーナでのインターンシップという、デザイナー志望の学生にとってまたとない機会が与えられます。

Image by: LORO PIANA
2026年のテーマは「光を編む:進化する色彩の表現」
今年のテーマは、「光を編む:進化する色彩の表現(Knitting Light – Craft on the Evolution of Colour)」。学生たちは、上質なカシミヤ糸を用いて独自のメランジ(混色)やムリネ(杢糸)を生み出し、新たな色彩表現を探求。そこへ最先端テクノロジーによる革新的な糸を掛け合わせることで、物理的・視覚的な変化をもたらす作品を作り上げました。学生たちのクラフトマンシップと創造力が、真に試される機会となりました。
東京編:試行錯誤の制作現場を訪問
4月某日、FASHIONSNAPは小林さん・鶴さんの制作現場を取材するべく、文化服装学院を訪問しました。学内審査を経て代表に選ばれた2人は、国際的なコンテストは初挑戦。期待と不安が入り混じる中、対話や試作を重ねながら日々制作に向き合っていました。

Image by: FASHIONSNAP
今回の作品のテーマは、「陰翳礼讃」。「2人とも散歩が好きで、神社やお寺に行く中で日本の文化の良さを再認識して。散歩中に建物の暗闇や影の写真を撮ることが多いのですが、そこから光と影に興味を持って調べていたときに谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』に出会い、テーマが決まりました」と小林さん。日本特有の美意識である「影」や「曖昧さ」を、編み地や素材、フォルムなどに落とし込みながら、トータルルックで表現することを目指します。


Image by: FASHIONSNAP
なかでも特に2人がこだわっているのは、見る距離によって表情が変わるようにデザインしたという「編み地」。「遠くから見ると一見普通の編み地なのですが、近くで見ると実はさまざまな編み方が混ざっている。『ちゃんと見なければわからない』という部分に、見た人が思考する時間や曖昧さの表現を込めています」(小林さん)。

Image by: FASHIONSNAP
素材には、2人が色を選び特注で撚り合わせてもらったという上質なカシミヤ糸に加え、今回のコンテストの規定となっている2種類の特殊糸を組み合わせて使用。「メインのカシミヤ糸は、あえて暗い色を用いて編み地を見えにくくすることで、テーマである曖昧さを表現しています。光沢感と透け感のある銅とポリエステルの特殊糸は、暗い色のカシミヤ糸と組み合わせることで、光の当たり方による表情の変化を狙っていて。NASAの火星着陸用エアバッグにも使われた特殊糸『ベクトラン®』は、とても硬質で重いため編むのが難しいのですが、カシミヤだけでは出せない立体的なフォルム作りを可能にしてくれます」(鶴さん)。




Image by: FASHIONSNAP
コンピューター横編機を主に用いながら、家庭用編み機や手編みでの作業も組み合わせているという制作過程では、試行錯誤の連続。糸が切れたり、柄の印象が強すぎたりと、イメージを具現化する難しさを痛感したと言います。「イタリアの担当者の方とのオンラインミーティングを通して、『なんとなくではなく、すべてのデザインに理由がないと説明できないことを実感しました。ミラノでは、自分たちが作品に込めた思いを、英語でのプレゼンできちんと伝えられるように頑張ります。そして、2人で協力しながら、納得できる作品を最後まで妥協せずに作り終えたいです」。





Image by: FASHIONSNAP
2人の作品は、最終的にどのような姿でお披露目されるのか。密着取材の舞台は、いよいよ決戦の地・ミラノへと移ります。
ミラノ編:Day 1 セッチュウ桑田ら審査員を前に英語でプレゼン
コンテストの最終審査会当日となる5月13日、FASHIONSNAPが向かったのは、世界で最も影響力のあるアート&デザインギャラリーとも称される、ミラノの「ガレリア・ロッサーナ・オルランディ(Galleria Rossana Orlandi)」。明るい日差しが差し込み、豊かな草花に彩られた美しい建築に足を踏み入れると、会場内では、同コンテストの10周年を記念した歴代のグランプリ作品のアーカイヴ展示が来場者を出迎えました。


10周年を記念したアーカイヴ展示の様子
Image by: LORO PIANA
開会式を終えると、いよいよ各校のプレゼンテーションがスタート。審査員には、アンナ・デッロ・ルッソ氏(クリエイティブコンサルタント、ファッションスタイリスト、元Vogue Japanエディター)や、サラ・マイノ氏(ソッツァーニ財団クリエイティブ・ディレクター兼イタリアファッション協会インターナショナル・ニュータレント&ブランド・アンバサダー)、「セッチュウ(SETCHU)」の桑田悟史氏といった、ファッション界をけん引する豪華なメンバーが名を連ねました。
審査員たちが各校のブースを順番に回りながら学生たちによる発表が行われ、1校あたりの持ち時間は質疑応答も含めて約30分ほど。ブースでは、完成した作品を着たトルソーに加え、ムードボードやデザイン画、編み地のサンプル、映像など、作品の世界観やディテールを豊かに伝えるアイテムや装飾を用意。学生たちは作品のテーマやディテール、テクニックを言葉とヴィジュアルで伝えながら、審査員たちにアピールしました。














ヘリオット・ワット大学「Second Form」
Image by: LORO PIANA
そして、文化服装学院チームが発表したのは、8校中6番目。「陰翳礼讃」のテーマを表現すべく、展示ブースには畳が敷かれ、余分なものを削ぎ落とした「和」の空間が広がります。照明はあえて一つに絞ることで、編み地の繊細な凹凸に深いコントラストが生まれ、作品のディテールがより鮮明に浮かび上がるように演出。その空間の中で、光と影、色が織りなす繊細な関係性とその美しさを探求した作品を、審査員たちを前に英語で紹介しました。

文化服装学院「陰翳礼讃(In Praise of Shadows)」
Image by: LORO PIANA
ルックは、アウター、トップス、パンツ、バッグの4点で構成。和服の直線的な美しさを表現するため、あえて四角いパーツをベースとしたフォルムが特徴です。そして、「変容するシルエット」という課題に対して、2人は日本の伝統技法「木組み」から着想を得たディテールを採用。一つは、立体的な網目が特徴のバッグが、顔を覆う日本の伝統的な帽子「市女笠(いちめがさ)」へと姿を変える仕掛け。もう一つは、パンツのプリーツが光る「提灯(ちょうちん)」へと変形する仕様です。提灯には銅の特殊糸を織り込み、さらに光を効果的に分散させる伝統的な「組子細工」の模様の編み地にしたことで、本物の提灯のように柔らかく光が灯るように仕上げました。

Image by: LORO PIANA
Video by LORO PIANA
2人が今回の作品で目指したのは、「陰翳礼讃」というテーマを“着る陰影”と“見る陰影”として体験できるものにすること。「この傘をかぶると、編み地を通して差し込む光によって、普段は意識していない『光の存在』を強く感じることができます。暗さの中に光を感じる不思議な安心感を、来場者にも体験してほしかったんです」と、デザインに込めた意図を語りました。
プレゼンテーションを終えた直後の小林さんと鶴さんに心境を訊ねると、「今はやっと解放されたという思いです(笑)。今回のコンテストでは、感覚的なものを目に見えるデザインや言葉に落とし込む作業が一番の苦労でした。でも、現地に到着してからも納得がいくまで作業を続けたので、今はやれることは全部やり切ったという気持ち。英語でのプレゼンだったので完全に伝わったかどうか不安はありますが、完成した作品に悔いはありません」と、すべてを出し切った達成感と安堵が滲んでいました。

Image by: LORO PIANA
ミラノ編:Day 2 審査結果発表、栄冠は誰の手に?
そして翌日の5月14日には、早朝から審査員たちが会場に集結して白熱した審議が行われ、いよいよ結果発表のセレモニーが執り行われました。ロロ・ピアーナのフレデリック・アルノーCEOが登壇すると、会場の緊張感が一気に上昇。果たして、栄冠は誰の手に?

ロロ・ピアーナの代表者と今年の審査員たち
Image by: LORO PIANA
2026年度のロロ・ピアーナ・ニットデザイン賞に輝いたのは、「Glitsky – Mother of Pearl」を手掛けたスウェーデン・テキスタイル・スクールのハラ・リリヤ・アルマンスドッティルさんとヴィオラ・シュミットさん。2人には、トロフィーと奨学金、ロロ・ピアーナでの就労機会に加え、イタリア・ピエモンテ州にあるメゾンの工場の専門技術者とともに完成させた作品を、6月にフィレンツェで開催される世界的な糸の見本市「ピッティ・フィラーティ」のロロ・ピアーナのブースで披露する機会が与えられます。

2026年度のロロ・ピアーナ・ニットデザイン賞を受賞したヴィオラ・シュミットさん、ハラ・リリヤ・アルマンスドッティルさんと、ロロ・ピアーナのフレデリック・アルノーCEO
Image by: LORO PIANA

「Glitsky – Mother of Pearl」。結晶化した雲に太陽光が当たることで、虹色に輝く魅惑的な色彩の光景が生まれる現象から着想を得て制作された。
Image by: LORO PIANA
今回、惜しくも受賞を逃してしまった文化服装学院の小林さん・鶴さん。しかし、授賞式を終えた2人の表情はとても晴れやかでした。「制作過程では大変なこともありましたが、無事最後までやり切ることができて安心しています」(鶴さん)、「このコンテストを通して、本当にいろいろな経験をすることができました。制作過程はもちろん、ミラノで他の学生たちの作品を見てすごく良いインスピレーションを受けることができ、唯一無二の機会になりました」(小林さん)。
審査員からも、「色目がすごくきれいで、審査員たちからも『シックだ』という声が多く聞かれましたし、僕自身もとても素敵だと思いました」(桑田悟史氏)、「全体のストーリーテリングがとても興味深かったですし、クラフトへのこだわりや、時間をかけて取り組む姿勢がとても本質的だと感じました」(サラ・マイノ氏)と2人の作品に対してポジティブなフィードバックがありました。
ロロ・ピアーナ・ニットデザイン賞の受賞こそ叶わなかったものの、最高峰の素材に向き合い、自らのクリエイティビティや表現と向き合ったこの数ヶ月間は、2人にとって何物にも代えがたい豊かな経験となったはずです。彼女たちのクリエイションがいつかまた新たな形となって私たちの前に現れる日を、楽しみに待ちたいと思います。
photography (Tokyo): Katsutoshi Morimoto, text & edit: Erika Sasaki (FASHIONSNAP)
最終更新日:
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