カルチャー動画メディア「マクガフィン(McGuffin)」の人気企画「SHOW YOUR ROOM」。ファッション関係者、美容師、編集者などの自宅へ行き、こだわりの家具やライフスタイルを紹介しています。そんなルームツアー企画を、マクガフィンの編集長を務める安藤啓太さん宅で実施。多くの人の家を取材してきた安藤さんのこだわりポイントは?
McGuffin
音楽・ファッション・スポーツなどのユースカルチャーを通してミレニアル世代の心を動かす動画メディア。
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安藤啓太
1987年、東京生まれ。大学卒業後、RIDE MEDIA&DESIGNに入社。三栄書房発行のメンズファッション誌「Samurai ELO」編集長として従事。2017年より、McGuffinの制作に携わる。三度のメシとHIP HOPとアイドルとROCKが好き。
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安藤さんが住んでいるのは桜上水駅近くのデザイナーズ物件。約3年前から住んでいるそうです。
サブスク主流な時代にCDを買い漁る
—この部屋を選んだ理由は?
中庭があるからですね。あとは部屋の多さと、天井が高い部屋があることも決め手となりました。
—部屋作りで意識していることは?
家のベースが木なので、アンティーク調にはしたくないなと思っていて、家具は木ではなく、鉄家具の無機質なものを選ぶようにしています。トム・サックス(Tom Sachs)のオフィスに憧れているので、物が多くて什器が渋い子ども心ある部屋をイメージしています。
—CDと本が多いですね。
CDは小学6年生くらいから買っていて、今もどんどん購入枚数が増えていっていますね。
—サブスクが主流な時代ですが。
前々から定期的に集めているんですが、さらに最近購入度合いが加速していて。マクガフィンでラッパーの漢さん(漢 a.k.a. GAMI)の対談番組をやっていて、この前パンピー(PUNPEE)さんとの対談を収録したんですが、その時に漢さんがMSCで500枚限定のCD-Rを出していたという話をしていて。「そのCD俺持っていないな、集めなきゃ」と思ったり。メルカリなどでCDを常に買い漁っています。強迫観念なんでしょうね、1週間で2万円くらいメルカリでCDを買ったりしています。
でも今集めているのは日本語ヒップホップ限定で。昔の日本語ヒップホップのCDって無限に数があるわけではないので、ロックなどに比べてまだなんとか集められる範囲なんですよね。1990〜2000年代の日本語ヒップホップのアーティストは、最低でも1アーティストにつき1枚は持っていると思います。
—印象的なCDを教えてください。
MSCの自主製作のCD-Rです。一般販売した盤でも同じ曲が入っているんですが、実はトラックが違うんですよ。だから音源として持っておかないとなって。もちろんサブスクにはないですし。
あとこれはリップスライム(RIP SLYME)のプロモーションCD。非売品(not for sale)のものなんですが、たしかゲオ(GEO)のワゴンセールで売られていて100円くらいで買った気がします。
—一番最初に買ったCDは何ですか?
嘉門達夫の替え歌メドレーCDですかね(笑)。音楽を好きになってから最初に買ったのは、ドラゴン・アッシュ(Dragon Ash)の「Grateful Days」だったと思います。
—小学生の頃からヒップホップ好きなんですね。
東京出身なんですが、アンテナテレビが僕の部屋にあって、なぜかそれが神奈川テレビの電波を拾っていたんです。当時、シャズナ(SHAZNA)のイザム(IZAM)さんが神奈川テレビで朝に音楽番組をやっていて。学校に行く前にいつも観ていて、そこでドラゴン・アッシュやウーア(UA)さんなどの曲に出会って「日本の音楽って格好良いな」と思ったんですよね。それで、ツタヤ(TSUTAYA)にドラゴン・アッシュのCDを借りに行ったら、関連商品としてブッダ・ブランド(BUDDHA BRAND)とかシャカゾンビ(SHAKKAZOMBIE)が並んでいて、そこからどんどん日本語ヒップホップにハマった感じです。
—CD蒐集はいつまで続けるんですか?
「日本語ラップ名盤100」などの本に載っているCDで持っていないものがなくなったらですかね(笑)。
—USロックやUKロックにハマったのはいつ頃から?
高校生くらいからヒップホップを離れて、USロックやUKロックにハマりました。2004年のサマソニにアヴリル・ラヴィーン(Avril Lavigne)やグリーン・デイ(Green Day)が出ていたんですが、アヴリルやグリーン・デイの出番の前にステージの傍にあるモニターで流れていたブロック・パーティ(Bloc Party)やカサビアン(KASABIAN)のPVがすごく格好良くて、そこからUKロックにハマりましたね。スヌーザー(snoozer)という雑誌を愛読していて、転職してマクガフィンに入るまではロックばかり聴いていました。
—雑誌「Samurai ELO」の編集長を経て、マクガフィンに参画したそうですが、マクガフィンを選んだ理由は?
当時Samurai ELOで読者アンケートをとっていたのですが、「今、何で情報を仕入れいていますか?」という質問の答えとして「動画」が一番多かったんです。Samurai ELOが2017年に休刊しちゃって、他の雑誌からもお声は掛けていただいていたんですけど、「このまま紙媒体をやり続けるべきか」と疑問に思って。ちょうどマクガフィンが立ち上がったばかりで、コンテンツを作る人がいないということだったので、参加を決めました。
—マクガフィンに参画後、またヒップホップにハマるようになるわけですが、なにかきっかけがあったんですか?
大々的にラッパーへの取材が許される媒体って多くはなかったんですよ。ただ、マクガフィンではコンテンツに対して大きな縛りが無いですし、自由度が高いので好きな物を取り上げようということでラッパーを取り上げるようになったことがきっかけですかね。
でも実はSamurai ELO時代から好きな物の取材をたまに混ぜていて、「BAZOOKA!!!/高校生RAP選手権」の岡宗秀吾さんのインタビューを掲載したこともありました。完全に僕の趣味ですが(笑)。
対談相手は漫画「キングダム」を参考にして決める?
—VHSが積まれていますが、ビデオも集めているんですか?
VHSは小学生から中学生くらいまでの間に集めていた物がほとんどです。当時、中古レンタルビデオの卸売りみたいなお店があって、レンタルビデオを100円とかで販売していたんですよ。
—ホラー映画が多いですね。
ホラーはアジアンホラーが好きですね。キョンシーなどアジアの土着的な文化が垣間見えますし、音楽と衣装も好きなんですよ。あと、戦い方にも違いがあって、西洋のホラーは基本的に十字架と聖水で戦いますが、アジアンホラーは仏教の影響を受けているのでお経を唱えたり、お札で戦ったり。文字も書道っぽさがあって好きです。もちろん、アメリカンホラーも見ますけどね。
—「鬼滅の刃」は全巻揃っていますね。
はい、流行ってたので(笑)。漫画は完結が決まったら買うようにしているので、ワンピース(ONE PIECE)やハンター×ハンター(HUNTER×HUNTER)は読んだことが無いくらいビギナーです。ただ、キングダムだけはヤングジャンプを買い続けて、毎週追いかけています。
—キングダムのどこが好きなんですか?
劇画タッチの絵が好きなんですよ。北斗の拳や魁!!男塾、ジョジョの奇妙な冒険などの作品にみられる圧の強い画風の事です。キングダムの主人公の信は今のジャンプっぽい線の細めな顔なんですが、王翦とか一部の大人のキャラクターが劇画タッチなので気持ちよく読めるんです。
あと、漫画でいうと解説本やガイドブックなどが好きです。キャラクターの名前を暗記するのが好きで、だからキングダムの六大将軍とか王翦軍とかは全員の名前を言えるように覚えちゃいますね。
—記憶でもコレクションするのが好きなんですね。
ヒップホップ、アイドル、漫画、プロレスは歴史や文脈に沿って集めたり、調べるのが好きで、共通点を感じるんですよ。一人で「アイドルキングダム」みたいなことをやっていて、キングダムの秦の国がAKB48だとしたら主人公の信は前田敦子さんで、じゃあ楚の国はももクロ(ももいろクローバーZ)かなとか(笑)。同じことをラッパーでもやっていて、相関図を作って、それに沿って誰と誰を対談させたら面白いかを考えたりしています。
—漫画以外にもたくさん本がありますね。
よく読むのは全裸監督などを書いた本橋信宏さんの本です。街が好きなので東京の街の裏面みたいなものを掘っている本が好きなんですよ。中学校のときに都市伝説が流行ったからその名残なんですが、都市伝説や、事件、犯罪者の本が多いです。
そのため漫画でも1990年代のオルタナティブ漫画が特に好きです。ドラゴンヘッド、シガテラ、ヒミズといった終末系ですね。
—フィギュアも集めているんですか?
今ちょうどここにインデペンデンス・デイの物がありますが、映画関連のフィギュアを中心に集めています。NIGO®さんや「バウンティハンター(BOUNTYHUNTER)」の岩永ヒカルさんの影響もあって、1990年代後半に原宿でフィギュアブームがありましたよね。雑誌の「クール・トランス(COOL TRANS)」とか「ブーン(Boon)」もフィギュア特別編集号を出していたり。フィギュア屋で働いている人もストリート系のファッションの人が多かったんですよ。それが小学生の頃で結構食らって。当時買えなかったので、今集めている感じです。
—戦車はプラモデルですか?
はい。コロナ禍でプラモデルにハマったんです。コロナ禍に暇だから自転車で色々な街に行って、都市伝説を調べたり、各地のオカルトを調べていたんです。その一環で秋葉原に行ったんですけど、秋葉原がプラモデル屋街だと知らなくて。小学生の頃にプラモデルをやっていたので懐かしくて買ってみたらハマりました。
ガチ勢の人たちに怒られるのかもしれないですが、色は勝手に塗っていて。例えばニューバランスのスニーカーを意識した配色を作ってみたり。これは、「ジョーダン ブランド(JORDAN BRAND)」と「フラグメント(fragment design)」、トラヴィス・スコット(Travis Scott)のエア ジョーダン 1みたいだなとか勝手に親和性を感じて楽しんでいます。
—この家に住んで良かったことは?
物を置く部屋が作れて、生活空間を邪魔しないこと。あとは窓が多いので、日当たりは良くないんですが明るいことですかね。
—次に引っ越すとしたらどんな家が良いですか?
陳列できていない雑誌とかが大量にあるので、全ての物を陳列できるような家に引っ越したいです。
メディアは水商売?独走しているのか、取り残されているのか
—ルームツアーで一番印象に残っている取材は?
特に印象に残っているのは「サノバチーズ(SON OF THE CHEESE)」の山本海人さんです。部屋に関する印象はどの部屋に行っても毎回驚かされているんですが、山本海人さんの取材は真鶴まで行って、さらに船を出してもらって釣りをしたんです。それが楽しかったというのと、「昨日から楽しみで、釣りの格好をして寝て待ってました」と言ってくださって、出演者側が凄く楽しんでくれたのが嬉しくて印象に残っています。
—そもそもどういう経緯でクリエーターなど裏方の人のルームツアーはスタートしたんですか?
YouTubeチャンネルの「街録ch〜あなたの人生、教えて下さい〜」が好きなんですが、スタイリストの服部昌孝さんの回を観て、「カルチャーやファッションへの信念が感じられて凄く良いなあ」と思ったんです。
ただ、街録chは面白いから観ていられますが、YouTubeでインタビュー動画単体をあげても途中で離脱されちゃうことが多いんですよ。なのでクリエーターの方に出てもらうにも面白い番組設計が出来ない。そんな中、マクガフィンで元々「SHOW YOUR ROOM」というトーフビーツ(tofubeats)さんやオカモトレイジさんがナビゲーターとなって音楽アーティストの部屋だったり、製作スタジオへ行く企画をやっていたので、「SHOW YOUR ROOM」のスピンオフという形でファッション関係者や美容師などの家に行ってもいいんじゃないか、と思い裾野を広げた感じですね。家での取材だと、私物からその人のバックボーンも知ることができますし、「家具を真似してみようかな」といった追体験もできるので。なにより普通のインタビューと違って、絵が変わるので視覚的にも楽しめる。なので、ルームツアーは部屋紹介企画と見せかけてインタビュー企画の側面も意識していて、仕事の話なども聞くことが多いです。
—今、メインで動いている企画はいくつあるんですか?
ルームツアー、漢さんの対談、お店紹介、スニーカー企画ですかね。方針として毎日投稿していこうかなと考えていて、お昼ご飯紹介企画やスナップ企画を始めて7つくらいにする予定です。
—雑誌と動画で企画立案の際に違いは感じますか?
個人的には雑誌のときにやっていた企画を、動画という新しいフォーマットに落とし込んでいるイメージで、企画立案に関してフォーマットの違いはあまり感じていません。
ただ、Samurai ELO時代の出版社の局長の「競合他者がいなくて独走しているように見えて、実は誰も興味がない島に一人で取り残されている可能性を考えろ」という言葉が今も心に残っていて。SNSが発展して個々が発信出来る現代において情報をただ紹介、提案するだけのメディアは果たして必要なのか、ということは日々考えています。そもそも、マクガフィンという名前の意味は映画に出てくる”話を進める求心力のある小物”の事を指します。例えばインディージョーンズでいう聖杯みたいな。それをみんなが追いかける事でストーリーが進む記号的な意味合いを含む小物の事です。そこから転じて、マクガフィンの動画を観る事で、映画における聖杯のように若者の心が動く事を願って付けています。なので従来のメディアのように流行りの情報を提案するだけではなくて、きっかけ作りだったり、一緒にイベントをやりたい、編集部に入りたい、動画に出ているようなお店を作りたいなど、なんでもいいんですが、誰かの心を常に揺さぶる事が出来ているかどうか、という事はブレないように意識してます。
—編集ディレクションも安藤さんが担当しているんですか?
ディレクションもしています。最初に撮影した素材動画をカメラマンから送ってもらうんですが、1時間撮影した動画を15分に削る作業が大変で。トークのどこの部分を使うかなどの指示出しをしていますね。
—そういった作業は自宅で?
家ではやらないです。家でやると気が緩んで本を読んじゃうので(笑)。だから基本会社でやりますし、会社でも自分のデスクは集中できなくて、共有スペースのラウンジで作業する事が多いですかね。場所を毎回変えたり。
—ディレクションもするとなるとタスク量が多いのでは?
撮影が終わったら絶対に会社に戻るようにしていて、そのまま徹夜で編集指示書を書いたりします。基本的に自分の手元に仕事のボールを置いておきたくないので、誰かの作業待ちの状態にしておくことが量をこなす上で大事なポイントかなと考えています。
—なかなか大変ですね(笑)。
でも正直雑誌時代の方がきつかった。月1回160ページの雑誌を作っていたんですが、当時僕が最年長で28歳とか。他は大学を卒業したばかりの23歳の子たち6人とかで、若い子ばっかりで四苦八苦して。一睡もせずに4徹とかしていたので、あの頃よりは全然いいです(笑)。
—今後、編集のメンバーを増やしていくんですか?
絶賛悩んでいるところです。メディアはプラットフォームの流行りに左右される水商売だと思っているので組織の柔軟性は選択肢として持っておいた方がいいと思います。それでもやっぱり意思疎通できる仲間は欲しいかなという感じでずっと悩んでいます。
—マクガフィンに入って約5年が経ちますが、動画コンテンツはまだ伸び代があると思いますか?
そうですね。僕ら自身も縦型やショート動画などに力を入れているところで、まだ出来ていない部分もあるので伸び代というか、僕らがやらないといけない事はまだまだある感じです。でも、動画に縛られる事なく、例えば雑誌だったりイベントだったり色々拡張させていくのも忘れずにいたい。そういう柔軟性があれば、さらに新しいプラットフォームが出てきたときに、流れに沿って新しい方へ進むこともできる。雑誌という昔からある媒体から動画メディアへ移動したことで、選択肢を色々持つ事の大切さを考えられるようになったことが、動画メディアに移って一番良かったことですね。
—マクガフィンの今後の目標は?
YouTubeのチャンネル登録者数を増やすこと。あとは、音楽イベントをやったり、マーチャンダイジングをやったり、新しいことに挑戦していきたいです。
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