Image by: FASHIONSNAP
多様性という言葉が用いられはじめたのはいつ頃からだっただろうか。この耳障りの良い言葉を、大企業や行政がブランディングに用いて久しく、悲しいことに「多様性」という言葉そのものが食傷気味だと感じているのは筆者だけではないだろう。グーグルの検索窓に「多様性」を入力すると「押しつけ」「わがまま」というサジェストが出てきてしまうのも大変無念なことだ。本来であれば、多様性(ダイバーシティ)という言葉は、長くそして深く理解される言葉であるはずで、そもそも本当性に多様性がある社会ならば、その言葉自体存在しないはずである。
エイジレス、ジェンダレス、ボディポジティブを掲げる「メグミウラ ワードローブ(MEGMIURA WARDROBE)」は、まさに多様性を目指しているブランドであり、これまでずっとプレゼンテーション形式でコレクションを発表してきた同ブランドが、初めてフィジカルショー形式でコレクションを発表する意味は、昨今の多様性の捉え方を加味しても一考の余地があるだろう。
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メグミウラ ワードローブは、2021年秋冬コレクションからコートに特化したブランドへとリブランディングしている。アイテムの約8割をアウターが占める日本では珍しい正真正銘の“アウターブランド”であり、「羽織るだけで、360度美しいコート」と謳っているように、緻密なカッティングやパターンから生まれる機能性に定評がある。一方で、実際に手に取り、着用することで伝わる機能性を得意としているアウターブランドが、どのようにショーで得意分野やコンセプトを表現するのか、と勝手ながら心配をしていたがそれも杞憂であった。なぜなら、三浦は「羽織るだけで、360度美しいコート」の解釈を、街と人にまで拡大解釈させ、私たちにショーという形でわかりやすくみせてくれたからだ。
会場は、渋谷駅西口の地下に位置するタクシー乗り場。4月から渋谷の新しい玄関口として機能することが決まっている。打ちっぱなしのコンクリートの壁、剥き出しのダクト、電車が通る音が絶え間なく残響する様子など、何気ない空間要素は、見慣れた東京の雰囲気をまとっていた。
開演を待っていると、左手に青ネギが入ったレジ袋、右手にヨガマットケースを携えた妙齢の女性が目に入った。煌びやかなショー会場にはそぐわない彼女をみて「変わった来場者もいるものだ」と思っていたが、その妙齢の女性も三浦が仕込んでいたエキストラで演出であったことは、この時まだ知る由もない。
妙齢の女性を見かけた直後、目の前を女子高生二人組が通り過ぎ、これらがエキストラであり、演出であることにようやく気がついた。僧侶、スケーター、サラリーマン、カメラマン、ミュージシャン、ナンパ師、ティッシュ配り、ギャル、英会話の先生、バーテン、芸人(レイザーラモンHGがランウェイを歩いたことにいったいどれほどの人が気がついたのだろう)など、瞬く間にその人数は増えていき、互いにコミュニケーションを取り、交わり始めた。
痛快だったのは、予定時刻を超えてから着席したゲストは、必然的にランウェイの上にいるエキストラと混ざることになり、一体どこまでが事前に決まっていた演出で、どこまでがエキストラなのかが、側から見ると全くわからなかったことだ。モデルがランウェイを歩いているわけではないので、立ち上がってエキストラの写真を撮りにいくゲストもいたが、そのゲストすらも「エキストラの写真を撮っているゲスト」というメタ的な役割が与えられているように見える。エイジレス、ジェンダレスを掲げる三浦は、ショーが始まる前からある種の「ボーダーレス(境目がない)」を表現してみせた。三浦は「ブランドコンセプトであるエイジレス、ジェンダレス、ボディポジティブを表現できる場所はどこか、と考えた時『渋谷しかない』と思った」と会場を決めた経緯を振り返り、エキストラの職業や人柄を通して、ありとあらゆる人を内包する街、渋谷を表現した。
登場した服にも、渋谷の要素を感じ取ることができる。「SHIBUYA」「FREEダム」の刺繍が施されたベストジャケット、渋谷のネオン街を思わせるカラーリング、ごつごつとしたソールが特徴的なプラットフォームスニーカーは渋谷のビル街を彷彿とさせた。ショーの終盤になると、モデルは一斉にアウターを脱ぎ、吊るされたS字フックにひっかけてから会場を去った。来場者はショー終了後実際に手に取ったり、着たりすることができ、ブランドの機能性訴求までの動線もショーの中で組み込んでいたのが印象的だった。
また、ランウェイを歩くモデルには年齢、性別、人種、体型が異なる人々をキャスティング。高齢者から小さい子ども、大きい人から小さい人まで多種多様な人物がランウェイの上を歩いた。ブランドコンセプトである「360度美しいコート」というのは、広義的に捉えれば、造形だけとは限らない。誰がどんな風に着ても美しいのが真の意味での「360度美しいコート」であるはずだ。事実、同ブランドのアウターは体の形を拾わない立体的な構造になっており、どんな人でも着用することができ、緻密なカッティングやパターンに裏付けされたデザインは、誰でも美しく着こなすことが可能だ。三浦は「男だとか女だとか関係なく、どんな人でもかっこいい。制限された『ファッション』ではなく、広い意味でのファッションってなんだろうということを、表現したかった」と話し、安易に「ジェンダーレス」という言葉を使わなかった三浦に、彼女なりのこだわりを感じさせた。
2022年春夏コレクションを発表した際、今後の発表方法について「ショーもやりたいが、コンセプトである3つのキーワードを伝えることが第1の課題。ランウェイショーが適切かを試行錯誤しながらインスタレーションなど新しい表現方法で発表していけたら」とコメントしていた三浦が、なぜこのタイミングでランウェイショーに踏み切ったかを最後に問いかけたところ下記のような回答が返ってきた。
「服は服として単体でデザインしているが、マネキンで見せる服をではなく、服を着て楽しんでいる人にフォーカスしたかった」
モデルを「歩く」という動作ではなく、服を着た時の心の動きにスポットを当てたメグミウラ ワードローブの次のアウトプットが今から楽しみだ。
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