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スタイリスト小山田早織が新ブランドで提案する、「服はあるのに着たい服がない」現象からの脱出術

聞き手&文菅原まい

小山田早織

Image by: FASHIONSNAP

小山田早織

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小山田早織

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 「服はたくさんあるのに、今日着たい服がない」。クローゼットの前でそんなふうに立ち尽くした経験はないだろうか。年齢を重ねるにつれて、仕事や子育て、学校行事など、服に求める役割は増えていく。一方で、SNSには次々と新しいトレンドが流れ、「何を買えばいいのか」「何が自分に似合うのか」が分からなくなる。服は増えているのに、満たされない──そんな違和感を抱える女性は少なくない。

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 約17年間スタイリストとして多くの女性の服選びに寄り添ってきた小山田早織も、そうした悩みを目の当たりにしてきた一人だ。そして、その違和感に対する自身なりの答えとして立ち上げたのが、自身初のブランド「メルト モード スタジオ(MELT MODE STUDIO)」。本当に必要な服とは何か。ブランドに込めた思想やものづくりへのこだわり、大人のワードローブとの向き合い方、そして自分らしいおしゃれを楽しむヒントについて話を聞いた。

スタイリスト

小山田早織

Saori Oyamada

数々のファッション誌でのキャリアを経て広告やファッションメディアを中心にスタイリングを手がける。シンプルながらも、こなれた印象をつくるスタイリングに定評があり、幅広い年齢層の女性から支持を集める。2017年に「身の丈に合った服で美人になる」、2019年に「もう通勤服に悩まない」、2021年に「稼働率100%クローゼットの作り方」をそれぞれ出版。昨年7月には初の単独公式YouTubeチャンネル「Styling of Life」を立ち上げ、自身のキャリアで培った知識を活かしたスタイリングやライフスタイルを紹介するコンテンツが人気を博している。

スタイリストだから提案できる、“着る人目線”の服

──今回ご自身のブランドをスタートした理由を教えてください。

 スタイリストとして仕事をする中で、これまでさまざまなブランドとのコラボレーションやブランド立ち上げにも携わってきました。ただ、そのたびにゼロから洋服を生み出す難しさを痛感していたんです。スタイリストは、すでにある「1」を「10」に見せる仕事。だからこそ、ものづくりにはずっと高いハードルを感じていました。

 そんな考えが変わったのは、トークセッションやファッションセミナーで、洋服が好きだけれど服選びに悩む女性たちと直接話す機会が増えたことでした。会話の中で「小山田さんが思うシンプルやスタンダードって、どこのどんな服ですか」と聞かれることが多かったのですが、改めて考えてみると、答えられなくて。着やすく、手の届く価格帯で、機能的で着心地もいい。それでいて、見た目にはソリッドなモード感がある。そんな今の時代の「大人のおしゃれ」を体現する服が、どうしても見つからなかったんです。多くの女性に理想の服選びを提案してきたにもかかわらず、「これが私の答えです」と胸を張って勧められる服がないという現実になんだかショックを受けてしまって。そこで「ないなら、自分で作るしかない」と思ったことが、ブランドを始めるきっかけになりました。

──ブランド名「MELT MODE STUDIO」にはどのような想いが込められていますか?

 ブランドを立ち上げると決めたとき、最初に決めたテーマが「大人の女性の日常に寄り添う服」を作ることでした。そこでまず思い浮かんだのが、「日常」や「毎日のように手に取れる」というキーワードです。ただ、日常着であるだけでは物足りない。大人の女性が服を着る楽しさや高揚感も感じられる存在でありたいと思い、「モード」という要素を掛け合わせました。そうして生まれたのが、「日常にモードを溶かし込む」という思いを込めた「MELT MODE STUDIO」というブランド名です。

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 ファーストコレクションで目指したのは、毎日自然と手に取ってしまうような服。家で洗えて、ママチャリにも乗れて、一日中着ていてもストレスがない。それでいて、対面の仕事や学校行事など、きちんと見せたい場面でも自信を持って着られる。そんな実用性を備えながら、服を着ることで気分が上がったり、「今日の自分、いいかも」と思えたりする高揚感も大切にしています。シルエットやディテールにはさりげなくモードな要素を取り入れ、日常の中でもファッションを楽しめるデザインに仕上げました。

──ファーストコレクションは計4型とコンパクトな構成です。

 「稼働率100%クローゼットの作り方」という本を出版している以上、「着ない服をゼロにする」という考え方を実現できないとブランドを立ち上げる意味がないと思って。なので「これさえあれば大丈夫」と思える4型だけを作り、組み合わせ次第で何通りものコーディネートができるように設計しています。

──各アイテムにはどのようなこだわりを込めていますか?

 どのアイテムにも共通しているのは、「日常着だけれど、高揚感を与えられること」です。家で洗えて、気負わず着られる機能性はもちろんですが、それだけでは終わらせたくなかった。スタイリストとして多くの女性を見てきて、結局一番印象を左右するのは顔まわりやシルエットだと感じてきたので、どのアイテムも着た瞬間に「なんだか素敵に見える」と思えるバランスを徹底的に追求しました。

 例えばジャケットは、夏でも軽やかに着られるボイル組織を使いながら、肩パッドや鎖骨を美しく見せる深めのVネックでシャープな印象に仕上げました。ブラウスは襟を取り外せる2way仕様にすることで、一枚でブラウスとしても、ミニマルなTシャツとしても着用できます。体型の変化に悩む女性も多いので、体のラインを拾いすぎず、インでもアウトでもきれいに決まるシルエットがポイントです。

リネンタッチハーフスリーブジャケット(2万5300円)

Image by: MELT MODE STUDIO

 パンツは取り外し可能なサスペンダーを付けることで、いつものTシャツに合わせるだけでも少しモードな雰囲気になるように設計。トップスをインしたときにもきれいに見えるように細部まで調整しました。セットアップも、デッドストックのペイズリー生地に洗い加工を施して、きれいすぎず日常に馴染む表情に仕上げています。キャミソールとスカートはそれぞれ単品でも使えるので、着回しの幅も広がるアイテムです。

ウォッシャブルサスペンダーパンツ(1万8700円)

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──ファーストコレクションの価格は1〜2万円台。ここにもこだわりを感じます。

 業界へのアンチテーゼというと少し大袈裟ですが、「いい服=高い服」という価値観には以前から違和感がありました。だからこそ、現実的に多くの方が無理なく手に取れる価格で、本当にいいものを届けたいと思って。価格を抑えるために品質を妥協するのではなく、適正な価格で納得できる、無理のない1着であることにこだわっています。「無理なく」というのは、経済的な意味だけではありません。「このブランドを着ていればこう見られる」という世間の価値観ではなく、「私はこれが好きだから着る」と、自分の意思で能動的に選び取れるポイントがいくつもある。そんなクローゼットの中にあるだけではなく、暮らしの中でちゃんと活躍する服であることも意識しています。

バンツのウエストはゴム仕様

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「防水・防シワ・透湿性など、自分が欲しいと思う機能は一通り追加しました」と小山田さん

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──同じ価格帯のブランドも多い中で、メルト モード スタジオの強みはどこにあると考えていますか?

 他ブランドさんとの一番の違いはやはり「スタイリストが作った服」であることだと思っています。私はこれまで、「服はたくさんあるのに着る服がない」「何を買えばいいかわからない」「年齢や体型の変化で似合う服がわからなくなった」といった、一般女性のリアルな悩みに長年向き合ってきました。その中で見えてきた"本当に必要とされる服"の要素を吸い上げて、ダイレクトに服づくりに落とし込んでいることがメルト モード スタジオならではの強みです。

大切なのは“自分らしいおしゃれ”を取り戻すクローゼット習慣

──「クローゼットを開けても着たい服がない状態」、私もよく陥ってしまいます。この現象はなぜ起きてしまうのでしょう?

 私は、クローゼットの中が「ノイズ」であふれてしまっているからだと思っています。他人の目線を気にして買った服や、「誰かにどう見られるか」を基準に選んだ服が増えると、本当に着たい服を自分で選び取れなくなってしまうんです。背景には、SNSや広告によって常に物欲が刺激される今の時代の環境があると思っていて。次々と新しいものに触れる中で、自分が本当に好きなものよりも、「これを選んでおけば大丈夫」と無難なものを選んでしまいがちになってしまうんです。さらに30代、40代になると、仕事や子育て、学校行事などライフステージが変化し、「好きだから着る服」よりも、「この場にはこの服が必要」という選び方が増えていきます。出産による体型の変化も重なり、「何を着ればいいかわからない」という相談は、スタイリストとして本当に数え切れないほど受けてきました。

──“ノイズ”を消すにはどうすれば良いのでしょう?

 ブランドや価格だけで服を選ぶのではなく、自分にとって本当に必要か、自分らしくいられるかという視点で一度クローゼットの中身を見直してみることをおすすめしています。

 私自身も、毎月新月の日にクローゼットを開けて、「この服は今の自分に必要だろうか」と一着ずつ向き合う時間をつくっています。絶対に手放せないと思っていた服でも、時間が経つと「もう役目を終えたかもしれない」と感じることがあるんです。そうやって自分にとって本当に必要なものだけを残していくと、クローゼットだけでなく心にも余白が生まれます。その余白があるからこそ、新しい出会いや今の自分らしいおしゃれを素直に楽しめるようになるんです。

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──小山田さんが買い物をするときに意識していることはありますか?

 ベーシックな服を軸にしながら、心が動いた旬のアイテムを少しだけ取り入れるようにしています。必要だから買う、ではなく、「今の自分が本当に着たい」と思えるものを選ぶ。その積み重ねが、長く心地よく付き合えるワードローブ作りにつながるのではないでしょうか。

 ただ、クローゼットをすっきりとさせることを意識するあまり、「本当に必要なものだけを買わなきゃ」と自分を縛りすぎる必要はないと思っています。街を歩いていて「かわいい!」と心が動く服に出会えたら、そのときめきは大切にしてほしいんです。大人になるほど、そういう純粋な出会いって意外と少なくなりますから。私自身も、何時間お店を見ても何も買わずに帰る日もあれば、「今日はこれも欲しい、あれも欲しい」と心が動く日もあります。そんな波があるのも自然なこと。大切なのは、情報や焦りに流されて買うのではなく、自分の気持ちで選べているかどうかだと思っています。

Image by: MELT MODE STUDIO

──夏はシンプルな服装に落ち着いてしまいがちです。物足りない時におすすめのスタイリング術を教えてください。

 夏服はシンプルなデザインのものが多い分、ジュエリーやバッグ、靴など、小物使いはすごく大事になってきます。例えば、Tシャツにデニムのようなシンプルな組み合わせなら、アクセサリーは少し存在感のあるものを選んだり、バッグや靴に異素材を取り入れたりすると、一気に奥行きが出ます。逆に、アクセサリーを重ねる日はバッグや靴をシンプルにするなど、どこか一つを主役にするとバランスよくまとまります。

 あとは、服だけで完成させようとするのではなく、ヘアやメイクもコーディネートの一部として考えてほしいですね。リップの色を少し変えてみたり、髪を軽くまとめて首元に抜け感をつくったりするだけでも印象は変わります。夏は洋服で重ね着ができない分、ヘアやメイクまで含めてスタイリングする意識を持つと、簡単にこなれ感を生み出せます。

──ちなみに、小山田さんが夏に向けて気になっている旬なアイテムはありますか?

 牛柄のアイテムがちょっと気になっています。もともとレオパード柄が好きなんですが、今年は牛柄が新鮮に映っていて。あとは夏らしいラフィアやかごバッグも探しているんですけど、まだ「これだ!」と思えるものには出会えていないので、じっくり探しているところです。

「自分らしさ」と「社会性」の交差点を目指して

──今回服をスタイリングする側から作る側になったことで、新しく見えてきた視点はありますか?

 スタイリストの仕事では、その瞬間、その人を素敵に見せることを意識してきました。でも服を作るようになってからは、一着の服をもっと長い時間軸で見るようになって。例えば、お客様はこの服をどんな日に着るんだろう、何度くらい袖を通すんだろう、洗濯を重ねてもまた手に取りたくなるだろうか、といったことまで考えるようになったんです。

 実際にお客様から「気づいたら毎週着ています」「旅行にも持って行きました」といった声をいただくと、服の価値って見た目だけじゃないんだなと改めて実感します。服はクローゼットの中で素敵に見えることではなく、暮らしの中でちゃんと役に立って初めて意味がある。服づくりを始めてから、そんなふうに服を見る目そのものが変わった気がします。

──今後も少ない型数での展開になるのでしょうか。

 そうですね。たくさんの商品を次々に出すというより、「必要なときに、本当に必要なものを届ける」という考え方で続けていきたいと思っています。例えば、秋になれば長袖のブラウス、寒くなればコートというように、季節や暮らしに合わせて少しずつ提案していくイメージです。従来のアパレルのように何十型も展開するのではなく、本当に必要とされるものを丁寧に作りたいんです。

 今はお客様から「小学校受験で着られるようなアイテムが欲しい」という声をたくさんいただいて、ネイビーのアイテムも企画しているところです。SNSを通じて直接ご要望を聞ける時代だからこそ、一方的に作るのではなく、お客様の暮らしや困りごとに寄り添いながら、一緒にブランドを育てていけたらと思っています。

Image by: MELT MODE STUDIO

Image by: MELT MODE STUDIO

──最後に、今後の展望を教えてください。

 目指しているのは、お客様と一緒に育っていけるブランドです。規模とかビジネス的なことを考えるのはすごく苦手なので、売り上げの数字みたいなことはあまり深く考えないようにしています(笑)。できる限り直接お会いしてお話ししたり、SNSで声を聞いたりしながら、対話のできる距離感を大切にしていきたいんです。その先に大きな広がりがあるならもちろんうれしいですが、まずは自分の手の届く範囲を大切にしたいと思っています。社会の中で生きている以上、自分の好きだけでは成り立たない場面もありますよね。だからこそ、自分らしさと社会性、その両方を心地よく行き来できるような服を届け続けたいです。

 日本のスタイリストが持つ着こなしの技術や引き出しは、世界にも通用するものだと思うんです。このブランドを通して、日本ならではのスタイリングの考え方や、少ない服でもおしゃれを楽しむという価値観を、海外の女性たちにも届けていきたいですね。

最終更新日:

◾️メルト モード スタジオ:公式オンラインストア

聞き手&文・菅原まい

Mai Sugawara

FASHIONSNAP 編集記者

2002年、東京都生まれ。青山学院大学総合文化政策学部卒業後、2025年に新卒でレコオーランドに入社。中学生の頃から編集者を志し、大学生時代は複数の編集部でインターンとして経験を積む。特技は空手。趣味は世界中の美味しそうなお店をGoogleマップに保存すること。圧倒的猫派で、狸サイズの茶トラと茶白を飼っている。

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