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おくりびとが施す人生最期のメイク 「その人らしさ」を演出する技術とは

 亡くなった人の尊厳を守り、遺族が穏やかに別れの時間を迎えられるよう支える納棺師の仕事。映画「おくりびと」や「ほどなく、お別れです」などでたびたび注目を集めてきた業界だが、その仕事の中に、故人の面影を整え「その人らしさ」を取り戻す“メイク”があることについては、あまり詳しく知られていない。「死化粧」と聞けばイメージは湧くものの、それは私たちが日常的に行うメイクとは目的も技術も大きく異なるもの。故人が安らかな表情で旅立てるようにとの願いを込めるこの技術には、専門的な知識と繊細な手仕事が求められる。

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 遺体の肌の変化にどう向き合い、どのような道具や技術で生前に近い表情へと導くのか。納棺の現場で行われる死化粧の工程と、その背景にある思いを、納棺師の木村光希氏に聞いた。

◾️木村光希
納棺師。2013年6月、納棺師の育成施設を運営する株式会社おくりびと®アカデミーを設立。同年10月、納棺士の資格付けを行うための専門機関として、納棺士技能協会を設立。2015年12月、納棺士が葬儀をプロデュースする葬祭ブランド「おくりびと®のお葬式」を立ち上げ、全国で13店舗を展開。2026年2月に公開された映画「ほどなく、お別れです」では葬儀監修を務め、主演の目黒蓮などに指導を行った。

納棺師の仕事について

⎯⎯ まず、納棺師という仕事の内容を教えてください。

 亡くなった方を火葬するまでの間、ご遺体をできる限り良い状態に保ち、故人さまの尊厳を維持することが主な仕事です。ご遺体の腐敗の進行を抑えるために冷却や処置といったアプローチを行うほか、着せ替えや死化粧を儀式として提供し、ご遺族にとって「お別れの時間」を穏やかに過ごしていただくための環境を整える役割も担っています。

 明治時代初期の家事教科書には、死後の処置は家族が行うものとされていました。それが病院でお亡くなりになるケースが増え、看護師が担うようになった流れの中で、我々のような職種が生まれてきた。諸説ありますが1975年ごろから、葬儀会社から依頼を受けて納棺師が現場に出向くというパターンが定着してきたのではないかと思います。

⎯⎯ 宗派によって納棺の作法に違いはあるのでしょうか。

 着せ替えの内容や進め方に多少の違いはありますが、基本的には宗教的な儀式・儀礼とは位置づけていません。

納棺の儀にて、お着せ替えを行う木村氏

⎯⎯ なぜこの職業に就こうと?

 納棺師であった父親の影響です。私の曽祖母が亡くなったとき、父が着せ替えやお化粧をしている姿を間近で見て、その所作や姿勢に「なんてかっこいいんだ」と子ども心に思ったんです。静かで、尊厳に満ちた姿でした。その後、大学生になってから父の仕事を手伝い始めました。授業が終わったら葬儀の現場へ行く、というような少し変わった大学生活でしたね。この頃には自然と、自分も納棺師として働いていくのだろうという気持ちが固まっていました。

⎯⎯ この仕事に向いているのはどんな人でしょうか。

 ご遺族の声をしっかり聞いて、自分の技術と美的感覚とのバランスをうまく取りながら仕上げていける人だと思います。自分のエゴが強すぎても、逆に主張がなさすぎても、うまくいかない。そして、さまざまなケースでご遺族と柔軟にコミュニケーションを取ることが必要なので、傾聴の姿勢や丁寧な言葉使いができる人だといいかもしれません。

死後処置の工程と技法

⎯⎯ 亡くなった方の顔を生前の状態に近づける死化粧について聞かせてください。この工程は美しくするためのメイクというより、「その人らしさ」を取り戻すためのものだと聞きました。始めて対面する遺体に対して、"らしさ"というのはどのように作っていくのでしょうか。

 最後にどんな表情で送り出したいか、その答えはご遺族の心にしかありませんので、まず傾聴することから始めます。「生前はどんな方でしたか?」「どんな色お化粧をされてましたか?」といったご遺族との会話の中から、故人さまの人となりを想像していくんです。

 生前のお写真を見たり、そのお話から「その人らしさ」の輪郭が見えてきますので、私たちの技術でできる限りそこに近づけていきます。ただ、情緒的なことだけでは不十分だとも思います。医学的な知識に基づいた処置と、自然に見せるための我々の主観。その融合によって、ご遺族が心から納得できるお顔立ちを作り上げていくことが大切です。

⎯⎯ 生前と死後では、肌の状態はどのように変わるのでしょうか。

 個人差はありますが、最も大きな変化は肌の乾燥と質感の変化です。死後は水分が失われ、乾燥が進みます。また、重力により血液就下が行われ、肌の色も変わります。また、血の気が引くことで肌の色も変わります。ご高齢の方が多いので、過度なシワやくぼみなど、生前とは異なる変化に対していかに自然なうるおいやハリを再現するかが重要になります。

⎯⎯ では、死化粧に入る前にも土台を整える工程が必要なんですね。

 まず口腔ケア、鼻腔ケア、肌の消毒を行い、お体をきれいにします。その後、口を閉じて差し上げたり、体液が漏れないよう脱脂綿を詰めたりと、造形を整えていきます。場合によっては注射器のような器具を使用し、こめかみや頬のへこみを膨らませることもあります。唇の重なり具合によってリップのノリが変わったりもします。とにかく生前とは状態が異なるので、ベースを作り上げてからメイクに入るという流れです。

⎯⎯ エンバーミング(遺体衛生保全)と死化粧は別物?

 エンバーミングは、専用の施設で行う処置です。血管から血液を抜き取り、代わりに防腐効果のある薬剤を注入して、ご遺体の状態を保ちます。長期間安置しなければならない場合や、感染症の観点で衛生的に管理したい場合、海外にいるご親族の到着を待ちたい場合などに行います。安全性の高い処置ですが、日本ではまだ限られたケースでしか行われていませんね。

専用ツール・市販品・画材を使い分ける現場の知恵

⎯⎯ 死化粧に使用する道具はどのようなものですか。

 通常のコスメを使用する時もありますが、基本的には専用のものを使います。専用品は乾燥した肌にもなじみやすいよう油分が多めに配合されていたり、腐敗をわずかにでも遅らせるための防腐剤が含まれていたりします。おくりびと®アカデミーでは、専用の化粧品を使用したり、自社でそうしたコスメを製造しています。

肌の色調を整えるためのベース品

唇をメインに血色感を演出するためのパレット

 カラーについては、絵の具の三原色のように基本色を混ぜ合わせて使用します。たとえば黄疸で肌が黄色い方には、補色である赤や紫を薄くのせて黄みを打ち消し、その上から赤みを足して血色を作り、最後にファンデーションで肌の色を整えていく。色の知識も非常に重要です。

⎯⎯ 映画「おくりびと」では、本人が生前に愛用していた化粧品を使うシーンがありました。

 実際の現場でもございます。リップやファンデーション、アイシャドウなど、肌の状態が問題なければ使用させていただきます。愛用品があってもご遺体の状態により使用できないケースもあるので、その場合は、できるだけ近い仕上がりを専用コスメで再現しています。


⎯⎯ 遺体の状態によっては、特殊な素材を使うこともあるようですね。

 傷や縫合のあと、あるいは首を吊られた方のくびれなど、色補正だけで補えないところには、ファンデーションとワックスを混ぜて作ったものを使って凹みを埋めてから、さらにメイクでカバーします。

 こういったときには筆や画材、場合によっては絵画用の絵の具を使うこともあります。使用する道具はルールとして決められているわけではないので、それぞれの納棺師が使いやすいアイテムを常備しています。

(上から)色を混ぜて使用するコンパクト、マットな肌感を演出するカバーベース、油分を多く含むリキッドベース

ファンデーションとワックスを混ぜたもの。硬度が高く、傷や凹みをカバーする時に使用する

⎯⎯ 特に、死化粧の工程で難しいと感じるのはどのような点ですか。

 生前の面影をいかに自然に再現するか、という点に尽きます。闘病生活が長かった方ですと、お顔が痩せてしまったり、肌の色が変わってしまったりすることがあります。それをただ隠すのではなく、元気だったころのお写真などを拝見しながら、ご遺族の記憶にある「その人らしい表情」に近づけていく。そのさじ加減に最も神経を使いますね。それに、ご遺族の中でも故人さまの生前の見え方は人によって違う。近しい人のお話を伺って施したメイクでも、別のご遺族から「こんなのこの人らしくない!」というお声をいただいてやり直した経験もあります。

⎯⎯ 通常のメイクとは大きく違う死化粧ですが、納棺師を目指す方はどこで学ばれるんですか?

 納棺師は資格を必要とする職業ではないので、基本は葬儀会社などへの就職後、現場での実習で習得するパターンが多いです。私も父について学びましたが、よりしっかりと基礎を学べる場所が必要だと思っています。なので、私が運営している納棺師の育成施設「おくりびと®アカデミー」のカリキュラムに組み込んでいます。皮膚学や化粧品の基礎知識、道具の扱い方などを学んでいただく時間です。人にお化粧を施すこと自体が初めての生徒さんもいらっしゃいますし、もともとメイクが好きな方であっても、ご遺体の肌は生前の状態とは大きく異なりますので、皆さんに一貫して基礎からお伝えしています。

Image by: おくりびと®アカデミー

Image by: おくりびと®アカデミー

死化粧の変わらない美学

⎯⎯ 死化粧には男性用・女性用があると聞きました。どのような違いがあるのでしょうか?

 女性は生前のお写真などに基づいて、いわゆる"化粧"をさせていただきますが、男性の場合はいかに化粧をしている感じを出さないかが生命線です。粉っぽさが出ないようにクリーム系のファンデーションで質感を整え、血色を補いながらも、生前にあったほくろやシミはあえて再現します。ファンデーションで眉毛やまつ毛が白っぽく覆われると一気に化粧感が出てしまうので、スクリューブラシで整えたり、茶色や黒で1本1本描き足すように色みを乗せ直したりして、自然な仕上がりを目指します。

 どちらもその人らしさを意識するものではありますが、女性の場合は"美しく仕上げていく"という方向性があるのに対して、男性は"素顔を崩さないこと"を優先することが多いですね。それは納棺師が死化粧を施すようになった当初と、大きく変わっていないと思います。

⎯⎯ 昨今、ジェンダーの多様性が広がっていますが、死化粧においてもその影響はあるのでしょうか。

 死化粧における男性用・女性用とは、死亡診断書に記載の性での判別です。それに、あくまでこれはお化粧を施す上でのベースであり、実際は男女関係なくご遺族のお話を聞きながら行うため、ジェンダーの波のようなものを改めて感じることはないですね。

⎯⎯ 最近のメイクアップでは、過剰に盛りすぎず、素顔を生かした"スキンファースト"という仕上がりがトレンドに上がっています。このようなトレンドに影響を受けることはあるのでしょうか。

 多くの場合、私たちが死化粧を施す故人さまはご高齢であることも多いので、いわゆるビューティトレンドに影響されることは少ないと思います。ただ、新しい機能を搭載したあらゆる新作コスメが発売される中で、死化粧においてもできることが増えたり、ご遺族のご希望にもっと応えられるといったメリットもあるんです。なのでデパートの化粧品フロアなどに出向き、常に新しいコスメを探す姿勢は持つようにしています。

⎯⎯ 海外でも納棺を行うことがあるそうですが、やはり日本とは違いますか。

 私が海外へ出向く時は、日本式で行いたいという依頼です。なので大きく変えることはありませんが、その土地の文化はすごく意識します。例えば中国の一部地域では死装束を5枚から7枚重ねて着せる風習があり、死化粧もチークを赤く強めに塗るという美的感覚があります。日本式の丁寧さや工程を踏襲しつつも、その地域の風習に深く敬意を払い、合わせることが特に重要です。

⎯⎯ 遺族は死化粧の仕上がりを見て、どのような反応をされるのでしょうか。

 ご遺体の状態によっては、ご遺族が「苦しい最後だったのかな」と思ってしまうようなケースがあります。そのような時は、例えば口角をほんの1〜2ミリ上げて、少し微笑んでいるような表情に整えて差し上げる。するとそのお顔を見たご遺族が「ああ、穏やかな顔になった」「眠っているみたい」と安堵の表情を浮かべてくださるんですね。自分たちの仕事が故人さまの最期の記憶を、そして残されたご遺族のこれからの人生を、少しでも良いものにするお手伝いができたのかなと、温かい気持ちになります。

⎯⎯ 葬儀では必ず死化粧を施すのですか。

 葬儀にはいろいろなプランやパターンがございますので、お化粧を施さない方もいらっしゃいます。ただ、私が現在担当させていただく葬儀ではほとんどのご遺族がお化粧が含まれるプランを希望されます。告別式に多くの参列者が訪れる場合も多いので、安らかな表情でお別れをしてもらいたい、という思いがあられるのだと思っています。

⎯⎯ 納棺の儀に慣れることと、ご遺族に寄り添うことのバランスは、どう取っているのでしょうか。

 業務・作業として行う部分を7割、感情を入れる部分を3割と意識しています。正直、私は涙もろいほうなので、感情を入れすぎると現場を引きずってしまうんです。1日に複数の葬儀を抱えていても、それぞれまったく別のものですから、自分が健康で精神的に安定した状態でいることが、最高のサポートにつながると思っています。

⎯⎯ さまざまな死に接する中で、木村さんご自身の死生観に変化はありましたか。

 死生観は変化するものだと感じています。以前はずっと死ぬのが怖くなかったのですが、子どもができて守るものが増えたときに、すごく怖くなりました。生きているときに徳を積んでおけば、娘がピンチのときに助けてあげられる存在になれるんじゃないか、なんて考えたりしますね。誰かを守りたいという気持ちが、今の死生観になっていると思います。

⎯⎯ ご遺族との関わりの中で、難しさを感じることはありますか。

 「死んだら人はどうなるのか」という質問を投げかけられたことが何度かあります。もちろん私にその答えは出せませんから、ご遺族との関係性や状況から、寄り添うようなお話をさせていただきます。「死後、どうあってほしいですか?」と聞き返すことで一緒に考えることもあれば、宗派によってはお坊さんから聞いた話をご紹介することもございます。

⎯⎯ 最後に、死化粧に対する思いを教えてください。

 私たちは病気を治せるわけでも、介護ができるわけでもありません。ですが、遺された人の人生が、故人さまと過ごす最後の時間で変えられると本気で思っています。お化粧ひとつとってもそうです。最後の区切りの時間をより良いものにできれば、残された方の人生はより良く変わっていき、社会もより良くなっていく。そう信じているからこそ、業界全体で技術と心をアップデートし続けていきたい。それが故人さまへの、そしてご遺族への最大の誠意だと考えています。

 現在、納棺師になるための資格は特にありませんが、納棺師技能協会の設立など、資格化に向けても動いています。儀式を担当する会社や人により、当たり外れが生じてしまうことはあってはならないと思うので、技能審査の資格化という方向性に向けて、しっかりとしたベースを業界全体で作っていきたいというのが目標です。

photography: Katsutoshi Morimoto(FASHIONSNAP)

木村耀

Hikaru Kimura

FASHIONSNAP 編集記者

学生時代に外資系ファッションメディアでアシスタントを務めたのち、大学卒業後、ファッション誌で編集として従事。2025年12月からレコオーランド「FASHIONSNAP」でビューティエディターとして幅広い分野を取材・執筆。プライベートでは坂本裕二や今泉力哉などの脚本家が描く日本語表現が好きで、彼らの作品を何度も見返すオタク気質。趣味は作詞作曲。公私問わず言葉を綴っている。

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