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前回までの【知ったか脱却NFT】は…
全5回の連載を通して、NFTの基本から、高額で取引される理由や各プラットフォームの特徴、収益化の仕組みや価値の源泉までを深掘りしたFASHIONSNAP編集部。NFTの可能性を知った我々はついに、「ファッションとNFT」の有用性や課題について切り込んだ。
最終回となる今回は、ファッションウェアのNFT作品はまだまだ少ない、という現状を踏まえて、ファッション業界に向けの仕組みとその課題について分析。どうやらファッションはNFTとの相性がいいようですが……。
ーファッションブランドやデザイナーのNFT参入についてどう考えていますか?積極的に参入した方がいいんでしょうか?
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現時点での個人的な意見にはなりますが、ファッションとの相性はすごくいいと思っています。なぜなら「希少なアイテム」であるという点で、NFTとファッションは非常に近しいと感じるからです。
ー確かに、今までの話を聞いていると希少価値がものを言うNFTの世界では、ブランドやデザイナーが出品してNFT業界を盛り上げると言うのはあり得る話ですよね。
ただ、ファッションの醍醐味は着て楽しむことにありますよね。持っているだけではなく「自分で着こなす」ところにDIY的な要素もあるし、それを誰かに見せてコミュニケーションを取るところまでがファッションの面白さだと思っています。だから、ファッション分野でNFTが本格的に盛り上がってくるのは「アバターが装着できる」ような世界になってきてからかもしれませんね。
ーフィジカルでは着ることも作ることも難しいファッションアイテムが手に入るかもしれない!と思うとワクワクします。
サイバードレスの「トリビュートブランド(TRIBUTE BRAND)」はNFTを使ったサービスではありませんが、間違いなく相性がいいですよね。
ートリビュートブランドがNFTと言い切れない理由は、ブロックチェーンに紐づいておらず、所有権の在処がわからないために「転売」ができないからですね。
その通りです!ちなみに、これはNFT全般に言えることですが「単に所有するだけではないユーティリティ(実用性)をどう作っていくか」が今後の焦点です。
ー資産価値としてだけではなく、それで何ができるか。という別の価値を作って売買していかなくてはならないということですね。
アバターに着せるというのももちろんユーティリティになりえます。その他にも「NFTの服を購入したら、服を着用している自分の写真が送られてくる」というサービスを含んだ作品を出品するとか……。「世の中に3個しかないNFTファッションアイテムを買った人だけが、写真をゲットできる」といったユーティリティも、きっと購入する意味になりますよね。そういう意味で、トリビュートブランドは今すぐにでもNFTとマッチしそうだなと思います。
ー現在出品されているものにも、NFTを購入するための「条件」を設けているものってあるんですか?
NFTを買うための条件があることは結構ありますよ。例えば「AとB、2つのNFTを所有している人だけが、次に発売される『C』というNFTの売買に参加できる」とか。
ーファッション業界における「ドレスコード」みたいですね。
「ドレスコード」が購入の条件になることはあまりないですよね。しかし、ファッション業界では定番として成り立っていますし、それ自体がファッションというカルチャーの楽しみ方でもあるはずです。ファッション業界が潜在的に持っている豊かな購入体験自体を、価値に組み込めたら、面白いNFTアイテムが誕生しそうですよね!
ー永井さんが個人的にNFT×ファッションに期待することってなんでしょうか?
「プログラマブルアート」というNFTに注目しています。例えば、毎日1個、トークンが生まれていくNFTの作品があるんですよ。そういうプログラムを活用したら面白そうだなと思っています。例えば、ファッションのDIY的な楽しみ方を「価値」として取り入れて、2つの異なるブランドのトークンを買ってミックスさせると自分だけの服が作れる、とか。そういう「仕掛け」や「権利」みたいなものとセットでアイテムをリリースできると、単なる「所有」を超えてより価値が生まれそうだなと思っています。
ーそもそもですが、なぜ人間はこんなに「所有」にお金をだすんでしょうね……。
難しい話ですね。僕なりの考えを言うと、今NFTが売れているのは、「資産的価値と文化的価値のグラデーション」かなと思っています。
ーまた難しい話になってきました。
まずはじめに、「資産的価値」とは「持っていることで値上がりする可能性がある」などの経済的メリットのことです。
ーNFTを所有して利益を得たいと言う人は沢山いそうです。
僕の印象では、今のNFTの盛り上がりはまだ8割型「資産的価値」の側面だと思っています。売れるから買う、売れないなら買わないという人が多いんじゃないかと。
ー本当に好きで買っている人は少ないということですか?
そこで登場するのが「文化的価値」です。ここでは、文化的な商品を広義の意味で「アート」としましょうか。アート作品は、作品そのものが好きだったり、作家やコンセプトに共感して買うことがきっと多いですよね。つまり「所有して利益が得られる」という資産的価値の部分以外にも大いに意味を見出しているということです。
ー確かに。でも「このアート作品を所有している」という自己顕示の側面もありそうです。
そうですね。実際に海外では、アート作品を所有すること自体に社交的な一面があるので「センスや教養がある」というステータス証明のためや、自分を表現することに意味を見出してアート作品を購入している人もいるでしょう。さて、ここで話をファッションに戻します。ファッションも資産的な側面と文化的な側面があると思いませんか?
ー確かに「それどこの?」という質問から生まれるコミュニケーションは社交的かつステータス証明的な側面がある一方で、好きな服を好きな様に着るという文化的な考え方もありますよね。
繰り返しますが、NFTは「NFT」という仕組みだけでは成り立ちません。NFTを使って様々な価値や、これまでになかった価値をどのように生み出していけるか、という試みが不可欠です。NFTを「所有」することの資産的価値は多くの人が認めているので、あとは「所有プラスαでいかに複雑な価値を上乗せできるか」「みんなでそれを認めていけるか」という点が、NFTのファッション分野での成功の秘訣なのかな、と。
ー先ほど、NFTの盛り上がりはほとんどが「金融商品」として取り扱う、マネーゲーム的な側面が強いという説明がありました。もしそれが事実なら、クリエイターの表現方法も変わる気がします。売れるための作品を作る、と言いますか……。
これまで映像作品は「コピーしやすいもの」という特徴もあって、フィジカルなパッケージを工夫しないと、映像単体ではなかなか価値が付きづらかったと聞きます。しかし、NFTの仕組みを活用することでオリジナルであることが担保され、価値がつきやすくなった、と。
ーなるほど。これまでと同じことをしていても価値が付く可能性が増えたということですね。
その通りです。ただ指摘の通り「売れるための作品を作る」というスタンスは当然あると思います。それは裏を返せば「限られた条件の中でどう表現するか」を考え抜いた作品が数多く出品されることを意味することだと思いませんか?
ー確かに「より良い作品を作ろう」という強い気持ちを持った作品も増えそうです。
実際、クリプトアートではデータサイズが限られているということもあり、制約が多いんですよね。制限がある中で面白いものが生み出される、というのが最近のNFTの面白さです。例えば先日DJのZeddが出したクリプトアートなんて本当にかっこいいんですよ。
小さいサイズのデータだと「これに高額のお金を払うのはどうかな」と思う時もあると思います。しかし、短い時間のムービーであったとしても「これはNFTというメディアがあったからこそできた作品なんだな」いう気持ちが湧いてきて、今の盛り上がりを当事者として楽しむ目的も含め「やっぱり欲しいな」と思ったりする。NFTという新しいメディアが生まれることで、今までになかった新しい作品が生まれているという意味でもとても期待しています。それはもちろん、ファッションとNFTという組み合わせにも言えることだと思いますよ。
【知ったか脱却NFTまとめ】
✅ NFTは「器」、器の上に何を乗せるのかが重要
✅ NFTは「無断転載」や「著作権問題」が解決する仕組み
✅ NFTは所有権という価値観に根差している
✅ クリプトアートの価値源泉は「希少性」と「承認」
✅ NFTの世界において「転売」は作家が正当に収益を得るための機能
✅ ファッション×NFTの鍵は「所有」を超えたサービス提供
連載目次
第1話:ファッション業界にもNFTの波?NFTって結局なんなんだ?
第2話:仕組みはレアスニーカーと同じ?NFTアートが高額になる訳
第3話:スポティファイ配信済み楽曲が13億円で落札された理由
第4話:希少性とNFT、ツイッター社CEOジャック・ドーシーを例に
第5話:「転売」は正義?NFTプラットフォーム選びで気をつけたいこと
最終話:ファッション業界がNFTに本格参入する日
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