(左から)N.HOOLYWOOD TEST PRODUCT EXCHANGE SERVICE、COMPILEの新作
Image by: N. HOOLYWOOD 1/2 MISTER HOLLYWOOD
100を超えるブランドが参加した2021年春夏シーズンのニューヨーク・ファッションウィークは、ほとんどのブランドが映像による新作プレゼンテーションだった。11年目の参加となる「N.HOOLYWOOD(N.ハリウッド)」も初めて映像で発表したが、半年以上前から方向性を変えてショーではない方法で発表することを決めていたという。シンプルな演出ながら見る人を思考の泉に誘う映像を読み解いてみよう。
(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎)
ブランド創設20周年、そしてニューヨーク・ファッションウィークに進出して21シーズン目となる今シーズン、尾花大輔は原点であるミリタリーに改めて向き合った。
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今回デジタル映像で発表したのは、通常のコレクションラインではなく、ミリタリーウェアをソースにワードローブとして提案している「N.HOOLYWOOD TEST PRODUCT EXCHANGE SERVICE(エヌハリウッド テスト プロダクト エクスチェンジ サービス、以下NHTPES)」。今の環境や自然な感覚に委ね、尾花自身や周りのスタッフが本当に着たい、本当に面白いと思うものを探究していくプロセスで制作したという。
映像はシンプルな構成で、コレクションルックと様々なミリタリーの資料写真を、交互にスライドで見せる形で淡々と進行する。キーワードは"EVIDENCE(証拠)"。ミリタリーの写真は、尾花が所有する膨大なミルスペックのウェアや資料を、時代や関連性を無視してコラージュしたものだという。「軍などで行われてきた実験とその証拠、レポート的なストーリーを伝えたいと思った。パンデミックで資料を丁寧に見返す時間がとれたので、いつも以上にディテールに特化したコレクションになったと思う」と尾花。
N.HOOLYWOOD TEST PRODUCT EXCHANGE SERVICE
宇宙空間に浮遊しているような構図のルックは、ミリタリーの土臭さとは無縁で、軽やかな素材感と現代的なフォルムで構成されている。コットンチノのシャツとパンツに少しだけ色味の違うコートを合わせたベージュの変則スリーピースは、丸みを帯びたシルエットにすることで土臭さを解消。武器を収納するためのベストは、現代の武器=ガジェットを収納できるバッグいらずのビッグサイズのベストにアレンジしている。フードレスのモッズコートや光沢のあるパーカーに使われた迷彩柄は、1940年代の英国軍の特殊迷彩をコラージュしたもの。「USSC」のロゴが入ったトレーニングウェアは、今年発足した米宇宙軍のオマージュで、今は叶わぬ"旅"への究極の願望を形にしたとも解釈できる。
一方、ルック画像で発表したのがドレスラインの「N.HOOLYWOOD COMPILE(エヌハリウッド コンパイル)」。今シーズンの特徴は、肌が透けるような軽やかな素材使いと、身体のフォルムを自然に表現できるタックを多用したデザイン。タイトシルエットのブラックのスリーピースなどもあるが、全体的にはカジュアル色が強く、仕事着としても部屋着としても通用する"コロナ時代の機能服"という印象を受けた。
N.HOOLYWOOD COMPILE
最後にNHTPESの映像の感想を。コラージュしたものとはいえ、軍服姿の青年や軍用車両、戦闘機などの写真に嫌悪感を示す人もいるかもしれない。でも、尾花が生涯をかけて研究しているのは、ミリタリーウェアのディテールと機能性。そこで学んだ"証拠"を再現するのではなく、現代の服に"昇華"させるのが彼のクリエイションの本懐だ。様々な解釈があると思うが、私には平和的に"武器を解体"しているように見えるのだ。
文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧
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