Image by: ISSEY MIYAKE
9月27日、デザイナー近藤悟史が率いる「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」は、パリ花公園(Parc floral de Paris)にあるパビリオンで、2025年春夏コレクションを発表した。
柔らかな自然光が差し込むガラス張りのパビリオン内は、床から壁まで白い和紙で覆われている。ゲストが座る円筒形のスツールは、「イッセイ ミヤケ」で行われるプリーツ加工の副産物である薄い紙の塊を再利用して作られたものだ。その椅子の上には、くしゃっと揉み解されることでテクスチャーが強調された薄茶の和紙が置かれており、そこには和紙の歴史などについての説明が短く書かれている。今回のコレクションは「The Beauty of Paper」と名付けられ、和紙を中心とした紙にまつわる素材に焦点を当てて作り上げられたようだ。
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和紙で衣服を仕立てるのは、今に始まったことではない。平安時代から、麻を原料とした和紙は衣料にも用いられ、それは「紙衣」と呼ばれていた。紙は繊維が詰まっているので暖かく、雨や風にも強いため防寒具としても使われてきたが、明治以降は機械生産により安価な布帛が普及したため、紙衣は廃れていった。2014年には和紙の生産技術がユネスコの無形文化遺産に登録されたが、これは技術が失われつつある危機の表れともいえる。
また、和紙は「イッセイ ミヤケ」にとってすでに馴染みのある素材でもある。1982年、三宅一生は宮城県の白石和紙を使った紙衣を制作し、「イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)」の2013年春夏コレクションでも和紙はメインテーマとなり、「自転車に乗る」という現代的なアクティビティと組み合わせて提案されていた。近年の「イッセイ ミヤケ」でも、和紙は他の繊維とともに織られることで使用され、コレクション会場やショップのインスタレーションにも使われるなど、新たな可能性を見出そうとしてきた。さて、そんな素材に改めてフォーカスした今コレクションでは、どのような和紙の探求が見られるのだろうか。
すべてのゲストが着席し終わると、サウンドトラックとしてこぼれ落ちる水が音が聞こえてくる。ファーストルックは、意外にも和紙の服ではなかった。透き通る柔らかな布で顔まで覆われたモデルが、素足で歩いてくる。「水」を表現したというドレスは一枚の布で作られ、内側を部分的に留めることで、流れるようなドレープを生み出す。水は、和紙を漉くすべての工程において、重要な要素でもある。澄んだ水がなければ、美しい和紙は出来上がらない。
4つ目のルックで、麻を原料とした和紙(麻紙)で仕立てた紙衣が登場した(ちなみに、和紙をそのまま使用したものを「紙衣」、和紙を細く裁断し織った布を「紙布」という)。和紙のテーラードのセットアップの上にオーバーサイズの変形コートを羽織ることで、素材感がダイナミックに強調されている。素朴な色味の中で、裏地に押された朱印がさりげないポイントになっていた。コートは平面性を備えたパターンワークによって、歩くたびに張りのある和紙が空気にぶつかり、固く揺れ動く。
Image by: ISSEY MIYAKE
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紙衣が3ルック続いた後、箱や折り紙のように一枚の布に折り目を入れて立体化させる発想に基づいたシリーズが登場。和紙をレーヨンやシルクと混紡し伸縮性のある素材にすることで、直線的で角張ったパターンにしなやかさをもたらした。
他にも、二着を同時に編むという新たな技法に挑戦した無縫製ニットや、春に咲く芍薬、ラナンキュラス、アスパラの葉を押し花にした華やかなプリント、一枚の布と綿紐という二つの要素だけ作るドレスなど、趣向を凝らしたシリーズが登場。和紙の特性からも着想を得ており、透ける素材を斜めに折り畳んで部分的にプリーツを施すことで、光を通した和紙のような透明感を演出することもあった。
Image by: ISSEY MIYAKE
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テーマに基づいた素材選定、カラーパレット、そしてフラットなパターンワークが軽やかな印象をもたらしたコレクションだが、見る者に与える印象もどこか軽く、前回の2024年秋冬コレクションで見られた迫力と一貫性は鳴りを潜めていた。イメージの流れに磨きをかけ、よりシャープな緊張感をもたせられたとき、素材たちは新たな輝きを放ち始めるのかもしれない。
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