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ブランド刷新した「ナイキ ACG」、何が変わった? 来日した製品開発担当者に聞く

五十君花実

ACGアパレル&アクセサリー シニアディレクターのマイク・ミドルステター氏(上)、ACGフットウェア エキスパート プロダクトラインマネージャーのアンドリュー・バンバロー氏

Image by: NIKE

ACGアパレル&アクセサリー シニアディレクターのマイク・ミドルステター氏(上)、ACGフットウェア エキスパート プロダクトラインマネージャーのアンドリュー・バンバロー氏

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ACGアパレル&アクセサリー シニアディレクターのマイク・ミドルステター氏(上)、ACGフットウェア エキスパート プロダクトラインマネージャーのアンドリュー・バンバロー氏

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 ナイキのパフォーマンスアウトドアブランド「ナイキ ACG(NIKE ACG)」が6月4日に発売したアパレルの新アイテム「ラディカル エアフロー(Radical AirFlow)」が、トレイルランナーを中心に注目を集めている。大小の通気孔を備えた特徴的なデザインが目を引く同製品は、2026年2月にブランド刷新を打ち出した新生ACGを象徴するプロダクトとも言える。ACGは今後、トレイルランニングを起点にパフォーマンス領域に軸足を置きつつ、従来のカルチャー性も維持していくという。5月下旬に軽井沢で開催されたプレスツアーで、米ポートランドのナイキ本社から来日した開発担当者2人に、その狙いを聞いた。

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話を聞いたのはこの2人

マイク・ミドルステター/ACG アパレル&アクセサリー シニアディレクター
ナイキのプロダクト戦略、イノベーション、クリエーションに20年近くにわたって携わる。これまでにACG、ランニング、ナイキ SBなどのプロダクトチームをリード。「サカイ」をはじめとした外部コラボレーションも100件以上監修。登山やエンデュランスランにも積極的に参加している。

アンドリュー・バンバロー/ACG フットウェア エキスパート プロダクトラインマネージャー
ジョージタウン大在学中から2020年まで、ナイキのバウワーマン トラッククラブに所属し、ボストンマラソン5位入賞、全米選手権5000m優勝。2017年に人類初のフルマラソン2時間切りを目指し行われた「Breaking2」では、キプチョゲ選手のペーサーを務めた。2021年にナイキに入社。現在もウルトラマラソンで競技を継続中。

*以下、質問の回答は全て両氏いずれかのもの。

「1978年のブランドの原点に立ち返る」

⎯⎯ACGが大切にしている価値観やコンセプトについて教えてください。

 1つ目として、ACG、つまりAll Conditions Gearという名前が表す通り、あらゆるコンディションに対応できることを目指しています。コンディションには天候も地形も体調も含まれますし、アウトドアのアクティビティをする中でそれらは毎回異なりますよね。ACGとして、年2回厳しい自然の地に出向いてフィールドテストを続けています。たとえば雨季のピークのコスタリカや、厳寒のアイスランドなどです。

 2つ目の要素はスポーツです。トレイルランニングやハイキング(登山)といったアクティビティをする際に、何を求めるかは人にもよりますが、トレイルランでは速さのための機能性が求められますし、ハイキングでは機能性に加えてファッション性も必要です。日々、街で暮らす中で冒険(Explore)をしている人いますね。つまり、ライフスタイルとしてアウトドアカルチャーを楽しんでいる人ということです。ACGではトレイルランニング、ハイキング、Exploreと呼ぶライフスタイルにフォーカスし、パフォーマンスからカルチャーまでカバーしていきます。

 そして3つ目はイノベーション。イノベーションは我々の“スーパーパワー”です。ナイキ本社のあるオレゴンにはイノベーションのための巨大施設があり、人体工学や栄養学、心理学、デザインなどさまざまな専門家を抱え、イノベーションに大きな投資をしています。他のスポーツ領域のイノベーションを、アウトドア領域に横展開できるのはナイキだからこその強みです。

 以上の3つの考え方を融合するのがACGであり、われわれの製品にはこの3つが反映されています。

軽井沢で行われたプレスツアー画像

軽井沢で行われたプレスツアーから

Image by: NIKE

⎯⎯ACGは今春、ブランド刷新を打ち出しました。どういった考えからなのでしょうか。

 実はACGには長い歴史があるんです。1978年に、米国人クライマーのK2登頂にナイキがシューズを提供したことがACGの原点。そこから発展する形で、1989年にACGは設立されました。そして、ナイキ本社があるオレゴン州はアウトドアアクティビティが非常に盛んなエリアです。つまり、ナイキはアウトドア領域と長い期間にわたりつながりがあるということです。ナイキはこれまで、多くのアウトドア領域のアスリート、たとえばトレイルランナーやサイクリストなどをサポートしてきました。

 ACGの刷新は、ナイキの古くからの使命を改めて強化するという決意表明です。刷新にあたって、ACGの原点に立ち返ることを意識しました。つまり、プロダクトは最高のものでなければならない、プロダクトは他とは違う特徴がなければならない、プロダクトは多くの人が使える汎用的なものでなければならないという3点です。日々、それに向き合って製品開発を進めています。

「以前はパフォーマンスかカルチャーかの2択、今は両方」

⎯⎯刷新前のACGのことはどのように振り返りますか。ファッションとしての側面が強かった印象があります。

軽井沢で行われたプレスツアー画像

軽井沢で行われたプレスツアーから

Image by: NIKE

 ACGには40年近い歴史がありますから、長い旅の中でいろんな変遷を経てきました。刷新によって、当初の使命であったアスリートの課題解決にコミットできることに興奮しています。ACGは過去数年間、よりライフスタイル的なブランドとして見られてきた面はあるかもしれません。私たちは今、そこに新たな側面を加えています。つまり、ACGはパフォーマンスからライフスタイルまでカバーする総合的なブランドになるということです。それは、これまで大切にしてきたカルチャー性を無くすということではありません。パフォーマンスの領域にしっかり軸足を置きつつ、ランニングやハイキングといったアクティビティの外側にいる人にも製品を届けていく。以前はカルチャーかパフォーマンスか、そのどちらかでした。今はその両方ができるということにワクワクしています。

⎯⎯アウトドア領域には強力なライバルブランドがひしめいています。ACGはそれらとどう差別化していきますか。

 やはりイノベーションですね。ACGではナイキがアウトドア以外の領域で進めるイノベーションも、アウトドア領域に横展開して活用できます。それが、他ブランドとの違いになると思います。例えば、ACGのフットウェアはナイキのランニング領域の知見を生かして開発しています。トレイル用のレーシングシューズ「ウルトラフライ」も、ロードレーシングシューズ「ヴェイパーフライ」での学びや経験を生かしてて開発しました。ミッドソールのフォーム材のZoomXの組成やカーボンプレートなどを、トレイル用に調整しているんです。

「ナイキとして、“エア”という言葉には耳ざとくなる」

⎯⎯今回発売したラディカル エアフローも、アスリートの課題解決というACGの思想を反映しています。過酷なトレランレースとして知られる米「ウェスタンステイツ・エンデュランスラン」の2025年大会で、優勝したACG所属のアスリート、カレブ・オルソン選手がラディカル エアフローを着用していたことは、ランナーの間で話題になりました。

ラディカル エアフローを着て2025年のウェスタンステイツを優勝したカレブ・オルソン選手の画像

ラディカル エアフローを着て2025年のウェスタンステイツを優勝したカレブ・オルソン選手

Image by: NIKE

 ウェスタンステイツは寒暖差が非常に激しいレースです。早朝のスタート時は震えるほどなのに、日中になれば気温は38℃まで上がって、その中を選手たちは100マイル(約160キロメートル)走らなければならない。たとえ小さな差であっても、100マイルにもなれば大きな違いにつながります。ラディカル エアフローは特徴的な見た目をしていますが、選手たちが過酷な暑さの中でも快適に走れる機能性を追求しており、機能性があの素材、あの形状を規定しているんです。

ラディカル エアフロー(左)とその素材のアップ画像

ラディカル エアフロー(左上、2万2330円)とその素材

Image by: NIKE

 ラディカル エアフローの開発にあたって、われわれのチームの科学者たちが注目したのは流体力学の現象である「ベンチュリ効果」でした。狭い筒に空気のような流体を流すと、流速が加速し圧力が下がる現象のことですが、その際に圧力差によって空気の流れが生まれる。それが汗の蒸発を促し、涼しさを感じさせるというものです。ボディマッピングに沿って空気孔を配置し、ニットの編み目でそれを実現しました。脇やひじ部分には大きな通気孔を設けることで、動きやすさと通気性を向上させています。

 着てもらえば分かりますが、ラディカル エアフローは半袖やノースリーブよりも長袖を着て走る方が涼しく感じます。同時に、ラディカル エアフローの上に1枚何かを羽織れば、空気を保ってくれるので温かいんです。

⎯⎯特にシューズの分野で、“エア”はナイキを象徴するテクノロジーです。ラディカル “エア”フローの開発においても、やはりエアには強いこだわりがあったんですか?

 エアが先にあったというより、激しい寒暖差を解決するソリューションを探った結果、空気を使うというコンセプトにたどり着きました。ただ、やはりエアという言葉にはついつい耳ざとくなりますよね。高温下で体を冷やす手法として水や氷を使うアイデアもありますが、空気を使って冷却すれば重量も増えません。エアのテクノロジーなら、冷却と軽量性が両立できることに興奮しました。さらに、空気は資源として豊富ですし、エアテクノロジーを搭載した製品は見た目もかっこいい。そこももちろん重要です。

 ラディカル エアフローに先立って、われわれは内部に空気を注入・排出することで体温調節ができる仕組みの「サーマフィット エア ミラノ ジャケット」も昨秋発表しています。それは、ミラノ・コルティナ冬季五輪で米国選手団のウェアにも採用されました。

ミドルステター氏の画像
ノースリーブのラディカル エアフロー画像
半袖のラディカル エアフロー画像

ミドルステター氏がブルゾンの中に着用しているのは、ハイキング用途で開発中のラディカル エアフローのフーディーのサンプル。帽子もラディカル エアフロー

Image by: FASHIONSNAP

⎯⎯2025年のウェスタンステイツでは、カレブ選手の優勝によって、ACGの刷新やそのイノベーションの象徴であるラディカル エアフローを強く印象付けることに成功しました。

 ACGがアスリートのサポートに注力していることを示せたと思います。実はウェスタンステイツで大きく注目を集めようと長らく計画を練っていたというわけではないんですが、私たちのイノベーションが詰まった新しいツールを試してもらうのには絶好の場だとは思っていました。カレブ選手が、彼の人生の大きな舞台で、われわれのイノベーションを信じてくれた、賭けに乗ってくれたということですね。優れた能力を持つアスリートに、適切な製品、適切な機会が組み合わさると、魔法がかかってすばらしい結果につながります。カレブ選手の優勝は、われわれにとっても本当に特別な出来事でした。

「トレランは、ランニングブームの“次の章”」

⎯⎯ACGは刷新にあたり、注力分野の筆頭にトレイルランニングを掲げていますが、なぜトレイルランニングなのでしょうか?

軽井沢プレスツアーでのランニングセッション画像

軽井沢プレスツアーでのトレイルランニングセッション

Image by: NIKE

 ナイキはランニングを基盤にしてスタートした会社ですから、世界最高のランニングシューズ開発のための知識と経験が豊富。ACGがトレイルランニングから始めるというのは、非常に自然なことです。ランニングはいま世界的に盛り上がっていて、トレイルランニングはその“次の章”になるんじゃないかと思っています。日本にも、マラソンやハーフマラソンのすばらしい選手がたくさんいますから、そうしたランナーがトレイルに挑戦し、結果を残すのは時間の問題。ロードからトレイルに向かうランナーは今後ますます増えると思います。

 現代の消費者は、かつてないほど目が肥えていて知識豊富です。すばらしい製品を提供するブランドも数多く存在する。だからこそ、私たちは消費者の課題解決につながる、他にないアイテムを提供する必要がある。トレイルランニングには、解決すべき問題が山ほどあります。課題解決に立ち向かうことで、数年後にACGがどんな存在になっているか、今からとても楽しみです。ただ、私たちは好奇心旺盛ですから、いずれはトレイルランニングやハイキングだけでなく、他の領域にも挑戦していくかもしれません。

⎯⎯ACGには独特のカルチャーがあると感じます。どんな人たちがそれを作っているのですか?

 ACGのチームは、アウトドアアクティビティに情熱を持ち、革新していこうという気持ちを持ったメンバーで構成されていますよ。トレイルランニングの経験が豊富な人もいますし、始めたばかりという人もいますが、今年だけでも15〜20人のACGのメンバーがトレイルランニングのレースに出ることを計画しています。アウトドアアクティビティやそのコミュニティに対する情熱に触れると、自分もそうありたい、そこに参加したいと感じるようになって、他のメンバーにも熱がどんどん伝播していっています。その中でチームの仲間意識も高まり、日々の仕事の精度も上がっています。

ナイキ ACGのトレラン/ハイクシューズ。左写真の手前や右上はレースシューズのウルトラフライ、右写真の中央は反発性に優れたゼガマ

Image by: FASHIONSNAP

 トレイルランニングについて言及すると、あのカルチャーのすばらしい点の1つは、傍観者がいないことだと思います。ランナーはもちろん、レースで選手をサポートする人、ペースメーカーを務める人、コースを整備する人、エイドを運営する人など、さまざまな形で誰しもが関わることができる点が魅力だと思います。

⎯⎯最後に、ACGが刷新を経て目指すものを改めて教えてください。

 われわれはこれから、長年にわたってアスリートの課題を解決するイノベーションある製品を開発していくと約束します。ラディカル エアフローは、われわれの革新のほんの序章に過ぎません。ただし、優れたイノベーションには時間がかかるものです。

 今回発売したラディカル エアフローは第一世代です。科学者たちとも協働して、このテクノロジー・プラットフォームの今後の展開を模索しています。トレイルランニングのパフォーマンス用途のアイテムだけでなく、ハイキング用のアイテムも今サンプルをテストしていますし、今後はライフスタイル用途でも製品を出せるかもしれません。多様なカラー展開やプリントを施すことも考えていきます。

 われわれはすばらしいパフォーマンス製品を生むために最大限の努力をしますが、ACGとしてはカルチャーや若々しさ、既成概念への反骨心といった要素も大切です。パフォーマンスとそれらの要素を1つの製品に詰め込むのは簡単ではありません。でもその挑戦の中で、アウトドアの常識を疑い、新しいものを作ろうというエネルギーが生まれる。パフォーマンス領域でどのようなイノベーションを起こせるか、ビジネスとしてはどんな成果を生み、デザインビジョンとして何を示せるか。これら3つの間には常に健全な緊張関係があって、そのバランスがうまくとれた時に、最高の製品が生まれると思っています。

軽井沢のプレスツアー画像

ナイキ ACGのミドルステター氏(左)、バンバロー氏

Image by: FASHIONSNAP

ラディカル エアフロー、本当に涼しい?

 週末ランナー(6分半前後/キロ)の記者が、新生ACGのイノベーションを象徴するラディカル エアフローを試してみた。走るのは、自宅周辺の普段のランニングコース。果たして本当に涼しい?どれくらい涼しい?

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Fスナ編集部

 着用して走ってみると、空気の流れで確かに涼しいと感じられた。いつもは心地よく走れる初夏の小雨の中で着用したところ、逆に涼しすぎるくらい。今後、酷暑の夏の低山で着てみるのが楽しみ。6月に発売された長袖トップスは、デザイン的に“アスリート専用ギア”の趣が強いが、今後デザインやアイテムの幅が広がっていくとより多くの人が取り入れやすくなりそう。ナイキもそれを目指しているようだ。

最終更新日:

FASHIONSNAP ディレクター

五十君花実

Hanami Isogimi

1983年愛知県出身、早稲田大学政治経済学部卒。繊研新聞記者、WWDJAPAN副編集長、編集委員を経て、25年10月から現職。山スキー、登山、ラン、SUPを愛するアウトドア派。ビジネスからクリエイション、ライフスタイルまで、多様な切り口でファッションを取材。音声、動画、コミュニティーなど、活字以外のアウトプットも模索中。

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