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まるでガラス細工、独自の3Dプリント技術で「130」が目指す未来とは

聞き手&文河合華子

Image by: FASHIONSNAP

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 3Dプリントというテクノロジーを操りながらも、プロダクトブランド「ワンサーティ(130)」の家具には不思議な温もりがある。計算された美しさと柔らかな印象が共存する革新的なアプローチが今、多分野から注目を浴びている。

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 ワンサーティは、3Dプリンターの開発からプロダクトデザインまでを手掛ける会社「マグナレクタ(MagnaRecta)」が手掛けるブランド。同社が開発した、一本の連続した線から立体的な格子構造をつくる独自技術をもとに、2024年にデザインブランドとして立ち上げスタートした。テーブルやチェア、天井照明などの家具から、イベントの展示物まで幅広いプロダクトを手掛けており、今年4月のミラノデザインウィークでは、Brera Design DistrictとANTEPRIMA Showroomの2ヶ所で作品を発表。トレンド予測情報を発信する英WGSNの「MDW Top Picks」への選出や、著名メディアへの掲載など、国内外から注目を集めている。

(左)DRAGÉE 各8万8000円、(右)Malu Lounge Chair 88万円

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 マネキンの制作から始まり、家具のプロダクトデザインを経て、彼らは今、再びファッションの領域へと歩みを進めている。その象徴となるのが、今回一般発売されるブランド初のバッグ「DRAGÉE」(8万8000円)だ。ルビーや抹茶など、彩り豊かな全9色をラインナップしている。テクノロジーと独自の美学は、いかにして交わったのか。ブランドを率いる創業者でありCTOの加藤大直氏に、これまでの軌跡と未来への展望を訊いた。

加藤大直
1984年生まれ。アメリカ・NYのパーソンズ美術大学卒業後、デザイナーとしてMckay Architecture/Design、Berm Design NYに勤務。2011年に帰国後、RepRap Community Japanを共同創設し、国内初の個人向けオープンソースの3Dプリンター「atom」を開発。2013年に3Dプリンターの開発・製造・販売を行なうGENKEIを共同創業。2017年3月からマグナレクタ(MagnaRecta)に組織変更し、3Dプリンターやロボティクスを活用したデジタルファブリケーションのハードウエア、ソフトウエアなどの産業ソリューションと、デザインの両軸で提供している。2024年に、一本の連続した線から立体的な格子構造をつくる独自技術をもとに、デザインブランド「ワンサーティ」を立ち上げた。

Malu Lounge Chair 88万円
Dining Chair 28万6000円

Malu Lounge Chair 88万円

Image by: 130

ブランドの原点は、エイポック エイブル イッセイ ミヤケとの出会いとマネキンの開発

⎯⎯元々、運営会社で3Dプリンターの開発からプロダクトデザインまでを手掛けていますが、何がきっかけでワンサーティのブランド化に至ったのでしょうか?

 ワンサーティの始まりは、「エイポック エイブル イッセイ ミヤケ(A-POC ABLE ISSEY MIYAKE)」デザイナーの宮前義之さんと知り合ったことがきっかけです。東京大学の研究室チームと「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」のオフィス見学に行った時に、「デザインと産業を合わせると面白いものが作れそうですよね」「“未来あるファッション”という文脈で一緒に何か作りませんか」といった話で盛り上がりました。素材から開発し、アルゴリズムと手仕事を融合したものづくりをしている部分や、イッセイ ミヤケのアイテムが3世代にわたり継承されているところに自身の考えとの共通点を感じ、すぐに意気投合しましたね。その後お互いのタイミングが合ったことで本格的に始まった取り組みがマネキン制作で、ワンサーティの原点になります。

⎯⎯マネキンを作る中で困難はありましたか。また、試みから形にするまでどれくらいかかったのでしょうか?

 従来の3Dプリント技術は、2Dの層を積み重ねて立体にするため、どうしても側面に細かい凹凸が生まれてしまいます。そこに洋服の生地が引っ掛かってしまうため、このままでは実用化は難しいと感じていました。別の技法を探る中で、以前見た、線状の素材で立体をつくる3Dプリントの実験を思い出したんです。「これなら洋服が引っかかりにくく、服そのものをきれいに見せられるかもしれない」と閃いて、そこから自分たちの技術として開発をスタートさせました。

 ただ、最初の試作品は形にはできても、力を加えると簡単に折れるほど脆かったんです。ましてや家具として座ることなんてできませんでした。そこから基礎研究に2年、応用研究に2年、トータルで4年をかけて、構造や素材、造形方法を一つずつ改良していきました。そしてようやく、イッセイ ミヤケの銀座店と青山店に製品として展示できるレベルに到達しました。店舗で求められるレベルまで突き詰めていく時に培った独自技術が、今のワンサーティのベースになっています。

イッセイ ミヤケ ニューヨーク店のマネキン

イッセイ ミヤケ ニューヨーク店のマネキン

Image by: © ISSEY MIYAKE INC.

⎯⎯マネキン制作が上手くいったことを機に、格子構造の技術でブランドを始めようと思い立った?

 完成したマネキンは5キロ以下と、一般的なものの5分の1から3分の1ほどの重さしかなく、店舗スタッフが腰を痛めることなく、楽に扱うことができます。また、宮前さんから「ブルゾン単品を格好良く見せたい」という要望がありました。通常のマネキンだと、全身をスタイリングしないと様になりませんが、私たちが開発したマネキンは、服の魅力を引き立てつつ、それ自体が主張しすぎない。インナーなしでも素敵に見せられる点で、画期的だと思います。

 特に顔の造形は、構造が縦横斜めにパッチワークのようにズレていてとても複雑です。人間の骨格や表情筋の流れを考慮しつつ、リアルすぎないように調整を重ねるなど、非常に複雑で緻密な作業でした。「これが細かく調整できるようになるとなんでも作れるようになる」といえるくらい、開発期間は修行のような時間で、多くの新しい気づきがありましたね。そして、このプロジェクトで培った技法を活かしつつ、改めて自分の強みであるプロダクトデザインや建築デザインの分野で家具を作りたいという思いから、ワンサーティをブランドとして立ち上げました。

「1→3→0」という哲学。長く使い続けられるものづくりを目指す

⎯⎯ワンサーティ(130)の名前の由来や背景を教えてください。

 まず、私たちの技術は、一般的な3Dプリンターとは立体のつくり方が少し異なります。一般的な3Dプリンターが平面状の層を重ねて形をつくるのに対し、私たちは一本の線で空間に骨格を描くように、格子状の立体をつくります。つまり、1次元の「線(棒)」を組み合わせて3次元の形を作り上げています。完成したプロダクトは粉砕して再素材化し、また新しいものを作り直すことができます。この「1から3を生み出し、0に戻す」ことの繰り返しという意味で「ワンサーティ(130)」と名付けました。できるだけ少ない要素から豊かな形を生み出し、素材を次の形へとつなげていくことを大切にしています。

130の格子構造

ワンサーティ独自の格子構造

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130の格子構造

⎯⎯使用している素材は全てリサイクルできるのですか?

 はい。100%リサイクルできる熱可塑性樹脂を使っています。そのため、試作で生まれた材料も再び素材として活用でき、何度でも形を見直しながらやり直すことができます。かつての日本には、家具や道具を修理しながら大切に使い続ける文化があったと思うのですが、その価値が現代では分断されていると感じています。何かを作るからには、長く価値を存続できるものを届けたい。その思いでブランド化につながりました。

 実際にミラノの会場で作品が破損した際も、その場で壊れた部分をホットガンで修理していました。パフォーマンスとしてあえて狙ったところもありますが(笑)。壊れた箇所を部分的に強化したり、違う色や形で修復してデザインのアクセントにすることも可能です。もちろん、全体を粉砕して全く別の椅子や机に作り変えることもできます。たとえ形が変わっても、データ上では「いつ、どんな形で、誰が使っていたか」という記録は残っていくんです。

DAIKAN × 130 ミラノデザインウィーク2026展示の様子
DAIKAN × 130 ミラノデザインウィーク2026展示の様子
DAIKAN × 130 ミラノデザインウィーク2026展示の様子
DAIKAN × 130 ミラノデザインウィーク2026展示の様子
DAIKAN × 130 ミラノデザインウィーク2026展示の様子

DAIKAN × 130 ミラノデザインウィーク2026展示の様子

Image by: 130

デジタルと手仕事のバランス。アイデアを形にするプロセスとは

⎯⎯普段、どんな環境でどんなメンバーと制作されているのでしょうか。

 オフィスは日本橋のビルの一室にあるのですが、扉を開けるとかなり「現場感」の強い空間が広がっています。ワンサーティのプロダクトが持つイメージからは、少し掛け離れているかもしれません(笑)。3メートル高の3Dプリンターが複数機並んでいて、ロボットアームが常に動いているので「SF感が漂っている」と言われることも。過去に表参道ヒルズで展示した高さ10メートルのクリスマスツリーなど、オフィスで作れない大きさのものは展示場所で組み立てています。メンバーは、ハードウェアに強い工業大学出身のエンジニアや、アルゴリズム・ソフトウェアに強いスペシャリスト、造形作家としても活躍するアーティストなど、バックグラウンドの異なるメンバーが集まっています。

2023年に表参道ヒルズで展示したクリスマスツリー
日本橋にあるワンサーティのオフィス

2023年に表参道ヒルズで展示したクリスマスツリー

Image by: 130

⎯⎯アイデアを形にしていく際のプロセスを教えてください。

 日常の中のいろんなものから着想を得ています。「普遍的だけど物語性のあるものってなんだろう」とよく考えていて、自分が「いいな」と感じたものはその理由や第一印象をすぐにメモするようにしています。ものづくりを続けていると、つい考えすぎて一般の人の視点から離れてしまう事もあるので、その感覚を忘れないようにできるだけ言語化してアイデアを広げていくことが多いですね。

⎯⎯デジタル技術のイメージがあるので、紙に書くというのは意外でした。具体的なデザインも紙で考えているのですか?

 普段からなんでもメモ書きしますし、アイデアを練る時は一緒に絵も描きます。例えば、食べ物や車体のボディラインなどが持つ「シズル感」を椅子で表現できないかなと思い、スケッチしたりもしていますね。また、これは今年のミラノデザインウィークのアンテプリマのブースで出展したグラデーションのかかった椅子のアイデアです。構造計算や荷重分散のアルゴリズムを手帳の上で考えていました。

加藤CTOが持ち歩いている手帳

加藤CTOが持ち歩いている手帳

Image by: FASHIONSNAP

ミラノデザインウィーク2026展示の様子

ミラノデザインウィーク2026展示の様子

Image by: 130

⎯⎯格子構造のプロダクトを作る上で、一番難しいと感じる部分はどこですか?

 骨の組み立てでできているので、内面の奥まで見通した時に、美しく収まりのいい形に仕上げるのが難しいです。格子構造ならではの「抜け感」を大切にしながら、どこで荷重を支えるか、線の流れや粗密のバランスをどう取るか。少しバランスが崩れるだけで、全体の美しさが損なわれてしまいます。最終的に、1本1本を手作業で調整することもあるくらいです。150キロの体重にも耐えられる強度を確保しつつ、内部の格子構造が美しく見える落としどころを探る作業には、かなりの労力を要します。

Malu Lounge Chairは約150キロの体重にも耐えられる。
130のMalu Lounge Chair

Malu Lounge Chairは約150キロの体重にも耐えられる。

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⎯⎯ 3Dプリントでありながら、どこか手仕事のような温もりを感じます。制作においてこだわっている点はありますか?

 私たちのプロダクトは、どうしても工業っぽくなってしまう従来の3Dプリントとは違います。骨の構築でできているため、自然な「ゆらぎ」が生まれるんです。よく見ると1本1本形が違って、光の当たり方で表情を変える。これがガラス細工のようにも見え、光と相まってキラキラしたり、条件次第では七色に輝いて見えます。さらに、出力後は手の感覚による最終調整を大切にしています。アーティストとしても活躍するスタッフが、微細な突起や線のつながりを一つずつ確認し、表面をなめらかに整えています。感覚的には飴細工やガラス細工に近く、機械による技術と丁寧な手仕事が融合している点は洋服作りと似ているかもしれません。

130 格子構造のディティール

骨の形が1本1本違って、ガラス細工のような「ゆらぎ」がある。

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ブランドの未来は? 新作バッグ「DRAGÉE」と新たな挑戦への意欲

⎯⎯新作バッグが誕生した背景や、インスピレーション源などを教えてください。

 バッグは、今年のミラノデザインウィークに合わせて試作したものから生まれました。実際に持っていったら、30分に1回は撮影されるなど、現地では展示物以上にこのバッグが話題に(笑)。購入したいという声も多く、一般販売を決めました。

新作バッグ「DRAGÉE」 各8万8000円

新作バッグ「DRAGÉE」 各8万8000円

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 着想源は昔ながらのオーバル型のキャンディです。宝石のようなカッティングが施された、キラキラとしたあのお菓子ですね。子どもでも手に入れられる「宝石」でありながら、しかも食べることができる。あの時のワクワクするような純粋な喜びを、そのまま表現したかったんです。手帳とスマホくらいしか入らないのですが、実は座ることもできます。ミラノの街で歩いて疲れたら腰をかけられるようにと、キャンディらしい印象はそのままに座面を設計しました。色をつけることでツヤ感を表現し、調整を重ねてこの形に。グラデーションカラーは、棒1本単位で色の配合をコントロールし、フォトショップのデザインのように、データ上で濃度のパーセンテージを少しずつ変えながら出力しています。

新作バッグ「DRAGÉE」
新作バッグ「DRAGÉE」
新作バッグ「DRAGÉE」
新作バッグ「DRAGÉE」
新作バッグ「DRAGÉE」

側面にある蓋を開閉して中にものを入れることができる。

Image by: FASHIONSNAP

⎯⎯今後使ってみたい素材や実現してみたいアイデアはありますか?

 柔らかいゴム素材や金属など、新しい素材で格子構造を作ってみたいですね。特に金属は、建築やファッションの要素を組み合わせることで、新たな視点が生まれてきそうです。クリア樹脂が好評なのですが、さまざまな色付けやも試していきたいです。クリアのものは、ガラスのように光を受け、拡散・屈折・反射させる特性を活かし、すでに商品化している照明器具以外にも新しい提案をしてみたいです。他の素材と組み合わせてみたり、まだまだ遊べる余地はたくさんあると思っています。

Radiant 8万8000円

Radiant 8万8000円

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⎯⎯今後もファッション分野のプロダクトを制作したいと考えていますか? 

 ファッション分野の可能性も探っていきたいです。バッグやメガネフレーム、アクセサリーまでさまざまな提案をするブランドが増えてきていますよね。3Dプリント技術によってこれまでデザインの制約があったことが可能になったりと、素材としての可能性が広がっていると感じています。「自分たちの格子構造では何ができるのか」についても常に考えています。エイポック エイブル イッセイ ミヤケとの協業を通して業界の一端に触れましたが、私たちの技術がファッションでどう活かせるかはまだ未知数です。機会があれば、ファッションブランドとのコラボを通して新しい世界を広げていきたいですね。

⎯⎯今後5年後、10年後どんなブランドにしていきたいと考えていますか?

 130の哲学はすでに完成されていると思っているので、今後揺らぐことはありません。この哲学を軸に、「格子構造といえばワンサーティ」と覚えてもらえる存在になれたらいいですね。これまではBtoBのオーダーが中心でしたが、今回のバッグのように、より多くの方に直接手に取っていただけるプロダクトを提案し、どんな方に私たちのものづくりが響くのか模索していきたいです。

最終更新日:

■ワンサーティ:公式サイト
公式インスタグラム

聞き手&文・河合華子

Hanako Kawai

FASHIONSNAP 編集記者

大阪府出身。同志社大学卒業後、メーカーの商品企画&PR、編集プロダクションを経てレコオーランドに入社。学生時代、交換留学で滞在したパリでファッションウィークに出会い、ファッションエディターの仕事に関心を持つ。フランスのエスプリが息づくライフスタイルが理想。

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