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【今月の必聴アーティスト】ケイトラナダ編 彗星の如く現れた若き天才プロデューサー

Image by: Sony Music

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【今月の必聴アーティスト】ケイトラナダ編 彗星の如く現れた若き天才プロデューサー

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 機材や環境の発達により、1日で数百~数千曲がリリースされる昨今の音楽産業。歓迎すべきことではあるものの、その膨大すぎる量がゆえ自ら触手を伸ばすことを躊躇い、真に評価を受けるべきアーティストとの邂逅が消失し、気付けば過去のお気に入りばかりをリピート再生している......という状況に心当たりがある方に向け、月に1回“ファッションシーンとの親和性も高い”アップカミングなアーティストを紹介する連載【今月の必聴アーティスト】。(文:Internet BoyFriends)

■今月の必聴アーティスト:連載ページ

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 早耳な音楽フリークの方々にとっては既に知られた存在が登場するだろうが、復習も兼ねてファッション的新情報を得られるという心持ちで読み進めていただければ幸いだ。第13回は、彗星の如く現れたハイチ系カナダ人の若き天才プロデューサーでDJのケイトラナダ(Kaytranada)についてお届け。

名曲を恐れずリミックスしたケイトラダマス時代

 ケイトラナダことルイ・ケヴィン・セレスティン(Louis Kevin Celestin)は、1992年8月25日にカリブ海で最も人口の多い国として知られるハイチの首都ポルトープランスで生まれた。父親はタクシードライバーと不動産屋を兼業し、母親は医療従事者で、両親はケイトラナダが生まれてすぐに出稼ぎのためカナダ・モントリオールへの移住を決意。以降、ケイトラナダと家族はハイチ系カナダ人としてモントリオールで生活するようになる。

 ケイトラナダには少し歳の離れた2人の姉がおり、彼女らが家でエリカ・バドゥ(Erykah Badu)、ディアンジェロ(D’Angelo)、ジル・スコット(Jill Scott)といったR&B歌手や、ノトーリアス・B.I.G.(The Notorious B.I.G.)、ジェイ・Z(Jay-Z)、50セント(50 Cent)、ア・トライブ・コールド・クエスト(A Tribe Called Quest)らラッパーの楽曲を流していたことで、幼少期から自然と音楽に触れる環境だったそうだ。そして、自ら音楽をディグる中でザ・ネプチューンズ(The Neptunes)やJ・ディラ(J Dilla)、マッドリブ(Madlib)ら音楽プロデューサーの存在を知り、のちにルー・フェルプス(Lou Phelps)の名でラッパーとして活躍する2歳下の弟と、13歳頃から音楽制作ソフト「FLスタジオ(FL Studio)」で楽曲制作をするように。その中で弟にはラップが、自分にはプロデュースやDJが向いていることに気付いたという。

 この頃、両親が離婚したことで母親が過保護気味となり、ケイトラナダは19歳までろくに外出できずに育ったのだが、結果として自宅で音楽活動に没頭。15歳にして、アース・ウィンド・アンド・ファイアー(Earth, Wind & Fire)の名曲「September」をサンプリングした楽曲を初めて完成させたのだ。残念ながら同曲は配信などはされていないが、ケイトラナダの2ndアルバム「BUBBA」には、「September」の有名なリリックである「Do You Remember, the 21st night of September?(9月21日の夜のことを覚えてるかい?)」を引用した「September 21」というインストが収録されており、彼にとって「September」の制作がターニングポイントだったことが分かる。

 その後、シカゴの音楽プロデューサーのフロストラダムス(Flosstradamus)の名前を借りる形で、18歳になった2010年よりケイトラダマス(Kaytradamus)として活動を開始。TLCの「Creep」やティードラ・モーゼス(Teedra Moses)の「Be Your Girl」、ミッシー・エリオット(Missy Elliott)の「Sock It 2 Me」など、世代を超えて愛されるR&Bの名曲を次々に非公式リミックスし、「サウンドクラウド(Soundcloud)」や「バンドキャンプ(Bandcamp)」にアップロードしていった。通常、こういった完成された名曲に手を加えることをプロデューサーやDJは恐れ、ファンの多くもネガティブな反応を見せるが、ケイトラダマスの手によって作り変えられた往年の名曲たちは評判を呼び、彼の名は地元カナダを中心に音楽好きたちの間で知られることとなったのである。

ケイトラナダとしてのスタートと出世作「If」

 そして、20歳になったタイミングでケイトラダマスから現在のケイトラナダに改名。彼の才能を羨む者たちから“J・ディラの二番煎じ”だと揶揄されもしたが、非公式リミックスの高いクオリティから公式リミックスの声もかかるようになり、さまざまなアーティストの前座やDJをこなす日々を送る中で転機が訪れる。ある日、フライング・ロータス(Flying Lotus)のライブを観終わったケイトラナダは眠りに付けず、27時頃からジャネット・ジャクソン(Janet Jackson)の「If」のリミックスに着手。わずか2時間ほどで仕上げて「サウンドクラウド」にアップロードし、昼過ぎに目が覚めると、想像を超える再生数を記録し、YouTubeの人気音楽チャンネル「マジェスティック カジュアル(Majestic Casual)」でも紹介されたのだ。

 当時、インターネットでは「If」のリミックス制作が流行っていたこともあり、一線を画す出来だったケイトラナダのリミックス版はたちまち拡散。これだけが理由ではないが、翌2013年に21歳の若さでライブ配信プラットフォーム「ボイラールーム(Boiler Room)」に出演することとなったのである。なお、「If」は著作権の問題からか、現在までストリーミング配信はされていないが、YouTubeと「サウンドクラウド」では未だに聴くことができるので、ぜひ聴いていただきたい。

1stアルバムで一躍人気プロデューサーの仲間入り

 破竹の勢いを見せるケイトラナダをレーベルが見逃すはずもなく、激しい争奪戦の末、2015年に世界最大級のインディペンデント・レーベル「XLレコーディングス(XL Recordings)」と契約。これを足掛かりに、チャンス・ザ・ラッパー(Chance The Rapper)やフレディ・ギブス(Freddie Gibbs)、ジ・インターネット(The Internet)、アンダーソン・パーク(Anderson .Paak)らの楽曲をプロデュースしながら来たるソロアルバムの制作を進め、2016年5月に待望の1stアルバム「99.9%」をリリースした。それまでのケイトラナダは、リミックスを軸に活躍していたこともあり出来栄えを心配する声も多かったが、オールドスクールなヒップホップやR&Bをベースにファンクやソウル、ダンスなどのエッセンスを散りばめたシャッフル感やバウンス感が全開の同作は、全米アルバムチャートのダンス/エレクトロニック部門で2位を獲得。さらに、カナダの「アップル・ミュージック(Apple Music)」が選ぶ年間ベストアルバムの首位になっただけでなく、カナダのグラミー賞に相当するカナダのジュノー賞と、マーキュリー・プライズに例えられるポラリス・ミュージック・プライズを両獲りする快挙を成し遂げたのだ。

 なお、「99.9%」というタイトルは彼の完璧主義ゆえに名付けられたもの。というのも、彼はレーベルやマネージャーに「アルバムの99.9%が完成したよ」と最終版を渡すも、どうしても納得せず10回ほど“99.9%”の状態の最終版を渡しているうちに響きを気に入り、そのままタイトルにしてしまったそうだ。ちなみに、アルバムのリリースから数ヶ月後には自身の楽曲などをフィーチャーした約90分のMix「0.001%」を「サウンドクラウド」で公開している。

 「99.9%」で一躍人気プロデューサーとなったケイトラナダはその後、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)の傑作「DAMN.」に収録されている「LUST.」をはじめ(クレジットには表記されていない)、本連載でもピックアップしたレジー・スノウ(Rejjie Snow)の「Egyptian Luvr」、アリシア・キーズ(Alicia Keys)の「Sweet F’in Love」、ロバート・グラスパー・エクスペリメント(Robert Glasper Experiment)の俊作「ArtScience」のリミックスEP「Robert Glasper x KAYTRANADA: The ArtScience Remixes」、ジ・インターネットの「Roll(Burbank Funk)」、ゴールドリンク(GoldLink)の「Meditation 」、バッドバッドノットグッド(BADBADNOTGOOD)の「Lavender」など、枚挙にいとまがないほどこれまで以上に多くのアーティストと関わるようになっていった。

 こうしてグローバルでもファンを獲得し、世界中を飛び回る一環で2018年には初来日公演を実現。また、「ローリングラウド ジャパン(Rolling Loud Japan)」にも出演し、その翌年には「フジロック・フェスティバル(FUJI ROCK FESTIVAL)」で再来日を果たしている。

グラミー賞を受賞した2ndアルバム

 多方面から高評価を得た「99.9%」から約3年半後の2019年12月、2ndアルバム「BUBBA」をリリース。幅広い音楽性を提示した前作に対し、今作はファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)やカリ・ウチス(Kali Uchis)、シャーロット・デイ・ウィルソン(Charlotte Day Wilson)、サー(SiR)ら多彩なゲストボーカルを迎えつつダンサブルなR&B色が強めで、全米アルバムチャートのダンス/エレクトロニック部門では首位を獲得。また、グラミー賞では最優秀エレクトロニック/ダンス・アルバム賞を受賞し、わずか27歳にしてトップ・プロデューサーとしての地位を確立したのである。

 その後、現在までアルバムは発表していないものの、ハー(H.E.R.)との「Intimidated」やサンダーキャット(Thundercat)との「Be Careful」を収録したEP「Intimidated」をはじめ、亜蘭知子の「Midnight Pretenders」をサンプリングしてることで話題となったザ・ウィークエンド(The Weeknd)の「Out Of Time」のリミックス、話題のUKシンガー ピンクパンサレス(PinkPantheress)の「Do you miss me?」など、楽曲制作自体は随時行っている。さらに先日、突如としてポートランド出身のラッパー アミーネ(Amine)とのデュオ ケイトラミーネ(Kaytramine)を結成したことをアナウンス。早速ファレルを招聘した「4EVA」をリリースし、その直後に「コーチェラ 2023(Coachella 2023)」に出演するなど、かなり精力的に活動はしているので、3rdアルバムは年内中にはリリースされると見ていいだろう。

 また、冒頭で弟ルー・フェルプスに触れたが、もちろん兄弟での作品をいくつも発表しているので、ぜひチェックしていただきたい。

宣材写真では「ワコマリア」を着用

 突然だが、ケイトラナダ、気鋭ファッションEC「エッセンス(SSENSE)」、ジャスティン・サンダース(Justin Saunders)率いる「ジョウンド(JJJJound)」、スケートブランド「ダイム(Dime)」、セレクトショップ「オフ・ザ・フック(Off The Hook)」、スポーツキャップブランド「シエル(Ciele)」の共通点が分かるだろうか——そう、カナダ・モントリオールを拠点としていることだ。モントリオールはカナダ有数のファッション都市であり、ここを地元とするケイトラナダはファッションセンスが抜群(彼を一目見ずとも音楽性から伝わってくるだろう)。「アディダス オリジナルス(adidas Originals)」は、2018年に発表したグローバルキャンペーン「Original is never finished」で、エイサップ・ファーグ(A$AP Ferg)やプレイボーイ・カルティ(Playboi Carti)と共にケイトラナダを起用。また、同郷のダイムのルックにもたびたびモデルとして登場し、「プレイシズ プラス フェイシズ(PLACES+FACES)」がマーチャンダイズを手掛けたこともある。

 最後に余談をひとつ。ケイトラナダのアー写(宣材写真)は、うっすらと松の木が背景に写り込んでいるため、どこかジャポニズムを感じる人が多いかもしれない。実はこの松の木、皇居前の大芝生広場に生えるクロマツなのである。2019年に「フジロック」のために来日した際に撮影しており、着用しているジャケットは「ワコマリア(WACKO MARIA)」の一品。4年近くアー写を変更していないため、そろそろ撮影がてら日本に来てもおかしくないかもしれない。

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東京とロンドンを拠点に活動するエディターやライター、スタイリスト、フォトグラファー、グラフィックデザイナーが所属。

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