ミケーレ期の「グッチ」を彷彿? ファッション好きも、音楽好きもいま気になる存在 「離婚伝説」の現在地
左)松田歩、右)別府純
Image by: FASHIONSNAP(Hikaru Nagumo)
左)松田歩、右)別府純
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ミケーレ期の「グッチ」を彷彿? ファッション好きも、音楽好きもいま気になる存在 「離婚伝説」の現在地
左)松田歩、右)別府純
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「離婚伝説」という強烈な名前を冠したバンドを知っているだろうか。ソウルを基調にしたサウンドかと思えば、どこか懐かしい歌謡曲的なメロディで聴き馴染みもあり、それでいて古めかしくない絶妙なバランスをとってみせる。2人のいでたちも、アレッサンドロ・ミケーレ期の「グッチ(GUCCI)」をどこか彷彿とさせ、音楽好きとしても、ファッション好きとしてもどこか気になる存在だ。話を聞くと、強烈な名前はマーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)のアルバム「Here, My Dear(※)」が由来となっているらしい。
※マーヴィンが元妻との離婚の慰謝料を支払うためにリリースされたため「離婚伝説」という邦題がつけられた。当時は酷評された私小説的アルバムで、マーヴィンの死後、再評価されている一枚。
往年の歌謡曲スターを思わせるいでたち、甘いマスク、魅力的なサウンド、どこか懐かしい歌詞など、気になるところだらけの2人は、スポティファイ(Spotify)がその年の躍進を期待し、新進気鋭アーティストをサポートするプログラム「RADAR: Early Noise 2024」にも選出されたことから、その注目度の高さが窺える。FASHIONSNAPでは、2人が出会った場所であるという歌舞伎町に呼び出し、音楽とファッションをテーマに話を聞くことにした。デビューから約2年で関心を向けられる二人の幼少期と上京当時、そして東京での現在地。
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⎯⎯はじめに自己紹介をお願いします。
松田歩(以下、松田):松田歩です。鹿児島県出身で、離婚伝説ではボーカルです。愛しています。
別府純(以下、別府):別府純、埼玉県出身。離婚伝説のギターです。僕も一番伝えたいことは「愛」です。
幼少期の思い出から紐解く離婚伝説の音楽ルーツ
⎯⎯小さい頃から音楽は身近な存在だったんでしょうか?
松田:両親がずっと音楽を聴いている人でしたね。マライア・キャリー(Mariah Carey)と、キンキ キッズ(KinKi Kids)と、キロロ(Kiroro)がよく流れていた記憶が。でも、影響を受けたのは、従兄弟から教えてもらったヒップホップ。
別府:俺の両親は全然音楽聞かなかったな。友だちからが多かった。
⎯⎯最初にのめり込んだ音楽は?
別府:僕はレッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)ですね。
松田:自分は、中学生の時にハマったスヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)がルーツ。英語だから意味もわからなかったし、刺激的なことを歌っていると思うんですけど、曲全体の雰囲気が「かっこいい!」と。
別府:逆に何を言っているか知りたくて英語の勉強を始めたりしなかった? 勉強すると、当たり前ですけど歌詞の良さにも気がついて。日本語の歌を聞く時も「歌詞のここがいいな」と思うことが増えたかも。
松田:歌詞に対する理解力って、ある程度年齢を重ねないとわかってこないな、とも思う。中学生の時に聴いていた曲を今聴くと、全然違う風に感じることとかよくあるし。
別府:めっちゃいい瞬間だよね。自分が成長したんだな、と改めて思える時というか。
⎯⎯音楽を歌詞で聴く人ですか? メロディーラインで聴く人ですか?
別府:個人的には、曲の上に歌詞があると思っているから最初はメロディーラインかも。最初にのめり込んだのが洋楽で、歌詞が英語だったというのもあるのかもしれない。
⎯⎯メロディーラインから音楽を楽しんでいたルーツを持つ2人ですが、離婚伝説の歌詞は割と物語的ですよね。メロディに引っ張られるように詞を作るんですか?
松田:言葉も音として捉えているのかな。でも、言葉の意味も無視はしたくないから……。
別府:曲によるよね。
⎯⎯2人の音楽がどのようなルーツを辿って生み出されたのかというのは、音楽ファンが今一番気になるところだと思います。もう一歩踏み込んで、自分の性格や人格に影響を与えたと思う幼少期の思い出はありますか?
別府:僕、サッカーをやっていたんですけど、監督が信じられないほど厳しかった。当時は恐怖の存在だったけど、その時に人間形成はされた気がする。子どもの頃は「監督以上に怖いものなんてないから、その他のものはなんでも大丈夫だわ」と思っていたし、そういう感覚が今も続いているのか、今でもあまりナーバスになったり緊張することが少ないんですよね。
松田:中学生の時に、すごく傷つく出来事があって。そこから、いい意味でも悪い意味でも、繊細に相手の気持ちを考えるようになったことかな。
⎯⎯歌詞やメロディラインを作る上で、とても影響を与えていそうな出来事ですね。
松田:うん、めちゃくちゃ活きています。辛くて悲しかったけど、転機だったと思うし、いい経験だったなと今は思えるからプラスの出来事として捉えています。
ファッションと離婚伝説
⎯⎯今日は2人とも私服で来ていただきました。
松田:上京当時、古着屋で働いていたこともあり、ファッションは好きですね。
⎯⎯好きなブランドや服選びのこだわりはありますか?
別府:今日は、場所との相性を考えて割とトラッドな服を着てきちゃいましたけど、「ダブレット(doublet)」が好きです。
松田:僕はもう、ブランドで買うことは今はないかも。どちらかというとシルエットとデザイン重視。
別府:買う時のこだわりとして、雑多なものから選ぶのではなくて、作っている人とか、古着だったらセレクトしている人がおすすめしているものを買うようにしています。やっぱり、想いが詰まっているものの方が買いやすい。
松田:わかる。買ったわけじゃないけど、今日穿いてきたスラックスは親父からもらったやつ。時計は祖父から譲り受けたもの。人の意思を身につけることができるのが、服の魅力でもあると思う。
⎯⎯ライブ衣装は往年の歌謡曲スターを彷彿とさせるようないでたちが多いですよね。
松田:襟が大きくて、肩パッドが入っていて、みたいな服ですよね(笑)。ライブ衣装も今のところ、自分たちで決めています。アイコニックで、目でも楽しんでもらいたいという気持ちがあるんですけど、自分たちのルーツを表現したいという気持ちもあるのかも。
⎯⎯ファッションの部分で影響を受けた人はいますか?
松田:やっぱり音楽から影響されている部分は大きくて。アーティストから影響を受けているからその格好を真似することが多いです。音楽とファッションは絶対に切り離せないものだと思っているし、一番わかりやすく、自分を表現できるものの一つだな、と。
別府:ミリタリーファッションが典型的かなと思うんですが、そういった「機能」が今の服のデザインにも繋がっていると思うんです。浅い知識かもしれないし、勝手な考えなんですけど、そういう機能以外のものでスタイルが確立されたファッションは、音楽からなんじゃないかな?とすら思う。
松田:モッズ、ロック、パンク、ヒッピーと色々あるけど、アーティストの格好を取り入れることは、音楽と共にファッションの歴史を刻んできた証でもあると僕も思う。翻れば、過去を振り返る時の「この時代はこういう音楽が流行っていたんだよ」という言葉は「その時代は、こういうファッションが流行っていたんだよ」とも同義なのかな、と。僕たちも「2024年ごろには離婚伝説っていうバンドの曲が聴かれていたんだよ」と言われるような存在を目指したいよね。
別府:となると音楽好きとしては、ファッションまで大事にしないと音楽へのリスペクトに欠けるな、と思っています。別にダサくてもいいし、格好が良くなくてもいいけど、こだわりを持っていないミュージシャンが苦手だし、そこはこだわりを持ってやっていくべきだな、と。
⎯⎯離婚伝説の楽曲は、メロディや歌詞も含めて「一歩間違えればダサい」というのが魅力の一つだと感じています。ダサいとかっこいいは紙一重で、それは近年のファッショントレンドにもとても現れていますよね。
松田:「ダサいとかっこいいは紙一重」というのは、僕ら2人の間でも頻出キーワードですね。曲作りにおいても、ファッションにおいてもそのバランスは大事にしたい。
別府:「だせえ!」と口では言うけど「カッコいい」と思っているサウンドやスタイルってありませんか?「ダサい」がけなし言葉ではなく、褒め言葉のパターン。
⎯⎯わかります。音楽やファッションが好きな人なら一度は感じたことのある感覚だと思います。
松田:歌詞の言葉選びであえて「ダサい(かっこいい)」と思っているものを選ぶこともあります。
別府:でも「なんでそのダサさが良い!」と思えるかは言語化できないね。
松田:わかんないね、難しい。言語化できるようになったらまた教えます(笑)。
上京と離婚伝説
⎯⎯松田さんは鹿児島県出身、別府さんは埼玉県出身。2人とも上京組です。
別府:これは埼玉あるあるだと思うんですけど「上京」という概念をあまり持っていなくて。なぜなら、簡単に来れちゃうから。だから強い憧れがあったわけでもなく。ちゃんと東京に暮らし始めたのは4年くらい前のことですね。
松田:僕は対照的で。中学生の時から「こんな狭い世界で生きたくない、こんな田舎から出て、都会に行ってやる!」という漠然とした憧れがありました(笑)。地元は大好きですけどね。高校卒業をしてすぐ、18歳で上京。原宿の古着屋さんで働いていました。
ー上京当時大変だったことはありましたか?
松田:無い、めっちゃ楽しかった(笑)。
別府:僕も1時間かけて遊びに行っていたところが10分圏内になったから。楽だし終電を気にしなくて良いし、楽しくて仕方がなかった。
松田:僕、古着屋の先輩たちに東京での遊び方や楽しみ方を全部教わったんですよ。先輩が紹介してくれた小さい箱で初めてDJをすることもできたし、今も通っている美容院に最初連れて行ってくれたのも先輩だし。上京したてで孤独だった気持ちを救ってくれたというか、理解を示してくれたことがすごく嬉しかったのを覚えている。
別府:上京して大変だったことって大抵お金のことだと思うんですよ。
松田:お金がないのなんて分かりきったことだったしなあ。
別府:そうそう。僕も大学には自分のお金で行ったので、おにぎり買うか、買わないかみたいな生活をしていたから、お金がないことには慣れていた(笑)。
松田:そんな部分じゃなくて、他に楽しい部分がたくさんあるぞ!って上京したての子には言ってあげたいな。「そんなこと、わかりきってるんだから楽しんだ方がいいよ」と。
別府:そのために、まずはそういう環境に自分の身を投じることだよね。
ー今回の撮影場所に、2人が出会われた職場があるという歌舞伎町を指定させていただきました。
松田:別府と出会ったのは21歳くらいの時。色々掛け持ちしているバイトの中の一つだった場所で知り合いました。
⎯⎯高校や大学などの学び舎を離れ、大人になってから信頼できる友だちを見つけることはとても珍しく、幸運なことだと思います。その職場は、そういう出会いを求めて働き始めたんですか?
松田:別に出会いを求めて職を選ぶと言う考えはなかったかな。音楽に触れながら仕事をできる環境を探していた、という方が近いし。
別府:どうしてここまで意気投合したのかを考えてみると、その職場自体がすごくいい人ばかりが集まっていたんですよね。「こいつと一緒に働きたくないな」という人が1人もいなかった。なかなか無いですよね。
松田:そんな中でも年齢が近かったのも大きいのかもね。僕が働き出して半年後くらいに別府が入ってきたんですけど、一番よく話していたし、好きな音楽の話とかしている間にどんどん仲良くなった。
別府:いい曲あったら教え合うみたいなことをしていたね(笑)。キングヌー(King Gnu)の「ビニール(Vinyl)」がリリースされた時に教えたのを覚えているよ。
松田:僕はハンバート ハンバートの「おなじ話」のライブ映像を一緒に観たのを覚えている(笑)。好きなものももちろん一致しているんですけど、嫌いなものも似ているなと感じています。例えば、対人における言動とか、人の気持ちを無碍に扱っていないかとか。基本的な価値観が似ているな、と。
⎯⎯楽曲をリリースしたのは2022年ですが、出会ったのはもう少し前?
別府:その7年前には知り合っていますね。
⎯⎯バンドを結成してリリースするまでにタイムラグがあったのは何故ですか?
松田:当時は思い描いていた未来が違っていたんですよね。別府はサポートミュージシャンに集中していたし、僕は別のバンドをやっていたし。
別府:まあ、コロナ禍が大きかった。あの期間中、全人類が時間を持て余して「何かをやらなきゃ」と思ったじゃないですか。
⎯⎯結果的に「何かをやらなきゃ」と行動を移した方が軌道に乗った、と。当時から手応えはあったんでしょうか?
松田・別府:まさかここまでとは。
⎯⎯ハモりましたね(笑)。クリエイターの中には、頑張っているけどなかなか芽が出ない人も多い中で、お二人は自分たちの予想を裏切るような早さで注目され始めています。そのために努力したことはありますか?
松田:僕、自分の声が嫌いだったんですよ。それを変えたくて、発声方法や声帯の仕組みを勉強したり、自分の身体を自分なりに研究したりしました。離婚伝説の活動を始めて、曲をリリースすることでファンの方や、周りの人から褒めてもらえる機会も多くなって、自信がようやくついてきた。それとこれは「努力」じゃないかもしれないけど、さまざまな誘惑だったり、気を使わないといけない場面がとても多い中で、どれだけ自分の意思を曲げずに、ブラさずにいられるかということ。それは絶対必要だなって思います。
⎯⎯ブラさずにいる自分の軸とは具体的に?
松田:音楽に対する思いですね。誠実に向き合うというか、細かい目標設定をしていたわけではないけど「俺は音楽で生きていくんだ」という気持ちに嘘もつかないし、妥協もしないということかな。
別府:離婚伝説を始めてすぐに芽が出たように見えているかもしれないけど、それまでにもそれぞれ10年間くらい音楽活動をやってきているんですよ。だから、芽が出たのは遅い方だった。逆を言えば、若いバンドがいっぱい出てきて、夢を諦めかけている人たちにもいい影響を与えられたらな、とは思いますけどね。「あいつらもアラサーでバンド始めたらしいからやってみようぜ」と思ってくれる人がいたらいいな。
松田:偉そうに言える立場じゃ無いし、全員が言うことだけど、やっぱり続けることが一番大変で、一番大事なことだと思います。
離婚伝説の音楽的魅力とこれから
⎯⎯お二人は「離婚伝説」というバンドの魅力をどのように自己分析されていますか?
松田:あんまり自己分析しないけど、いい意味で色んな音楽に影響されやすいところはあって。年代に関わらず“いいもの”に惹かれるから、ジャンルを気にしていないというのが出ているのが魅力なのかな。
別府:うん。やっぱり僕も“いい曲”が好きですね。
⎯⎯“いい曲”の定義って難しくないですか?
別府:難しい。僕は「自分がいいと思うもの」だと思うようにしています。当たり前のことだけど(笑)。
松田:(笑)。でも、普通に聞いて「いい曲だな」って思えばいい曲だし、価値観を説明するのは難しいけど「俺らにとってのグッドミュージックを探そう」って感じです。
⎯⎯音楽の方向性は今後も変えていくつもりはないですか?
松田:「方向性」は基本的に「その時々の自分たちがやりたいことをやっている」と解釈しているんですが、そういう意味では変わらないですね。
別府:逆に言えば、変えることにも変えないことにもこだわりがないから、気にしていないよね。
松田:うん。次のアルバムはゴリゴリのロックサウンドになっているかもしれない。
別府:メタルをやっている可能性だってあるよね(笑)。
(聞き手:古堅明日香)
◾️離婚伝説 配信限定シングル「本日のおすすめ」
配信日:2024年7月5日(金)
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