渋谷区南平台、住宅街の殺伐とした風景の中に突如「ルルムウ(rurumu:)」のロマンティックなアイテムを全身に纏った多くの女性たちが列を作っていた。バイヤーでもインフルエンサーでもメディア関係者でもない、ただルルムウが好きで集まった彼女たちの目当てはファッションショーの観覧である。
ルルムウの2024年春夏コレクションは、一般顧客向けに用意されたショーとイベント形式で発表された。イベントは2部制で、各回定員50人に有料チケットを販売。ショーの後にはデザイナーの東佳苗と、メディアやコミュニティの運営などを行う「me and you」の主宰 野村由芽がトークショーを実施した。会場では、今回のために製作されたグッズの販売や、ルルムウのオリジナルピースを使いアクセサリーを作ることができるワークショップが行われ、顧客たちはひとりひとりブランドの世界に没頭していた。
ルルムウはこれまで3回ファッションショーを開催してきたが、限られた相手、特にメディア関係者に向けての発表になってしまう従来のショー形式に疑問を覚えたという。ファッションショーに一般客が招待される例はままあるが、関係者たちがランウェイに近い椅子のある席に通され、一般客は立ち見や後列に案内されることが多い。そんな中、顧客たちがバイヤーやメディアと等しい位置で鑑賞する、ブランド初となる顧客向けのファッションショーの開催を決めた。ブランドを日頃から支持し、アイテムを愛用する顧客たちへ一番近い距離で新作アイテムを紹介し、感謝を伝える場にするためだ。
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アニミズム×Y2Kで紡ぐフェアリーグランジ
2024年春夏のショーのタイトルは「シーリー・コート(Seelie Court)」。シーリーとは、スコットランドの民間伝承の妖精の用語で、「幸せ」「幸運」または「祝福された」を指し、シーリー・コートは「親切な妖精一族」を意味する言葉だという。2021年秋冬のショーを経て、改めて魔女や幽霊、ぬいぐるみといったモチーフに感じる、「全てのものに神が宿る」というイメージへ強い関心があることを自覚した東は、目に見えないが存在を感じるスピリチュアルなものへのリサーチを深める中で、撮影のために訪れたイギリスで「妖精」に関する文献と出会った。妖精の起源は、地場に伝わる神々や自然現象への畏敬など、神道における八百万の神の概念と通じており、アニミズムが根底にある日本でも親しみやすい存在なのではと、今回のテーマに設定した。
ショーでは、屋外から扉を抜けて室内にモデルたちが入場し、観客たちの間を通ってステージへ。妖精について書かれた本が無造作に置かれたベッドなど、妖精たちが暮らす「自然の中の部屋」を想わせるようなセットの上で、本を読んだり踊ったりと自由に過ごす。
スタイリングは、量産品のアイテムにハンドメイドの襟やコサージュなどのハンドニットのピースを組み合わせて構成。2000年代に流行し、Y2Kの流行とともにリバイバルしている「フェアリーグランジ」スタイルをオマージュし、小学生時代に東自身や家族が実際に着ていたアイテムを想起しながらパッチワークや切り替えのライン、ペイズリー柄、ベロアリボンの使い方などのディテールを落とし込んだという。
ショーを見守るファン
Image by: FASHIONSNAP
大人が現実を生きていくには、ファンタジーが必要
入場時には、今回のショーについて詩のような言葉で綴られたステートメントを配布。ショー後のトークイベントでは、今回のショーに関しての想いや今後の抱負について、顧客たちに向かって東自身の口から語られた。映画や本を作るような気持ちでコレクションを作っているという東は、毎回多くのリサーチを重ね、「学ぶことが癒しになっている」という。そのため洋服だけでなく、視覚や聴覚、テキストなど、さまざまな情報からブランドの世界観を楽しみ、ブランドの考えをインプットすること自体を楽しんでもらうことを目指した空間を作ったという。「マイノリティだったり、アウトサイダーという言われるような人も、大人になってくるとどうしても逃げられない現実があると思います。自分自身と向き合って、より良く生きていくためにはファンタジーが必要なんです」と東。「祈りのような想いを、お客さんと共有したかったんです」とショーを締め括った。
ファンダムが支えるブランドの世界
会場では、ルルムウのグッズライン「ノーミューズバイルルムウ(no muse by rurumu:)」を5年ぶりに復活。Tシャツやパーカ等のアパレルからハンカチやキーホルダー等の雑貨、ガチャガチャなども登場した。コンサート会場で販売されるアーティストグッズのような立ち位置で、今後もコレクションラインとは独立したイベント限定での展開を予定しているという。
ワークショップの様子
Image by: ルルムウ
“古き良きフランスのバレエ教室”をイメージして作られた90平方メートルのハウススタジオの中には、モデルが登場するステージの他にもフォトスポットが組まれた。地面にはフラワーアーティストのアレキサンダー・ジュリアン(alexander jyulian)による、妖精の「儀式の跡」が残されていた。ショーが終わると、全身をルルムウや「縷縷夢兎(るるむう)」のアイテムで飾った顧客たちが列を作って小道具やセットの前で写真を撮り合う姿が見受けられ、熱量の高い顧客もブランドの世界観を作り上げる重要な存在だと強く感じさせた。
セットの本を読む来場者
Image by: FASHIONSNAP
顧客ひとりひとりに届けたい
アーティストが全国ツアーを行うように東京、大阪、名古屋、福岡、北海道の5ヶ所で展示会を行い販売しているルルムウ。それは、できる限り顧客ひとりひとりに直接届けたいという気持ちがあるからだ。「もともと、ファッションショーは有料にすればいいと思っていた」と語る東。1ブランドだけだと観客の体験時間が10分程度と短くなってしまうため、今回はワークショップやトーク、物販を盛り込むことで1回2時間半のボリュームのあるイベントにしたが、今後は賛同するブランドがあれば合同でショーを行なっていくことも視野に入れているという。顧客を招待してのショーは今後も継続の意向で、顧客たちに寄り添いながら海外展開も推し進めていく。
◾️ルルムウ:Instagram
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