東京都港区。東京タワーの麓である神谷町駅はビジネス街の代名詞と言える。普段、街中を歩くのはオフィスカジュアルな服装に身を包んだ老若男女であるはず。4月20日の夕刻。ビジネス街にそぐわない、色彩豊かなヘアカラーや、服に身を包んだ若者が神谷町の街に溢れかえったのは、東佳苗が手掛けるファッションブランド「ルルムウ(rurumu:)」が、ブランド初となるファッションショーを東京タワーメディアセンターで開催したからだろう。神谷町に溢れかえる色とりどりの彼らをみて、東が言った言葉を思い出す。「日本に住んでいなくても、女の子じゃなくてもいいんです。マスに迎合できず、ニッチな孤独を感じている子たちにとにかく届けたい。私は、お客さんのためにしかやってないし、まだ出会っていないお客さんと出会うために服を作っています」。きっと彼らたちは、東がブランドを通して出会った、孤独に自分を貫き愛し続けた『魔女たち』なのだ。ブランドデビューから2年。ショー形式で発表したルルムウの2021年秋冬コレクションのテーマは「solitary witches(孤独な魔女たち)」。
デザイナーの東は「嘔吐クチュール」をコンセプトに、漢字表記のブランド「縷縷夢兎(ルルムウ)」でデビュー。2019年春夏コレクションからは「実際に着てくれる人にもっとアイテムを届けたい」という考えから今回ショーを開催したrurumu:を立ちあげた。
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会場に入ると目の前に広がったのは、炎を彷彿とさせるような真っ赤なフロア。続いて目に入ったのは、円形状に配置された椅子の中央に置かれた、祭壇を思わせる木のモニュメントだ。
ショーは、ニットやチュールなど様々なテキスタイルを組み合わせた白いドレスを纏った少女が、指先で魔法円を描くことで始まった。少女が中央のモニュメントの中に座り込むと、彼女が座るのを待っていたかのように12人の青白い顔をした女性たちが、1人ずつゆっくりとウォーキングを開始した。歩くモデルたちの後ろで奏でられたのは、魔女狩りを題材にしたレディオヘッド(Radiohead)の楽曲、「Burn The Witch」。
登場したモデルの人数は少女1人と、女性12人の全13人。13という数字は、魔女が儀式(サバト)をするために必要な人数だと言われている。ショーは、少女を取り囲むように12人の女性が円形状に立ち、少女が座るモニュメントに向かって一斉に歩き出したところで終演。その姿は、12人の魔女が13人目の魔女として少女を向かい入れる儀式のようにも見えた。1人だけ少女を起用した理由について東は、「見た目が『少女』でも、内には『女性』を秘めている。そういう誰しもが抱える精神的な二面性を表現できたらと思った」と話した。
頭が2つあるウサギのオブジェは東が話す「二面性」を表現しているようにも感じる
ショーは、東が得意とするニット素材を用いたワンピースやスカート、マフラーなどをはじめ、ジャカード織りのアウターや、股下をレースリボンで編み上げたハイウエストパンツ、パフスリーブ袖にスタッズがあしらわれたライダースなどで構成され、ソックスやタイツ、ハーネスベルトなどの小物類も数多く披露された。
アイテムの随所に、ルーン文字や魔法陣を彷彿とさせるデザインが採用されていることについて東は、お守りを身に付ける感覚で着用して欲しかったと説明。「日本は一神教の国ではないので、『なんでもいいから何かにすがりたい』という気持ちになった時、なかなかすがる対象が見当たらない。そんな時に、自分にしっくりくるお守りがあったらいいな、と思って今回のコレクションを製作しました」。
今回ショーで発表されたアイテムは、一部を除き量産される予定で、極端に小さいサイズを避けるなど、顧客に疎外感を与えないリアルクローズを意識したという。また、今回ショーで披露されたアイテムの一部デザインを引用しながら、「キディル(KIDILL)」とのコラボレーションアイテムも引き続き発売される予定。
東は今回「魔女」をコレクションテーマとして選んだ理由に、所謂ほうきに跨がる近代的な魔女ではなく、ハーブやタロットカード、パワーストーンを自らを高めるセルフケアとして用いる実在する現代の魔女に魅力を感じたからと説明。「ファンタジーとしての魔女ではなく、『自分を自分で愛する』『自分の気持ちを上げる』ものこそ魔法的だなと。魔法を1人きりで行う人も、みんなで行う人もいていいはずなんです。自らの魔女性を肯定することは、自分を愛することにも繋がり、結果的に前向きになれるなと考えました」(東佳苗)。
魔女という言葉のそもそもの語源には「垣根に立つ、境界線状に立つ」という意味があるという。会場で配られた東が綴ったショーノートは以下のように締め括られる。
ひとり夢想を続けるあなたの為、自己暗示に飽きて純潔さの孤独に苛まれそうになった時、隣の部屋の『solitary witches(孤高の魔女たち)』を思い出してもらえたなら、毎日でも自覚的に生まれ直せる気がするのだった。
誰もが身に覚えのある「孤独」に、「魔法」というワードで光を当てた今回のルルムウのコレクション。ルルムウの服は、どうしようもない孤独に苛まれた時、言葉を用いずに大衆に抗う手段となってくれるのかもしれない。
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