
sacai 2026年春夏ウィメンズコレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

sacai 2026年春夏ウィメンズコレクション
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パリ・ファッションウィークの常連ブランドとなっている「サカイ(sacai)」は近年、メゾンブランドに匹敵する規模でショーを開催することも少なくなかったが、今回の2026年春夏ウィメンズコレクションの発表では、パリの自社オフィスという親密な空間にゲストを招いた。「Coming home」と題された2026年春夏ウィメンズコレクションは、「サカイらしさとは何か」というブランドの本質を見つめ直し、「紛れもなく、疑いようもない、これぞサカイ」と言えるコレクションを展開した。
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モデルで登場したナオミ・キャンベル
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
昨今の海外ラグジュアリーブランドのデザイナー交代劇や、ファッションショーにKOLを呼びバズを生み出すマーケティング手法は、新しさを享受したいファッションの世界において必要な施策ではあるだろう。しかし、その喧騒の中で、尊重さるべき顧客が置き去りになっている現状は否定し難い。そもそも何のために、誰のために装いを創るのか。「サカイ」がその点を意識したかどうかは不明だが、現状のファッション業界の慣習とは違うベクトルとして、今シーズン阿部千登勢が大事にしたのは基本の基である着る人に対して真摯に向き合うことだったのではないか。
カットソーにもプリントされた「At your best, you are love.(最高の自分であるとき、あなたは愛そのものである)」というキーワードに集約されるように、今シーズンは単なる服飾表現の枠を超え、阿部自身の確固たる信念の表明であった。阿部は「コレクションをビルドアップしていくプロセスを通じて、私自身もスタッフも自信を持って進んでいくことができる。『自分が信じるものがあれば生きていける』というメッセージを届けたかった」と語り、自らを信じ抜くことで切り拓かれる未来への確信を、衣服という媒体を通じて表現した。

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サカイの代名詞である「ハイブリッド」という手法は、MA-1とテーラードジャケットといった異なる要素を巧みに組み合わせることで、日常着に新しい発想や機能性をもたらしてきた。阿部自身が信じるデザインは、2026年春夏ウィメンズコレクションでも遺憾無く発揮。タキシードシャツにジャケットの前身頃がドッキングされ、解体されたラペルは、下に重ねたシルクブラウスを思わせるテクスチャーと融合し、カーゴパンツはシアー素材で切り替えられ、ニットやプリント柄のテキスタイルも切り替えを多用することで、複数の表情を宿す多面的な魅力を創出した。

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加えて、2026年春夏ウィメンズではクラシックな服を「折り返す」という手法を採用している。2025年秋冬では「ラッピング」という概念を導入し、着る人自身に委ねるデザインを展開したが、今回の「折り返す」という手法ではカーゴパンツの裾を折り上げて立体的なスカートへと変容させたほか、タキシードスーツの裾を肩まで持ち上げ描いたコクーンケープのようなシルエットは、着用者の動きに呼応して流動的に姿を変える複雑な美を生み出していた。

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再度「At your best, you are love.」という言葉に立ち返るなら、この言葉には、己の本質への回帰と、最も純粋な阿部の揺るぎなき意志が込められている。それはまさに「Coming home」というテーマの真髄を照らし出すものである。
最後に、サカイの本質とは何か。確かにそれは既存の枠組みを解体し、再構築する絶え間ない創造のプロセスにある。しかしその変容は、単なる新奇性の追求ではなく、着る人の生活と内面に寄り添う確かな共感から生まれている。複雑に見える構造の奥に潜むのは、着る喜びという素朴な真実であり、異なる要素の融合の先にあるのは、調和のとれた美しさへの純粋な憧憬である。流行の波に翻弄されることなく、自らが信じる美学に忠実であり続けること、サカイの真髄はそこにある。
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