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フィービー・ファイロのデザインの神髄ここにあり 「セリーヌ」のタキシードシャツ【連載:sushiのB面コラム】

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フィービー・ファイロのデザインの神髄ここにあり 「セリーヌ」のタキシードシャツ【連載:sushiのB面コラム】

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 エルメスのバーキン、シャネルのNº5、バーバリーのトレンチコート……著名なブランドのプロダクトの中には、そのブランドの代名詞的な定番品がある。こういった定番品の数々は確かなクオリティやデザイン性の高さによってブランドの繁栄の歴史を支え続け、その裏付けに今でも多くの人々の支持を集める、いわば「間違いない逸品」だ。一方でQUEENの「We Will Rock You」が「We Are the Champions」のB面曲として歴史的ヒットを記録したように、A面的できらびやかなプロダクトの陰に隠れて、ときたま定番品を上回るようなクオリティや詰め込まれたデザイナーのこだわりなどが、一部のニッチ層に高く評価される“いぶし銀”的なプロダクトが生まれることがある。

 冒頭で挙げたようなA面的名品は既に様々な目線から語り尽されているが、B面的名品はその確かなクオリティにも関わらず、プロダクトの魅力が表立った場所で語られないことが多く、注目されないままであることもしばしば。定番の名作を改めてまつり上げることも良いのだが、このコラムでは僕がもっと世に知られるべきと感じる隠れたB面的名作を、その魅力の伝道師として紹介したい。記念すべき1点目は、2022年に新ブランドを立ち上げると話題のフィービー・ファイロが手掛けた時期の「セリーヌ(CÉLINE)」のアイテムにフォーカスを当てたいと思う。

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 2017年末、モード界にショッキングなニュースが流れた。2008年からおよそ10年にわたり、セリーヌのクリエイティブディレクターを務めたフィービー・ファイロが電撃退任した。前デザイナーのマイケル・コースがブランドを去ってから売り上げが低迷していたセリーヌは、フィービーが同ポストに就任すると業績がV字回復。知的でシック、それでいてどこか力強い女性像を打ち出すラグジュアリーブランドとしての地位を揺るぎないものにした。この幕引きはある意味一つの時代の終わりのようなインパクトを与え、ファン達が「この先何を着たらいいの?」と路頭に迷う“フィービーロス”と呼ばれる現象すら起こったほど。彼女のデザインやブランディングの唯一無二性を象徴する出来事だったように思う。

 そんなフィービーは当然、セリーヌのキャリアの中でも語り継がれる名作を連発した。例えば、現在もアイコンバッグとして人気を博すラゲージシリーズは2009年の誕生から数々のセレブに愛され続け、自身のキャリアにとっても重要な意味合いを持つ名作だ。そのヒットぶりは“第二のバーキン”とも呼ばれ、単にセリーヌ在籍時の彼女の代表作という枠を超え、それまでのセリーヌの歴史を代表するアイコンバッグとなったと言っていいほどだ。アパレルでは、クロンビーコートやチャンキーニットが既に著名ブランドのアーカイブ作品を取り扱う有名ショップでもキュレーティングされ高値で取引されるなど、数々のA面的ヒット作を世に送り出してきたフィービーのセリーヌだが、僕が特に魅力を感じ、そしてその魅力を皆に知ってもらいたいアイテムが「タキシードシャツ」だ。

 フィービーのデザインの神髄は、女性をエンパワーメントするようにマスキュリンな要素をウィメンズウェアに落とし込むというアプローチと、繊細なドレスウェアをカジュアルダウンすることによって生まれるエフォートレスなスタイルにある。デザインを手掛けた数あるアイテムの中でも、フィービー本人も気に入って着用しているというこのタキシードシャツは、男性用の礼服であるタキシードに合わせる烏賊胸襟のシャツをデザインソースとしている。その一方で、自身のスタイリングでも大胆に腕まくりをして着用したり、本来カフスを付けることが前提となる袖口はカジュアルなボタン留めにアップデートされていたりと、一般的には着こなしに明確なルールが設けられているメンズのドレスウェアを、見事に彼女が描く“力強いながらもエフォートレスな女性の世界観”に昇華している名作だ。

 複数シーズンにわたり展開されているこのシャツは、シーズンごとにデザインに違いがある。僕が特に好きなのが、本来烏賊胸襟の胸元にあしらわれているアコーディオンプリーツを切りっぱなしにしたようなタイプの物。上品で華やかな印象を与えるプリーツを敢えてちぎり取るというパンキッシュなアプローチで再解釈されたこのシャツは、代表作とされるラゲージやクロンビーコート、ホリゾンタルカバやワイドパンツなどの大ヒットアイテムの陰に隠れがちだが、個人的には「フィービー・ファイロここにあり」と言いたくなるほどに、“マスキュリンな女性像×ドレスのカジュアルダウン”というフィービー節が細部まで効いたB面的名作だと思う。

 2017年の退任後も多くのファッショニスタを魅了し続けるフィービーのクリエイションは人々の心を離さず、フィービーロスに陥ったフォロワーたちは彼女の下で修業を積んだ「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」のダニエル・リーや、「ピーター・ドゥ(Peter Do)」を手掛けるピーター・ドゥを“ポスト・フィービー”などとしてかつてのセリーヌが持つ世界観の再来に期待を寄せるほどだ。などとのたまう僕も彼女を失った悲しみに暮れていた一人だったが、今年7月、迷えるフィービーアディクト達に吉報があった。第一線で活躍していた時期もメディアでの活動や表立った発言をかたくなに避けてきた彼女が、セリーヌの退任後から約4年の沈黙を突然破りモードにカムバックすることが明かされた。卓越したデザインセンスもさることながら、女性の社会進出の重要性がより一層強く叫ばれる現代で、女性の持つ力強さを美しく表現することできる彼女のようなファッションデザイナーは今最もモードにおいて必要とされる存在かもしれない。そんなフィービー・ファイロのカムバックは、また多くの女性たちを力強く後押ししてくれるに違いない。

15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。

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