2022年春夏コレクション
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Fashion注目コレクション

タークがドキュメンタリームービーで伝える「服作りの"根幹"と服の本質」

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 「ターク(TAAKK)」が、パリ・メンズ・ファッション・ウィークのデジタルプラットフォームで、2022年春夏コレクションを発表した。約10分間の映像は、コレクションの随所に織り込まれた最大のインスピレーション源である「地球」のランドスケープの数々、生地や縫製の工場を訪ねるデザイナーの森川拓野の姿、そして、国内で発表されたランウェイショーのバックヤードまでのシーンが、服作りの始まりから時間を追うようにシームレスに活写されている。森川自身の日本語での語りを軸に、洋服とその作り手を主役に添え、ドキュメンタリーの手法をとったストーリーテリングだ。

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 パリ・メンズの公式スケジュールに名を連ねた昨シーズンは、ドラマのような映像発表に続き、国内の関係者を招き、モデルの服をデザイナー自身が口頭で解説するサロン形式のランウェイショーを開催した。さかのぼる21年春夏は、東京ファッションウィークの会期中に新宿御苑の大温室でランウェイショーを開き、翌日、渋谷ヒカリエで身近に洋服に触れられ、1ルックずつの丁寧な解説を添えたインスタレーションを行った。この頃から、思いの丈が綴られた手書きのメッセージ付きのインビテーションが届くのが待ち遠しくなっていた。この1年半、旧来的な手法を貫くことが叶わず、世界中のデザイナーが模索してきたコレクションの発表方法の真価に対して、森川は、オンラインとオフラインのそれぞれにある特性に向き合いながら、アングルを変え、自身のコレクションの「伝わり方」と「伝え方」に誠実に向き合ってダイナミックに行動に移してきた。

「"伝える"ための積層をつくりたかった」

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 6月11日(金)、映像のプロットの一部として、公開収録の形式をとりながら開かれたランウェイショーにメディア関係者やバイヤーらが招かれた。エントランスをくぐると、いわゆる、緊張感の漂うファッションショーの「裏舞台」がひろがっている。たくさんのハンガーラックにルック順にそって整頓された洋服、メイクアップのエリアがあって、スタイリスト、フィッター、バックステージカメラマンが準備を進めている……。表舞台たるランウェイよりも先に、ゲストはバックステージを目にするという奇妙な体験が仕掛けられていたのだ。

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 開始時間が迫り、会場奥から昇った2階のシートに座ったゲストの目の前をモデルが颯爽と歩いていく。ウオーキングのずっと奥側に、忙しなくドレスチェンジをするモデルやスタッフの姿が遠くにみえた。1階のバックヤードがランウェイの背景のようになって、ファッションショーのほんの10分間で同時多発的に起こっていることが可視的にあらわになっている。具体的に裏側をみせることが、今シーズン、森川が模索した「伝え方」の仕掛けのひとつだったのだ。 

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 ショーの数日後、アトリエを訪ねると彼は、「今回は、これまで以上に自分たちの方法論に向き合って、積層(幾重にも重なった層)をつくりたかった」のだと口にした。きっとこの言葉にはふたつの意味がある。ひとつは、タークの服作りの「基本」だとたびたび明言してきた、テクニカルなファブリックの研究と開発に並々ならぬ時間と労力と情熱を注いできたこと。そして、蓄積によって生まれた層の先に、デザインや表現、コレクションの発表を通した人々とのコミュニケーション、そして着るひとの姿やエモーションがあると考える、彼自身の徹底したアティチュードの再確認だ。そして、この2シーズン継続して制作してきたドラマチックなストーリー仕立ての映像から一転して、生地の開発現場からショーでの発表に至るまでの、コレクションにおいて欠かせないさまざまな現場の積み重ねをストレートに映しとった映像を中心に、多角的にプレゼンテーションするということにもあった。

 「生で見てもらえるファッションショーで感じられることは本当に多いんです。実際に服を見てもらえると、基本を積み上げて作る僕たちの洋服に"根本"が詰まっていることをしっかりと分かってもらえるという自負もある。決して、表面的な服ではない。正直、僕が考える洋服の本質とはかけ離れたところで評価される傾向や、デジタルメディアを介すことで伝わらないことがあることに葛藤を覚えています。一方で、国境を越えてみんなが見やすいフォーマットであるビデオというツールにもしっかり向き合ってきた。では、今、何を伝えるべきか? やっぱり僕たちが何よりも大切にしているファブリックという"根底"と継続している信念、そこから生まれる服とはどんなものか、僕たちがどういう気持ちで着てもらいたいと思っているか……。そうした自分たちが貫いている"当たり前"を明らかにすることだったんです」

 映像に添えられたキーセンテンスは、「from the bottom up」。ブランドスタートから一貫して向き合い続けているファブリックという「基本」の、終わりのない独自のボトムアップ(底上げ)にこそ、森川はファッションデザインの未来をみている。

地球とコラボレーションしたコレクション

 日本の生地の職人との綿密なコミュニケーション、テストと推敲の膨大なプロセスを経て、"基本"の追求の先に辿り着いた確かなアプローチのひとつが、精緻なグラデーションを描くファブリック表現だ。異素材を単につなぎ合わせるのではなく、織りのテクニックを最大限に活かして、本来なら混ざり合わないものをなだらかに共存させていく。例えば、リネンからコットン、ナイロン、あるいはトランスペアレントな存在へと徐々に変化していくタークを象徴する素材は、今季もアップデートされて健在だった。テーラードジャケットをパンツにタックインして——あるいは今季、裾を結びあげて——生み出される新鮮なシルエットは、ヘムに向かってシャツ地に切り替わる素材なくして成りえず、タークが一貫して追求する「服作りの基本である生地開発の先に当たり前に見えてくる景色であるデザインやスタイル」の最たる例だ。

 「正直なところ、今季は自分たちにとって"希望"のシーズンになると信じて1月ごろから取り掛かりはじめたんです。パリに行って発表することを想像していましたし、このコレクションが店頭に並ぶ頃にはファッションをもっと自由に楽しめる日々が訪れているだろうと。だから、僕たちなりの"幸せ"を描きたいというのが第一にあったんです」

 品のあるフォーマルライクなトーンは継続しながら、ポジティブでオプティミスティック(楽観的)なマインドセットは、透ける素材やショーツとアイテムだけでなく、軽やかなムードやスタイリング、春夏らしい爽やかなパステルカラーやホワイト、鮮やかなイエローといったカラーパレット、あるいは、いささか耽美的なヘアにもまざまざと現れていた。森川は、「希望と言っても、自分のエゴをこじつけることは絶対にしたくなかった。人と共有でき、自然と気持ちが向いた先は地球に存在する手放しの美しさだったんです」という。コレクションノートに記された「愛すべき偉大なアーティストである、地球との共作に挑みました」という独特な言い回しも、人々が暮らす世界にある、願えば等しく享受できるかもしれない無類の美に対するリスペクトが宿っている。

 もともと「壮大で繊細」な自然の造形や草花に惹かれてきたという森川がコラボレートした「地球」の風景は、「波打ち際と森林が美しく混ざりあい消えていく」かのようにコレクションの中で幻想的な共存という形を描いた。オパール加工で枝葉などのボタニカルモチーフを浮き上がらせたトランスペアレントなシャツから、滲んだようにぼやけた草花をプリントした涼しげなセットアップやスカーフ、「強さと儚さの共存する美しい花々をプリント」されたシャツ地に変化するリネンジャケット、ジャケットからモッズコートに切り替わる新鮮なアイテムには桜の刺繍があった。地層が描かれたロングコートの生地は裾に向かって透過し、レイヤードされたインナーコートにプリントされた海のグラフィックを幽玄に引き立たせている。

 そうした、自然界には存在しないランドスケープの組み合わせは、ここではないどこか――例えば、夢、あるいは幻想を捉えた残像に、デザイナーが抱く憧憬の思いが見えてくる。オーセンティックなトレンチコートのような身頃が袖に向かってブルゾンに移ろい行くショート丈のジャケット、枯山水を思わせるなだらかな曲線をジャカードで作ったという、メンズウェアでは珍しい楊柳のフレアパンツにも、あくなきファブリックへの探求心が垣間見える。「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」時代の同僚だというイタリアを拠点とする靴職人とコラボレーションした、サンダルとローファーを融合させたようなフラットシューズは、静かだが力強く、魅力的な共存というコンセプトを表していた。

 森川は「ちゃんと伝えたい」のだと、アトリエで何度も口にした。その実には、LVMHプライズのショートリストに入るも、実際に審査員に洋服を目で見てもらえなかったことに奥歯を噛み締め、最高の結果に辿り着けなかった悔しさを滲ませていた。そして、「突然変異とも感じられる地球の壮大な営み」を身に纏う、純粋な楽しさについて語り終えた彼は、間を開けず、来たるパリに向けられた情熱を語りはじめた。

山口達也(Tatsuya Yamaguchi)
ライター/エディター

大学在学中から活動を開始し、東京を拠点に国内外のデザイナーやアーティスト、クリエイターのインタビュー・執筆などを行う。「Them」「i-DJapan」などのコントリビューターとしても活動。

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