Fashion インタビュー・対談

【インタビュー】「ファッションはそんなに重要だろうか?」信國太志がデザイナーからテーラーに転身した理由

デザイナーの役割とは?

―パターンを引けないデザイナーをどう思いますか?

 引けなくても問題ないと思いますよ。ただ御三家(川久保玲・三宅一生・山本耀司)と呼ばれるあの世代のデザイナーには、社内に熟練したパタンナーがいるんですよね。僕の世代から下は、社内に熟練した職人がいないケースが多く、外注に頼ることになるので結果として差が生まれているんではないかと思います。それゆえにアヴァンギャルドが裏付けのない突飛なもので終わってしまう気がします。

―デザイナーの役割は何だと思いますか?

 ラフ・シモンズ(Raf Simons)のドキュメンタリー映画「ディオールと私(原題:Dior and I)」はとても画期的だったと思っていて。21世紀のデザインというのは"イメージの編集作業である"ということをはっきりさせた作品で、何よりラフは映像のなかで絵を書いたり、まして針を持つようなことは一切ありません。彼を支えるメゾンの技術力があるからこそなせるクリエーションだと。クリストファー・ベイリー(Christopher Bailey)も絵を描かないと言っていましたし、今の時代、デザイナーはうまくイメージを編集する能力が必要とされているんだと思います。

―ブランドとして今後コレクションを発表する予定はありますか?

 いずれ、なんらかの形でやることはあると思います。デザイナーからテーラーの道に進んだ人がいないように、テーラーからデザイナーになった人もいないので是非やりたいな。デザイナーズブランドとはまた違う視点で、服の強みを表現できると思っています。

―具体的にどういったデザインアプローチをイメージしていますか?

 最近、僕はジャケットの胸のダーツを無くしたんですよ。胸のダーツを無くすというのはフィレンツェのテーラーとかにあるスタイルで、「イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)」もウィメンズ服に胸のダーツを入れていない場合が結構あるということに気づいたんです。女優の小林麻美さんが「イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)」のコレクションを寄贈して、スタイリストの亘つぐみさんがスタイリングしたエキシビジョン「Mon YVES SAINT LAURENT」で発見したんですよ。それは小林麻美さんの「若い人にもっと勉強してほしい」という思いから、服を触ることができたから。大変勉強になりました。

 そのとき、襟をひっくり返したり色々観察している中で、「胸のダーツはいらない」という確信が生まれましたね。また「イヴ・サンローラン」のロングトルソーにも興味を持ちました。脇のポケットの位置を低くしていたり、"胴を長く見せる美しさ"をどの服を見ても感じましたね。そういったところをうまく繋げてコレクションを作ることができれば面白いのでは、と考えています。そのように衣服の根底の構造から衣服を作り上げる力が今はあるので、ポケットの位置やディテールといったいわゆるデザインに陥らない、料理でいうと出汁がしっかりしていながら無駄な味付けのない歯ごたえがある服を作れると思っています。

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Mon YVES SAINT LAURENT」の会場の様子

―惹かれるものに共通点があったりしますか?

 ハイブリッドなものですかね。セントマに入る時に2枚の紙を渡されたんですが、1枚は誓約書でそれは「ファッションというものは主観的なものだから、いつ如何なる理由で不適格だと見なされ処分されても訴えません」と書かれていて、もう1枚は「ファッションとは何か」ということが二言で表現されていました。それは「あなたが何者であるかっていうことの証明がファッションである」ということと、「極端なものの融合がファッションである」ということでした。柔らかいものと硬いものを組み合わせなど、真逆のものの融合がファッションの本質だという言葉があって、今もそうだと思っています。僕がなんとなく考えているのは、サンローランのエレガンスと腰履きの融合で、腰履きは胴が長く見えるためそこにうまくエレガンスさを組み合わせることができるんじゃないかなと考えたりしています。

―Twitterで「ファッションはそんなに重要だろうか?」という投稿をされていましたが、その真意は?

 マルコム・マクラーレンがセントマに来た際に、「ファッションは現代の宗教でウインドウは宗教画で各ブランド教というのを布教してる」と語ってくれたことがありました。僕はチベット仏教の戒名を授かった人間ですが、そこにも各派があり、派の長がいて亡くなると転生者が発見され新しい長となります。ブランドのディレクター交代はまるでそんな教派の長の交代のように騒がれるのがまるでマルコムが語った通りだと感じると共に、ファッションは好きですが、「そんなにまで重要だろうか」と少し滑稽に感じ遠目に見ていたんです。

 セントマのディレクター故ルイーズ・ウィルソン(Louise Wilson)はそのようなアンチファッション的な視点を養い考えるよう定期的に講義を組んで興味深い人たちを招聘してくれてましたが、ある時クラッシュベルベットをデザイン画に添えて見せたらルイーズに「セントマではクラッシュベルベットは使わない!」と怒鳴られました。クラッシュベルベットはリッチでゴージャスな"ザ・ファッション"とも言える生地ですが、セントマは革命家を育成するスクールなんだと強い自負があったため叱ったのだと思います。そんな革命家達が「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「セリーヌ(CÉLINE)」をデザインするのが今の時代ですが、彼らがどこかアンチなエッジを失わずにブランドに取り込まれきらず遊んでしまっている感じが逆にブランドを生き生きさせてるのでしょうから、僕も「タケオキクチ」ではそのようなスタンスを心掛けていました。「ファッションはそんなに重要だろうか?」という言葉はこうした背景とスタンスがあるため投稿した、というのが真意です。

―新たに取り組んでいるプロジェクトはありますか?

 テーラー目線でウエットスーツの開発を進めています。僕はテーラリングで胸部を大事にしているので、肩甲骨と胸にボリュームがあるような着心地を追求したウエットスーツを作っています。プロトタイプは既に出来ていて、2018年の発売を目指しています。あとその人だけの色に染めてその人だけに仕立てることができるよう、染色にも力を入れたいと思っています。夏には奄美大島に泥染めの勉強に行く予定。テーラーの枠だけでは僕には狭くて窮屈なんですよ。

信國太志
1970年生まれ。バイヤーを経て、英・セントラル・セントマーチン芸術大学の修士課程ウィメンズウエア科を修了。98年にタイシノブクニを設立する。

Contact
080-5496-3377
craftivism45@gmail.com

(聞き手:芳之内史也)

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