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パーソンズ擁するニュースクール大学で米国史上最も長い教員ストライキが発生、その背景とは?

プラカードを掲げた人々

ストライキの様子

Image by: Jun Takayama

プラカードを掲げた人々

ストライキの様子

Image by: Jun Takayama

パーソンズ擁するニュースクール大学で米国史上最も長い教員ストライキが発生、その背景とは?

プラカードを掲げた人々

ストライキの様子

Image by: Jun Takayama

 パーソンズ美術大学の母体であるニュースクール大学は混乱を抱えながらの年末を迎えた。今夏から続いていた労働組合と大学側の雇用契約更改交渉が暗礁に乗り上げ、非常勤教員が希望条件での契約更改を求めてストライキを起こしたからだ。現在は収束しているものの、米国史上最も長い教員ストライキの一つとなった。なぜストライキに突入したのか? 大学運営の観点からのニュースクールとパーソンズの今後について思考する。(文・高山純)

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ニュースクール大学の懐事情

 ニュースクール大学はパーソンズ美術大学の他に社会科学や音楽など複数分野の大学を擁する総合大学。現在、ニュースクール大学の教員の85%が非常勤教員で、労働組合には約2600人が所属している。

 ニュースクール大学の収入は直近で年間約4億7200万ドル、支出は年間約4億6000万ドル。支出のうち約7割を教員や職員の賃金が占めている。大学の規模は、同じくマンハッタンにあるニューヨーク大学やコロンビア大学に比べて小さく、州からの補助金や卒業生の寄付も少ない。そのため、学生から支払われる授業料への依存が他大学よりも大きい構造になっている。授業料は新設学科の影響もあり、近年は5%ずつ増加傾向にあったが、教員に支払われている賃金の額は横ばいだ。

ストライキの背景とそれぞれの思惑

 今回のストライキは、非常勤講師の雇用契約が問題になっている。

 非常勤講師の就労条件を定めた契約は2014年に締結され、契約更改交渉のための延長期間を経て2022年11月中に失効予定であった。つまり、失効日までに新契約が締結されない限り、雇用関係は維持されず、非常勤講師が担当する、全体の9割にあたる授業がなくなってしまうことになる。

 契約更改にあたって労働組合は、ニューヨークにある他大学と比較して低い賃金水準、医療補助の少なさ、インフレ調整がない点などを問題視し、大学側からの提案を拒否していた。また、百万ドル(約1.3億円)以上と言われる学長の給与など格差を感じさせる体制にも疑問の声が上がった。

 一方の大学側も、現契約の失効前に新契約について合意するため夏から数ヶ月に及ぶ交渉では賃金や医療費負担増加など既に譲歩していると主張。交渉時の労働組合側の対応の遅さや第三者の仲介を拒否する姿勢についても苦言を呈した。また、実際に労働組合の言い分を飲むと大幅な賃金増加になることで大学運営が危うくなることも合意に至らなかった要因となっている。

 このような立場の違いから、議論は平行線を辿り、労働組合側は契約が切れるタイミングで最終手段であるストライキに突入することになった。

Image by: Jun Takayama

板挟みとなった学生

 巻き込まれる形になってしまった学生の立場も苦しい。

 労働組合がストライキを行っている間は授業のみならず採点も行われない。採点が行われないということは単位の付与も出来ず、ビザや奨学金の取り消し、卒業要件を満たせないなど様々な立場の学生に影響が及ぶことになる。また、大学は学期毎に学生の成績を州に提出する義務があり、採点者がいない状況は大学としても避ける必要がある。授業がない一方で、単位取得のための課題提出は続けるよう大学側から通達があったものの、労働組合側に賛同して課題の提出を拒む学生も一定数出てきた。

 そのような状況下で、外部の臨時採点者の採用を進めていた大学側のメールが流出した。提出物のみを部外者に採点されてしまうことで不利になってしまうと感じた学生も多く、大学側は火消しを行ったものの大学運営側の批判につながった。

新契約の締結へ

 SNSでの舌戦もエスカレートし、状況が泥沼化する中、大学側の提案である仲介者を交えた交渉をすることと、労働組合側の条件をほぼ飲むことで新契約がまかれることとなり、12月26日にわたるストライキは終了した。非常勤講師によるストライキでは全米史上最長となった。

 学期最終日まで約一週間のみを残してのストライキ終了となったため、学生に課されていたほとんどの課題はこの時点で締め切られており、授業がないまま学期を終えた学生も多い。教員によっては全員を最高評価にするなどの対応も見受けられたが、統一基準はないようだ。

 12月末は帰省した学生も多いが、ストライキ終了後も一部の学生が学校施設を占拠し抗議を続けていた。契約更改までは非常勤教員への支持という目的があったものの、合意後も占拠を続けていた学生は学長をはじめとする運営陣の辞任などを訴えたが、幅広い共感を呼びにくいものとなり、やや中途半端な形で縮小していった。現在は占拠されていた建物も平穏を取り戻している。

校舎の外観

校舎を占拠していた時の様子

Image by: Jun Takayama

ストライキ終了後も残る懸念

 今回の出来事の発端となった契約更改に関しては労働組合側の完全勝利と言えるだろう。非常勤教員の賃金や福利厚生が底上げされたことは今後数年にわたって働きやすい環境づくりに大きな前進となる。また、教員の働きやすさは授業の質の向上にもつながることが期待される。

 一方で、学校運営は非常に厳しくなることが予想される。新契約に組み込まれた非常勤教員の待遇改善は大幅な人件費増加を意味し、今後5年で合計6000万ドル(約78億円)の赤字が発生する見込みだ。

 赤字のカバーを目的とした大学側の考えられる施策としては、学生数の増加や授業料の値上げ、奨学金の削減、借り入れの増加などがあるが、いずれも未来の学生側にしわ寄せが来ることは避けられないだろう。

高山 純

Jun Takayama

慶應義塾大学法学部卒業。在学中は「Keio Fashion Creator」や「ファッションビジネス研究会」の代表を務める。卒業後、外資系コンサルティング会社及び投資ファンドにてM&Aやファッションブランドへの投資業務などを担当。LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン勤務を経て、2022年8月よりパーソンズ美術大学ファッション経営修士課程に日本人として初めて留学中。

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