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秘訣は“答えを出さないこと” デジタル音楽をあえてアナログに持ち運ぶ「ミュージックキーホルダー」が人気

 インターネット上のURLを持ち運べるミュージックキーホルダー「The Music」が、高校生などの若年層から人気を集めている。The Musicは、レコードやカセット、MDプレイヤーを模したキーホルダーに、自分のお気に入りの曲やプレイリストを登録することで、スマートフォンをキーホルダーにかざすだけで楽曲再生ができる。今年の1月の発売時は2日間で700万円、約5000個を売り上げた。一時、注文が殺到し公式オンラインストアのシステムダウンを起こしたことなどから、その人気ぶりが伺える。同アイテムの企画生産を担っている合同会社シドモド(SHIDOMODO)の共同代表の蛭田俊輔氏は「発売当初、売り上げが立つまでに1年くらいかかると思っていたが、想定をはるかに上回る初速になった」と振り返る。

ひとつ1500円という手に取りやすい価格も魅力の一つ。

コロナ禍での大学生活を余儀なくされた23歳のアイデア

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 The Musicを販売している合同会社シドモドは、幼馴染同士であった山本歩氏と蛭田氏が大学卒業後の2023年3月に起業したばかりだ。コロナ禍での学生生活を余儀なくされた二人は、約2年間を在宅授業で履修した。緊急事態宣言下で「面白いことをやろう」と思い立った二人は、任意のURLを読み込ませることができるQRコードをプリントしたアパレル事業の展開をスタートさせた。

アパレル事業失敗の先にあったミュージックキーホルダー

 満を持して展開したアパレルアイテムは、なかなか結果が振るわなかった。そんな時、目をつけたのが「NFC機能」だ。NFCは「Near Field Communication」の略で、ワンタッチ(触れるだけ)で機器認証ができるほか、Wi-Fiや、Bluetoothのような無線通信を可能にする。交通系ICカードの台頭などで、10年前から機能自体は存在していたがそれ以外の実用化には至っていなかった。

「当初展開していたアパレル事業は『自己表現』という抽象的なテーマだったが、そこから『音楽』という具体的なテーマ、かつ広く大衆受けするコンテンツを抽出した。音楽には、その人の世界観や人生観が強く現れる物だと個人的には考えている。この音楽による自己表現とNFC機能を組み合わせることで、何か面白物ができるんじゃないかという直感があった」(蛭田氏)。

若年層に刺さったワケ、秘訣は

 サブスクリプション時代である現代において「キーホルダーに楽曲を登録し、携帯にかざして再生する」という一手間は、不便で合理的とは言えないだろう。しかし、蛭田氏は「若者世代は便利な世の中に慣れ過ぎていることから『かざす』『物質を渡す』という身体的な動作が、記憶に繋がる体験として機能する」と分析。また、非合理的な動作を挟まないと答えがでないプロダクト」であったこともバズに繋がったと説明する。

「写ルンですの再ブームは、現像するまでどんな写真が撮れているのかがわからない一手間とブラックボックス感にありました。ミュージックキーホルダーにも、スマートフォンをかざすまでは『どんなURLが登録されているかがわからない』という秘匿性があります」(蛭田氏)。

若年層のニーズを的確に捉えたデザイン

 The Musicの「音楽を持ち運ぶ」というパッケージングは、1990年代に流行したポータブルCDプレイヤーや、ポータブルカセットテープから着想を得た。

 購買層は18歳の高校生が大半を占めており、一人当たり平均2個購入しているという。楽しみ方は人それぞれで、パートナーや友人との思い出の曲やプレイリストをキーホルダーに登録し唯一無二の「お揃いアイテム」としてプレゼントするほか、部活動や仲良しのメンバー同士で共有することができる写真アルバムやドライブのURLが登録されているパターンもあり、楽曲登録以外にも使えるのもポイントだ。

 レコード特有の光沢感をキーホルダーに反映させることにもこだわっている。蛭田氏はSNSアプリ『ビーリアル(BeReal)』の台頭を挙げ、「若年層はリアルさや本物であることを求めている」とコメント。同社が発信するティックトック(TikTok)に投稿された動画が、凝った編集を加えていないにもかかわらず、再生回数を伸ばし続けているのも、あえて編集過多にしないことで「日常感」を演出したためだ。

 蛭田氏は「リアルさを追求した先にある本質は、オリジナリティの発散場所への欲求だ」と続ける。

「僕自身も2000年生まれですが、同世代は自分軸で生きていることが当たり前です。『もっと自己表現がしたい』と考えることが、当然となった世の中では、『好き』の種類も細分化しています。一方で、現代は、デジタル情報社会で自分の『好き』や『アイデンティティ』は埋もれやすい。そんな中で、埋もれづらいアナログアイテムで、URLであれば自分の好きなものはどんな物でも登録できる、というシステムがフィットしたのかな、と」(蛭田氏)。

ライブグッズ、野球選手の登場曲、アニメ化された漫画など 広がる横展開

 ミュージックキーホルダーの好評を受け、今年の5月にはNFC機能を搭載したロングスリーブTシャツとバケットハットを発売。タグにスマホをかざすと、任意のURLがスマホに表示される仕組みだ。ミュージックキーホルダーはもちろん、NFC機能を搭載したアパレルアイテムで、音楽フェスやアーティストのライブグッズの展開を目指している。

「現在、数多くのストリーミングサービスの普及により、CDの需要は激減しました。現行のストリーミングサービスでも再生数に応じた印税が支払われていますが、1再生あたり0.01円あれば高い方だと言われています。そのため、1万回再生でもアーティストが受け取れる金額はわずか100円程度。このような音楽業界の変化は今やどうすることもできません。しかし、その変化に対応していくことはできます。CDから音楽サブスクに置き換わった今、アーティストにとって一番重要なことは自身の音楽を広めてもらうこと。ライブグッズとして既に任意のURLが登録されているミュージックキーホルダーなどを展開することは、中長期的なアーティストの知名度向上や、収益にも繋がるのではと考えています」(蛭田氏)。

 音楽業界のみならず、音楽を主軸としたジャンルの横展開に意欲的で、ユニフォームの形にデザインされたキーホルダーにスポーツ選手の登場曲が登録されたアイテムや、アニメ化されている漫画のオープニング曲が登録されているアイテムなどの発売を視野に入れ、将来的には直営店のオープンを目指す。蛭田氏は「幅広くNFC機能をうまく活用する企業として、先頭を走っていきたい」と締め括った。

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